いつの時代にも友軍を逃がす為に戦場に残る、又は戦場を駆け抜けて名を残す武将がいる。かの有名な源義経を命懸けで守った弁慶然り、主の為に樊城にて命懸けで戦った関羽然り、合肥にて主を逃がすために自らを犠牲にした太史慈然り、敵の策略にハマっても尚、主を守り、主の為に命を賭した典韋然り。逃げ延びたものは必ずと言っていいほど誰か一人、名将を失っている。つまり何が言いたいかというと。
皐月「俺死ぬんじゃね?」
いや、自分を名将とは呼ばないけどパターン的に死んじゃうんじゃね?主は………霊夢か。あ、死んだ俺死んだ。
皐月「まぁ死ねないのが俺なんだけど……果たしてこいつは例外か否か…ね……。」
目の前には西行妖。さっきの霊夢の話によれば[死を操る程度の能力]を持つ西行寺幽々子をあいつが取り込んだ事によって力を得たらしい。魔理沙が倒れた理由もおそらくこれだろうな。西行妖が何らかの影響で力を取り戻し、それに魔理沙が当てられた。大方こんなとこだろう。やべぇ変な汗出てきた……。初めてかもしれん。自分が死ぬかもしれないと思ったのは。それ程までに西行妖の気配が大きかった。だが恐れるな。呑まれれば負ける。今やるべき事はコイツの足止め……あわよくば倒す事。
皐月「うだうだ言ってても仕方ねぇ。今はこいつの攻撃を霊夢たちに向けさせないことだけに集中しねぇとな!」バチバチバチ
右手を上に上げ、電撃を放った。そしてそこから下に落とした。壁を張るように、弾幕を後ろへと流さないように。雷の柱はその場に佇んだ。
皐月「[雷柱]」
規模はかなり大きくした。そう簡単には弾幕を通さねぇだろ。西行妖はすぐさま弾幕を展開、射出した。万に一つでも取りこぼしがあっては魔理沙達に影響がある。それをしっかりと見極めた。多くは雷柱で消えたが所々ですり抜けていく。それを見逃さず、雷撃で消していく。だが妙だった。この程度の弾幕なら霊夢達が苦戦する訳がない。西行寺幽々子を取り込んでこの程度のなんて可笑しすぎる……。体力の消耗がそれほどだったのか?いやそれにしてもこれくらいで体力を落とすほど霊夢達はヤワじゃない。じゃあ何が……。
皐月「っと!考える暇も与えねぇってか。」
雷柱の横を通り抜けて俺にめがけて飛んでくる黒いツタ。それをバックステップで交わし、電撃で焼いた。あれに捕まったらヤバそうだ。生気を一気に持ってかれるかもな。下手すりゃ肉体ごと持ってかれる。そうこうしているうちに雷柱は消え、壁が無くなった。それを逃すまいと先程とは比べ物にならない程のツタが地中からうねうねと飛び出した。こんな物、不意打ちでない限り俺には当てられねぇよ。
皐月「雷鳴と共に散れ。[武御雷 苑]!」
両手の付け根を合わせ、手を広げた。そこから電撃が蜘蛛の巣のように展開され、ツタを焼いていった。だがこの時も思った。やはり妙だ、と。攻撃が単調すぎる。西行寺幽々子が同じような手で来ていたのなら霊夢一人でも普通に勝てた。寧ろ体力なんて使わなくても勝てるはず。なのにあの消費量はおかしすぎる。他の何かがあるのか……?少し探ってみるか。
皐月「超自然[テレパス]!」
[テレパス]相手の思考を読み取ることのできる超自然現象の一つである。言うなれば意図的に覚になれる能力。あまり使いたくは無いが相手は植物の妖怪。封印されるほどの妖怪だ。使っても罰は当たるまい。
???「スベテヲ……コロス………。セイキヲウバイ………タイ………。ジャマヲ………スルナ………。ヨウヤク………ワレハフッカツスルノダカラ!!!」
その瞬間、蝶の形をした弾幕と黒いツタが俺の心臓めがけて飛んできた。すぐに電撃を出した…………[筈だった]。
皐月「!?なんで電撃が?!」
訳がわからなかった。今まで電撃が理由もなしに出せなかった事はなかった。別に体力が落ちている訳ではない。ガス欠というわけでもない。ならなぜ……?
考え事をしていてもきりがない。ひとまずツタだけでも躱さないとマズイ。俺は右へと飛び込み、体制を立て直した。ツタはすぐに引っ込んだが弾幕は飛び続けた。それも[俺にめがけて]。
皐月「追尾式かよ!?くそったれが……!?」
その時になって気が付いた。スパークモードが切れていることに。いつの間に切れていたのかは分からない。それに息も少し上がっていた。なんだ、こりゃ……。そこまで体力は使ってねぇ筈だぞ。なのにこんなの………まさか!?
皐月「こいつ、そこに居るだけで人を死に誘えるのか!?」
なんてこった。だとすりゃコイツは最強だ。普通じゃ勝てない。今は半開きの状態だ。なのに俺の体力が知らず知らずのうちに減らされている。と言うことはこいつの力は俺の不死の力を上回っている可能性があるということ……かもしれない。
皐月「あ、やっべ弾幕……!!」
思考しすぎて弾幕存在忘れていた。弾幕の多くは俺に着弾した。貫通力は無い、爆発も起きなかった。その弾幕は俺の中へと溶け込んでいった。
皐月「な、なんじゃこりゃ………。目が……霞んできた……。」
どうやら弾幕に能力を纏わせていたらしい。………死ぬ……のか?肉体は滅ばず……魂だけ消え失せるのか?……死に際だからか女性の声が聴こえる……。やべぇ………意識………遠のいて………い…………く……………。
―――――――――――――――――
音が聞こえる。爆撃のような雷のような音。それもすぐ近くで。誰かが戦っている?まさか……博麗の巫女もあの魔法使いも倒れていた。戦える人なんて誰も………まさか妖夢?意識が覚醒した私は目を開いた。身動き一つ取れないのに私は高い位置にいた。そうか……私はこの木に取り込まれて……え!?
幽々子「何よ……これ……。私のスペルが……勝手に?!」
取り込まれた挙句技を利用されている。そしてその先には………。
皐月「雷鳴とともに散れ。[武御雷 苑]!」
…………誰?いや、本当に誰あの人。見たことないけど……もしかして博麗の巫女と共にいた人?妖夢と対峙した人……かしら?なぜここに居るのかは分からない、なぜここに他のみんながいないのかは分からない。だけどこれだけは分かる。何かを守ろうとしている。ただそれだけは……わかった。
彼は技を出しては躱し、出しては躱しを繰り返していた。あれだけの攻撃を相殺していく。でもそれだけじゃ駄目……西行妖の妖力が徐々に高まってる。彼の生気を吸い取ってる………。伝えなきゃ。早くこの事を伝えなきゃ……!
皐月[!?なんで電撃が?!」
ツタと弾幕が飛び出し、それを迎撃しようとしていた彼。しかし技が出なかったのか驚きの表情をしていた。生気を吸い上げられ過ぎたのだとすぐに分かった。
彼はツタを間一髪でかわした。でもかわしたのはツタだけだった。弾幕は彼を追尾し、彼の中へと溶け込んでいった。その瞬間彼が倒れ込んだ。能力が発動してしまっていたのだ。言わなきゃ……逃げてって言わなきゃ駄目……。私はもう助からない。だから責めて貴方だけでも………。
幽々子「お願い………起きて……逃げ……て……。」
声が出なかった。私自身の限界も近いのかそれとも他の理由があるのかわからなかった。こんな声じゃ彼には届かない……ごめんなさい………私のせいで…貴方が……。その時………私の頬に涙が流れ、地面へと落ちていった。
???「寝るわけにゃあ………いかねぇなぁ………皐月………こっからだろぉが…………正念場はよぉ!!」
――――――――――――――――――
ごめんなさい……。確かにそう聞こえた。何に対してなのか誰に対してなのかは分からなかったが一つわかったことがある。涙が落ちるとがしたこと。何かを悔い、助けを願った、そんな涙が落ちたこと。
皐月「寝るわけにゃあ………いかねぇなぁ………皐月………こっからだろぉが…………正念場はよぉ!!」
右手に力が入り、左手、右脚、左脚、そして全身へと力が入った。そうだ……俺はこんなとこで寝るわけにゃいかねぇ……。仲間を命がけで逃して漢を上げたなんて思うなら……。俺の覚悟はそんなもんじゃねぇ………。勝つつもりでここに残ったんだ……。アイツら守る為に……目の前の女性を助け出すために俺は………おれは………自分の意思で復活する……!!!
皐月「ぐ……おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
多少ふらつくが立ったぞ……。立ち上がれたぞ………。外傷が少ないからか痛みはない。体は少々重いが気にしてられない。能力も……使えそうだ。ならこっから根比べだ。どちらかが折れるまで終わらない。いや、西行妖をもう一度封印する事でしか終わらせられない。その為にはまずあの娘を救わないとな。じゃないとあの子まで封印しちまいかねない。でもどうやって引き剥がして封印するかな。攻撃範囲は広い、つまりは弾幕による防御範囲も広いって事だ。それに高密度ときたもんだ。どうしたもんかね………。まぁとりあえず………。
皐月「逃げる!!」
重くなった体に活を入れ、電光石火の如く空高く飛び上がった。地上戦は不利になる。やつの前では地に足をつけているだけで生気を持ってかれちまうからな。全く末恐ろしい桜だよ。
西行妖は根を地面から持ち上げ、俺を捕らえにきた。今は逃げに徹して奴の弱点を探さねぇと。多分俺の気持ち次第で復活は出来るとは思うけどもう一度気を失うのはゴメンだ。だってその間にミンチにされたら俺とて再生できるかどうか分からんし。俺は根を躱しつつ西行妖の周りを飛んで弱点を探した。それと同時に今までの情報を整理し、更に弱点を絞り込んだ。そして一つの答えを導き出した。
皐月「やっぱり西行寺幽々子と西行妖を引き剥がすしかねぇか。」
西行妖は恐らく西行寺幽々子を取り込んだ事で復活に近い状態にある。なら彼女を引っ張り出して西行妖の弱体化を狙った上で奴を眠らせる。多分これがここにいる二人が生き残れる唯一の可能性だ。ならやるしかないだろ?そうなるとまずはあの木の根を焼くことから始めよう。邪魔だし鬱陶しい。
皐月「よし!今からひっぺがしてやるから覚悟しやがれ西行妖!ついでに滅してやるぜ!」
右手から炎の玉を、両脚には雷を纏って隙が出来た瞬間を狙って飛び込む算段をつけた。根は相変わらず俺のケツを追っかけまわしていた。そして前からは黒いツタが待ち構えていた。流石に学習したらしい。でも………。
皐月「そんなんじゃ俺を止められんよ。俺を気にしすぎて炎の玉に気を回せてねぇよ。」
俺は即座に上へ飛び、同時に下に炎の玉を撃った。それは拡散し、西行妖の黒いツタと樹木を支えていた根っこに飛んでいき、それらを焼いた。そして隙間が生まれた。
皐月「よっしゃ!後は西行寺幽々子と西行妖の境界を断絶すれば………!!」
西行妖から西行寺幽々子を救出しようとしたことを察知したのだろうか?目の前に桜が散り始めた。そして俺の第六感が告げた。「絶対に躱せ」と。俺は急ブレーキを掛け、間一髪で桜の花びらに当たることはなかった。だが目を凝らして下を見た。その光景はあまりにも危険で、残酷なものだった。何故ならネズミが花びらにあたって死んだのだ。それも「肉体ごと」。肉体が朽ち果て、塵に変わっていったのだ。
皐月「あっぶねぇ……。あれに当たってたら間違いなく死んでた。」
今日何度目だよ、本気で死ぬと思ったのは。一つわかったことがある。俺のこの不死の力は肉体があって初めて復活、再生ができる能力だということ。塵にされたら俺は本当に死ぬだろう。まぁそれはさておき、こいつの攻略法を見つけないと本気でヤバいしなんか後ろから来てるしヤバイ。どれくらいヤバイって出川哲朗が英語ペラペラになるくらいヤバイ。俺は即座に更に上へと飛び、後ろから来ていた新たな黒いツタを躱し、体制を立て直した。
皐月「ヤバイな……。生気を吸い取る地と黒いツタと当たれば即死の桜の花弁、そして西行寺幽々子と言う人質とも取れる存在。……どうする。」
正直困った。西行寺幽々子と西行妖を分断する方法は思い付いたのにそこまでを突破する方法が分からない。手当り次第に電撃を撃って花弁を減らしてみたが実際相殺されてるだけで次々と花びらが舞っている。その上奴のツタを躱さないと結局殺られる。[雷皇]を撃つか?いや、あれは範囲が広すぎて西行寺幽々子を巻き込みかねない。……………一か八かで飛び込むか。と言うかもうそれしかない。そして西行寺幽々子を回復させつつ西行妖からひっぺがす。そうすりゃ彼女は体力を消耗することなく分離できる………はずだ。
皐月「……持ってくれよ俺の体と意識。[スパークモード]!!」
花弁は砂鉄の傘で防ぐ。これしかないのならやるしか無い。俺は直ぐに砂鉄を磁力で集め、傘を作った(もちろん変幻自在ゆえ剣にもなる)。その状態で[スパークモード]の最高速度で突っ込み、西行寺幽々子の目の前で止まった。すぐ様右手で彼女の肩を掴み、左手で西行妖に触れ、分離の作業に取り掛かった。
本来生き物同士、または植物と動物が一体化することなどあり得ない。自然の法則から外れている。ならば俺が自然の状態に戻してやればいい。一人の西行寺幽々子と一体の西行妖に。3つの能力を同時に使うのは初めてだが出来る気がした、今の俺なら。
スパークモードを維持しつつ西行寺幽々子の回復、そして分離させる。
意識を………集中させるんだ…………。西行寺幽々子の生命と西行妖の生命の境界線を見極めろ……。同じ能力者でも必ずしも全く同じものとは限らない。同じ「人」でも顔や性格が全く異なるかのように。同じ時を過ごしても優劣が生まれる兄弟のように。必ず何処かに食い違いがあるはずだ。だが丁寧にやっている時間もない。多少強引だけど勘弁してくれよ。
皐月「はぁっ!」
左手を前に押し出し、左手で回復させながら西行寺幽々子を引っ張り出した。そのまま勢いで50mほど離れた。
皐月「はぁ………はぁ…………。だ、大丈夫……か?」
3つ同時に能力を使用したせいか体力の消耗が激しかった。それでも声をかけたのは多分成功したかどうかが不安だったからだろう。自分の体力だとかそんなのは二の次だ。彼女を救い出せたのか。それだけが心配だった。
幽々子「……んで……?」
目を薄っすらと開き、掠れた声で何かを言っていた。聞き取りづらかったが何を言わんとしているのかはなんとなく分かっていた。だから答える。最良の答えを。自分の素直な言葉を。
皐月「助けたかったからだ。それ以上の理由なんてねぇよ。」
俺は安堵したような声で答えた。彼女が目を覚ましたことが何より嬉しかった。自分の選択で彼女の生死が分けられていたのだから。
幽々子「……………馬鹿な人…ね。」
涙を流しながら答えた。その表情は感謝と謝罪の両方の色が見えた。それにしたって馬鹿はねぇだろ。ま、そんなツッコミは目の前の暴走しかかってる西行妖を止めてからだけどな。
皐月「悪いけど突っ込んでる余裕はまだねぇよ。最後に奴に蓄積された[春度]を幻想郷に還さねぇと終わらねぇからな。」ハァ....ハァ.....
だが正直体力が限界に近い。恐らく彼女でさえそうだ。なら俺の取るべき選択は一つしかねぇ。
今の俺の力のすべてをかけてヤツから春を抜き取るしかない
皐月「これで………終わりだ!!」
スパークモードはまだ切れてねぇ。なら奴に直接俺の力のすべてをぶつけて春度を放出させる。奴に春度さえ無くせばあとは勝手に沈静化する。春度で復活しかかったのなら無くせばやつは眠る。
皐月「[季節操作 : 春]!!」
両脚に電撃を、それ以外のすべての力を右手に収縮させ、一直線に突っ込んでいく。それを阻止しようと黒いツタが俺の命を狩りに来るが、捉えきれず空を斬る。そのまま右手は大木に突き刺さり、それと同時に大木の背面から桃色の光、[春度]が一気に放出された。
皐月「眠れ………大妖怪[西行妖]よ…………。そして安らかに眠れ……封印の糧となった遺体の持ち主よ……。」
そこで俺の意識は途切れた
―――――――――――――――――
諦めかけていた。と言うかもう諦めていた。自分の命を、そして妖夢に会うことも。でも彼が私を救ってくれた。見ず知らずの私を、異変の首謀者たる私を命懸けで救ってくれた。
彼が西行妖を退治した後、最悪な事になった。それは西行妖が枯れた時、死の力が噴き出したのだ。私の体は思いの外軽く、私の恩人を間一髪で救い出す事ができた。無我夢中で私は冥界を飛び出し、そして今現在はある妖怪の家にいた。
幽々子「ごめんなさいね、いきなり[助けて]なんて言って。」
文「いえいえそんなことないですよ。それに私としてもあなた方を泊めるメリットがありましたからね。困ったときはお互い様ですよ!」
ここは[妖怪の山]で彼女は射命丸文という名前らしい。彼を助けたあと私は民家を探した。彼の傷と意識を回復させる為にとにかく休める場所を探した。そんなときにたまたま見つけた家がここだった。妖怪の山だったのは気が付かなかったけど。
文「それにしても最初は本当に驚きましたよ。皐月さんがボロボロになって貴女に抱えられてたんですから。」
幽々子「まさか知り合いだったとは思わなかったけどねぇ。」
実はあの日から既に5日経過している。私は不思議な事に体が軽く、寝なくても大丈夫なくらいだった。しかし彼は目覚めず今に至っている。多分もう………。
皐月「起きてますよ?何勝手に殺してんだゴルァ。しばき倒すぞ文。」
文「なんで私なんですか!?ってちょっと!羽根をむしろうとしないでくださいよ!!?」
幽々子「賑やかねぇ。ふふ。」
彼はすでに目覚めていた。実のところ昨日から目覚めていた。彼の一言目は確か……。
皐月『………知らない天井だ。』
そう、確かこんな感じだったはず。私と文ちゃんはその時確か泣いちゃったのよね。何せ起きられるのが不思議なくらいのダメージを負っていたから。本当彼の体って謎だわ。
皐月「そういや幽々子。なんでお前冥界に戻らねぇんだ?」
突然の一言に私は少し動揺した。でも無理もないわ。私は元々冥界の管理人。本来ならここに長居をしてはいけないのだから。彼も多分その事は察している。だから誤魔化しとかそういうのは無しで話そう。
幽々子「貴方が心配だったから……じゃ駄目かしらぁ?」
素直な気持ちを伝えた。でもこれは私がしなければならなかった最低限の贖罪。何故なら彼は、皐月は私のせいで死にかけたのだから。
皐月「………んなものいらねぇよ。お前が無事だったんならそれが俺の褒美だ。今回の報酬はそれ以外いらねぇよ。」
な、なんて歯の浮く台詞を言うのかしら………。多分素で言ってるのよね……。聞いてるこっちが恥ずかしいわぁ……。
文「皐月さん…………今の記事にしていいですか?」
皐月「お前の羽は今日限りで無くなるがいいか?」
幽々子「…………。」//////
皐月「いやなんで顔赤くしてるんですか幽々様?俺そんな変なこと言った?」
わ、私なんで赤くなって………。それに今気付いたけど心音もどんどん早くなってる……。何これ……。私どうしちゃったのかしら……。
文「これはこれは………。ガンバです!」ボソッ
………言われなくても分かってしまうわ。多分彼は何を言っても同じことを言うと思う。でもそれは彼が心の底から思っている事。つまり私の事を本気で心配してくれたということ。そんなの……惚れちゃうじゃない。
皐月「ん?何が?」
本人は気づかないでしょうけど………。
―――――――――――――――――
幽々子が赤面をした後俺は文から取材を依頼された。まぁ別に隠す必要もないしいいんだけどね。ただ面倒臭いだけだけど。
皐月「そんで何が聞きたいわけ?つーか記事なら一応出てんだろ?」
文「そうなんですがやはり誰よりも早くヒーローインタビューしたいじゃないですか。」
皐月「いや知らんし。」
やはりそういう事か。まぁ別にいいけどちょっと条件つけるか。なんせ今俺の現状は行方不明者だからな。いきなり記事で出て来たら多分混乱を招くからな。
皐月「別にいいけどその代わり公にするのは俺等がここを出てからな。いきなり新聞で知らされるとか幻想郷中に混乱を招く事になる。」
文「う〜む……まぁそれくらいなら。それじゃそういう感じで行きましょう!」
うむ、物分りが良くて非常に助かる。どっかの駄目巫女さんとは大違いだ。
皐月「んでまず何が聞きたい?」
文「それはもちろん………今の貴方の現状です。」
………こりゃまた随分と変な質問だな。俺の現状なんて記事にしても面白くないだろうに。そんな思考を無視するかよように文は話を続けた。
文「実は異変については幽々子さんから聞きました。ことの発端も……そして結末も。」
皐月「ならなぜ今更俺に?ヒーローインタビューにしても俺の現状なんざ書かなくてもいいだろ?」
いや、本当は分かってる。彼女が何を聞きたがっているのかを。今の俺はかなり「異常」だからな。
文「私が知りたいのは何故貴方の[再生能力が機能していないのか]ですよ。」
皐月「やっぱり……か。まぁいいだろう、教えてやるよ。」
そう、今の俺に再生能力は無い。現時点で発現していないのだ。俺は一コマ置いて説明をした。
皐月「俺の能力を限界以上に使ったからだよ。」
文と幽々子は分かっていないようだ。まぁ普通わからねぇよな。だから一から説明しよう。俺の能力の限界点を。
皐月「俺は能力を使い過ぎるとそれ以降能力を使えなくなるんだ。つまり今の俺はガス欠状態ってわけ。とどのつまり俺は今ただの不死者、ただの死ねない体だ。」
俺の説明を受けて文から質問が出た。
文「それって矛盾してませんか?だって貴方は能力のせいで死ねないんですよね?でも今は能力が使えないわそしたら不死身能力も機能しないんじゃないですか?」
皐月「俺の不死身の力は俺の体力とか関係無しに発動する能力なんだよ。勝手に機能する能力だから体力とかお構いなしってわけ。まぁ意識的に覚醒出来ないってのは使えないけど。」
なるほど、と相づちを打つ文。そしてペンをスラスラと進めていく。ホントこいつ書くの早いし字もキレイだよなぁ。俺字が汚いからちょっと羨ましい。
幽々子「ごめんなさい……私のせいで………。」
俺の横に座っている幽々子が涙を溜めながら謝ってきた。ちょっと困るぜぃ。可愛いしなんて言えばいいかわからんからな。まぁひとまず……。
皐月「別にいいっての。俺が好きでやった事だしそれに一時的だからすぐに使えるようになる。謝んなくてもいいよ。」
俺はそう言いながら幽々子の頭を撫でてあやした。ちょっと肩の傷が痛むけどまぁ気にしない。
幽々子「………。」//////
文「………ごほん。」
文の咳払いで正気に戻った幽々子。あの文さん?ちょっと怒ってません?目が怒ってますよね?そうですよね。
皐月「まぁとりあえずこんなとこだ。あ、そう言えば文に聞きたいことがあるんだけど。」
文「? なんでしょう?」
忘れてた事を思い出した。あいつ等のことを聞かないと。
皐月「霊夢たちは今どうしてるんだ?」
顔が曇った。あ、これは聞いちゃやばかった感じか?
文「今は紅魔館に居ます。妖夢って子もそこに。完全に意気消沈状態で。会いに行ってあげてください。」
あ、なんだ生きてるのか。なら良かった。これで死んでたら俺があそこに残った意味がない。それに多分今の俺と幽々子は行方不明者だ。そうなるのも無理はないけど………俺そんなに霊夢達に心配されてたのか。ちょっと嬉しい。グヘヘ。
皐月「わかった。まぁ二日後くらいに行こう。徐々にだが回復してきてるし。幽々子も来るだろ?」
幽々子「もちろん。あぁ、早く妖夢に会いたいわぁ。」
どうやら幽々子と妖夢はかなりの絆で結ばれているらしい。まぁその際にお腹が鳴ってた気がするが空耳だろう。うん、絶対そうだ。そういう事にしよう。
――――――――――――――――
あれから二日経過した。傷の痛みも和らいだし浮遊程度だが能力も使えるようになってきた。確か前にこうなった時は3日くらいで治ったかな。………今回のほうが長いじゃねぇか。ま、いいけど。
皐月「んじゃあ文。世話になったな。飯、美味かったぜ。」
文「何ですかそれ口説いてるんですか?ちょっと嬉しいですけどもうちょい雰囲気とか考えてください。ありがとうございます。」
皐月「お礼言っちゃうのかよ……。」
そこは振るとこだろ。つーか口説いてねぇし。
文「褒められて嬉しくないわけないじゃないですか。またいつでも来てくださいよ。何かネタを持って。」
皐月「台無しだわ。なにちゃっかり仕事の手伝いさせようとしてんだよ。」
あはは、と笑う文。本当にこいつは………。ま、それくらいならいっか。
幽々子「それじゃあまたいつか会いましょう文ちゃん。」
文「はい!ではではさようならです!」
ビシって敬礼する文。その姿を背に俺たちは紅魔館へと飛んでいった。別に急ぎってわけでもないけどなんとなーく早めに行ったほうがいいんじゃないかと思った。
俺たちは紅魔館へと続く一本道で降りた。理由は俺の能力の限界だ。
幽々子「早く使えるといいわね、あなたの能力。」
皐月「こればっかりはしょうがねぇよ。俺の力不足の結果だ。」
そう言いながら俺たちは歩いた。他愛のない雑談をしながら紅魔館を目指した。そして門付近についた時目に入ったのは………。
皐月「美鈴………。」
自然に顔が綻んだ。帰ってきたと実感したのもあるけど俺を際限なく信じてくれる人が目の前にいるのは嬉しい限りだった。
幽々子「ぶぅ……何ニヤついてるのよぉ。私が横にいるのにぃ……。」
そう言いながら頬を引っ張る幽々子。いや、なんで引っ張るんスカいいじゃないですか帰ってきたんだから。
皐月「痛い痛い。ちょっと離してくれよ。ここに入る為にはあいつに話しかけないと駄目なんだから。」
そう言うと幽々子は離してくれた。ぶーたれてたけど今は無視。俺は美鈴の方へと足を運び、そして彼女の前に立った。それに気づいたのだろう。美鈴は顔を上げ、拳を構えていた。やっべ殴られるわ。
美鈴「!誰ですか?!」
何その今気付きました的な感じの反応。ちょっと泣いちゃう。まぁこういう時は………。
皐月「何だチミはってか?そうです私が変なオジサンです。」
こうやってふざけて帰ってこよう。
霊夢「………長い。」
作者「色々あったんだよ……。あと詰めたかったんだよ。」
次回 : 第三十二話 春節異変第十二話 : 英雄の帰還
皐月「誰が英雄?」
幽々子「貴方でしょ?」
皐月「俺はんなものになった覚えはない!」