ある日私は自分の屋敷である[白玉楼]にてある書物を見つけた。その書物は所々腐っていて歴史あるものだと言うことだけはその時解っていた。興味本位で開いてみたその書物にはある記述が記されてあった。
「桜妖怪[西行妖]、ここに封印せしめた。かの者の[遺体]により、花が咲く事はなくなるだろう。変わりにかの者のも[封印]され、[西行妖]が目覚める事は無くなった。」
あの書物には重要なことが書いてなかった。所々の言葉を濁し、何かを隠そうとしているかのように捉えられた。その後を読んでみても詳しいことは書かれていなかった。人の名前は一度も出でこなかった。
かの者?遺体?封印?西行妖?疑問はいくつがあった。でもその中でも私は[かの者の遺体]と言う言葉にどうしても目が行ってしまった。果たして誰なのだろうか?そしてあの花が一度も咲かなかった大樹とは一体何なのだろうか?私は気になって仕方がなかった。考えて、考えた末に出た結論はなんとも単純で、時間のかかるものだった。
幽々子『そうだわ、あの[西行妖]に春を与えて花を無理矢理咲かせればいいじゃないのよ。そうすれば封印とやらも解け、その誰かさんは復活するんじゃないかしら?うん、完璧な作戦ね。さすが私だわぁ。』
ただそれだけだった。桜が咲くのも見たいけれどそれよりもその封印された誰かさんをどうしても目にしたかった。たったそれだけの興味本位で私は行動を起こした。純粋に、子供心の様な感情を抱きながら私は桜が咲くのを待った。でもそれも……今日終わるかもしれない。私が負けたらの話だけどね?
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皐月が従者(?)を足止めして10分近く経過してる。そろそろ決着をつけないとね。皐月のことだからもう終わらせてるだろうからこっちに向かってきてる可能性がある。流石にあの亡霊も皐月任せって訳にはいかないもの。ちゃっちゃと終わらせちゃいましょうかね。
霊夢「その為にもまずはあいつの動きを封じないとね。魔理沙、少しの間だけでいいから時間稼ぎお願いね。」
懐から大量の御札を宙に浮かせた。ただ放つだけじゃあいつは抑えられない。だから揺動役が必要不可欠。その意図を汲んでくれたのかミニ八卦炉を構える魔理沙。どうやら理解してくれたようね。
魔理沙「任せろ!私だって皐月にばかり任せてはいられないからな。あと鬱憤は晴らさせろよ!」
まだ言ってるこいつ……。でもやる時はやってくれるから安心できるわね。その姿を見た亡霊は扇子を開いて前にかざし、弾幕を展開した。どうやら迎撃するつもりらしい。でも、唯の弾幕じゃ魔理沙は止められないわよ?それに私の意図に気づけないようじゃアンタの負けは[確定]よ?
幽々子「あなた達が何をしようとしているかは分からないけど私は負けないわ。それにあなた達は気付いてるのかしら?自分たちの置かれている状況がどれ程危ないのか。」
どういう意味なのだろうか?別段私たちに変化はないし相手が展開しているのもただの弾幕。私達の敵ではないわ。何かしら………。もしかして私達は重大な事を見落としている?私の疑問はあの亡霊の言葉によってかき消された。
幽々子「ふふ、分からないみたいだから教えてあげるわぁ。私の本来の能力は[死を操る程度の能力]なの。今弾幕にその力を纏わせているわ。一発当たったくらいじゃ死なないけど確実に戦力は落ちるわよ。」
死を……操る?今こいつそう言ったの?何そのイカれた能力は……。魔理沙も同じことを感じたようね。目が丸くなってる。でも臆してはいられないわ。当たらなきゃいいだけ、詰まる所魔理沙の[マスタースパーク]で一掃してしまえばそれで終わりよ。
霊夢「魔理沙!臆してはいられないわ!早くそれ撃って!」
魔理沙「……!!わ、分かってるぜ!霊夢もヘマするなよ!」
私の言葉に一瞬遅れたわね。相変わらず[死]という言葉に過剰反応を見せるわね……。でもその心配も言葉も全部吹き飛ばしちゃいなさい魔理沙!
霊夢「分かってるわよ!この一手で終わらせるわよ!」
魔理沙「おう!くらえ![恋符 : マスタースパーク]!!……そして[イリュージョンレーザー]!!」
私に呼応するかの様に王手をかける魔理沙。2つの技の同時射出。逃げ場を狭める目的のようね。さすが魔理沙、私の幼馴染なだけあって私の期待以上に動いてくれるわね。お陰で札の配置が楽に終わったわよ。
幽々子「そんな大きな攻撃当たるわけ無いでしょ?……!?」
残念、マスタースパークの射出時間は意外と長いのよ?横に振ってしまえば巨大な丸太よ?それに……避けようにも他の攻撃もあるし………『もう終わりよ』
魔理沙「いっっっけぇぇぇぇぇ!!!」
目一杯マスタースパークを振る魔理沙。
幽々子「くっ!こんな攻撃で倒される程柔じゃないわよ!」
マスタースパークの上を飛び越え、イリュージョンレーザーとのギリギリの間で躱す幽々子。
霊夢「……私達の勝ちよ。」
払い棒を横に払い、配置させた御札が幽々子を囲むように輝きだした。
霊夢「これが今私が撃てる最高の結界[夢符 : 二重結界]よ。」
幽々子「!!?さっきのはまさか……これを隠すための囮!?それにこの札は…!?」
霊夢「結界の中にさらに仕込ませてもらったわ。これで躱そうにもスペースがなさすぎて躱すのが難しいでしょ?」
本当はこの[二重結界]は防御用の技。でも皐月は言ってたわ。「防御は守るだけが防御じゃない。技を駆使して相手に手を出させなくさせるのもまた防御だ。」と。これが答えってことでいいかしらね?
幽々子「ま、間に合わ……!?」
霊夢「これで終わりよ亡霊!アンタの敗因は私達を侮ったことよ![霊符 : 夢想封印]!!」
この合図と同時に結界の中は大爆発を起こした。これで……終わったかしらね?
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爆発が起き、結界を解いた直後に亡霊こと西行寺幽々子は地面に落ちた。亡霊の為かゆったりと落ちてきて地面に横たわっていた。これで終わりね……。そういえば魔理沙は……?
霊夢「おーい魔理沙?どこいんのよー?」
う、うぃー、と小さく聞こえた。聞こえた方向に視線を向けると仰向けになっている魔理沙を見つけた。なんだ、ただの魔力切れか。
霊夢「あんたねぇ、力配分をしないからこう言うこと……に?」
魔理沙「ハァ…………ハァ……………や、やっちまった………ぜ。」
魔力切れとは異なる症状が出ていた。ただ魔力が切れただけなら激しい運動をした直後の様な感じ、体力切れのそれに近いはず……。なのに今の魔理沙からは生気を薄くしか感じられない。……まさかこいつ[受けちゃった]?
霊夢「あ、あんたまさか油断したとかで受けちゃった……とかだったら皐月にどやされるわよ?」
魔理沙「ち、ちげぇよ……って説得力ないよな…。ハァ……、どうやら受けちまったらしい。……気が付かなかったぜ……。」
に、鈍すぎる……。弾幕当たったのに気が付かないってどんだけ鈍いのよ。何処かのラノベ主人公並よ。因みに今のは皐月の知識よ?ラノベなんて知らないわ。
幽々子「ま、まさか……負けちゃうなんてね……。」
お目覚めのようね。ま、今の状態じゃ私ひとりを相手にするのも辛そうだし、何よりもう時期皐月も来ると思うから……別にいっか。
霊夢「アンタがアホなことするからよ。さ、私が勝ったんだから春を戻してちょうだい。」
これが無きゃ終わりじゃない。春を戻して初めてこの異変は終わりを迎える。私は魔理沙に肩を貸しながら言った。つーか魔理沙ほんと大丈夫かしら?皐月が来たら診てもらわないとね。
幽々子「……敗者に言い分はないわ。だから春を……え!?」
立ち上がり、何かを言いかけて立ち尽くす幽々子。その視線は驚きを表していた。気になりその方向を向いたらさっきまで咲いていなかった桜が咲いていたのだ。最初に彼女と会ったあの大木に花が咲き始めていたのだ。
霊夢「は……花?なんで……、さっきまで咲いていなかったのに……。」
流石に驚いた。満開とまではいかないけど1/4くらいは咲いていた。そしてそれに気付いた直後に感じ取った。とてつもなく大きく、邪悪な妖力がその大木から溢れ出していることに。そしてその気配が………
西行寺幽々子にそっくりだった事に。
霊夢「ちょっとこれはなに!これアンタのところの桜でしょ!?なんで花が咲いたら[今まで感じ取れなかった妖力が感じ取れるようになるのよ!]しかもこれってアンタの……!」
幽々子「知らないわよ!私はただこの木に花を咲かせて謎を解こうとしただけなの!だからこの[妖力]については何も………!」
最後に何かを言いかけたところで大樹から黒いツタがコチラに伸びてきた。私は身構えたがツタは私の頭上を越えて亡霊のところまで伸びていった。
気付いたときには大樹に引っ張られていた。私は払い棒に霊力を纏わせてツタの両断を試みた。でもそれも弾かれ、いとも容易く大樹に取り込まれた。
霊夢「嘘……取り込むなんて……。それにこの妖力………今の私じゃ絶対勝てない………。」
亡霊を取り込んだ瞬間、大樹の妖力が急激に上昇した。今の万全な状態じゃない私じゃ100%勝てない……。しかも魔理沙は今や虫の息……。そんな心配を嘲笑うかのように大樹から今までとは比べ物にならないくらいの弾幕が放たれていた。
霊夢「なんでただの大樹が弾幕なんて………まさかあの亡霊と同じ……!?」
私は悟った。これを防げなかったら私達は死ぬ事、幻想郷が壊滅する事。なぜなら弾幕にあの亡霊の弾幕と同じ気配と同じ、そしてそれより強力な妖力を感じ取ったから。そしてその瞬間……[久しぶり]に涙を流した。
ごめんね………私がもたついたから……。
ごめんね………力不足で…………。
だから縋らざるを得ない。弱いから、勝てないと悟ったから、…………生きたいと、思ってしまったから。
霊夢「…………助けて、皐月……このままじゃ……幻想郷が………。だから………お願い………。」
もう………アンタしかいないのよ………。間に合わないかもしれない。でも………この人の名前を叫ぶしか………ない。
霊夢「皐月ぃぃぃぃぃぃ!!!」
その瞬間、雷鳴が轟いた。大樹から射出された弾幕は全て相殺され、爆煙だけが残った。……私、生きてる……。それに[雷鳴]なんてそんなものを出せるのは…………一人だけしか………。
皐月「ふぃ〜。間に合ってよかったぜ………。スパークモード切ってなくてほんとよかったわ。お陰で護れたよ、霊夢も魔理沙も。」
目の前に金色の髪を逆立て、うなじ付近から雷電を放出した姿で立っている皐月がいた。
皐月「いよいよ最終決戦か。」
妖夢「私の出番は!?」
作者「出るよ、最初あたりに。」
妖夢(信用できないです……。)
次回 : 第二十九話 春雪異変第九話 : 漢の覚悟
霊夢「それってどういう……。」
皐月「俺も本腰入れねぇとな。」