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読まずにご意見を言われても、当方一切関知するつもりはありません。
5,620文字(ルビ文字含む)
前回の削り過ぎのおかげか、なんとなく5,000文字前後で纏める感覚が身についてきた様な?
……まぁ、錯覚なんですがね。
「――抜け殻なんかじゃない」
――確かめてみたかった。
「あなたの歌はしっかりと私に届きました!」
――信じてみたかった。
「きっと……
信じられなかったワケじゃない――
――信じていた、ワケでもない。
ただ――
真っ直ぐな瞳で、僕を見つめていたこの人を。
だから――歌った。
母さんじゃない、〝彼〟に向けて。
母さんのために、創ったこの歌を。
僕の生涯における〝
歌った直後、
正真正銘――生涯初の僕の歌を
――届くんですよね?
その言葉だけを、言い訳にして。
◆05 流行歌「あの気持ちを、もう一度」
「では、コチラの書類にはご自分の直筆でサインと……」
あのちょっとした(?)騒動の後、僕と765プロダクションは正式な契約に入っていた。目の前には先程の醜態はどこへやら、
というか現在この事務所には、僕含めこの4人しかいないわけなんですがね。
良いのかなぁ……?
ぶっちゃけて、コレが僕の今の正直な心境だ。
何しろ正式な試験のようなもの……アイドルだとオーディションとかになるのかな? そういうのは受けてないし、面接も精々10分少々会話……というか、雑談の中に自己紹介が混ざっていただけ。そもそも面接などと言って良いモノではなく、実際雰囲気は緩々。おおよそ試験なんて呼べるようなものじゃなかったからだ。
そのコトを正直に小暮さんに尋ねてみると、
「ああ……まぁ、それは私の時もそうでしたから」
……とのこと。
どうやら、この緩い雰囲気がこの会社の持ち味のようだ。
――本当に良いのかなぁ? つか、大丈夫なのかなぁ?
「……というコトで、ここまでで何か質問などはありますか?」
おっと、取り敢えず今は目の前の契約に集中しなきゃ。
――何やっても良いけどさ……自分の選択と行動には責任を持ちなさい。
私からは、それだけ――
それは、昨夜したはずの約束だ。
「えっと、そうですね……この保護者のサイン欄なんですが……」
「はい、そうですね。現在咲也さんは未成年ですので、保護者のサインが必要になりますね。
こちらに何か問題がありますか?」
「ここに三親等以内の親族が望ましいとありますが、絶対というわけじゃないんですよね?」
その僕の言葉に、隣の小暮さんが頷いた。
しかし、小鳥さんと社長は顔にハテナマークを浮かべている。
「あ……あ~っ! 咲也くんゴメンナサイ!」
つまり、どうやら小暮さんは
これはペナ
これを伝える時は、ほぼ確実に空気が重くなるから嫌なんだよなぁ。
「え~っと、実はですね……僕は諸々の事情で親族が一切いなくてですね……はい」
「え……」
ほら、場が暗くなった。
まぁ、親族がいない=家族がいないだから仕方ないっちゃ仕方ないんだろうけど。
けどさ、これってそんなに重い話か……? 周りにそんな人間が多い……というか、そんな人間ばかりなので、ちょっと感覚が違ってるのかも。
しかし、そこは流石に社長。人生経験が長い分、こういう経験も欠かないのだろう。
さらっとその場に顔を挟み、
「ふむ……? となると、今は誰が保護者ということに?」
と、その後の話は自然に社長が引き継いでくれた。まぁ別に隠すようなコトでもないし、というか隠したって仕方ないので、全部正直に話すことにする。
僕はいつもの様に、極簡単に是迄の生い立ちを説明した後、
「それで……今は前年度まで住んでいた、
ています」
まぁ……伝わっていなかったものは仕方ない。
というか、アイドルになるなんていうこの話自体が昨日の今日の話だし、病気云々の話だってさっきの歌の時に話したくらいだ。伝えていないことなんか、いくらでも出てくるだろう。
「では、その方はなんと?」
「それが……今まで散々不自由に生きてきたんだから、これからの人生くらいは好きにやって
みなさいと。ただし
「はぁ……それはまた……」
「いきなりアイドルになります。なんて突拍子もないコト言われた割には……」
「随分とアバウトな院長さんだねぇ」
上から小暮さん、小鳥さん、社長の順である。
うん、正直、僕もそう思います。
「……すいません」
「あ~……いやまぁ、ウチとしては有り難いくらいではあるんだがね」
「そ、そうそう。ご家族への説得の手間が無い分、楽ですしね」
ああ……やっぱ未成年が相手となると、色々とそういうのの苦労もあるのか。
僕も、割りと簡単に考えちゃっているところがあるなぁ。
「そうなると、取り敢えずサインなんかは後日書いてもらったものを持参してもらうとして、
詳しい契約の話なんかは……」
「あ、その事なんですが……」
「え?」
この空気の中でコレを言うのも割り切れないトコロがあるんだケド……まぁ、言わなきゃ仕方ないっちゃ仕方ないからなぁ。僕は
「契約の詳しいことなんざ
好きにしなさい……とのことで」
「……」
「えっと、じゃぁお金のコトなんかに関しては……」
「それも、自分で管理するようにと。あ、仕送りだったら有難く受け取るそうです」
「……」
あ、しまった。
最後のは言う必要なかったかも知れない。
「……いやまぁ、なんというか、うん。
気持ち良いくらいというか……こういうのを〝竹を割った〟とでも言うのかな」
「ちょっと違うと思います……」
とまあ、こんな感じで。
僕も割りと他人のことは言えない、緩~い感じで人生が決まっていくのでした、まる。
◇
「……とまぁ、書類関係に関してはこれでお終いかな?」
「はい、そうなりますね。後はこれからのスケジュール……まずは
「そうだね……基本方針に関しては既に決まっているから良いとして……」
ん? せんざい? せんざい、せんざい……洗剤? んなわきゃないな、新聞取るんじゃあるまいし。えっと、潜在? PowerGeyser? OverHeatGeyser? 好きだったなぁテ○ー・ボガ○ド。……はいはい冗談ですよ? わかってますから、そこでクスクスしてるくらいなら教えてくださいよ小暮さん。つーか元ネタ知ってるんですね。
「ああ、ごめんなさい咲也くん。えっと宣材というのはですね。簡単に言うと宣伝材料または
宣伝資材の略で、ファン向けではなくクライアント……この場合はTV局やイベント会社
なんかに送る資料写真やプロフィール資料のことになりますね」
「プロフィールと言うと、履歴書みたいな?」
「アレよりももっと詳しい……なんというか華やかなもの? になりますね。
後は歌が売りのアイドルだとデモテープを送ったりもしますが……やはり今回?」
言いながら、小暮さんが社長へと視線を向ける。
その表情はどことなく真剣だ。
「そうだね。スケジュール次第と言いたいが、今回に限っては確実に送っておきたいね。
別にデビュー曲じゃなくても構わないから、咲也くんの実力が確実にわかるモノを早々に」
「……そう、ですよね」
「?」
そこで―― 一瞬だけだけど、小暮さんの表情がちょっとだけ陰ったのが気になった。
「……? どうかしましたか? 咲也くん」
「え、いや……」
でも、それは余りにも一瞬だったから……気のせいかとも考えたんだけど。
「クス……変な咲也くんですね」
〝それ〟が余りにも最初のアノ顔に似ていたから――切り替えの速さが、不自然に自然だったから……僕はしばらくソレを引き摺ることになった。
「写真の方はどうなりますか?」
「そうですね……カメラマンについては時期が時期なのと急な話なので厳しいですが、スタジオ
に関しては1つ2つ抑えがあるので大丈夫だと思います」
「ふむ、ならカメラマンに関してはコチラでなんとかしておこう」
――ん? カメラマン? スタジオ?
「あの……カメラマンにスタジオって、履歴書写真みたいなモノじゃないんですか?」
いや、普通の履歴書でも場合によっては写真屋のスタジオ使ったりするけど、今の話ってそういうレベルの内容じゃなかったような……?
「ああ、そうだね。一般人のキミだとわからないか。まぁ、確かにそのような物なんだがね……
言ってしまえばコレはクライアントに送るグラビアと言って良いもので、写ったアイドルの
個性や魅力を伝えるためにあるものなんだ」
「……ということは」
「うむ、正直通常のグラビア写真を写すのと、そう変わらないコトになるね」
「というか、場合によってはファン相手にするものよりももっと……ということも」
はぁ……
ココはなかなかイイ感じに僕の精神を刺激してくれる場所ですね。もしかすると下手なカウンセリング受けているより、余程良い精神リハビリになっているかも知れん。いやマジで。
どうすんの? コレ。
モデルの練習なんかしたことないんですが。
モデルってアレでしょ?
ポーズ取ったり、場合によっては半裸とかになったり……って、半裸は不味いかなぁ。手術痕とか、他の諸々の傷痕が多数。個人間で晒すなら別に気にしないんだけどさ……。メイクとかで大半は隠れるだろうし、今の写真加工……コラージュって言ったっけ。凄いらしから、大丈夫なのかも知れんけど。
トカ何とか、ちと考えていたらだ。
「ああそうそう、写真のことに関してならそれ程心配しなくても良いですよ?」
と、小暮さんが声を掛けてきてくれた。
「宣材写真と言っても、養成学校にすら通っていない本物の素人さんの場合は、
承知の上のことになりますから……見るのは飽くまでも将来性ですし、学校のイベント写真
のつもりで気楽にいけば良いかと思いますよ」
「なるほど、そういうもんですか」
「はい、そういうもんです。あと、色々な〝跡〟の方も……」
「ふむ……」
そう言いながら胸を張る小暮さんだけど、僕としてはさっきのあの表情が気になって話半分になってしまった。……ふ~む。なんでこう、他人の事となるとこうも気にしがちになるかね僕は。
「……?」
「ああいや、なんでもないですよ」
「そう……ですか?」
「はい」
お互いに、さっきと鏡合わせで似たような反応になってしまった。
これじゃあ何ぞあると言っているようなモンですがな。だがしかし、お互いそれはおクビにも出さずに話を進めていった。
「…………」
なにやらソレをにこやかな表情で見つめている社長には、
………………
…………
……
◆06 変奏曲「始りの終わりと終わりの終わりに終わりが終わる」
「ふむ……それでは今日のトコロはこんなものかね」
「そうですね。では次は早速ですが明日の日曜日、9時に来ていただくことになります」
「いやぁ、丁度腕のいいカメラマンに空きがあって良かったねぇ」
これからの予定も大まかにだが話し終わり、時刻は現在5時丁度。
社長が業務用らしき携帯電話を閉じながらにこやかにそう告げた。
「そのワリには、向こう口は結構声が荒かったようですが……」
「ん? いやいや、そんなことはないさ。ははは……」
「はぁ……まぁ良いですけど」
小鳥さんが諸々の書類に一旦筆を置き、軽くジト目になりながらそう告げる。
建前上、世のサラリーマンは日々の仕事終わり。アフター5に入る時間だった。
「……でも良いんですか? 私たちは基本シフト制なので日曜も休日出勤ではありませんケド、
確か咲夜さんは昨日退院したばかりの上、明日は折角学校がお休みの日なんですよね?」
「そうなんですけどね。何と言うか僕はほら、毎日がお休みみたいなモノでしたし……」
「あ~……」
僕がそう答えると、小暮さんはなんとなくバツが悪そうな顔でそう唸り声を上げた。
「まぁ、そういうコトなんで。僕のことなら問題ないですよ」
コトを早くに進めてしまうにこしたことはないだろうし……無茶を利いてくれたカメラマンさんのためにも……とはココでは言わない。社長のいるこの場では皮肉にしかならないし。
それを察してくれたんだろう。
小暮さんも小鳥さんも、苦笑と意味深な微笑みを浮かべながら次の行動へ移っていった。
「そう言えば、曲の方は大丈夫なんですか? コチラは写真と違って、そこまで急ぐものでは
ないんでしょうけど……」
「うん、そうだね。曲に関してはいくつかツテを当たってはみるけど……咲也くんの歌唱力の
前に見合うものができるかどうか……と言ったトコロだね」
「あ~……なるほど、そう言う問題も」
いやいやいやいや……流石にソレは言い過ぎでしょう。
仮にもプロの作る曲が、素人の歌に見合わないなんてことがあるわけがない。
「……ではコチラは私達も気合入れて探しますね」
「うん、すまないけどよろしく頼むよ」
……………………ない、よね?
――ところがギッチョン。
このことが後日。とんでもない出来事と、懐かしい再会を生み出すとは。この時の僕は毛程も思いはしなかったんだ。――感謝するよ。小暮さんと……僕の人生の中の、ボトムラインファザーを除くそれまでの出会い全てに。なんちて。
なんとなくシリアルが書けない身体になってしまった気が……。
まぁ、拘り過ぎも良くないですけどね。
そう言えば、今回初めて挿絵無しだ。
※ アイドルだとオーディション
これ、実際どうなんですかね?
ゲームや書籍、その他諸々で全部色々違っていてよくわかりません。
ウチじゃ、もう面倒臭いのでプロダクションによるということにしています(苦笑)
※ PowerGeyser? OverHeatGeyser?
今や懐かしい格闘ゲーム、餓○伝説の超必殺または潜在必殺技。
MoVの発音が好きでした(超どうでもいい)
※ 手術痕とか、他の諸々の傷痕が多数。
この設定。本当に今からどうしようか悩み中です(苦笑)
だけど無かったら無かったで、ソレもまた超不自然なんですよね……咲也の
プロットこそ組んでますが、コレだけは未だに作者にもどうなるか解っていない部分です。
※ 「始りの終わりと終わりの終わりに終わりが終わる」
ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム!!(ちょっと違う)
終われないとか、今からなんて不吉なことを(汗)