皇国の艦娘   作:suhi

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機動部隊迎撃 二

●機動部隊迎撃 二

 第一艦隊からの通信を受けた泊地と輸送部隊は、ありきたりの言葉ではあるが蜂の巣をつついたような……という表現が相応しい騒ぎとなった。

 資材の方は既に積み込みを完了していたので、そちらに関しての混乱は無い。

 混乱の原因は、出撃とその後に迫った対空戦闘に関してだった。

 輸送部隊の艦娘は勿論だが、撤退する人員の中にも艦娘達を指揮しての戦闘経験はあっても、対空戦闘経験のある者はいなかったのだ。

 とはいえ幸いにと言うべきか、混乱は致命的な結果はもたらさなかった。

 

 

 理由の第一は、司令官からの指示を勘違いするような者がいなかった事である。

 加賀が率いてきた輸送部隊に同乗してきた人員はいない為、その場にいた人間たちは全員が艦娘特別艦隊に所属していた者達だった。

 彼ら彼女らは、新城が可能な限り損耗を防ぐために艦娘や人員を輸送部隊へと転属させたという事を理解していた。

 最優先すべきは被害を抑えての撤退なのだということを、納得はできていなくとも理解はしていたのである。

 結果としてそれが素早い出港を、即時の泊地放棄を可能としたのだ。

 最初に駆逐艦4隻が出港し、安全を確認した上で加賀が出港するまでに要した時間は、部隊の練度を考えれば、そして元々の予定時刻が日没後であったことを考えれば……信じられないくらいに短かった。

 

 理由の第二は、指揮系統が統一され揺るがなかった事だ。

 輸送部隊へと配属された人員の中でも、特に司令部要員やその補佐に当たっていた一部の者達の中には、新城がいずれ艦娘部隊は艦娘たちが自身で作戦を立案し指揮するべきだという新城の考えを理解していた者たちが含まれていた。

 彼らは実戦経験皆無で指揮経験も未熟な加賀を徹底して支えようとは考えたが、自分たちで指揮を取ろうとはしなかったのである。

 新城が与えられた権限は、あくまで現在の特別艦隊に対する絶対的な指揮権だった。

 それは体制内で自由に部下や艦娘たちを率いる事が可能というだけで、体制そのものを変更する権限は与えられていないのである。

 有体(ありてい)に言えば、艦娘たちの中での最高責任者、指揮官を加賀にする事はできても、士官である人間が加わった輸送部隊内での指揮官に、艦娘である加賀を任命する事は出来ないのだ。

 もちろん軍人であっても艦娘についての知識がない者であれば色々と理由をつける事も出来るのだが、艦娘部隊に所属している上に艦娘たちと直接的な関わりのある正式な士官となれば、その中で最も階級が上の者を指揮官にしない訳にはいかないのである。

 

 行使しようと考えれば、その者たちは自らの権限を行使する事が可能だったのだ。

 だが、彼らはそれを行使して自分たちの手で難局を乗り越えるのではなく、艦娘である加賀に指揮経験を積ませる事を優先すべきと判断したらしかった。

 足止めの為に残る艦娘部隊が全滅する可能性を考えると、ここで少しでも実戦での指揮経験のある者を増やすべきとでも考えたのかも知れない。

 足止め部隊の全滅というのは最悪の結末ではあったが、この時点ではその最悪の結末が訪れる可能性は、決して低くは無かったのだ。

 襲来する航空隊の規模を考えるのであれば、そして現状の加賀の様子を見る限り……確りと補佐をする者がいれば、襲撃に耐え切れると結論を出したのかも知れない。

 現実的に考えれば危険なのかも知れないが、これによって輸送部隊は少なくとも指揮系統の一本化には成功したのである。

 

 

 出港した輸送部隊は加賀を中心とした輪形陣を取りながら、南西の方角にある港を目指して航行を開始した。

 その部隊の指揮官とされた加賀は……自身の船体の艦橋で、部隊の今後について考えていた。

 悩んでいたとか途方に暮れていた……という表現の方が相応しいかも知れない。

 見た目の方は全くと言っていいほど変わらない。

 だが、その内側では……加賀は部隊が置かれた現状と、これから部隊を見舞う事になるであろう危機を推測して……その重圧に、押し潰されそうになっていた。

 

 建前としては、自分が指揮官というのは分かっている。

 部隊に加わった人員は、表向きは戦闘に耐えられない傷病者と部隊の運営に最低限必要な特殊技能の所有者という事になっているのだ。

 最高階級が少尉である以上その内の一人が責任者となり、その責任者から指揮権を委譲されている……というのが現在の加賀の置かれた立場なのである。

 とはいえその人員たちは実際は……十分な知識を持ち訓練も受け、今回のような対空戦闘はともかく深海棲艦との戦闘を経験し生き残った兵士や士官なのだ。

 対して加賀の方は……実戦経験はもとより訓練期間を考えても比べものにならない。

 一人の艦娘として戦闘に参加するだけでも不安が残るというレベルなのである。

 それなのに、補佐を受けてとはいえ部隊の指揮を取れというのだ。

 もちろん泊地に到着するまで彼女は輸送部隊の旗艦として駆逐隊を指揮してはきたが……到達までずっと緊張を強いられはしたものの、結局のところ戦闘らしきものは一切無かったのである。

 既に決まっている事であっても、彼女の内側では決心がついていなかった。

 であるにも関わらず、その内面の動揺や不安は彼女の外側には全くと言っていいほど漏れていなかった。

 他の者から見た彼女は、不愛想ではあるが落ち着いた態度で思案している指揮官……という出で立ちだったのだ。

「……何かお考えですか?」

 艦橋に待機し、その様子を暫く見ていた女性は暫く迷った後、加賀に声をかけた。

 彼女は艦娘部隊から輸送部隊へと転属される形となった者の一人だった。

 准尉として艦娘に付き、今回の海戦を生き抜いてきた人物ではあるが、経験等では彼女を上回る者は幾人もいる。

 にも拘らず彼女がこの場にいるのは、先輩や同僚からの推薦によってであった。

 相談役として適任なのではとされたのである。

 彼女以外にも補佐として、2人の要員が艦橋に配置されている。

 その三人が加賀の参謀(参謀という表現が大袈裟というのであれば幕僚)として、経験の浅い彼女を補佐するのだ。

 他の者たちは艦橋にはいなかった。

 無用の威圧感、プレッシャーを与えるべきではないと考えたのかも知れない。

 そもそも口を出す者が多ければ、船頭多くして船山に上る、という故事のようになりかねない……とも考えたのかも知れない。

 兎に角、艦橋にいるのは加賀と三名の士官のみだった。

 加賀は彼女の問いに視線だけ向けた後……少し間を置いてから、口を開いた。

「……正直、私に……満足な戦闘指揮が取れる、とは思いませんが……」

「すみませんが、諦めて下さい」

 酷い事を言っているなと自分でも思いはしたものの、彼女は加賀にそう言葉をかけた。

 決まってしまった以上、今はもう悩んでいる時間は無いのだ。

 そんな想いと一緒に……艦娘といっても人間と変わらないものなのだなという想いも湧いてくる。

 艦娘と接する機会はあったものの、彼女が接してきたのは主に駆逐艦だった。

 どちらかというと子供や後輩という印象が強かった分、大人の女性という印象の加賀と相対すると……何か気圧されるような、引け目のようなものを感じていたのである。

 人間と同じように心配したり迷ったりしているのだと感じると、表情に現れない何かを発見する事が出来たような気がして、彼女は少し楽になった。

 

 同時に、本音を零してくれた彼女に対して庇護欲のようなものを駆り立てられた。

 何とかして支えてあげなければ、という気持ちにさせられたのだ。

 とにかく今は不安そうな指揮官を、加賀を盛り立てて、この場を乗り越えるしかないのだ。

「攻撃は一回です。その間に、主力の方が敵の機動部隊を何とかしてくれるはずです」

 彼女は加賀にそう言った。

「私たちはとにかく、今こちらに向かってくる攻撃隊を凌ぐ事だけを考えましょう。何でも仰って下さい。できる限りの協力はします。ですがこの場を乗り切るのは、加賀さんの指揮でなければならないんです」

 彼女の言葉に少し間を置いてから……加賀は小さく頷いた。

 それから、控えている2人の方にも向き直った。

「……全力を、尽くします……力を貸して頂けますか?」

 

 

 

 

 エレベーターを使用して格納庫から飛行甲板の上へと運ばれてきた機体が、次々と順番に発進していく。

 天候や風向きが良いのか?

 それとも機体が軽量という事なのか?

 発進した航空機は余裕を持った感じで艦から離れ、加速しながら空へと舞い上がっていった。

 その様子を白露は、時々ちらちらと後ろに意識を向けるようにして眺めていた。

 九六式艦上戦闘機は、零式と比べると随分と身軽な印象を受ける。

 もしかしたら発着艦は楽なのかも知れない。

 とはいえ難しかったとしても、敵の襲来が判明した時点で多少の無理は仕方ないだろう。

 発着艦の失敗による損失などとは比べ物にならないような損害を受ける可能性があるのだ。

 

 本当はじっくりと見物していたいのだが、そういう訳にもいかなかった。

 加賀を輸送部隊の旗艦とするならば、白露は加賀を護衛する駆逐隊の旗艦なのだ。

 加えて現在の彼女は加賀の四方を守るように位置する4隻の中で先頭、進行方向側の警戒に当たっているのである。

「迂闊な事は出来ないもんね、一番艦として!」

 ぐっと拳を握りしめて気合を入れる。

 緊張や不安が無いわけではないけれど、ついにここまで来たのだという充足感もあるのだ。

「みんな、気合入れてね? 私たちの手で、加賀さんを守るんだから!」

「……うん、頑張るよ」

「っぽい!」

「ちょっとは良いトコ、見せないとね?」

 左右を固める時雨と夕立、後方を守る村雨の声が、妹たちの声が、順に無線から響いてくる。

 そのすぐ後に、加賀からの通信が白露へと届いた。

 確認した白露は、それを他の3隻にも聞こえるように連絡し通信を繋げる。

「迎撃の為の戦闘機は、対空砲火に巻き込まれないように皆さんの射程外で戦闘を行います。接近してきた航空機は全て敵機と判断し射撃を行って構いません」

 そう告げた後で、加賀は襲来する敵航空隊の構成について説明した。

 予想される敵攻撃隊の内訳は、攻撃機隊と急降下爆撃機隊の2部隊である。

 急降下爆撃機は直上、真上から急降下爆撃を行ってくると予想されるので上空に注意。

 攻撃機の方は同じように上空から編隊を組んで爆撃を行うか、低空から接近して雷撃を行ってくると推測されるので、上空だけでなく低空にも注意する必要がある。

 何度も確認しているそれらの知識を、お互いの意識をすり合わせるように……口にして、形にしてゆく。

「雷撃は側面からの方が狙い易いので、左右の艦は特に注意して頂戴。あと……可能性は低いけれど潜水艦の待ち伏せが無いとも限らないので、念の為に水面にも注意して」

 そこまで言ってから一旦言葉を切ると……少し間をあけてから、加賀は続けた。

「私は、艦載機の制御と自艦の操作で一杯になると思う。護衛に関しての指揮は、白露さんの方に任せるわ……お願いね」

「はい! はいはいはい! 任せて下さい!」

「……白露、大丈夫?」

「何か気合を入れ過ぎて失敗するフラグっぽい!」

 元気よく返事をすると、無線から時雨と夕立の声が響いてきた。

 

「も~失礼だなー!」

 大丈夫だから、気合を入れているだけだからと二人の妹たちに説明する。

 二人の方も言ってみただけという感じで、短い言葉を少し交わして話は終わった。

「……お願いね」

 それを待っていたのか、もう一度そう言って加賀からの無線は切れた。

「さぁー、張り切って行きましょー!」

 ふむんと鼻息荒く、白露はもう一度気合を入れ直す。

 あそこまで言ってもらった以上、しっかりと加賀を守り切って護衛という役目を果たさなければ。

 情けない姿を晒す訳には行かない!

 船体の全ての砲と機銃を稼働させながら、白露は艦橋から前方甲板へと移動した。

 対空戦闘のみを考えるのであれば、加賀を確認できる後方甲板の方が良いかも知れないが、念の為……敵潜水艦の待ち伏せを警戒しての事である。

 少々力んでいるという点は事実ではあったが、傍(はた)から見えるその態度と比べると、彼女の内面は余程に落ち着いた状態なのだ。

 白露は敵の攻撃隊を警戒すべく、上空へと視線を向けた。

 戦いの時は、すぐ其処まで迫っている。

 

 

 

「……大丈夫かなぁ」

 気合を入れまくる姉の姿を想像して。

 少し心配、という表情で……村雨は、結んだ髪の一端を弄りながら呟いた。

 姿は見えていないけれど……無線から響く声の調子で、長姉の様子は何となく想像できる。

 明るくて行動的でムードメーカーな姉だけれど、見た目や言動よりは意外と落ち着いたところもある姉ではあるけれど……時に力み過ぎて、突っ走るところがあるのだ。

 次姉の時雨の方は逆に控え目でよく周りを見ており、どちらかというと熟考型という感じである。

 直観的で時折不思議な事を言ったりもするが、行動に関してはそこまで無茶はしないほうだ。

 一見無茶に見えても状況を確認してみると、思った以上に堅実だったという事も実際にある。

 ちょっと相談しておいた方が良いかもしれない。

 幸い、通信の制限は解除されている。

「ねえねえ、時雨?」

 次姉だけに繋げるように無線を操作して番号を変えると、村雨は周囲への警戒を続けながら時雨へと呼びかけた。

「……まあ、大丈夫だと思うけど言っておくよ」

 既に察していたのか、時雨は短く答えた。

 ちょっと冗談めかした雰囲気が言葉に含まれているので、もしかしたら苦笑しているのかもしれない。

 ちなみに姉なのに呼び捨てというのは特に気にしていないらしい。

 時雨自身も白露に関しては、呼び捨てにしたり姉を付けたりと時と場合で変えているようだし、あまり拘りは無いのだろう。

 もちろん次姉の事だから、独自の拘りがあるのかも知れないが。

 白露の方は他の駆逐艦たちが呼び合っているのを見たりすると、お姉ちゃん呼びしてくれないと大袈裟にガッカリした仕草をしたりしているので、言ってほしいと思っているのは間違いない。

 ただ、怒ったり強要したりまではしてこないので、言うほどには気にしていないように村雨には思える。

 残る一人、双子のような妹の夕立に関しては……呼び方への拘り、などという議題そのものが必要ないくらいにシンプルである。

 姉妹艦である同じ白露型であれば姉も妹も関係なしに呼び捨てで、他の駆逐艦ならば型に関係なく、ちゃん付け。

 裏表の無い無邪気な態度で親しげに呼びかけ、誰とでも仲良くなれる明るい子だ。

 妹でありながら、時々何か器のようなもので上回られているような気分になったりするほどである。

 一見すると御淑やか風に見えて直観……というか直感的な彼女の言動は、自分とは正反対なように感じられる。

 言葉遣いは兎も角として勘の鋭さのようなものは時雨に近しいというか……理屈より感覚で何とか出来てしまっているような処もある。

 何となくで決めるのが苦手で考えて行動する自分と、そういう処も正反対だなと思えるのだ。

 羨望のようなものを感じたりする事もある。

 そういう時に懐かれたりすると、少しではあるが落ち込んだり凹んだりしてしまう。

 名前は呼び捨てでも、夕立は姉たちには対しては本当に懐くように慕ってくるのだ。

 その仕草は本当に小動物か忠犬か、という感じである。

 逆に妹たちに対しては、お姉ちゃん風を吹かせたりもするが、そういう姿もかわいらしく愛らしい。

 そんな風に無邪気で可愛らしい印象の割に、いざ戦闘となると思い切った動きをする。

 自分たちが経験してきたのは訓練だけであるが、夕立に関しては実戦の時も大して変わらずに動けるのではないかと思えるほどだ。

 色々考えると……自分はちょっと普通っぽいのかなと考えてしまったりする。

 悪い事ではない筈なのに、少し凹む。

 まあ、次姉や双子のような妹が特殊過ぎるのだろうと考えて自分を納得させる。

 いつもの事だ。

 それなのに引き摺ってしまうのは……今の自分が、少し落ち込んでいるというのもあるのかも知れない。

 だから思考が暗い方に、悪い方にと向かってしまうのだ。

 

 

 理由は今の村雨の置かれている状況と、彼女自身の心情だった。

 殊更に戦いを望んでいるという訳ではないが、村雨とて駆逐艦娘である。

 個々の想いは如何であれ、自分は戦う為に生まれてきたのだという自負があった。

 もちろん、前線で戦っている他の駆逐艦の先輩たち、睦月型や吹雪型の皆に比べれば経験でも技量でも劣っているのは分かっている。

 船体と艤装の改造を行えるだけの技量には達しているが、部隊の資材を備蓄する事になった為、4隻共に全面的な改造を行なっていない以上……戦闘能力という点で劣っているのも事実だろう。

 自分たちの任務は元々輸送であり、戦う事を望まれていた訳ではないというのも分かっているつもりだった。

 とはいえ、旗艦である加賀が特別艦隊への編入を、戦闘へ参加を希望した気持ちも分かる。

 ならば何が引っかかっているのかといえば……加賀が鳳翔や龍驤らに窘められ、自身の希望を取り下げた時の自分の気持ちだった。

 残らなくて済む、と知った時の気持ちだった。

 知った瞬間、自分は深い安堵の気持ちを抱いたのだった。

 続いて湧き上がったのは、純粋な恥辱の気持ちだった。

 自分が嫌でたまらなくなったのだ。

 自分の内で大切にしていたものを穢してしまったような……そんな気分だった。

 かつての村雨という船の艦歴、それに乗っていた者たちの想い。

 ハッキリとは覚えていないけれど、誰か乗組員だった人の残したと思われる言葉……

 やるだけやった……今の自分は、そんな風に思えるだろうか?

 そんな事を考えると、何もかもが自分の奥底に沈み込んでいくような気持ちに襲われるのだ。

 その辺り、白露とは違う意味で明るくムードメーカーな村雨も、根源は艦娘であるという事なのかも知れない。

 実際のところ彼女自身、現状では落ち込むほど姉妹たちに劣る部分などは全くと言っていいくらいに無いのである。

 ただ思考が先行するが故に……そして自覚があるように、感情が自己に対して否定的な側に傾いているが故に……不安になり心配になっているというだけの事なのだ。

 加えて考えたのちに行動する性質なのに思考が行動に反映させられないという現状が、無力感を更に増幅させるという悪循環を生みだしていた。

 外面的にはムードメーカーであり長姉の白露に似ている村雨であるが、根本の処では次姉の時雨に似て思索型なのである。

 ただ、思索の末に辿り着いた先が次姉とは異なっていたというだけの事だ。

 考え抜いた末に時雨が辿り着いたのが静であり、村雨が導き出した結論が動であったというだけなのである。

 つまるところ村雨は、本人が意識しようとしまいと白露と時雨の妹らしい妹という事なのかも知れない。

 

「白露より各艦へ。敵攻撃隊北東方面から接近中! 直掩隊が戦闘に入ったって! 来るよ? 全艦対空戦闘用意!!」

 無線から響く長姉の声を聴いて、村雨は気持ちを急いで切り替えた。

 敵が一部でもこちらに戦力を振り分けた以上、残存部隊が当たる事になる戦力は少しでも減少するはずだ。

 今はこの場で全力を尽くすしかない。

 ここで加賀が大破、沈没するような事になれば、それこそ残った皆に申し訳が立たないのだ。

 輪形陣の後方、北東側にいる以上、加賀を狙おうとする敵は自分の上空を通り過ぎる可能性が高い。

 村雨は自分の身を艦橋の内側から外へと移動させた。

 機銃は勿論主砲も可能な限り上空へと向け、艦の警戒も空へと向ける。

 潜水艦に対しては時々自分の眼で見るくらいしかないだろう。

 とはいえ雷撃を狙うのであれば、言われたように側面からの可能性の方が高い筈だ。

 その辺りは艦隊の両脇を担当する夕立と時雨が警戒してくれるだろう。

 進路上で待ち伏せされる場合に対しても、白露が警戒してくれているに違いない。

 となれば自分が第一に警戒するのは、上空を通過するはずの敵機である。

 空は雲が多いこともあって、日没までまだ時間があるとはいえ陽光は弱く、辺りはやや薄暗い感じだった。

 海上から見てそうなのだから、空から海を見下ろす形となる敵艦載機にとって視界の悪さはかなりのものだろう。

「敵は艦戦と艦攻のみ、艦爆隊は発見できず! 各艦警戒を!!」

 敵機発見の前に、続けて通信が入る。

 こちらと遭遇する前に部隊を分け時間差で攻撃を仕掛けるつもりなのか、それとも一部は泊地の方へ攻撃に向かったのか?

 どちらにしろ、今は悪い方に警戒して損は無いはずだ。

 村雨はとにかく上空に警戒した。

 艦戦隊の数ならば此方が勝っているが、敵にも艦上戦闘機がいる以上、敵攻撃隊の全てを押さえる事は難しいだろう。

 艦上爆撃機が見えないならば、先ず警戒すべきは艦上攻撃機による爆撃と雷撃である。

 雷撃の場合、敵機は低空で艦隊の側面から接近してくる筈だ。

 爆撃の場合は高高度で編隊を組み、上空を通過しようとするはずである。

 精度を高めようとするならばある程度まで高度を下げるかも知れないが、艦爆隊のように急降下爆撃は行えない筈だ。

 時々周囲の海面も警戒しながら、意識の方は絶えず上空に向ける。

 発見できたとしても船体の主砲の方では高高度を飛行する航空機の迎撃は極めて難しいだろう。

 機銃と手持ちの、艤装の主砲で何とかするしかない。

 ただ、雷撃機に対しては船体の主砲も効果を発揮できるはずだ。

 雲を、そして雲の隙間から見えるあまり青くない薄灰色の空を見る。

 その灰色の中に、点のようなものを村雨は発見した。

「敵機発見です! やっちゃうからね?」

 味方へと通信を送りながら、同時に攻撃も開始する。

 撃墜できれば一番だが、優先すべきは敵の攻撃を妨害する事だ。

 砲や機銃の連射で弾幕を張るのである。

 他の艦、加賀からも対空射撃が始まり、上空に目で確認できるほど多数の砲弾や銃弾が飛び上がってゆく。

 船体からの機銃掃射だけでなく手持ちの主砲も空へと向けて、村雨は可能な限りの速さで射撃を行っていた。

 こちらの戦闘機に攻撃された為だろう。

 敵の艦攻の中には編隊を組まず、バラバラに飛行しているものがいる。

 高高度からの爆撃は、精度を上げる為に複数の機体で編隊を組んで行うというのが基本らしかった。

 爆弾の、特に徹甲型の爆弾の場合……破壊は点に限られる形になるのだそうだ。

命中すれば爆風で周囲もある程度破壊できるが、そもそも命中しなければ爆発したとしても海中、しかも海面直撃直後ではなく少し沈んでからなので、外れた場合の爆弾の効果は水柱を上げるくらいにしかならないらしい。

 近ければ衝撃で損傷を与える可能性もあるが、それも余程近い場合や装甲の薄い小型艦に限られるのだそうだ。

 それを面で破壊できるようにと、一度に複数の機体が編隊を組んで爆弾を同時に投下する、という事らしい。

 豆粒か何かよりは少しマシに見える敵航空機から、何かが離れるのが見えた……ような気がした。

 冷たいものが背筋に走る。

 意識を集中したくなるのをぐっと堪えて、村雨は自身の視界の片隅にそちらの方角を捉えるようにしたまま対空射撃を続行した。

 加賀と4隻の駆逐艦の武装は基本装備のみで(駆逐艦の方は主砲や魚雷発射管を追加装備している者もいるが)、対空兵装を追加装備している者はいない。

 弾幕を張るといっても、地上から見る其れは情けないくらいに頼りないのだ。

 それを、これ以上心細くする訳には行かない。

 周囲や自艦の上空の状態、加賀の周囲と上空、時雨と夕立の位置する陣形の両側方向……一度に入ってくる情報に、頭が混乱しそうになる。

 いや、一部は既に混乱しているのだ。

 行動は既に状況を確認し判断してという状態ではなく、ほとんど反射となっている。

 相手の姿と移動方向を確認し、見当で未来位置を予測して、或いは爆撃に絶好と思えそうな位置を推測して、妨害するように射撃を行っているだけなのだ。

 もっとも、船体や艤装や妖精たちが索敵だけでなくある程度の計算、演算を引き受けてくれている以上、自身の勘も無意識というだけで幾つもの分析と計算が含まれている筈で……全くの当てずっぽう、という訳では無いのだが。

 射撃を続けている視界の片隅に再び、打ち上げる砲弾とは違う何かが映ったような気がした。

 何かがゆっくりと落ちてくるような感覚が走り、今まで高速に見えた砲弾や銃弾の動きが……急に遅くなったように感じられ始める。

 音が聞こえている筈なのに、どこか遠くに感じられるような……不思議な感覚。

 放たれた爆弾が、加速しながら海面へと迫ってきて……

 加賀に命中するのではと思えた爆弾は……海面に水柱を上げて潜りこむように消え、すぐに大きな爆発が起きた。

 潜り込む時とは比べ物にならない大きな水柱が上がる。

 安堵する間もなく、上空の敵機から次々と何かがバラ撒かれた。

 一つ一つは小さい以上、一度に複数が投下されなければ見えなかったかも知れない。

 統一されていないというのは如何いう事なのだろうか?

(「ん~向こうも慌てて攻撃隊を出したのかな?」)

 射撃を続けながら、村雨は頭の片隅を敵の動きの観察と推測に費やしてみた。

 先ほどの爆弾とは比べ物にならないくらいに小さく感じるので、恐らくは複数の小型爆弾なのだろう。

 小型とはいえ艦攻が搭載しているのだから、艦爆が搭載する爆弾よりは大きいのだろうと推測してみる。

 対艦というよりは対地上用の爆弾……なのではないだろうか?

 ならば命中しても甲板上にダメージを与える程度で、甲板を貫通して船体に直接ダメージを与える程の威力は無い筈だ。

 空母の飛行甲板ならばある程度破壊できるだろうが、その程度なら応急修理するだけで艦載機の発着艦くらいは可能になるのではないだろうか?

(「まあ、それでもこの戦闘では十分に怖いけど……」)

 敵は即座に第二次攻撃隊を出せるくらいの戦力を持っているのか?

「っていうか、集中しないと不味いよね?」

 敵の数はそれほど多くないのに、もう既に二度の爆弾投下を許しているのだ。

 加賀の周囲に先程よりは小さいが、複数の水柱が上がった。

 水柱の向こうで何かが光り……爆風のような何かが、見えた。

(「命中した!?」)

 冷たいものが走る処ではなく、何かがこみ上げてくるような感覚が襲ってくる。

「加賀、飛行甲板後部に被弾! 損害軽微にて戦闘及び航行に問題なし!」

 加賀本人は回避運動に専念しているのだろう。

 乗員らしき人物の声が無線から響く。

 村雨は安堵しながら止めていた息を吐き出した。

 とはいえ敵の攻撃はまだ終わっていないのである。

 後続の敵機の攻撃妨害に専念すべきなのだろう。

 彼女はそう考えて、砲撃と銃撃を加賀の上空に集中させた。

 船体の方は加賀に続くように航行させながら、転舵を繰り返し進路を計算されないように心掛ける。

 加賀への攻撃が難しいと判断したのか、先ず対空砲火を潰すべきと考えたのか……

 それとも、こちらの姿を大型艦と見誤ったのか?

 上空を通過しようとした艦攻が、向きを変えながら爆弾を投下した。

 先程よりも更にゆっくりと感じられる速度で、爆弾が船体に迫ってくる。

 それに対する自分の動きは、更に……遅く感じられた。

(「……これって、もしかして……当たるかも?」)

 船体を動かすが、それに合わせるようにして爆弾も降下してくるような……そんな感覚。

(「……あ……」)

 直撃する、と思った瞬間……爆弾は船体から十数mほど離れた水面へと水柱を上げながら飛び込んだ。

 少しの間を置いて、空気を揺らすような轟音と共に津波か何かのように周囲に水を撒き散らしながら、先程よりずっと大きな水柱が上がる。

 直撃したのかと錯覚するような衝撃が船体を襲う。

「村雨!?」

「村雨っ、当たったっぽいっ!?」

「何!? どうしたのっ!? 村雨っ!?」

 時雨と夕立に続くようにして、状況を確認できない白露の慌てた声が無線から響いてきた。

 加賀を挟んで反対側にいる為に、こちらの姿が加賀の船体に隠れて見えないのだ。

 実際此方からも白露の姿は確認できない。

「村雨至近弾! 船体に異常なし、戦闘続行!!」

 急いで通信を入れ、自分の状態を報告する。

 自分が戦えなくなったと判断して陣形を調整しようと動いたりすれば、どのような混乱が起こるか分からない。

 対空砲火に隙ができれば、更に加賀が攻撃を受ける可能性もあるのだ。

 衝撃に耐えるので一杯になってしまったが、呆然(ぼうぜん)としている訳には行かない。

 対空射撃を再開しながら船体をチェックすると、衝撃で歪んでいる箇所が確認できた。

 異常なしという訳でなかったが、戦闘に支障が無いのは同様である。

 ただ、先刻の報告と異なるので白露に連絡は入れておく。

「村雨、船体に損傷発見。軽微、戦闘には問題なし」

「ホント? 大丈夫!?」

 自分だけに向けられた白露の声が無線から響いてきた。

 個人に向けてだからなのか、長姉の態度は随分と砕けていた。

「だいじょうぶ、大丈夫♪ 心配しないで」

「とにかく沈められないように気を付けて、射撃を続けてて? そっちの上空に弾幕張るだけで加賀さんの上空に向かうのが面倒になる筈だから。無理しないでね?」

「はいは~い」

 こうゆう状況でも流石だな~と思いながら、おどけて返事をしてみせる。

 それを確認したのか、白露から通信を共通のものへと切り替える旨の連絡が入った。

「時雨と夕立も気を付けて! そろそろ雷撃機も来ると思う!」

「了解」

「ぽいっ!!」

「上空は私と村雨が特に警戒するから。あ、でも村雨も念の為に後ろは警戒してて?」

「うん、まっかせて?」

 2人に続くように返事をしながら、村雨は後方を確認した。

 上空への射撃は変わらずに続けているが、今のところ後続の敵機は確認できない。

 海面近くを飛んでくる攻撃機も、少なくともこれまでは発見しなかった。

 それでも……加賀から別命が届かない以上、敵機が現れる可能性はあるのだ。

 もしかしたら直掩隊は敵との交戦を続けているのかも知れない。

 とにかく、絶対に油断はできない。

 大型の徹甲爆弾ならば一発直撃するだけで、加賀の船体であろうと恐らく航行不能な状態まで破壊してしまうだろう。

 弾薬を無駄にしているように思えても、これで一瞬の隙を突かれるような事になれば……後悔しても、し切れないのだ。

 対空射撃を継続しながら、飛沫で張り付いた髪を拭(ぬぐ)って。

 村雨は上空と周囲への警戒も継続する。

 

 

 

「時雨より白露へ、低空を接近する航空機を発見」

 淡々とした調子で、時雨は姉へと通信を入れた。

 加賀の艦載機がここまで降りてきている可能性は無いだろうが、念の為に照準を合わせながら慎重にその姿を確認する。

 とはいえプロペラも無く翼の形状も独特な、此方側の艦載機と全く異なる外見は遠目からであっても見間違えようがない。

(「うん、落ち着けてる。焦ってない」)

 そう自分に言い聞かせると、ちょっとだけ苦笑いがこみ上げてきた。

 加賀に撃って構わないと言われていたのにわざわざ確認したのは、決して彼女の言葉を疑った訳ではないのだ。

 無論、従いたくない訳などでは……決して、無い。

 落ち着いている自分を確認したかったのである。

 つまりは自分も不安なのだ。

(「大丈夫、落ち着けている。確りと、訓練通りにできるはずだ」)

 称えられた艦の名を、命を懸けた乗組員たちの名を、辱めずに済みそうだ。

 戦いに勝敗があり、目的を果たせるのが一方だけなのであれば、それを果たすのは……此方だ。

「……残念だったね」

 誰に言うでもなく呟きながら、時雨は船体の主砲と機銃による攻撃を開始した。

 命中精度はこの際、気にしない。

 重要なのは敵機に加賀への雷撃を行わせない事だ。

 不安が無いとは言い切れないが、上空への対空砲火は姉妹たちに任せようと割り切って……海面近くを低空飛行する敵機に、火器の全てを集中する。

 船体による射撃を行ないながら、彼女は慎重に手持ちの連装砲の照準を合わせた。

 対空砲火という事ならば背負った状態で弾幕を張るように連射でも良いかもしれないが、流石にこの状態ではそうもいかない。

 両手で構えた連装砲で、敵機のかなり手前の海面を狙う。

 砲撃で上がる水柱に敵機を巻き込むという戦法だ。

 成功率は高くないが主砲を直撃させるよりは可能性はあるし、生み出された水柱が敵機の視界を遮ったり目測を誤らせる可能性も多少なりとはいえ期待できる。

 船体の火器は一定以上は下に向けられないが、その辺り艤装の火器は取り回しが便利なのだ。

 放たれた砲弾が着水し、船体の砲と比べればささやかな水柱を海面に生み出した。

 その大きさは特に気にせず、時雨は砲撃と銃撃を続けてゆく。

 低空で接近してくる攻撃機は、上空と比べると少なそうだった。

 もっとも、上空から爆撃を行おうとした敵機の多くは味方の戦闘機によって撃墜されたり損傷を受けたりして、こちらの上空に達する前に攻撃力を喪失している機体も多いように思える。

 対して低空飛行で接近してくる敵機の殆んどは味方戦闘機の妨害を受けていない様子だった。

 上空から接近する機が囮になっているという事なのだろう。

 こちらの戦闘機隊と遭遇する前に少数が編隊から離れ、大回りする等して低空を接近してきたのかも知れない。

 それもまた、戦術であり戦争なのだ。

 機銃の掃射を浴びて翼が破損したのか、水柱で操縦(機体の制御)を誤ったのか。

 敵の艦載機がぶれる様な動きをした後、海面に突っ込んで転がるように回転した後、弾むように一旦舞い上がってから再び海面に落下した。

 水没していない部分に火の手が上がる。

「こっちには全然こない……時雨の方に集中してるっぽい?」

「みたいね」

「じゃあ、夕立も!」

「ダメ! もしそっちから来たらどうするの? 警戒しながら弾幕!!」

「ぽい~」

 一歩間違えば魚雷を発射されたり敵機が突っ込んでくるような緊迫した状況なのに、無線で交わされる夕立と白露の会話に頬が微かに緩む。

 不思議とこみ上げてくる笑みが、身体に力を与えてくれる。

 加賀と並走するように航行しながら、時雨は敵艦載機に向かって銃撃と砲撃を浴びせ続けた。

 幸いなのは、爆撃と同じで敵機が一斉に攻撃できずに順番に攻撃するような形になった事だろう。

 少なくとも時雨は1機か2機に射撃を集中することができた。

 上空と異なり主砲も活用でき、それを集中できるとなれば妨害としては十分である。

 命中させるとなればそれでも困難だし、命中そのものは殆んど運次第となるのだが、魚雷を発射する位置へと付かせない為の妨害で良いのだ。

 前方と後方の白露と村雨が、船体の主砲の一部をこちらに援護として向けてくれているのも大きかった。

 敵機の予想進路を狙うようにして、時雨は主砲と機銃を可能な限り連射し続けた。

 敵の攻撃機は水柱に巻き込まれたりバランスを崩して海面へと突入し、或いは機銃で機体の一部を破壊され、同じように海面へと突入するか、或いは空中で爆発した。

 狙いを付けられなかったという事なのか、向きを変え離れていく機体もある。

 1機が弾幕を潜り抜けるようにして魚雷を発射したが……進路を見る限りは随分と後方を通り過ぎるようで、命中の心配は無さそうだった。

 魚雷を発射した以上、もう脅威は無い。

 そちらは無視して時雨は攻撃態勢に入ろうとする別の敵機へと意識を向けた。

 そうやって数機を撃破、撃退したところで……後続の敵機は来なくなった。

 遅れて現れる可能性もあるのでそのまま水平線を警戒しながら、時雨は上空にも意識を向ける。

 

 爆発音が響いたのはその時だった。

 海中に潜った爆弾とは明らかに違う轟音が響き、複数の水柱で遮られた加賀の甲板上で、炎と煙が湧き上がる。

 先ほどの小型爆弾が命中した時の感じに近い、が……先刻のダメージと重なると如何なるかは分からない。

 雷撃を狙う後続の攻撃機に警戒しながら、時雨は船体の機銃と手持ちの砲を上空へと向け弾幕を張ることに専念した。

 加賀からは戦闘及び航行に問題なしの報が送られてきて、実際船体の動きが鈍ったり速度が落ちたりという様子は無かった。

 

 

 その後……水平線上に敵機は現れず、上空の敵機も間もなく居なくなった。

 それでも警戒を続けていた戦闘機隊も、暫くして順に帰艦してくる。

 数機が未帰還で、その倍以上の機体が多かれ少なかれ損傷を受けていたが、それでもまだ半数以上の機体は補給さえ受ければ戦闘可能な状態だった。

 2機が着艦に失敗して海面に突っ込んだが、取り付いて動かしていた妖精は白露に救助されたようである。

 艦の方は、加賀と村雨が小破したが、それ以外へのダメージは無かった。

 二次攻撃隊の襲来や敵潜水艦の待ち伏せに警戒しながら輸送部隊は航行を続け……翌日、目的地の港へと到着した。

 

 既に近衛艦隊は撤退した後で姿は無かったが、艦娘部隊の為にと港に面した倉庫に資材が保管されていた。

 泊地から運んできた資材をそこに追加し、手短に施設の点検を終えた事で、輸送部隊が新城から頼まれていた任務は完了した。

 港湾施設の規模が小さい上に利用可能な施設は少ないが、集められた資材は思った以上に多い。

 戦闘そのもので資材不足となる事は無いだろう。

 

 

 短い休止の後、輸送部隊は本土を目指して出向する事になる。

 その短い休止中に部隊の者達は珍しい事態に遭遇する事になるのだが、その邂逅は結果として輸送部隊の任務や帰還には影響を及ぼさなかった。

 故に、輸送部隊に所属する者たちの戦いは、ここで幕を閉じる事となるのである。

 彼女ら、彼らの北方海域作戦は……こうして終結した。

 

 一方で残された特別艦隊の戦いは、これから本番を迎える事となる。

 

 

 


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