ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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木曾と黄味トロハンバーグ

ウィーン、ガガッ。

木曾が手慣れた様子で、インパクトドライバーでネジを壁に埋め込む。

 

鎮守府のほど近くの町の外れ。

商店街(といっても十軒ほどの店舗しかない狭い通りだが……)での買い物帰りに杖が滑って転んでしまった、片足の不自由なおじいさん。

 

たまたま通りがかり、すぐに助け起こして家まで送って行った木曾だが、おじいさんの家の玄関には手すりが無かった。

これでは、出入りが危ない。

 

木曾はすぐさま鎮守府に戻って資材と工具を持ってきて、手すりを作ってあげたのだ。

 

「よし、こんなもんだろ」

 

額の汗をぬぐい、お礼を言うおじいさんとその家族に照れて手を振りながら、家を出ると……。

 

「青葉、見ちゃいました! 恐縮です、今日のMVPとして一言いただけますか?」

「優しい妹を持って、お姉ちゃんとしても鼻が高いクマ」

「卯月がおじいさんを送ってくところを見かけて、報告したぴょん! うーちゃん優秀!」

 

テカテカした顔の、青葉、球磨、卯月が道で待ち構えていた。

 

「こっち見んな! て、提督には言ってないよな!?」

 

 

言われてました。

 

「木曾はえらいんだにゃ」

 

まるでタカラト○ーアーツさんの「のほ○ん族」のように、のんびりと目を細め、ゆ~っくり首を縦に振りながら、多摩からの報告を嬉しそうに聞く提督。

 

さっきまでサーモン海域での大破撤退で廃人のようになっていたが、ほっこりする話に生気が戻ってくる。

 

「よし、今晩は木曾の大好きなメニューにしようか」

「さすが提督にゃ。きっと、木曾も喜ぶにゃ」

 

 

提督は早速、間宮と鳳翔さんに声をかけ、夕飯メニューの製作に取りかかった。

 

「木曾ちゃんも、きっと喜びますねぇ♪」

鳳翔さんが完全にお母さんの顔になって、飴色に炒めたみじん切りの玉ねぎに、粗挽きの合挽き肉、卵と調味料を捏ねてハンバーグのタネを作っていく。

 

「提督、鳳翔さん、出来た分からこちらにください」

間宮が、提督が大量に茹でた半熟玉子を薄力粉でカバーして、鳳翔さんの作ったタネで包んでいく。

 

包む際に上手に空気を抜き、最後にさらに薄力粉で薄く表面をカバーし、軽く焼いてからオーブンで加熱するのが、この変わり種ハンバーグを崩れさせないコツだ。

 

 

「ふんふ~ん♪」

 

先日、妖精さんによる拡張工事でやや広くなった大食堂。

昭和の学生食堂風の殺風景さは相変わらずだが、大井が鼻歌混じりに、木製の質素なテーブルに白いクロスをかけて周っている。

 

「北上さん、ここに花飾りを付けたいんだけど、手が届かないんだよ。手伝って」

「あーもー……駆逐艦、うざい」

 

睦月型の望月に頼まれ、口ではそう言いながら望月を抱っこし、食堂の壁に貼られた画用紙に手が届くようにしてあげる北上。

 

「木」「曾」「さん」「ス」「テ」「キ」「!」という画用紙の縁に、紅白のティッシュを丸めた花飾りを、金色の画鋲で刺していく望月。

 

折り紙を切って、輪飾りを作って食堂を飾り立てていく名取と第五水雷戦隊(皐月や文月など)。

 

最近はホームパーティーでも、カラフルなカードやピン、マスキングテープなどで色々とお洒落に飾り立てるらしいが……。

 

昭和で時間が止まっているこの町の何でも屋、キリョー(霧雨商店)にそんなものは置いてない。

 

いいのです! どうせ家族だけで祝う身内のパーティーなのですから!

せめてもと、祥鳳が手漉きした美しい和紙のナプキンを、木曾と提督の席に敷いておく。

 

那珂は「本日の主役」と書かれたパーティーグッズのたすきを用意している。

 

「木曾が今日の昼のMVP!? じゃあ、夜戦で頂上決せ……」ガンッ!

夜戦バカの後頭部に、神通が15.5cm三連装副砲(絶賛改装中)をブチ当てて黙らせる。

 

「戦艦や空母どもは食い意地が張っておるからのぅ。肉ばかり食われてはたまらん」

初春が妹艦たちとともに、キノコともやしの炒め物などの低コスト低カロリーの料理を、軍隊式の巨大鍋で大量に作っていく。

 

 

ナイフや箸を入れれば、プリュッとした白身の抵抗があり、それが破れてトロトロと半熟の黄味が流れ出してくるハンバーグ……。

ソースは小麦粉をバターで炒め、コンソメスープでのばし、自家製ケチャップと赤ワイン、隠し味に少量の醤油を加えて煮込んだものだ。

 

ある水上機母艦が腕によりをかけて自慢のお米で作ったライスコロッケもある。

 

「それでは皆さん、いただきますの前に、今日のMVP木曾さんに大きな拍手を!」

マイクを握った霧島が夕食前の場を盛り上げる。

 

どちらも木曾の大好物だが、大食堂中の艦娘たちからの賞賛と拍手が大きすぎて、羞恥心でまともに前が見れない。

 

「木曾、いいことをしたんだから恥ずかしがる必要はないよ」

「そうだクマ。木曾は自慢の妹だクマ」

提督と球磨が頭を撫でてくるので、ますます木曾の顔が赤くなる。

 

「それでは、いただきます!」

「「いただきます!!」」

 

今日はレ級の開幕魚雷で大和が大破し、大量の修理用資源が吹き飛んだが……。

気分よく締めくくれた、いい一日でした。


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