ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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龍驤とエスニック料理

相変わらずの雨曇り。

 

洗濯ものが乾かないと、間宮や鳳翔さんが嘆いている。

業務用のガス式乾燥機があるし、伊良湖の艤装にはクリーニング機能もあるので何とかなっているが、やはり天日干しの気持ち良さには敵わない。

 

てるてる坊主を作る駆逐艦娘たちも増えてきて、そこら中に吊るしてある。

龍驤は寮の休憩室で畳に寝ころび、「あずきバー」を食べているところを加賀に呼ばれた。

 

「悪いけれど、提督と露天風呂に入ってくれないかしら?」

「ん? 風呂やて? 汗かいとるし、別にええけど……」

 

「実は、北方棲姫が遊びに来てて、提督と露天風呂に入りたいと言ってるのよ」

「何や、ほっぽちゃんかいな」

 

「念のため監視役が必要だけど、あなたは懐かれているでしょ?」

「おう、ええで。お安い御用や」

 

そこに、トテトテと北方棲姫がやってくる。

手に持っているのは、お風呂に浮かぶアヒルのおもちゃ。

 

「おーし、龍驤お姉ちゃんと露天風呂行こかっ!」

「ウン、イク!」

 

「ワタシタチモ……ハイル」

「ロテンブロ……イクノカ?」

北方棲姫の後からやって来る、2人の長身巨乳の深海棲艦。

 

「待たんかい、加賀! 港湾棲姫と港湾水鬼までおるんかい!」

龍驤が思わず叫ぶ。

 

実は嫉妬深い加賀。

ほっぽちゃんはともかく、まさか提督と大人の深海棲艦たちの混浴を許すとは思わなかったのだが……。

 

「那珂ちゃんさんがマグロの解体ショーやるって!」

「見に行こうっ!」

「カニも沢山あるみたいよ!」

駆逐艦娘たちが大騒ぎしながら、休憩室から飛び出していく。

 

「加賀……提督のこと売ったな?」

「あなたの分もとっておくわ……それじゃ、頼んだわよ」

 

加賀は龍驤から目をそらして答えると、加賀岬の鼻歌を歌いながら立ち去ってしまった。

 

 

「何やコレ……何の拷問?」

 

「……にじゅういち、にじゅうに、にじゅうさん」

「……ニジュウイチ、ニジュウニ、ニジュウサン」

 

北方棲姫を膝上に乗せて肩まで湯に浸からせ、一緒に百まで数を数えている提督。

「赤の他人」という事実に目をつむれば、平和な親子の入浴風景にも見える。

 

それより……提督の左右を陣取っている、港湾棲姫と港湾水鬼。

凶悪な爪のついた手先を風呂に入れないように、腕を風呂樽の外に出している。

そのため浅く湯に浸かっていて、水面に提督の頭ほどもある白く巨大な4つの「ブツ」がプカプカと浮かんでいる。

 

「バレーボールかっちゅーねん」

小声で毒づく龍驤。

 

「タノシイナァ」

アヒルのオモチャをお湯に浮かべて泳がせている港湾水鬼。

戦闘時の目つきは霧島並に恐ろしいが、声と内面はけっこう幼い。

 

「クルナト……イッテイル」

泳いでいったアヒルが、港湾棲姫のドタプンとした胸に当たって弾き返される。

こちらも巨体のくせに、非常におっとりした性格をしている。

 

性格はいいのだが……。

深海棲艦中で、いや、艦娘を含めても最大のバストを誇る、港湾棲姫と港湾水鬼。

それに対して深海棲艦最小の幼女である北方棲姫と、駆逐艦にも劣る艦娘最小候補のりゅ……。

 

だからって、100対0ではない!

(100+100+0+0)÷4=50。

この場の平均は50だから、50対0……。

 

「って、誰がゼロやねん!!」

自身の脳内言い訳に、思わずツッコむ龍驤だった。

 

 

風呂上りには、露天風呂の奥にある更衣所を兼ねた休憩所で、港湾棲姫と港湾水鬼が作ってくれたエスニック料理をいただいた。

 

青パパイヤ、いんげん、ミニトマト、パクチーを使った、タイのサラダ、ソムタム。

魚醤のナンプラーやニンニクの風味に、すり潰したピーナッツやココナッツの香りも加わった、不思議な味わいがするサラダだ。

 

「こりゃ、ええなぁ」

 

「リュウジョウ、モットクエ!」

「タベ…ナサイ……デショ?」

北方棲姫の言葉づかいを、港湾棲姫が優しくたしなめる。

 

カレーによく似た、スパイスを使ったミャンマー(旧ビルマ)のスープ、ヒン。

タマネギとトマト、チェッター(鶏肉)を炒めた煮汁をベースにスパイスが加えられているが、辛さは控えめで油っぽさが多い。

現地では米粉の麺にからめることが多いが、茹でたジャガイモに合わせると、日本人的つまみに最適だ。

 

「うわあ、美味しいねぇ」

 

味には喜びながらも、刺激系の食材を食べるとすぐに汗をかく提督。

せっかくの風呂上りなのに、額に粒のような汗を浮かべている。

 

「ダイ……ジョウブ?」

少女のような声で港湾水鬼が提督を抱き寄せ、手拭いで額の汗をぬぐってあげる。

鋭く禍々しい爪のせいで、処刑しようとしているように見えて、龍驤は一瞬ヒヤッとしたが……。

 

ボヨヨンとした谷間に頭を預ける提督を見て、龍驤は次の料理に注目を移した。

 

メイン料理のスリランカカレー。

港湾棲姫はスリランカ島トリンコマリー、港湾水鬼は同島コロンボの裏側にある異世界に棲んでいる。

 

バナナの葉に盛られた、カレーライス。

ただし、ライス(サフラン風味)は少なめ。

 

ライスの他にも、タマネギとココナッツのフレーク、ナスをチャツネ(東南アジア~インドで使われる調味料)で煮詰めた煮物、オクラの炒め物、パパダム(豆粉の揚げクラッカー)など、多種のカレーのお供が盛られていて、それらがどれもカレーに絶妙にマッチする。

 

「いつからカレーは米やナンだけで食べるものだと錯覚していた?」と言われているようだ。

 

「カラサ…オサエタ。テイトク、スキ?」

港湾棲姫が、港湾水鬼の胸に抱かれている提督の口に、スプーンでカレーを運ぶ。

 

(イラッ)

 

「よっしゃ、ほっぽちゃん。食べ終わったら、駆逐艦の子らとゲームしに行くか?」

「ゲーム? ヤルッ!」

 

龍驤は、もう提督は置いていこうと決定していた。

港湾棲姫と港湾水鬼の耐久力は大和型の5倍ほどあるが、艦娘を100人近くも嫁にしている節操なしな提督だ。

頑張って、この2人の相手もしてもらおう。

 

 

「ほんなら、ほっぽちゃん。マグロとカニもあるし、行くで~」

「ゲーム、ゲーム♪」

 

「あの……りゅうじょ……ん、んぅっ」

後ろから声をかけてきた提督だが、何者かに唇をふさがれたようだ。

 

「死して屍、拾う者無し……や」

 

余談だが、この後のリランカ島沖の深海東洋艦隊漸減作戦(4-5)では、キラキラ状態になった港湾棲姫が無敵の強さを誇り、撃退される艦隊が続出したという……。


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