提督は珍しくビシッと制服を着込み、朝食の席についていた。
オクラと麦味噌の味噌汁、トビウオの一夜干し、高菜の油炒め。
天草鎮守府からもらった熊本の食材が並ぶ。
他に、鎮守府の畑で採れた、水菜のサラダ、ニラ入りの玉子焼き、自家製養殖の海苔を使った佃煮と、ワカメの酢の物。
朝から食べ応えのある内容だ。
今日は、手付かずでいた長門と熊野の、改二実装にともなう関連任務を達成するため、連続出撃する予定でいる。
長門も、丼に生卵を割り入れてモリモリご飯を食べている。
昨夜はキラ付けと称して提督の部屋に泊まりに来たが、朝早くには自主錬に出かけていった。
長門もかなり気合が入っている。
大和と武蔵も……今日の出撃予定はないが、山盛りの丼ご飯。
元気そうで何よりです。
まずは、小手調べ。
リランカ島沖の港湾棲姫を討伐しに行く。
長門、陸奥の第一戦隊を基幹とし、赤城、加賀、ザラ、ポーラ。
長門の火力がものを言い、危なげなく港湾棲姫を倒した。
続けて、熊野、鈴谷、最上、三隈の第七戦隊を召集。
翔鶴と瑞鶴を支援につけ、火力面の不安を瑞鶴の噴式戦闘爆撃機・橘花改で補いつつ、再び港湾棲姫を撃沈した。
「熊野たちには連闘ですまないけど、次は大鳳と北上をつけるからMS諸島沖に出撃して」
「よろしくてよ」
「んま~、やっちゃいましょ」
こうして午前中は快勝を続け、熊野の任務も達成できた。
新型砲熕兵装資材をもらい、これで41cm三連装砲改が作れるようになるらしいが……。
最大改修した試製41cm三連装砲を素体にして、さらに46cm三連装砲を2つも生贄に捧げないといけないというので……保留。
「さてと、いよいよ5-5だね。1回でとはいかないだろうから、まずは様子見のつもりで肩の力を抜いて行ってきて」
次は長門を旗艦に、サーモン海域北方への出撃。
長門、陸奥、翔鶴、瑞鶴に、軽空母枠として祥鳳、対潜要員の軽巡枠としては酒匂を加えた。
「分かった。だが……別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「ぴゃあ、長門さんカッコイイ!」
「え、あ……うん」
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「っ……敵艦隊もなかなかやるな……」
長門が、制服が破れて剥き出しになった胸を隠しながら、長門が不敵に笑う。
案の定、初戦は長門がレ級に一撃で大破させられ、あえなく撤退となった。
「うぅっ、やられた……これじゃ、戦えないよ……」
祥鳳もレ級の開幕雷撃で中破に追い込まれていた。
「分かってたけど、あいかわらず元気だなぁ……レ級」
提督の最大のトラウマ、戦艦レ級。
沈めても沈めても、すぐ直後の戦闘にもパワーアップして復活してくるし、しばらく顔を見せないで放置していると、向こうから鎮守府まで乗り込んでくるし(※この鎮守府だけの現象です)、本当に手が負えない。
「さあさあ、どくぴょ~ん!」
「別に……重くて怒ってるんじゃ……ない」
卯月と弥生が倉庫から工廠へと、油圧式のハンドパレットトラックを引っ張って資源を運んでいる。
修理と補給に使われる、パレットに山盛りの資源量を見て、提督はため息をついた。
「長門、お風呂に行ってきなよ。それで、いったんお昼にしようか。午後は支援艦隊もしっかり出そう」
「すまない。艦隊決戦は万全の状態で戦いたいからな」
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昼食は、岩牡蠣の燻製を使ったスパゲッティー。
鎮守府の畑産のレタスとオニオンスライスのサラダに、同じく鎮守府産スナップエンドウとその他の野菜、ハーブをすり潰し、豆乳とミキシングしたスープ。
主に日本海側で獲れる岩牡蠣は、この鎮守府の地方で秋から冬に獲れる真牡蠣とは別種の牡蠣で、旬も春から初夏と異なる。
塩洗いして軽く茹でた牡蠣を、水に砂糖と塩、黒胡椒、オイスターソース、ニンニク、ローリエを加えたソミュール液に浸して一昼夜。
ネットに入れて陰干しをして乾かし、さくらチップで熱燻して、冷蔵庫に寝かせて燻煙をなじませた後(つまみ喰いで1割ほど損耗したが)、上質のオリーブオイルに鷹の爪とともに3日漬け込んだ。
手間はかかるが、とにかくバカウマ。
旨味が凝縮した冬の真牡蠣もいいが、ボリュームある岩牡蠣の燻製オイル漬けも食べ応えがあっていい。
今回は、芳醇なオリーブの香りと薫香をまとったプリプリの牡蠣を、漬けていたオリーブオイルとともに温め、茹でたスパゲッティーに絡めた。
もちろん、そのまま食べても美味しいし、パンにもご飯にも合う。
刻んでチャーハンの具にしても、良い味を出す。
しっかりした個性を確立した燻製オイル牡蠣は、どんな場所でも味の中心となり、周囲の食材をまとめてくれる。
「うん、うまい! 提督の作る飯は、大和とも張り合えるのではないか? 大した物だ」
「あら。あらあら♪」
誉めてくれるのは嬉しいが、この料理は良い素材を準備して、手間さえ惜しまなければ誰にでもできる。
そこは、提督業と同じかもしれない……。
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埠頭では、ハンドパレットを引っ張り、駆逐艦娘たちが慌しく行きかっている。
「この兵装は…うむ、さらに強くなるな」
長門には試製51cm連装砲を積んだ。
「陸奥の第三砲塔には注意して、そっとね」
「ば、爆発なんてしないんだから……もう」
アイオワから借りていた16inch三連装砲Mk.7を全て外して支援艦隊に回し、扶桑姉妹の持っている改修がすすんだ試製41cm三連装砲と交換。
惰性で持たせていた九一式徹甲弾も、大和とウォースパイトに預けっ放しだった一式徹甲弾と交換する。
「友永さんの隊は村田さんの隊と入れ替え。それから、瑞鶴、加賀から烈風改を借りてきて」
「げぇっ、加賀さんから?」
翔鶴と瑞鶴の航空隊を、鎮守府最強の布陣にする。
「岩本さん、祥鳳を守ってあげてね」
装甲が薄い祥鳳には「零戦虎徹」こと岩本さんの隊を載せ、艦隊の制空に寄与させながら、個艦防衛も充実させる。
「嬉しい! 私を強化してくれるなんて!」
喜んだ祥鳳に抱きついてきたが、その拍子に片肌脱いだ祥鳳の上着がズリ落ち……。
さらし一枚、半裸状態の祥鳳に抱きつかれる提督を、横から由良と夕張がジト目で睨んでくる。
「ゆ、由良、夕張? どうしたのかな?」
「……お取込み中、すみません。倉庫が空いたら、少しバドミントン教室を開かせてもらいたかったんですけど……ふんっ」
「同じく、ミニ四駆大会で倉庫借りますね……ふんっ」
「いいよ、好きに使ってくれて」
全力支援を出す今回の出撃、どうせ資源倉庫はスッカスカになる。
許可をもらった由良と夕張だが、プイッとした顔のまま、礼も言わず帰ってしまう。
多分、軽巡枠の人選に不満があるのだろう……。
「酒匂、あの戦争の時は生まれるのが遅すぎて、あまりお外には行けなかったから……いつも出撃させてくれる提督のこと、あたし大好き! ぴゃあああああ!!」
「女神さん、酒匂のことよろしくね」
錬度が99に達した酒匂には、ケッコンの指輪とともに増設補強を贈って、応急修理女神に乗り込んでもらう。
確かに、最強艦隊での出撃を目指すなら、祥鳳と酒匂の人選には考慮の余地がある。
しかし、効率だけを求めるなら、ここの鎮守府が存在すること自体に意味がない。
開戦間もなく珊瑚海で沈んだ祥鳳と、終戦後の核実験でビキニ環礁に消えた酒匂。
2人には、今こそ南の海で大暴れしてもらいたい。
最善とか最良とは言わないが、そういう……こだわりの気持ちで勝つことこそ……。
やっぱり気持ちいい、と提督は思う。
「それじゃあ長門、任せたよ」
「うむ。改装されたビッグ7の力、侮るなよ!」
雲間からこぼれる昼の陽光に艤装を艶光りさせながら、長門たちが湾内に滑り出していく。
続けて、思いきって選んだ、大和、武蔵、アイオワ、ウォースパイト、赤城、加賀、飛龍、蒼龍……超豪華な支援艦隊。
さあ、気が早いけど祝勝会の準備もしておくかな。
出撃艦隊を見送った提督が、そう思って振り返ると……。
「提督、バーベキュー用の炭、あれぐらいで足りますか?」
「石窯にも火を入れるから、手伝ってよね」
由良と夕張が、すでに準備を始めてくれていた。
多くの駆逐艦娘たちも、長良や神通の指示に従って、埠頭にテントやテーブルを広げるお手伝いをしてくれている。
「天龍、龍田、ええと……これをお願い」
すでに軽トラを出して買い出しの指示を待っていた天龍たちに、走り書きした買い物メモを渡す。
「あぁ!? う……ったく、相変わらず汚ぇ字だなぁ。読みにくいじゃねぇか」
けっこうな書道の腕前の天龍に、文句を言われてしまったが……。
よし、今夜は祝勝会。
長門が吉報とともに、みんなを無事に連れて帰って来るのを待ってます。