ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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現在(2017.05)進行中のイベントのE-4のお話です。
ネタバレや攻略法を見たくない方は回避して下さい。


ゴーヤと汁なし担担麺

陽だまりでまどろむ猫のような細目をして、空になった瓶ビールのケースに腰掛けながら、提督は艦娘寮の裏手で調理用具の手入れをしていた。

 

中華用の大きな鉄鍋を焚き火にかけ、コゲを炭化させて紙やすりでこする。

クレンザーで磨いて水洗いし、薄く油を塗って、さらに軽く焼いてやる。

玉虫色の被膜ができ、ピカピカの中華鍋が 甦る(よみがえる)

 

竹で編んだ 蒸籠(せいろ)と木のまな板を風に干し、スプーンやフォークの曇りを消すように綺麗に磨いていく。

 

 

もちろん、現実逃避のためだ。

 

 

敵である深海棲艦勢力が、千島列島の 幌筵(ばらむしる)方面に来襲し、 占守(しむしゅ)島に上陸を開始した。

そこで、この敵 橋頭堡(きょうとうほ)(前進拠点)を攻撃し、占守島を防衛するようにと、軍令部から新たな作戦が下されたのだが……。

 

最初の出撃こそスムーズに進み、敵旗艦である北端上陸姫を撃破して、新規艦娘の 択捉(えとろふ)との邂逅も済ませた。

そこで「これは楽なんじゃないか」と思ったのが甘かった。

 

道中でも、重巡リ級のクリティカルヒットに、戦艦タ級の苛烈な砲撃が襲ってくる。

利根、筑摩、大淀、秋月、夕立、大潮からなる攻略部隊は、度重なる大破撤退を続けていた。

 

火力も今一つで制空力も危うい。

航空巡洋艦である利根と筑摩を、航空戦艦の扶桑と山城に置き換えてみたら羅針盤が狂って、修羅のようなルートへ叩き込まれた。

 

(甲作戦での攻略は諦めようか)

 

提督の喉まで、そんな言葉が出かかっている。

それを察しているので、長門、赤城、叢雲たち艦隊幹部も提督の逃避を見てみぬふりをし、何も言わないでいる。

 

利根が竹を削って作った、先の細い繊細な 菜箸(さいばし)

色々な料理の盛り付けにも重宝する。

 

筑摩が(うるし)を塗って作った、小ぶりの茶碗。

手の平にすっぽり収まり、味噌汁や吸い物を飲むのにちょうどいい。

 

大淀が編んでくれた、麻の 布巾(ふきん)

使いやすくて、速乾性も抜群だ。

 

そう、この大切な仲間を失うことに比べたら、勲章や報酬を諦めるぐらい、どうってことはない。

愛する艦娘たちの安全のためなら、自身のプライドなどいつでもドブに捨てられる。

 

ただ、この鎮守府の艦娘たちが優秀であることを示せない、その一点だけが残念だが……。

 

「乙作戦にしよう」

 

提督は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

軍令部に連絡し、受け持ちの海域をより難易度の低いところに替えてもらう。

そうすれば、すんなりと攻略に成功するはずだ……。

 

そんな提督に突然、抱きついてくる水着姿の艦娘がいた。

 

 

「ゴーヤの 内火艇(ないかてい)はお利口さんでち」

 

利根、筑摩、翔鶴、瑞鶴、大鳳、そしてゴーヤことイ-58。

 

今までの苦労が嘘だったかのように、楽々と道中を突破し、数度目の痛撃を北端上陸姫に加えていた。

特にゴーヤの積んでいる(どこに?)特二式内火艇の大暴れがすごい。

 

当初の作戦計画では、陸軍から借りた(そして返すつもりはない)妖精・池田さんの率いる戦車第11連隊を上陸させるはずだった。

 

だが、空母艦娘3人からの大規模爆撃と、三式 焼霰(しょうさん)弾、ドイツから借りパクしたロケットランチャー WG42(Wurfgerät 42)(ヴルフゲレート)の焼夷攻撃だけで、かなりの効果が出ている。

とどめは水陸両用車である特二式内火艇で十分だった。

 

「こんな攻略法があったなんて……」

 

ゴーヤが演習相手から情報を仕入れてくれた、ルート固定法。

潜水艦娘を1人編成に入れただけで羅針盤が安定し、空母を投入しても修羅ルートに飛ばされずに済むのだ。

 

空母からの先制爆撃と、潜水艦の先制雷撃で大幅に敵を削れるので、道中の大破撤退もほとんどない。

 

この編成を考えついた提督には、ぜひ特上の酒を奢りたい。

 

 

提督は帰還してきたゴーヤたちのために、鎮守府庁舎のキッチンで中華鍋をふるっていた。

 

花椒に熱した大豆油をかけ、辛みと香りを油へと移す。

たっぷりのひき肉と干しエビ、唐辛子を炒め、濃厚な芝麻醤(チーマージャン)(練り胡麻の調味料)と 豆板醤(とうばんじゃん)、スパイス、ラー油で味つけして肉みそダレを作る。

 

花椒の麻味と、唐辛子とラー油の辣味に、胡麻の甘味が加わり、深い味わいが生み出される。

が、くやしいことにスパイスの調合や自家製ラー油の製作は間宮任せで、何をどうしたらこんなに複雑な味わいを出せのか、提督にも分からない。

 

肉みそを麺にのせ、刻んだ青ネギを散らし、茹でた青梗菜と千六本に切ったキュウリを添え、すり潰した花椒と白胡麻をまぶしたら、汁なし担担麺の完成だ。

 

入渠のお風呂から上がり、5月の薬湯である、 菖蒲(しょうぶ)湯の匂いをさせたゴーヤたちが食堂に顔を見せる。

 

「これ、大好きでち!」

「提督さん、気が利くねー♪」

 

ガンッとした衝撃の辛さの後に、ピリッと舌が痺れるような花椒の風味。

上質な赤身だけを粗挽きにし、しっかり味付けした豚ひき肉の旨味と、コクのあるクリーミーな胡麻ダレ。

その奥からは、干しエビや落花生、八角、丸鶏のダシスープなど、様々な味がゲリラ的に奇襲攻撃をかけてくる。

 

それにからむのは、表面はツルツルだが、中はモッチリとした中太の自家製縮れ麺。

のど越しのいい面をすすり、小麦のじんわりした甘味を感じたら、そこにまた辛さと痺れが襲ってきて、また麺が欲しくなる無限スパイラル。

 

「ぢぐまぁ~、水が欲しいのじゃ!」

お子様舌の利根が悲鳴を上げるのを想定して、キンキンに冷やした冷水とウーロン茶をピッチャーで用意してある。

 

デザートの杏仁豆腐も、冷蔵庫でしっかり冷えている。

 

 

「ごちそうさまでち!」

 

ゴーヤが、額に吹き出した汗をぬぐいながら笑顔で言う。

 

さあ、次は最終局面。

占守(しむしゅ)島の再奪取のために侵攻してくる、深海北方艦隊を迎撃、補足殲滅する。

 

ボーキサイトの残量には不安があるが、燃料と弾薬には多少の余裕がある。

戦艦主体の水上打撃編成の連合艦隊なら、10回は出撃できるだろう。

 

さっさと終わらせて、来週は鎮守府総出の田植えだ。

 

海の平和を守るため、あとひと頑張り。

ゴーヤにハンカチで額の汗を拭いてもらいながら、提督も決意を固めるのだった。




E-4のこの編成に、マジで救われました。
考えついた人には感謝してもしきれません。

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