ネタバレや攻略法を見たくない方は回避して下さい。
陽だまりでまどろむ猫のような細目をして、空になった瓶ビールのケースに腰掛けながら、提督は艦娘寮の裏手で調理用具の手入れをしていた。
中華用の大きな鉄鍋を焚き火にかけ、コゲを炭化させて紙やすりでこする。
クレンザーで磨いて水洗いし、薄く油を塗って、さらに軽く焼いてやる。
玉虫色の被膜ができ、ピカピカの中華鍋が
竹で編んだ
もちろん、現実逃避のためだ。
敵である深海棲艦勢力が、千島列島の
そこで、この敵
最初の出撃こそスムーズに進み、敵旗艦である北端上陸姫を撃破して、新規艦娘の
そこで「これは楽なんじゃないか」と思ったのが甘かった。
道中でも、重巡リ級のクリティカルヒットに、戦艦タ級の苛烈な砲撃が襲ってくる。
利根、筑摩、大淀、秋月、夕立、大潮からなる攻略部隊は、度重なる大破撤退を続けていた。
火力も今一つで制空力も危うい。
航空巡洋艦である利根と筑摩を、航空戦艦の扶桑と山城に置き換えてみたら羅針盤が狂って、修羅のようなルートへ叩き込まれた。
(甲作戦での攻略は諦めようか)
提督の喉まで、そんな言葉が出かかっている。
それを察しているので、長門、赤城、叢雲たち艦隊幹部も提督の逃避を見てみぬふりをし、何も言わないでいる。
利根が竹を削って作った、先の細い繊細な
色々な料理の盛り付けにも重宝する。
筑摩が
手の平にすっぽり収まり、味噌汁や吸い物を飲むのにちょうどいい。
大淀が編んでくれた、麻の
使いやすくて、速乾性も抜群だ。
そう、この大切な仲間を失うことに比べたら、勲章や報酬を諦めるぐらい、どうってことはない。
愛する艦娘たちの安全のためなら、自身のプライドなどいつでもドブに捨てられる。
ただ、この鎮守府の艦娘たちが優秀であることを示せない、その一点だけが残念だが……。
「乙作戦にしよう」
提督は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
軍令部に連絡し、受け持ちの海域をより難易度の低いところに替えてもらう。
そうすれば、すんなりと攻略に成功するはずだ……。
そんな提督に突然、抱きついてくる水着姿の艦娘がいた。
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「ゴーヤの
利根、筑摩、翔鶴、瑞鶴、大鳳、そしてゴーヤことイ-58。
今までの苦労が嘘だったかのように、楽々と道中を突破し、数度目の痛撃を北端上陸姫に加えていた。
特にゴーヤの積んでいる(どこに?)特二式内火艇の大暴れがすごい。
当初の作戦計画では、陸軍から借りた(そして返すつもりはない)妖精・池田さんの率いる戦車第11連隊を上陸させるはずだった。
だが、空母艦娘3人からの大規模爆撃と、三式
とどめは水陸両用車である特二式内火艇で十分だった。
「こんな攻略法があったなんて……」
ゴーヤが演習相手から情報を仕入れてくれた、ルート固定法。
潜水艦娘を1人編成に入れただけで羅針盤が安定し、空母を投入しても修羅ルートに飛ばされずに済むのだ。
空母からの先制爆撃と、潜水艦の先制雷撃で大幅に敵を削れるので、道中の大破撤退もほとんどない。
この編成を考えついた提督には、ぜひ特上の酒を奢りたい。
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提督は帰還してきたゴーヤたちのために、鎮守府庁舎のキッチンで中華鍋をふるっていた。
花椒に熱した大豆油をかけ、辛みと香りを油へと移す。
たっぷりのひき肉と干しエビ、唐辛子を炒め、濃厚な
花椒の麻味と、唐辛子とラー油の辣味に、胡麻の甘味が加わり、深い味わいが生み出される。
が、くやしいことにスパイスの調合や自家製ラー油の製作は間宮任せで、何をどうしたらこんなに複雑な味わいを出せのか、提督にも分からない。
肉みそを麺にのせ、刻んだ青ネギを散らし、茹でた青梗菜と千六本に切ったキュウリを添え、すり潰した花椒と白胡麻をまぶしたら、汁なし担担麺の完成だ。
入渠のお風呂から上がり、5月の薬湯である、
「これ、大好きでち!」
「提督さん、気が利くねー♪」
ガンッとした衝撃の辛さの後に、ピリッと舌が痺れるような花椒の風味。
上質な赤身だけを粗挽きにし、しっかり味付けした豚ひき肉の旨味と、コクのあるクリーミーな胡麻ダレ。
その奥からは、干しエビや落花生、八角、丸鶏のダシスープなど、様々な味がゲリラ的に奇襲攻撃をかけてくる。
それにからむのは、表面はツルツルだが、中はモッチリとした中太の自家製縮れ麺。
のど越しのいい面をすすり、小麦のじんわりした甘味を感じたら、そこにまた辛さと痺れが襲ってきて、また麺が欲しくなる無限スパイラル。
「ぢぐまぁ~、水が欲しいのじゃ!」
お子様舌の利根が悲鳴を上げるのを想定して、キンキンに冷やした冷水とウーロン茶をピッチャーで用意してある。
デザートの杏仁豆腐も、冷蔵庫でしっかり冷えている。
「ごちそうさまでち!」
ゴーヤが、額に吹き出した汗をぬぐいながら笑顔で言う。
さあ、次は最終局面。
ボーキサイトの残量には不安があるが、燃料と弾薬には多少の余裕がある。
戦艦主体の水上打撃編成の連合艦隊なら、10回は出撃できるだろう。
さっさと終わらせて、来週は鎮守府総出の田植えだ。
海の平和を守るため、あとひと頑張り。
ゴーヤにハンカチで額の汗を拭いてもらいながら、提督も決意を固めるのだった。
E-4のこの編成に、マジで救われました。
考えついた人には感謝してもしきれません。