ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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【注意】今回は秘書艦(ケッコン済)に対する露骨なセクハラがあります。


高雄と手打ちうどん

ぼんやりと空に留まる窓の外の雲を眺めながら、提督は執務室で艦隊指揮に就いていた。

 

敵東方艦隊主力の撃滅任務と、補給艦を狩る「ろ号作戦」が同時に発令された薔薇色の期間。

 

カレー洋では、敵主力を取り逃がしても、補給艦がいる部隊と会敵できる。

提督にとって、最大の敵である羅針盤に翻弄されない、心休まる時間だ。

 

「提督、午前中の報告書が出来ましたよ」

 

気は楽だが、出撃回数がかさむと書類仕事も多くなる。

今日の秘書艦には、そういう面で頼りになる秘書艦経験が豊富な、高雄を選んでいた。

 

実艦の均整の取れた細身の船体に、天守閣のような重厚な艦橋という姿が影響しているのか、グラマラスでなまめかしい姿態の高雄。

 

そんな高雄の肉体を半日、間近で見ていた提督は欲望の限界に達した。

 

「もう、提督……こんな昼間から……」

スカートの上から高雄のお尻を揉みしだく。

 

「あ、提督……そんなに……ダメ、です」

 

その肉体の感触を確かめた提督は、当然のように言い放った。

 

「うん、うどんが打ちたくなった」

「馬鹿め!と言って差し上げますわ!」

 

 

もとは漁協の事務所だった鎮守府庁舎の、1階のキッチン。

麺鉢に盛った中力粉に食塩を加え、水を回しかけながら、粉を混ぜて一つにまとめていく。

 

「うーん……高雄、ちょっと水を足して」

「はい」

憮然とした表情のまま、横から高雄が水を加える。

 

「もうちょっと……」

粘度を増した粉の状態を確かめながら、さらに水を加えるよう指示。

 

粉っぽさが減り、しっとりとしてきたら、手の平で捏ね(こね)回し、生地をまとめていく。

 

「うーん、これぐらいだね」

「何で、私のお尻を見ながら言うんですか!?」

 

「この生地を寝かせれば、ちょうど高雄の……」

「言わなくていいですっ!」

 

「愛宕の胸だとパンが……」

「言わなくていいって言ってるでしょ!」

 

高雄に怒られながら、まとめた生地をビニール袋に入れ、足で踏む。

平らになった生地を折り重ねて、さらに2~3度足踏みし、タオルでくるむ。

 

「これ、ストーブの近くの暖かいところに置いてきて」

「どうしてですか?」

「生地が冷えると、熟成が進まないから」

 

 

2時間、生地の熟成を待つ間に、帰還した艦隊を出迎え、次の出撃と遠征の予定を決め、建造と開発の指示を出し、書類を作成する。

 

戻ってきた生地を再び手で捏ね(こね)、丸めて少しの間休ませる。

その間に工廠に行き、開発結果を聞いて解体や廃棄を行う。

 

「今日は、提督が活き活きしてますね」

珍しく頻繁(ひんぱん)に工廠を訪れる提督に、明石がビックリしていた。

 

休ませた生地をビニール袋に入れ……。

 

「提督、艦隊が帰投しました」

作業しようとしたところに、大淀が報告に現れる。

 

「高雄、これ丸く広げといてくれる? 無理に潰そうとしないで、ゆっくり体重で押すだけでいいから」

「もう……制服着てると、すごくマヌケなんですけど……」

高雄に任せて、入渠の指示を与えに行く提督。

 

高雄が手の平を押し当てて軽く体重をのせると、ムニュッと抵抗をしながらも押し潰れていく生地。

 

 

 

戻ってきて、さて次は……と取り掛かろうとしたところで、提督が立ちすくむ。

 

「どうかされました?」

 

「あ、そうだ……この感触が味わいたくて始めたのに……」

悲しげに、広がった生地を見つめる提督。

 

「何度でも、馬鹿め!と言って差し上げますわ!」

 

 

後は、麺棒で生地を延ばし、打ち粉をしてたたんで、包丁で中太に切る。

 

大きな鍋にたっぷりのお湯で麺を茹で、狭いキッチンに湯気がモクモクと沸く。

提督がうどん作りを思い立ってから、すでに3時間以上。

 

時刻はもう午後5時。

 

昼食を食べたばかりなのに何を言ってるんだこの馬鹿は、とも思っていた高雄だが、さすがに小腹が空いてきて、うどんの茹で上がりに期待してしまう。

 

「あー、お腹減ったー」

最後の出撃艦隊で旗艦を務めていた陽炎。

 

「おうどんですの? いただきますわ」

「助かるのう……苦しゅうないぞ?」

「提督、気が利くじゃーん?」

熊野、初春、北上もキッチンに入ってくる。

 

「入渠前にうどんか、いいよねー」

「ありがとう。頂きますね」

航空戦を支えた、飛龍と千歳。

 

 

茹で上がった麺を軽く水で絞めて丼に盛り、新鮮でプリプリな生卵と、たっぷりの万能ねぎ、白ごまをかけ、香川県から取り寄せたイリコ出汁のうどん醤油をぶっかける。

 

ズルルルーッ

 

「うんっ!」

 

陽炎の一声が示すように、ツルツルと口に滑り込みながら、噛めばシコシコと弾力のある麺。

ねぎやごまと、濃厚で奥深い専用醤油の風味。

 

生卵を割れば、さらなるコクが麺に絡みつく。

 

「んぅ……美味しいですわ」

「うむ、のど越しが絶品じゃのう」

「はぁ~、しびれるねぇ」

 

「いいねぇっ♪」

「うふ、ちょっと……熱燗も欲しくなっちゃいました」

 

好評な中、ちょっと浮かぬ顔の提督。

 

ズルズルーッ

 

高雄も豪快に啜りこみ、コシのある麺を味わう。

ほんの数時間前まで、ただの粉だったとは思えない、繊細な味わいの麺。

 

チュルッと、最後に唇に吸い込まれる麺の滑らかさも素晴らしい。

 

提督に強引に付き合わされ、苦労した分までも美味しさに加わってくる。

 

「あぁ~」

高雄は小さくため息をついた。

 

「提督……後で私の部屋に来てくださいね」

惚れた者の弱みか、つい提督に小声で言ってしまう。

 

「あの……うどんの代わりに……私のお尻、押していいですから」




【申し開き】
すいません、本当に出来心です。
うどんの手打ちをしてた時、不意に高雄を思い出したことから作ったネタです。
反省はしているが後悔は……。

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