ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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ドイツ艦娘たちとお好み焼き

鎮守府の活動が休みの土曜の昼。

雨音に混じり、鎮守府の裏山の雑木林が風で鳴っている。

 

提督はこの日、秘書艦であるレーベのいるドイツ艦娘たちの部屋に遊びに来て、コタツを囲んでいた。

大人数でやると面白い、ドイツのカードゲーム「お邪魔者」。

 

プレイヤーたちはドワーフの「金鉱掘り」となり、みんなで協力して金塊目指して坑道を掘り進める(道のカードをつなげていく)のだが、プレイヤーの中には「お邪魔者」という妨害役が混じっている。

 

「お邪魔者」は「金鉱掘り」が金塊に到達できなくすれば勝利となる。

 

「ビスマルク姉さんのその道のつなげ方、怪しくないかな?」

「何を言ってるのよ! 金塊は一番上なんだから、こう曲げるのが当然でしょ?」

レーベに指摘されて、ビスマルクが反論する。

 

実は、ビスマルクにお邪魔者疑惑をかけたレーベ自身が、お邪魔者だったりするのだが。

 

「ろーちゃんはお邪魔者確定として、ビスマルクも怪しいわね。さっき地図カードを使って見た金塊の位置も、嘘をついてるかもしれない」

「ちょっと、グラーフ!?」

 

「ろーちゃんもビスマルク姉さんも、お邪魔者じゃないですって!」

 

初手から妨害工作に出て、お邪魔者だとバレてしまったろーちゃん。

だが、一人ぐらいは積極的に序盤から動いていかないと妨害が手遅れになることもあるし、無実の人間を仲間のように見せかけるフェイント技も時に有効だ。

 

「まだビスマルクは疑惑段階だからなぁ……まだ様子見かな。とりあえず、ろーちゃんの動きを封じておこうか」

 

ろーちゃんの道具を壊すカードを出して攻撃しつつ、さりげなくビスマルクの信用を落とす、実はお邪魔者の提督。

 

「オイゲン、十字路カードは持ってる?」

「うん、持ってるけど?」

「なら、ビスマルクの道は念のために壊しておくわ」

 

マックスが、次の手番のオイゲンが十字路を作れることを確認して、ビスマルクの作ったL字路を破壊するカードを出す。

 

ビスマルクがお邪魔者で、ビスマルクの引いた道が金塊から遠回りさせるためのものだった時の保険だが、無駄な一手だ【3つの伏せられたゴールカードのうち、金塊が描かれたカードに到達した時だけ、金鉱掘りグループの勝ちになっている】。

 

誰が裏切り者なのか、疑心暗鬼の中で進めるサスペンス性のあるゲーム展開が面白い。

 

1回のプレイ時間はそれほど長くないが、第三勢力の役割を追加した拡張版もあったり、ついつい繰り返しプレイしてしまう。

 

 

昼時になり、昼食の準備にかかる。

 

「それじゃあ、焼こうか」

 

部屋に来たときに最初に準備しておいた、小麦粉とダシ汁と水、長芋の摩り下ろしと少量の牛乳を混ぜて寝かしておいたものに、粗みじん切りにして水気を切っておいたキャベツを加える。

 

そう、お好み焼きのタネだ。

 

元が温泉旅館である、ここの木造の艦娘寮。

各私室での火の取り扱いは厳重に制限されている。

 

許可されているホットプレートを使って美味しく焼けるお好み焼きは、大食堂が休みとなる土日の定番人気メニューだ。

 

まずは定番中の定番、豚バラの薄切り肉をのせ、豚たまを。

 

空気を含んで焼けてきたお好み焼きはコテで押し付けず、しかし、最初にかけたソースは裏返して鉄板で焼き、香ばしい匂いを立ち込めさせて。

 

再び裏返し、下品にならない程度にソースとマヨネーズをビュルビュルとかける。

サクフワに焼きあがったお好み焼きに、カリッカリの豚肉、かつお節と青のり。

 

「ビールどうぞ。注ぐの……僕でいいかな?」

レーベが、グラスに黄金色の冷えたビールを注いでくれる。

 

ドイツ艦娘向けのビールには、大食堂のキ○ン・ラガーや、鳳翔の居酒屋のサ○ポロ赤星ではなく、モ○ツ・ザ・ドラフトを支給している。

 

「はい、ビスマルク姉さまも、ビールですよ」

「いいわね! ビールとお好み焼きの組み合わせは最高よ!」

 

「Admiral、これは……ウラカーゼのものとは違うが、また……良いものだな」

「でっちが言うには、長芋をすりおろすのが“ミソ”ですって♪」

「でも……確か、味噌は入っていないはず……」

 

「はい、おかわりどうぞ」

「ふふーん。提督、あーんですって♪」

両脇から提督にビッタリと張り付いてくるレーベと、ろーちゃん。

 

「つ、次のお好み焼きを焼く前に、席替えをしましょう! それがヤーパンのしきたりよ! そうよね、オイゲン!?」

「え……アッ、ハイ……」

 

ビスマルクの提案により、強制的に席替えが行われる。

「お邪魔者」のカードを引いて、それぞれ指定されたコタツ位置に移動する。

 

「ぬうぅ」

ビスマルクが歯ぎしりする。

提督の左右には、グラーフとオイゲンが来ることになった。

 

次は、イカ、タコをたっぷりと、キャベツの代わりに葉ネギとニラを入れて焼き、ゴマ油とラー油で調理した、韓国のチヂミ風のもの。

 

「うん、これもいい……Admiral、bierをどうだ?」

「あぁ、ありがとう」

グラーフが提督のグラスにビールを注ぐ。

 

「提督、オコノーミヤキーを切りますね。ん、ちょっと待って……」

オイゲンが、いそいそとお好み焼きを取り分ける。

 

ビスマルクがうらやましそうに提督側に近寄るが、間にいるグラーフにブロックされてしまう。

 

「むぅ……」

不機嫌そうなビスマルク。

 

ホットプレートの端で、器用にえのきバター炒めを作りながら、マックスは考える。

 

(次の“もんじゃ”には、まだ提督の隣になっていない、私とビスマルクが提督の隣に座れるように主張しようか……)

 

「Admiral、もう一杯……そうか、飲むか」

「提督、はい♪ あーんです」

「むぅ……!」

 

(そうじゃないと、ウチのお姫様がヘソ曲げそうだし……)


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