ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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題名のように、2017冬イベの報酬・掘り艦である、イ-13とイ-14が登場します。
新規艦娘ですので、ネタバレや余計な脚色を見たくない方は回避して下さい。


ヒトミとイヨとスナック菓子

先の大規模作戦の結果、この鎮守府には4人の新人が加わった。

松風、藤波、ヒトミ、イヨ。

 

新人が入ると、この鎮守府内の様々なことを教えたり、私服や身の回りの品などを買い揃えたり、町内を案内したりと、艦娘としての業務を始める前にも、やらなければならないことが多い。

 

昨日は、陸奥がヒトミとイヨを連れ、軽自動車で30分かかるショッピングセンターまで買い物に行って、私服と下着類をそろえた。

 

予想通り、ヒトミはおとなしめのフェミニン系、イヨは元気なボーイッシュ系の服を中心に選んできた。

 

提督自身は、艦娘の買い物についていくのには懲りている。

 

初期に、文月と隣町に軽自動車で買い物に行った際、ちょうど県道でシートベルト違反の取り締まり検問をやっていたのだが、誘拐の疑いをかけられたらしく、照会や車内捜索などに30分以上を要した。

 

また、MVPのご褒美に鈴谷と隣県の街まで行った際には、平日の昼間にラブホテル街の近くを通ったのも悪かったのだが、巡回中の警察官に呼び止められ、青少年育成条例違反の疑いで、派出所に連行され延々と職務質問を受けたのだ。

 

提督の年齢と童顔から艦娘とは親子には見えないし、かといって兄妹や単なる恋人に見てもらえるほどには、提督も若くはない。

 

 

今日は人口4000人にも満たない狭い町内での買い物なので、提督も安心して同行できる。

 

ヒトミが昨日の初めての外出で人の多さに(東京の人ごみに比べたら大したことはないのだが)人酔いしたらしく、鎮守府の外に出るのを不安がり、提督の服のすそをつかんだまま動かず、出発までに時間がかかったりしたが。

 

「大丈夫、優しいおじいさんとおばあさんばかりの町だから。ね?」

 

そう説得すると、小さくうなずいて、提督の服をつまんだまま、おずおず着いて来た。

 

町の外だったら事案発生即通報な光景だと、提督も我ながら思う。

 

「んっふふ~、提督、手をつないで。姉貴ばっかりかまってズルイよ」

 

イヨが強引に手をつないでくる。

 

松風と藤波の場合は、先に姉妹艦が着任していたので、ある程度そちらに任せっきりで済んで、楽だったのだが。

 

「あ、なに? なによ、姉とやる気? 上等じゃない。私、手加減しないからね!」

「あっは、姉貴すぐ怒るよな!」

 

提督たちとは逆に、町の方から、荷物を抱えた朝風と松風が口げんかしながらやって来る。

 

「あ、司令官! 聞いてよ、松風のやつが……」

「いいのかなぁ~、あの話、神風姉にしちゃっても」

「ムーッ、姉をおどす気!?」

 

「うん、馴染んでるようだし。大丈夫だろう」

 

晩冬の穏やかな陽射しを浴びキラキラと輝く静かな湾内を眺めながら、海と山とに挟まれた、湾に沿った狭く曲がりくねった道を歩く。

 

漁港近くにあるのは、ほとんどが漁師の家だ。

 

ぽつぽつと観光客(ほとんどが釣り人)相手の民宿や鮮魚割烹、寿司屋もあるが、それらも大体は漁師の身内が営んでいる。

 

提督が歩いていくと、皆がニコニコと挨拶してくれる。

 

漁港の町と言っても、ホタテ、カキ、わかめ、こんぶ等の養殖業が中心で、その他もカニやタコを狙うカゴ漁、ヒラメやカレイの底魚を狙う刺し網漁、イワシやサバ等の小魚や季節により河口に向かってくるサケやマスを狙う定置網漁をしている漁師たちが主に住んでいる。

 

湾外に出るイカ釣り等の漁師にしても、繁忙期以外には釣り客を乗せる遊魚船として営業する者が多く、とても穏やかな気質が漂う港町だ。

 

 

「提督さん、今日はぬっくいな。どさ行ぐ?」

 

庭先で干物を干している老婆から声をかけられる。

 

「こんにちは、霧雨商店さんまで。こちらの方はね、干物作りの名人で、那珂ちゃんのお師匠さんだよ」

 

天然の干物作りは、決まった時間干せばいいというような、単純なものではない。

太陽の出方、風、気温、湿度を読み、適確な干し時間を判断するには、長年の経験とともに、その地元に語り継がれる風土の知識が必要となる。

 

那珂は、鎮守府で干物作りを始めるにあたって、この老婆のもとに通い、みっちりと修行を積んだのだ。

 

それからも研究を重ね、那珂の作る干物は、売り物としても十分通用するレベルにまで達している。

 

アイドルらしくない、などと文句を言いながらも、何事にも本気で取り組む那珂のプロ根性を、提督は高く評価している。

 

(うん、嵐がやりたいって言ってたネギ畑、那珂に任せてみようかな)

 

と、提督はまた那珂のアイドル生命を狂わせる決断をしたのだった。

 

 

20分近く歩いて、ようやく町の中心である駅前の商店街へと出る。

 

鎮守府の補給線である霧雨商店の他にも、肉屋、魚屋、八百屋、酒屋、本屋、電気屋、薬局、蕎麦屋、中華屋、喫茶店、土産物店、床屋、美容院、歯科医院……あとは……自転車屋と畳屋があり、北には町役場や公民館、簡易郵便局もある、まさにこの町のメインストリートだ。

 

駅の年間平均乗車人数は10年以上連続で1日100人以下ですが、それが何か問題でも?

コンビニなんかありませんが、それがどうかしましたか?

 

繁華街と言ったら、繁華街なのです!

 

ヒトミとイヨが使う細々とした品を買うため、霧雨商店に入る。

 

「提督さん、いらっしゃいませ」

 

今日は鹿島が店番のバイトをしていた。

 

「おやじさんは、また具合悪いのかい?」

「はい、腰が痛むらしくて」

 

高齢で腰痛もちの主人に頼まれ、よく非番の艦娘をバイトに貸し出している。

この町には、コラボできる店なんて他に無いし、何よりこの店に休まれると鎮守府の兵站が死ぬ。

 

スリッパ、魔法瓶、歯ブラシ、タオル、ハンガー、洗濯ばさみ……ヒトミとイヨに買い物かごを持たせて、必要なものを見繕っていく。

 

「自室用のマグカップは、陸奥に選んでもらったって言ってたよね。バスタオルは寮に予備が大量にあるし……あ、うちの鎮守府では軍手は必須だね」

 

今回は定員割れの部屋で間に合ったが、新たに部屋を用意しなければならない時は、さらに家具や家電製品などの準備も必要になる。

 

と、提督のすそをイヨがグイグイと引っ張る。

振り返ってみれば、お菓子コーナーの方に目が釘付けになっているイヨ。

 

「イヨ、酒保のお菓子気に入っちゃってさ、外のお菓子も食べてみたかったんだよね!」

「イヨちゃん……提督におねだりしちゃ……駄目…駄目だから、ね?」

 

「いや、いいんだよ。お菓子も買って行こう」

「いやったー!」

「あ……ありがとう、ございます」

 

間宮や伊良湖の作る和菓子や洋菓子は絶品だが、子供には時々、気楽な菓子をつまみながら友達と過ごす時間が必要だと、提督は思っている。

 

だから酒保にも昭和の駄菓子を色々とそろえているが……。

 

「酒保にはない外のお菓子といえば、やっぱりコレだよね」

 

提督は、チーズ味のスナック菓子を手に取る。

 

ドロボウひげを生やした田舎のおじさんキャラクターが目印の、半世紀ちかいベストセラーのノンフライ菓子。

 

最初はノンフライなのにスナック状態になっている、そんな独特の製法が売りだったらしいが、ほとんどの人にとっては、おじさんキャラのイメージの方が強い、そんなスナック菓子。

 

噛めば、サクフワッとした食感の中から、チーズの旨味が口いっぱいに広がる。

 

提督も袋を見ただけで、子どもの頃に友達の部屋でおしゃべりをしながらつまんだ、その時の味を鮮明に思い出せる。

 

 

「途中の道から山側に登ると、神社があるんだよ。帰り道にお参りしながら、3人で境内で食べようか」

 

「いいねー、美味しそー! んっふふ~♪」

「はい……提督と一緒なら……どこ…でも」

 

(毎月お小遣いはあげるから、次……いや、そのまた次には自分たちだけで買いに来れるようになってくれるとなぁ)

 

提督は2人の頭を撫でながら、鹿島に会計をお願いするのだった。


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