ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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現在(2017.02)進行中のイベントのE-3攻略中のお話です。
ネタバレや攻略法を見たくない方は回避して下さい。


潜水艦隊と特製お弁当

日本各地の鎮守府から多くの艦娘が集まる、トラック泊地。

西太平洋カロリン諸島に属する、約250の島からなる周囲200Kmに及ぶ世界最大級の大環礁である。

 

「うちの鎮守府、完全に出遅れてるでち」

 

艦娘宿舎の中を歩き回り、自分たちの割り当ての部屋に戻ってきたゴーヤが仲間に言う。

 

彼女たちが、分解した偵察機・彩雲の海中輸送任務を行うためにトラックに到着した時には、他のほとんどの鎮守府はとっくに彩雲の展開を終え、敵泊地への攻勢に移っていた。

 

「大っきい戦艦さんが、たくさんいますって」

 

ゴーヤに同行していた、ローが必死に大きさをアピールしようとピョンピョン飛び跳ねる。

 

「潜水艦娘がいなくて苦労したわ」

 

こちらもゴーヤに同行していた、イムヤが疲れたように言う。

 

この鎮守府が、大規模作戦を積極的に進めないのはいつものことである。

 

提督が「先行組」と呼ぶ、戦意が高く先鋒を買って出る他の鎮守府の試行錯誤を参考に、情報を集めてから後発で作戦を開始するのが、この鎮守府のいつものやり方だ。

 

ゴーヤたちも提督から、他の鎮守府の艦娘へ聞き込みをする時のために、鎮守府で作った安納芋プリンやチーズロールケーキ、ミートパイ、牡蠣の燻製、たたみイワシの佃煮など、多くの手土産品を持たされていた。

 

大規模作戦時、外洋の泊地に長逗留して攻略にかかりっきりになっている「先行組」の艦娘たちには、これが効く。

 

本部が用意する泊地宿舎で出される食事は、寂れた観光地のやる気のない食堂のように、味気なくてレパートリーも少ない。

 

艦娘のソウルフードたるカレーライスでさえ、レトルトカレーで済ませる怠慢ぶりだが、実はこのレトルトカレーが一番美味しいメニューだったりする。

 

普段なら、手土産を配ればすぐに、情報が山のように集まるのだが……。

 

今回は二段階作戦であり、敵泊地偵察のためにトラック島に分解した偵察機を輸送する作戦前半組と、敵泊地への攻撃を行う作戦後半組とでは、編成が異なる。

 

ゴーヤたちは前半作戦を行っている「同業者」を見つけられず、情報収集に苦労した。

 

それでも、ゴーヤたちは手土産を餌にしつこく食い下がり、方々の鎮守府にヘコヘコと頭を下げて無線通信までしてもらい、今後の作戦の主要な情報や注意点をすべて聞き出してきた。

 

「さすが潜水艦娘で最古参のイムヤとゴーヤなの♪」

「ハッちゃん、尊敬します」

 

こちらも古参潜水艦娘のイクとハチが称賛する。

 

「あれ、シオイはどうしたの?」

「南の海にドボーンしてきまーす、って遊びに行っちゃったのね」

「あとで説教でち」

 

 

「……というわけで、シオイの積んでる晴嵐だけじゃ、重巡棲姫の艦隊を見つけられない可能性が高いでち」

 

ゴーヤが聞き込んできた情報を説明する。

 

「重巡棲姫の艦隊をやっつけないと、彩雲をまた運ばされるんですって!」

「!? これ以上、彩雲を分解したら、提督泣いちゃうのね!」

 

「しかも、重巡棲姫の艦隊を倒すまでは、トラック島の滑走路も貸してくれないんだって。本部も意地悪よね」

「それじゃあ、支援艦隊を連れてこないとだめですね」

 

「だから、今回はここで進撃中止でち」

「お弁当を食べたら、彩雲を持ったまま帰りましょ」

 

泊地の食事に我慢できない、この鎮守府の艦娘たちは、いつも弁当を持参する。

 

「マミーヤのお弁当、楽しみ。ね、でっち!」

「今日は何かなぁ、ワクワクするね!」

「シオイは、まだ足崩していいって言ってないでち! あと、「でっち」じゃねえでち!」

 

 

イムヤたちは、ワクワクしながら、長距離遠征の時などにしか作ってもらえない、普段より豪華な間宮のお弁当を開く。

 

弁当箱は縦長の二段重ね。

まず上の段の蓋を開くと、和風のおかず。

 

主菜は、レンコンと海老のはさみ揚げに、山芋の磯部揚げ。

煮物は、さつま揚げと人参、ごぼう、しいたけの甘煮。

脇には、たくあん、柴漬、豆きんとんが添えてある。

 

三つに仕切られた下の段は、もちろん米飯。

 

牡蠣の炊き込み飯。

イクラと錦糸卵をのせた酢飯。

梅干しをのせた、シンプルな白米。

 

 

「いただきます!!」

 

 

ゴーヤはまず、レンコンのはさみ揚げをかじった。

冷めても味が落ちていない薄い衣の下に、シャキッとしたレンコンの歯ごたえ。

その中から、すり身にされた濃厚な海老の味が湧いてきた。

 

イムヤは、山芋の磯部揚げに手を伸ばした。

全体を巻いている海苔の塩気がきいた風味と、揚げられてもサクサクしている山芋。

薄い醤油の味付けとともに舌を楽しませるのは、少しだけ含まれた辛子明太子だ。

 

イクは、煮物の中から、さつま揚げを箸にとった。

淡白で上品ながらも、主張の少ない鯛のすり身を使ったクセのない身。

それが逆に、染み込んだ絶品の煮汁の味と合わさると、確かな自己主張をする。

 

ハチは迷わず、牡蠣の炊き込み飯に箸を伸ばした。

予想通り、凝縮された牡蠣の旨味が、それを吸い込んだもち米とともに、口の中で大爆発する。

 

炊き込み飯の中に混ざる、細かく刻まれた海苔の陰ながらの仕事ぶりに、ハチはうっとりと目を閉じた。

 

ローは、イクラと錦糸卵をのせた酢飯から食べ始めた。

口の中でプチプチと崩れ、その度に濃厚な味を振りまくイクラ。

うっすらと甘く、滋味にあふれる錦糸卵。

その二つの味を、酢飯が優しく包み込む。

 

シオイは、真っ先に梅干を口に入れ、酸っぱさに顔をゆがめた。

そのまま嬉しそうに、白米を口に頬張る。

ホッとする甘い米の恩恵をたっぷりと感じながら、おかずへと箸を伸ばす……。

 

 

お弁当を完食し、鎮守府への帰路につく潜水艦娘たち。

 

艦娘(と深海棲艦)だけが通れる、海の「門」をいくつもくぐり、本土へと向かう。

 

「もう夕暮れになってしまったって」

「もうすぐ夜だねぇ。はー、疲れたぁ、晩御飯なんだろう、ねぇ?」

 

「作戦後半の情報、どうします?」

 

ハチが、先頭を泳ぐゴーヤに尋ねる。

 

重巡棲姫や、その西にいる離島棲姫が率いる艦隊が、深層部の主力艦隊への補給路を守っており、それらを完全撃破すれば、主力艦隊が弱体化するのではないかという噂。

 

深海棲艦と艦娘の戦いは、単なる軍事力のぶつかり合いだけではない。

ある意味、「呪い」と「祓い」の関係でもある。

 

特定の針路や特定の行動で「縁起を担ぐ」ことにより、艦娘の「祓い」の力を増強することができたり、深海棲艦の「呪い」の力を弱められることは、これまでにも確認されている。

 

「提督に伝えるかは、提督の態度次第でち」

「そうだよね。帰還したとき、私達を大切に扱わないなら……」

 

「タダで教えてあげる必要はありませんね」

「提督のご褒美、期待しちゃうなのね!」

 

彼女らの帰るべき鎮守府の灯りは、もうすぐ目の前に見えていた。




艦娘は「門」を使って、いわゆるワープのように短時間で長距離を移動しているので、トラック島も日帰り可能という独自解釈です。
好き嫌いあると思いますが、「8時~17時勤務の鎮守府」というコンセプトを守るためですので、お許しください。

泊地の宿舎のモデルは、学生のとき部活の合宿で泊まった某所の国民宿舎です。
昔の公共の宿って食事が本当にひどかったですよね……。

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