決着は一瞬だった。
ロングブレードの刃がドレッドパイクの顔面にめり込み一撃で吹き飛ばした。
ドレッドパイクはそのまま迷宮の壁にめり込み赤黒い血を吹き出しながら破裂した。
血の雨が飛び散りクリスの顔や服に掛かる。
血が掛かったクリスの胸中に渦巻いているのは嫌悪感ではなく、不完全燃焼による退屈感だった。
「……つまんない」
クリスの見立てではそれなりの好勝負になると思ったのだが、結果は圧勝。
クリスはここまでの戦闘でロングブレードしか使っておらず、ここにきて銃や盾の性能が試せると思っていたのだがアテが外れてしまった。
「あーあ。やっと僕とまともに戦える敵が出てきたと思ったんだけどなぁ……」
クリスがそう呟くとクリスの後ろからそれに応えるように声が掛けられた。
「へぇ、じゃあ私が相手してあげよっか?」
「……サラ教官覗き見なんて感心しませんね」
「そりゃあ、つけっぱなしにしておいたリィンの戦術オーブメントからエリオットの悲鳴が聞こえてくるんだもの。見捨てちゃ教師どころか人間として失格だからね。
そうしてあの穴から降りて急いでいたらアンタが戦っているのに遭遇したってワケ。」
「盗聴までしてたんですか?」
「まぁ、万が一のためよ。今回はそれがよかったのだけれど。ところで、アンタのその力は何?」
「僕専用の戦技ってことで今は納得してくれません?」
「………。ま、アンタが誰かに害を及ぼす気がないなら今はそれで納得してあげる。ただし、そのうちちゃんと説明しなさいよ?」
「りょーかい。教官」
とクリスとサラの話合いが終わるとクリスの身体から光が消え、武器からも輝きが消失する。
「わかったならいいわよ。けど、あんまり問題を起こさないでね。」
サラはその光景を見ながらため息を吐く。
そのとき二人の耳に迷宮の奥からかすかに魔獣の咆哮が聞こえる。
「お、リィンたちも戦いが始まったか。」
「そうみたいね。んじゃ、私は向こうに先回りするけどアンタはどうするの?」
「僕はのんびりと向かいますよ。今のところさっきのヤツ以外に気配はなさそうですし。ちゃんと倒せるように調整してあるんでしょう?」
「そうね、よほど油断しなければ勝てるわよ。ところで、アンタホントに一般人?」
「いちおう、フェンリルに入る前は一般人ですよ。」
「ホントかしら……。じゃ、またあとでね。」
そう言うとサラは来た道を急ぎ足で戻っていった。
「……さてと、じゃあリィンたちの戦闘が終わるまでゆっくりと散歩しますか。」
クリスはそう呟くとこれからの予定を頭の中で組み立てながら歩き去っていった。