ながーいながーい説明会を終え、これから共に働く同僚たちと互いに境遇を嘆き、川神院に戻ってもう一発師匠をぶん殴ってから俺は報告のために金曜集会へと参加していた。
「いいなー、いいなー、いいなー!!」
「お前ね、他人事だと思って好き放題言ってくれるじゃねぇか」
矢張りか、ヒュームさんと戦った時の事を話して食いついてきたのは百代だった。
「おかげさんで俺は来週から執事をやるハメになっちまった」
そう、執事である。ヒュームさんという世界でも三指に入る実力者に教えを請えるのだから代償としては安い、のだがそれと納得できるかどうかはまったく別の問題である。
「んー」
俺を見て首を傾げ、何かを考えているのは京だ。俺たちの仲間に入り、直接的、間接的両方のイジメが無くなって以来、徐々に性格も改善されつつある。途中で大和に惚れる、と言うアクシデントは発生したがそんなものは安い代償だ。むしろ好きな異性がいる、と言う事は様々な事柄に対する原動力となり得る。今後に期待、と言う事だ。
「どうした京」
「似合いそうだな、と思って」
「ハァ?」
自慢じゃねぇが似合うとは思わんぜ?何せ自慢じゃねぇがあの師匠の弟子だ。あの師匠よりはマシだが暮らしてきた
「んなわけねぇだろ?なぁ・・・・」
周囲を見回せば、何故か全員が首を縦に振っている。
「で?どうだったんだよ、そのヒュームって爺さん。ウチのジジイのライバルだった、って聞いたぞ?」
いつもならこうやって突っ込んでくるのはキャップなんだがな、ヒュームさんが総代のライバル、と知って百代が興味津々になってしまっているわけだ。
「どうもこうもあるかよ、牽制で撃った技を真っ向からブチ抜かれて、一番威力のある技をあっさり避けられて蹴りの一発でKOだ」
俺の説明を受けた全員が信じがたい事を聞いた、と言わんばかりに眼を見開いた。
「「「「「リンがぁ!?」」」」」
「リン兄が!?」
「・・・・兄貴がかよ」
何この反応、なんだと思われてんの俺?
「ジジイの毘沙門天の直撃喰らっても「殺す気かっ!!」って叫んでたのに、私ですらアレをまともに食らえば少しの間は動けないんだぞ?」
「ルー師範代のストリウムファイヤーが直撃しても「熱ぃ!?」で済むのはリン兄ぐらいよ」
「釈迦堂さんに多摩川で水切りの石みたいに吹き飛ばされても次の瞬間には釈迦堂さんにアッパーかましてるし」
「ダンプに跳ねられてもむしろダンプの方が壊れてたじゃん、ほら轢かれそうだった猫助けた時」
「ビルの屋上から落ちた下級生を助けた時なんか地面は陥没したけど平気だったしね」
「この間ビルの看板が落下して直撃でも平然と歩いて帰ったって俺は聞いたぜ」
・・・・おかしいな、聞けば聞く程自分でもバケモノじみてると思えてきちゃうぞ?
「つまりは俺なんかよりずっとずっと上にいるバケモノ、ってぇ事さ。今の状態じゃ百代、お前でも無理だ」
「無理か」
「俺とお前のタッグでも無理だね、それぐらい差がある」
俺の言葉に百代が真面目な表情になる。
「だがアッチは全盛期を過ぎたジジイ、こっちは今から全盛期の若者だ。『若さ』と『成長度』が俺たちの武器、だが・・・・まぁ悠長にしてらんねぇわな。引退されちゃ勝ち逃げされたも同然だ、だから百代。俺とお前、それにこの世界の何処かにいる同年代の連中でよ、ジジイどもにキッチリ引導渡してからご退場願おうや」
続けて紡いだ俺の言葉に、周りの全員がポカーンとする。が直ぐに百代が大声を上げて笑いだした。
「ハハハハハハハハハッ!!!そうだな!お前でも一蹴されたとか聞いてしまってちょっと心が萎えてた。そうだよな、私たち若者がジジイどもを引退に追い込むぐらいじゃなきゃな!」
「俺はそのために川神院を離れてヒュームさんの下に行く、『敵を知り己を知れば百戦危うからず』ってわけだ。才能に胡座かいて腕ぇ鈍らせたりすんなよ百代」
「それはこっちのセリフだ、執事業に精を出しすぎて武術を疎かにするなよ」
「それこそ、だな。あのヒュームさんの前でそんなマネがデキるとも思わねぇ」
俺たちの『何時もの』やり取りを見た皆が、次々に言葉を紡ぎ始める。
「本当にずるいぞぅ!!俺も来月からカンボジアに探検しに行くけどよ!!」
「ちったぁ勉強しやがれお前は」
何時も皆の先頭に立つリーダーの翔一。
「キャップもそうだけどたまには戻って来いよ」
「ああ、善処はするぜ。善処は」
そんな翔一の脇を固めて皆に指示を出す大和。
「まぁ・・・・なんだ、風邪引くなよ」
「お前もな」
最近『オカン』と呼ばれ始めた愛すべき弟、忠勝。
「なぁなぁリン、綺麗なメイドのお姉さんとかいたら・・・・」
「まぁ・・・・検討しとくよ、でもせめてお前が高校ぐらいになってからな」
たまに空気も読めるバカ、岳人。
「頑張ってね、リンなら上手くやれると思うよ」
「おぅ、岳人の勉強面は任せるからな」
岳人の世話役兼ツッコミ担当の卓也。
「アタシもこれから頑張るわ!」
「おぅ、怪我すんなよ」
愛すべき妹であり妹弟子にもなった一子。
「がんば」
「オメーもな」
コミュ障気味なのが気になる新入り京。
そして・・・・
「強くなれ、そして私を越えてみせろ」
幼馴染にして最強の好敵手、百代。
「バカも休み休み言え」
俺が必ず越えるべき壁の一つ、だから・・・・
「テメーなんざ軽く飛び越えて頂点に挑んでやらァ」
俺が言うべき言葉はこれしか無いのだ。
「・・・・お前さ、本当に釈迦堂さんに物言い似てきたな?」
「マジでか!?」
ちょいヘコんだ。
第八話でした。
お気に入り登録も気が付けば四桁間近、お気に入り登録してくださってる皆さんありがとうございます。
そしてまぁ、改定前と同じでここは短めですね。変更点があるとすればパワーが上がったぶん弄られるシーンがなくなった事でしょうかね。そして耐久性能は改定前よりさらに上昇。そろそろ竜胆ランサーのスキルとか宝具とか考えておこうかと思う今日このごろ。
次回から短いですが九鬼編突入です。