真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

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第七話:最強と戦う

死刑宣告から僅か数分、九鬼家極東本部ビル前には人集りが出来ていた。ヒュームさんは零から999まである従者部隊の序列零位、言うなれば従者部隊のトップにして最強である。うーん、つまりアレだ。野球でいうなら監督兼選手で四番のエースピッチャー、って感じだ。大体合ってる?え?微妙に違う?師匠の説明だとそんな感じだったんだけど。

 

「フハハハハハハッ!!」

 

何故か俺の隣で仁王立ちして笑っているのが九鬼英雄、九鬼財閥の跡取り息子。ヒュームさんと俺が戦う、と聞いて見物に来たのだそうだ。んで、さっきちょっと話をしたんだが・・・・

 

「フハハハハハハッ!!気に入ったぞ!必ずやこの試練を突破せよ!」

 

って感じで妙に気に入られてしまった。

 

「ほれ竜胆」

「おぅ」

 

師匠に頼んで持ってきてもらったのは槍、川神院で鍛錬用に使っていたモノだ。最初は九鬼側で用意する、とは言われたのだが矢張り使い慣れたモノの方が良いと思ったわけだ。んでパシらせた。

 

「それではこの勝負、従者部隊序列三番。クラウディオ・ネエロが立ち会いを務めさせて頂きます」

 

そう言って前へと進み出たのはTHE執事、って感じの人だ。デキる、ヒュームさんや師匠程極端に強いわけじゃない、だが相当デキる。

 

「気絶などによる戦闘続行不能、及び両者のギブアップ宣言のどちらかを以て勝敗を決します。両者準備は宜しいですね?」

「あぁ」

「応っ!!」

 

槍を構えた俺に対してヒュームさんは胸元の蝶ネクタイに手をかけ、残る片手をフリーにしている。油断も慢心も欠片とて感じられない、アレが素なのだろう。

 

「始めっ!!」

 

何時もの俺は『待ち』が基礎にある。後の先、俺が槍の真骨頂である『変幻自在の取り回し』を活かしてのカウンター狙い。まぁ、これが通じるのは修行僧と百代ぐらいなもんだ。つまりは同格か格下、もしくはちょい上、程度までしか通用しないんだよなコレが。だからこそ、『待ち』は無し。と言うか後手に回れば確実にやられる、ならば取るべきは一つ。

 

「最初からトバすしかねーだろ」

 

先手必勝、慣れねぇやり方だが前に出るしかねぇだろうよ。何よりヒュームさんが見てぇのは『コレ』なんだろうしな。

 

「『槍製・飛槍十本』っ!!」

 

奥の手その一、『槍製』。言ってしまえば気で槍を作る技で、手数が必要な時や槍を持っていない時のための技。そのバリエーションの一つが『飛槍』、『槍製』で作った槍を飛ばす技であり牽制、もしくは複数本を生成し面制圧に使用するわけだ。今、タメ無しで作れる十本をヒュームさんめがけて放った・・・・が。

 

「フンッ!!」

 

オイオイ、当たり前のように蹴りで砕ききったぞこの人。ある程度は想定してたけどさ、だがそれでもわずかな隙は作り出した。ならやるしかねぇだろうよ。

 

「『飛龍一閃』っ!!」

 

純粋な突き、だが最短の軌道を描くその一閃は未だ俺の求むる領域には至らないがそれでも現状の俺にとっては最速にして最強の一撃だ。

 

「・・・・フッ」

 

俺が隙だと思っていたモノは俺が思う程の隙では無かったようだ。危なげなく避けられた、一撃を放つために総力を注ぎ込んだ俺にはここから打つ手は今は無い。

 

「結城竜胆、貴様は既に『こちら側』に片足を踏み入れた」

 

妙に、全てが遅く感じられた。その全てを遅く感じる時の中で、眼前に迫るヒュームさんの回避不可の蹴り。

 

「『見事』、だからこそ上を知り高みを知れ・・・・『ジェノサイドチェンソー』っ!!!」

 

衝撃、そして俺の意識は途絶えた。

 

 

 

side 釈迦堂刑部

 

「良くやった、バカ弟子」

 

倒れ行く竜胆があの爺さんから引き出した『二言』は、並の武術家じゃ引き出せねぇ。壁越えをしてなお、その中でも一定水準を越え、認めさせなければ引き出すことが出来ねぇ。それをアイツは十●歳にしてやり仰せやがった、価千金ってところだ。

 

「おい釈迦堂」

「どうだ、俺の弟子はよ?」

 

俺が爺さんにそう問いかければ、珍しく笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「今はまだまだ赤子だ、それでもだいぶマシな赤子ではあるが・・・・五年だ。五年後、アイツがお前や鉄心に集中的に鍛えられ、場数を踏めばもしやと。そう思わせる程の才気の片鱗を俺は垣間見た。まず間違いなく揚羽様以上、いや・・・・百代以上かも知れんな」

「んじゃそのアンタを越えるために三年ぐらい頼むわ」

 

俺の言葉に、ちょっと驚いた表情を見せやがった。

 

「良いのか?」

「良いも悪いもねぇよ、元々アイツと川神院の技は相性が悪いんだよ。それに川神院にいちゃ対外試合にも不自由、となりゃアンタのところで色々とやらせてもらった方がよっぽど良い経験にならぁ。それに・・・・俺はアイツの親代わりみてーなもんだからよ、親ならガキのために色々考えて当たり前だろ?」

「変われば変わるものか・・・・触れれば全てを傷つけるナイフ、いやそんな可愛らしいモノではなかったな。まぁ、そんな悪ガキが今では親としての振る舞いをしている」

「へっ、丸くなってつまんねぇ、ってか?」

 

爺さんは、眼を閉じゆっくりと首を横に振る。

 

「むしろ以前の、獣のようだった頃よりも洗練されている。良い影響を受けているようで何よりだ」

 

そこまで言えば、爺さんは踵を返し雇い主の方へと歩いていく。

 

最近、よく言われるようになったな。

 

「さて・・・・とだ」

 

ジジイに報告して、色々やってもらわにゃならんな。

 

―――――――――

 

眼が覚め、眼に映ったのは見慣れない天井だった。

 

「眼は覚めたか」

 

寝かせられていたのはベッドだ、しかもそこらのホテルよりも立派な部屋。と言うか起き抜けに心臓に悪いなオイ、ヒュームさんが尊敬に値する人物なのは何となく察せるがそれでも顔は怖いんだよ。

 

「さて、完膚なきまでに敗れた気分はどうだ?」

「思っていたより悪くはありませんよ、足りないモンも見つかった事ですし」

 

『槍製』の脆さ、技の拙さ、足さばき、etc・・・・

 

「後ぁ足りないモンを補うように鍛錬に勤しむだけです」

「そうか」

 

着いてこい、と視線で促され、ベッドを出てヒュームさんの数歩後ろをついて歩き出す。

 

「先ず結果だが合格だ、特筆すべきは俺の『ジェノサイドチェンソー』を真っ向から受けて一時間程度で眼を覚ますタフさ。なんだが・・・・貴様、『視えて』いたな?」

「・・・・まぁ、『眼』には自信があるもんでして」

 

だからこそ、あの『鬼ごっこ』やら『私刑(リンチ)』を耐えてきたわけでだ。

 

「なる程な、あの一瞬で打点をズラすとは良い『眼』を持っている。加えてあの気で槍を作る『気の総量』と『気を操る技術』、活路を見出すべく死地と知りながら俺の間合いへと踏み込んでくる『胆力』。何より最後の一突きには貴様の全てが詰まっていた・・・・が、その反面速度が足りん。体捌き、足捌きで上手く誤魔化してはいるが俺にはバレバレだ」

 

そうなんだよな、単純な速度が足りないんだよ。だからこそ、回避はあくまでヒュームさんが言ってる体捌き、足捌きのみ。速度が無いから見切られたらそれで終わり、フェイントやっても足が遅いから効果薄めだし。小手先だけの技じゃあ限界があるのは俺も分かってるんだよな。

 

「そこを鍛えるのも俺の役目だろう、そこは安心しろ」

「お手柔らかに、って事でひとつ」

 

ヒュームさん程の実力者に鍛えて貰えるなら願ってもない事だ。

 

「ここだ、入れ」

 

そう言ってヒュームさんが扉を開ける。

 

「フハハハハハッ!ヒュームの『ジェノサイドチェーンソー』を喰らってなお一時間で復活するとは凄まじいタフさだな竜胆!!」

 

待ち受けていたのは英雄、他数名の執事とメイド。さっき立会人をやった爺さんもいる。それにチラホラと私服の人とかもいるが・・・・

 

「竜胆様、先ずは合格おめでとうございます。我ら九鬼家従者部隊は貴方を歓迎致します」

「暫くは同僚になるんですよね?なら客用の対応は無用じゃありませんかね?」

「いえ、正式に雇用になるにはまだ数日あります。それまではお客様として扱わせて頂きます」

 

成る程、流石は徹底してるね。

 

「これより同じ制度で部隊入りする同僚と、担当者の紹介。それと雇用契約書等の書類関係の話に入らせて頂きます」

 

そう言って爺さんがテーブルの上に差し出したは分厚い冊子。具体的に言えば鈍器としての使用も可能なんじゃないか、と思えるぐらいには分厚い。

 

「・・・・これは?」

「雇用契約書でございます」

 

思わず周囲の、多分俺と同じで試験雇用制度で雇われたであろう人達を見回す。全員が揃って遠い目をしていた、と言う事はこの爺さんの茶目っ気のあるジョークとかじゃあ無いわけだ。

 

「そちらは後ほど読んで頂ければ、先ずは担当者と同僚を紹介していきましょう」

 

さてさて・・・・どうなることやら。




第七話でした。

気が付けば888件、ビックリしました。マジで。

前作でも活躍した『槍製』は出ましたが、まだもう一つの奥の手は出ません。未完成なため実戦での使用は早期、と竜胆が判断したのが理由となっております。

そして次回から九鬼家従者部隊編に突入しようかと思います。

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