side 釈迦堂刑部
最近、俺の弟子・・・・っつーより川神姓のガキが一人増えた。
川神一子。
ああ、ウチのバカ弟子の妹分だよ。そいつの里親だったバーさんが亡くなってな、俺もたまにメシご馳走になってたから葬儀には出たんだがよ。んでそのバーさんの親戚だっつー野郎が一子を引き取るって言い出したんだが・・・・コイツが、なんつーかな。俺だって真っ当な人間じゃねぇ、って自分でも思うがその俺が見ても「コイツは拙い」と思わざるを得ないようなヤツだった。典型的なアル中、常に赤ら顔で手の震え、ヤクでもやってんじゃねーかってぐらい眼は焦点が合ってねぇ。何より一子を見ている時の眼、アレはあの年頃のガキに向けて良い眼じゃねぇ。「欲望の捌け口」として見ている眼だ。
それで動いたのが百代と竜胆、それに忠勝と大和の四人だったってわけだ。ジジイを説得し一子を川神院で養子として引き取る事を承諾させ、忠勝の里親の宇佐美と大和のオヤジの二人による法的機関への根回しにより思ったよりもつつが無く一子は「岡本一子」から「川神一子」になった。そこまでは良かったんだぜ?俺だって竜胆の親みてーなもんだ、ヨソのとは言え、見知ったガキがあぶねーヤツのところに行くのを回避出来たわけだし。問題はその後だった。
『釈迦堂、責任を持って一子の面倒も見るんじゃ』
一子が川神院の修行僧になりたいって言い出しやがった。まぁ、百代や竜胆みてーな傑出した才能は今のところ見えねぇが竜胆みてーなパターンもある。竜胆から聞く限りじゃ根性はあるみてーだし、悪くはねぇんじゃねぇかって言ったらジジイがんな事言い出しやがった。
『モモも竜胆もお前の弟子じゃろ、二人に多分に影響を受けたみたいじゃしのう。それに兄姉が一緒じゃと少しは気楽だと思うんじゃよ』
正確に言うなら百代は直弟子じゃねぇ。だがまぁ、結果として俺はOKを出しちまった。百代や竜胆に頭ァ下げられたのもあんだけどよ、それ以上にあれは反則だろうよ。
『頼みます』
『お願いします!釈迦堂さん!!』
忠勝と一子の二人が揃って頭を下げてきたのだ。俺ァこういうのに弱いんだよなァ。あぁ、きっと遠くの方で百代と竜胆がハイタッチしてたけど気のせいだと思うんだがよ。
んでまぁ、結局一子を見てやる事になったんだが・・・・ここでもう一つの問題が出やがったんだ。
「おい竜胆、ちょっと道場裏来い」
―――――――――
一子の問題も片付いてさぁ、久しぶりに修行に精を出すぞ、と思っていた時の事だった。
「おい竜胆、ちょっと道場裏来い」
師匠のその一言を受け、俺の取るべき対応は。
「誰かぁ!!助けて!!カツアゲされるぅう!?」
「テメー!?」
師匠は慌てる、だが良く考えてくれ。どう考えても「ちょっと体育館裏来いよ」っていう常套句にしか聞こえねーじゃねーか。
「テメーが俺をどう思ってるかは良く分かった、だがちげーよ。ちょいと込み入った話をするから周りに聞かれたくねーだけだ」
「なら最初からそう言えや」
ったく、あんまりにもリアルに想像しちまったじゃねーか。
「で?込み入った話ってなによ?」
「まぁぶっちゃけな、俺がお前に教えられる事ってねぇんだわ」
「職務怠慢宣言かクソ師匠」
「いや、マジな話でよ。基礎能力も百代と渡り合えるレベル、技術だけなら百代以上、気の量も扱いも上々。元々川神院の技があわねぇってのもあるんだろうけどよ、こっから先はテメーが地力で道を開拓するしかねーんだわ」
まぁなんとも、聞いてみりゃまともな話だった。
「そこでだ、良い話があるんだがよ」
「聞くだけ聞く」
このクソ師匠の良い話ってのは九割九分裏がある。なにも知らなかった頃の純粋無垢な俺が騙されたのは片手じゃ済まされんのだ。
「俺の知り合いがよ、若い腕利きを探してんだよ。仕事柄、そいつに気に入られれば世界各地を回れるし色んな相手とやり合う機会も増える。ってぇ事はオメーの武術の幅を拡げるチャンスだと思うんだがよ」
ふむ、確かに、だ。俺の弱点ァ手数の少なさだ。なんでも師匠に言わせりゃ俺と川神院の技ってのは基本的に相性が悪いらしい。その中でも辛うじて使えるモノだけを俺は教えてもらった、が・・・・
「それ、割と長い話だよな?」
「あぁ、二、三年ぐれぇだな」
長いな。それでも・・・・俺は・・・・
「連れてけよ、その知り合いの所によ」
「潔いじゃねぇか」
「ったりめーだろ、俺は強くなるんだからよ」
何も変わりはしない。川神を離れる事もあるだろう、仲間たちと一緒にいられない事も必然増えるだろう。そこをわずかばかり懸念した、だが直ぐに俺はそれを振り払った。決して長い付き合いとは言えない、一年やそこそこの付き合いだ。それでも、ちょっと離れ離れになった程度じゃ俺とアイツ等の関係は変わらない、と断言出来る程度には互いを知っているつもりだ。
「今も昔も変わりゃしねぇよ、何一つ」
「そうかよ、なら明日には予定付けるぜ」
「あぁ、頼む」
―――――――――
翌日、師匠に連れて来られたのは世界でも有名なとある場所。
「なぁ師匠、来る場所間違ってねぇか?」
「間違ってねぇよ」
だってさぁ、天下の『九鬼財閥極東本部ビル』だぜぇ?師匠とか絶対縁ねぇじゃん?無関係なんて生易しい表現じゃ済まされんよ。
「どんな知り合いだよ」
「昔スカウトされたんだよ、ガラじゃねぇって断ったけどな」
「あー」
分かる分かる、ガラじゃねーっつか、天地がひっくり返っても有り得ねぇ。むしろなったら指差して大爆笑してやる。ってかよ、ヒシヒシと嫌な予感がして来やがった。
「珍しく時間通りに来たな、釈迦堂」
「っ!!?」
反射的に、だった。身を翻しつつ間合いを取り、拳を構えた。刹那に感じた身を突き刺すほどの闘気、横っ面への上段蹴りを『リアルに幻視』してしまう程の気。武芸の達人は相手に触れずとも気を以て相手を制する事が可能だ、と聞く。眉唾だと、思っていたがこうして体感してしまえば認めざるを得ない。『それはありえる』のだと。
「ほぅ・・・・」
金髪の老人・・・・老人?偉丈夫とはこうあるべきだと言わんばかりのガッシリとした体格。執事服な理由はイマイチ分からないが先の闘気を発したのは間違いなくこの人、て言うか眼が明らかにカタギじゃねぇんだけど。
「小手調べ程度に気を当てて見たのだがな、思っていた以上に良い動きをする」
「だろ?」
随分親しげに話してるが・・・・まさか、師匠の言う『知り合い』ってこの人の事なのか?
「俺の名はヒューム・ヘルシング、『ヒュームさん』でも『ヘルシング卿』でも好きに呼べ」
「結城竜胆っす」
取り敢えず自己紹介を返す、とこの爺さん・・・・ヒュームさんと取り敢えず呼ぶ事にしようか。そのヒュームさんが嗤う。本来、笑うと言う表情は攻撃的な意味合いを持つと言う。そんな雑学が脳裏に現れる程度に、ヒュームさんの笑みは逆に怖かった。
「喜べ赤子、貴様は『九鬼家従者部隊試験雇用制度』のテストケースの一人として選ばれた」
「・・・・質問、その『九鬼家従者部隊試験雇用制度』ってなんすか?」
「貴様や釈迦堂のようなヤツのための制度だ」
俺や師匠?共通項は武術家、ぐらいなもんだが・・・・
「一芸に秀でてはいるが従者としての適正が不明な者に対し一定期間の教育を施し、その適正の有無と程度を測り規定水準を満たせば従者部隊として、満たさねばそれ以外の適職を紹介する。というのが大まかな概要になるな」
ふむふむ、成る程。つまりだ・・・・
「要するに身売りじゃねぇかゴラァッ!!!」
「んがっ!?」
取り敢えず師匠の顎にアッパーぶちかまして気は晴れた。
「だが、一つ条件がある」
だよねー。いくら実力が指折りで、一応は川神院師範代って肩書きを持つこのクソ師匠の紹介だっつっても即OKってワケはねーだろ。
「今後、この制度を正採用する場合の事も考えれば生半可な者を選ぶわけにはいかん。無論、貴様以外の者もそれ相応の篩をかけてある」
うん、これはバトるパターンだな。誰が相手だろうなぁ、ぶっちゃけヒュームさん以外だったら誰でも・・・・
「そこでだ、貴様のウリである戦闘力を測るために・・・・俺と、戦って貰おうか」
まぁ、アレだ。予想ついちゃっていた事とは言え、納得しきれんもんはしきれん。と言うわけで、俺はこのセリフを言おう。
人生オワタ\(^o^)/
第六話でした。
とうとう今作も来ました身売り回。そして次話、VSヒューム。『戦わなければ生き残れない』ってフレーズを私は思い出しますね。
そしてお気に入り登録三百突破、本当にありがとうございます。
それを記念して、と言うわけではありませんが前作でもありましたFate/風ステータスを今回も作ってみました。
クラス:ランサー
真名:結城竜胆
性別:男
属性:混沌・中立
身長/体重:155(180)cm、50(85)kg
地域:日本
筋力:C+(A) 耐久:A(A+++) 敏捷:B(A)
気:B++(A+) 幸運:E(E+) 宝具:D(B)
クラススキル
対魔(気)力:B(A)
騎乗:C(B)
( )内が原作開始時のステータスになります。前作と比べてもびっくりするほど高水準、だが幸運値は安定のE。物語の進行と共にステータスは更新して行きます。