真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

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第四話:半世紀後の約束

たまの修行休み、俺は最近入ったとあるグループと良く遊ぶようになった。

 

「行くぜ行くぜ行くぜぇえええ!!」

 

風間翔一、グループのリーダー。凄まじく奔放で、最初はコイツがリーダーで大丈夫なんだろうか?とも考えたがコイツだからこそ、このてんでバラバラなチームがまとまっているんだと最近は理解してきた。

 

「キャップ!パス回せって、脇からリンが来てるぞ!」

 

直江大和、通称『軍師』。頭が良い、と言うよりは要領が良く実質的なチームのまとめ役。ちょっと中二病が入ってるが基本、気の良いやつで今では一番仲が良いかも知れない。

 

「きゃうんっ・・・・痛いぃ」

 

岡本一子、俺の妹分。昔と変わらず泣き虫だが、ちょっと内気だった性格は明るい方に矯正されている。忠勝が言うには翔一や大和のおかげらしい、俺はもう少し違う要素もあったと思うがな。

 

「大丈夫か一子、あんま無茶すんな」

 

源忠勝、俺の弟分。前々から世話焼きだったが、全体的に危なっかしいメンバーたちのせいかそれに磨きがかかっている。一子にはちょい甘さ多めだが・・・・?

 

「俺様がいるんだぜ!キャップを止めてやるぜぇええっ!!」

 

島津岳人、バカ。バカだが仲間思いの良い奴・・・・なんだが、妙に女子の前で息が荒くなったりするから女子からの人気はかなり低い。モテたいと言っているが・・・・その息の荒さを何とかしなけりゃ無理なんだろうなぁ。

 

「そういう事言ってるとロクな事にならないって、何で学習してくれないんだろう」

 

師岡卓也、ツッコミ担当。地味でおとなしいが広い見識と一部深い知識を持っている。皆に対するストッパー要員としても期待はしたいが・・・・勢いに押し切られやすいからちょい期待度は低め。

 

「うっし、ここで俺がパスカットを・・・・」

 

そして俺、結城竜胆。大和曰く『盾役』らしい、何に対してかは明言されていないが俺も明言しない、だって俺も大和を盾にしてるし。

 

「『スーパー百代』ぉ・・・・」

 

最後に川神百代、言わずと知れた俺の腐れ縁で大和曰く『矛役』。文字通りチームに降りかかる(喧嘩を売る)火の粉(上級生)を払う役目。

 

「ちょっと待て!それはぁっ!?」

「『スライディングキーック』!!!」

「キックは反そげぶぁあっ!!?」

 

これで八人、他人は俺達を『風間ファミリー』と呼ぶ。俺達自身も名乗っているが。

 

一ヶ月前に大和に請われて上級生をボコった俺と百代、一子の強い嘆願もあり風間ファミリーへの仲間入りを果たした。百代が翔一からリーダーの座を奪おうとしたり、それを咎めた俺が翔一と一緒にボコられたり、まぁ色々とあったが今では立派な?風間ファミリーのメンバーである。

 

何時もの原っぱに集まって、皆で遊ぶ。それだけなのだがそれが妙に楽しい、コイツラといっしょだと退屈しない。

 

―――――――――

 

「なぁなぁ、この草スゴくでかくないか?」

 

何時ものように原っぱで、何で遊ぼうかと相談している時に、翔一が突然そんな事を言い出した。

 

「そう言えば・・・・そうだな、他よりデケェな」

 

他の草が俺たちと同じぐらいの高さなのに、翔一が指さしたソレは大の大人と同じぐらい・・・・いや、それ以上の高さがある。

 

「せいちょうきってやつなんじゃねぇの?」

 

さすが岳人、発言がバカっぽい。だが成長期か、人間にだって成長期があるんだから植物にだってあるのかね?

 

―――――――――

 

更に一ヶ月経つと、流石にこの草の異様さに皆が気づき始めた。既に平屋建ての家を超えるぐらいの高さにまでなってきている。

 

「ねぇねぇ、この草もう5メートルは超えてるよ!?」

 

と思わず叫んだのは卓也だ、みんなの気持ちをきれいに代弁してくれた。

 

「ある日ワン子の姿が消えた・・・・」

 

と、突然岳人が語り始めた。ちなみにワン子、と言うのは一子のあだ名だ。

 

「するとこの植物がワン子の身長分、伸びていた」

「ギャーっ!!怖いわぁ!」

「テメェゴラァ!!ナニ人の妹怖がらせてんだぁ!?」

「ゴメンなさいっ!!」

 

ったく、一子を怖がらせるなんて何考えてやがんだ。

 

「ある日、岳人の姿が消えた」

 

今度は翔一か、なんだ?今度は岳人の身長分伸びるのか?

 

「するとこの植物が花をつけた時、そこには岳人の顔が!」

『キモッ!』

「気色悪い事言うんじゃねぇよ風間っ!」

 

っと、思わず本音が出ちまったじゃねぇか。見ろ、忠勝ですらデレが無しでツンじゃねぇか。岳人が絶望的な顔をしているがキモいものは仕方無い、だって岳人だし。

 

「しかしなんだろうなぁ・・・・確かに気になって仕方ねぇが・・・・」

「迷う必要なんてない」

 

草のてっぺんを見上げて、考え込んでると百代がとなりに並んでドヤ顔してる。

 

「分からない事は聞けば良い」

 

・・・・もっともだ、百代のクセに。だが一体・・・・

 

「・・・・すぅ」

「おーい皆、一回耳ふさげ」

 

OK、何をしようとしているかは理解した。分かる人に聞く、それが確実だ。

 

「ボケはじめのー!ブルセラじじぃーっ!!」

 

周りの空気を震わせたんじゃなかろうかと思うぐらいの大声、すると・・・・

 

「モモ!お前良い度胸しとるのぅ!!」

 

総代登場、皆が「エェー」って顔しているがこのバケモノ一族はこれがデフォなんだよ。

 

「まぁ落ち着いてくださいや総代、実はですね」

 

とまぁ、呼び出した主旨を伝えるとマジマジとその草を見渡す。

 

「こりゃリュウゼツランじゃのう、今風に言うと『せんちゅりーぷらんと』と言う奴じゃ。数十年に一度しか咲かん珍しい花じゃよ・・・・確か以前に咲いとった時期からすると・・・・一週間もせんうちに咲くんじゃないかのう」

 

総代の言葉に最も眼を輝かせたのは翔一だ、まぁ確かにロマンだよな数十年に一度しか咲かない花が、丁度咲くと言うのだ。そんなイベントを見逃すメンバーでは無く、咲いたら集合写真を撮ろう!と言う話をして、この日は解散したのだ。

 

ちょっと、一瞬だけ見えた人影は気になったがな。

 

―――――――――

総代が言っていた日の前日、日本を台風が直撃していた。激しい雨が窓に打ち付けられ、ただでさえボロい川神院の建物全体がギシギシと軋んでいた。台風で吹っ飛ぶんじゃないか?と心配したら総代がいざとなれば気で建物を護るから大丈夫と言っていた・・・・さすがは川神一族、パネェ。

 

「この雨風じゃあ下手すりゃポッキリ、かな」

 

あんだけ皆で楽しみにしていた写真撮影だが仕方あるまい、そう思っていた時だった。

 

「竜胆、キミに電話だヨー!」

 

廊下の方から聞こえた声、すぐさま受話器を受け取ると電話の主は大和だった。

 

「どうした?」

『リンっ!急いで何時もの原っぱまで来てくれ!!』

「・・・・はぁ!?」

『キャップたちがリュウゼツランを護るんだって!危ないって言ってもきかないんだ!リンと姉さんの力が必要なんだよ!』

 

とりあえず、ため息を一つ。無茶をする連中だとは分かっていたがここまで無茶をするとは・・・・だが、やっちまったもんは仕方ねぇ。ならば今はどれだけ被害を最小限に抑えるかを考えなけりゃならねぇ。

 

「しゃあねぇ、俺と百代が到着するまで無茶はすんな。翔一は何か用意してんのか?」

『何も!勢いだけで飛び出してったから!』

「分かった、道具もこっちで準備してく。忠勝はどうした?」

『先に向かわせた!無茶しないように見張ってって!』

 

良い判断だ、忠勝の言う事なら一子はおろか翔一も聞くだろう。岳人も卓也だけでは抑えきれないが翔一と一子が踏みとどまれば一緒に踏みとどまってくれるだろう。

 

「大和も直ぐ迎え」

『あぁ!』

 

受話器を静かにおけば、音も立てずに廊下を駆ける。無茶ばかりしやがる弟妹分たちを、手助けするために。

 

―――――――――

ゴンッ×3

 

「いってぇ!?」

「きゃうんっ!?」

「んがっ!!?」

 

とりあえず、真っ先に突っ走ったであろう翔一、一子、岳人の三人にゲンコツを落としておく。

 

「ったく無茶しやがって、今度こういう真似したら顔面にグーだ」

 

三人とも心配させた事はわかっていたんだろう、痛みで涙を浮かべながらも揃って頷く。

 

「さてと・・・・さっさと済ませるぞ、大和と忠勝が中心になって保護作業は進めろ!百代!」

「ああ、分かってるさ」

「んぁ?誰かいんぞ?」

 

俺達が暴風雨を乗り越えリュウゼツランのところまでたどり着くと、そこには人影が一つ。

 

「椎名!なんでここに!?」

「こんな時になんで出歩いてやがる!!」

 

翔一と、大和は知っている顔らしい・・・・二人が語気を荒げて問いかけた、単純に心配したんだろうなぁ。だがまぁ翔一は人の事言えないからなー?

 

「み・・・・皆、この花咲くの、楽しみにしてた、みたいだったから・・・・でも、嵐が来て、それで・・・・」

「聞いてたのかよ」

「お前関係無いだろ、危ないからけーれ!」

 

翔一が呆れたように声を上げれば、岳人が正論を言うが・・・・岳人、お前もだからな?

 

「ったく、どいつもこいつも・・・・今更一人で帰したって危険だ。人手が多けりゃそれだけ速く終われる、手伝え椎名・・・・頼むぜ百代」

「分かってる、私を誰だと思ってる?一人増えたって守りきってみせるさ」

 

普段なら茶化すところだが、今はその姿が頼もしい。俺はこっそり道場から持ってきたレプリカの槍を肩に担ぎ、百代は拳と拳を打ち合わせ空を見上げる。時折、瓦やら樹の枝やら吹き飛ばされたモノが強風に身を任せ空を舞っている。忠勝、一子、卓也が俺と、大和、翔一、岳人、椎名が百代と、それぞれロープで繋がれた状態で作業を始める。

 

「ウラァッ!!」

「ハァッ!!」

 

七人の作業に支障が出ないように、出来る限り動きを最小にして槍と拳で飛来物を叩き落とす。しっかしまぁ、百代は喜々としているなぁ。単純に自然災害から仲間を護る、と言う状況に興奮しちゃってんだろうが・・・・。

 

―――――――――

あの後、全員無事で作業を終えると俺と百代で手分けしてメンバーを家へと送り返した。ちなみに川神院に戻ると総代とルー師範代から半端無く説教された・・・・師匠は笑いながら「ガキのうちしかヤンチャは出来ねぇんだからイイじゃねぇか」って言ってた、その後に影で「今度からそういうヤンチャするなら俺も誘えよ、保護者がいりゃ色々楽だろ?」なんて言ってた、きっと心配してくれたんだろう。うん、めっちゃ楽しそうな顔してたけど心配してくれてたのに違いない。絶対そうだ、「俺も嵐の中で遊んでみてぇんだよ」とか言ってたのもきっと気のせいだ!

 

「何か・・・・フツーだな」

 

翌日、台風一過の晴天。無事に咲いたリュウゼツランを前に、皆が言いたくても空気を読んで言わなかった事を翔一が空気も読まずに言いやがった。

 

「言うなよ!?」

「そこは言わないでよ!?」

「空気読め」

 

思わず俺と卓也がユニゾンツッコミをしてしまったじゃないか。しかも忠勝までツッコミを・・・・お兄ちゃんちょっと嬉しいじゃねぇか。

 

「ほら写真撮るんだろ?集まった集まった」

 

岳人の母である麗子さんが、カメラ片手に呼びかけてきた。じゃあ集まろうか・・・・と言うところで、視界の片隅に椎名の姿が見えた。

 

「翔一」

「ああ、大和!キャップ命令だ、椎名を連れてこい!」

 

こういう時だけ空気が読める翔一が、大和に影に隠れていた椎名を連れてくるように命令して大和が渋々ではあるが椎名を連れてくる。椎名を入れて九人、思い思いのポーズを取ってリュウゼツランの前に並び写真を撮った。

 

次に咲くのは五十年後、またその時に揃って撮ろう。

 

そんな約束を、九人で交わす―




第四話でした。

気がつけばお気に入りが二百に、本当にありがたいですね。

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