真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

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第三話:覚醒、始まる

最近、師匠が気の扱いを教えてくれるようになった。

 

「使えるといろいろ便利なんだぜ?身体能力の強化は当たり前、練度が上がれば発勁、いずれは俺らみたいに放出する事も出来るようになるさ」

 

との事だった、えーっと、なんだっけ?フォースを信じろ的なアレだったっけ?え、違う?・・・・ああ、あれだろ?『八門遁甲の陣』、え?惜しいけど違う?・・・・まぁ、それはともかく。最近、組手以外に新しい修行が足された。今まさにその修行の最中なのだが・・・・

 

「射てぇっ!!」

「竜胆殿、お覚悟っ!」

「いたぞぉっ!!」

「ヌァアアアアアアアッ!!!」

 

逃げるのは俺一人、それ以外の全修行僧が鬼の鬼ごっこ。俺に有効打が入ればタッチ成立、制限時間は半日。どうしてこんな突拍子も無い修行が成立したかといえば、師匠が総代に提案してそれが通ってしまったからだ。

 

『ってわけなんだよ、槍メインだが基本は棒術だから対集団戦も学ばせなけりゃならねぇだろ?で、こういうのを思いついたんだが・・・・』

『ふむふむ、面白そうじゃのう・・・・』

『最近の釈迦堂は冴えてるネ!だが修行僧を乗せるにハ・・・・』

 

総代と師範代二人が真面目に、色々と考えまくった結果。この修行で俺にタッチを成立させた修行僧には金一封、年間を通してスコアを記録しトップだった修行僧には更にご褒美、と・・・・一応俺の場合は年間通して無傷で抑えきれば褒美が出るらしい。

 

「んなろおっ川神流・・・・『大車輪』っ!!」

 

長柄武器を回転させその遠心力を攻撃へと転化する大技、本来は薙刀で行う技だが師匠が槍でも出来る、と言って教えてくれた技だ。その技を横薙ぎに放ち、一斉にかかってきた数人をあるいは吹き飛ばし、あるいは後退させる。

 

『うぉおおおおおおっ!!川神流っ!『天陣』っ!』

「ちょっ!?」

 

何でこんなところで陣地防衛の極技とかつかってんの!?

 

『殺れぇえええええええっ!!!』

「字がおかしいだろうがぁあああああああ!!!」

 

天陣で逃げ場のなくなった俺に一斉に飛んでくる矢、鉄球、手裏剣、投槍、投銭、投げナイフ、チャクラム、etc・・・・明らかに殺気のこもったそれを片っ端から叩き落としていく、甲高い金属音が延々と鳴り響く・・・・っつーかどんだけ隠し持ってんだコイツラ!

 

「かかってきやがれコンチクショーっ!!」

 

やってやらァ!!

 

 

side 川神鉄心

 

しかし良くあれだけの攻撃の雨嵐を捌ききるもんじゃて、いくらワシやルー、釈迦堂とて純粋な身体能力一つでアレを捌ききるのは至難の業じゃ・・・・ちゅうか『天陣』は無しじゃろ、どんだけ金一封が欲しいんじゃアヤツら。まぁ、既に竜胆の持つ『眼』は壁を越えておる、梁山泊の者が持つ『異能』にも匹敵する武器となるじゃろう。

 

「釈迦堂、お主・・・・竜胆のアレに気づいとったのか?」

「つい最近、だけどな・・・・アイツ、俺との組手中に俺で隠れて見えなかったはずの飛んできた矢を叩き落としたんだよ・・・・叩き落とした瞬間に俺が殴っちまったけどな」

 

分かっとったなら止めてやれば良いじゃろうに・・・・じゃがこの修行のおかげで竜胆の「眼」の正体が分かった、それに気付いた釈迦堂にもビックリじゃが。

 

「お主、意外と教える才能があったんじゃなぁ」

「うるせぇよ」

 

昔は、ただ修行僧を打ちのめし覚えたけりゃ勝手にしやがれ。みたいな感じじゃったが、竜胆へ教えているのを見ると竜胆に潜在しておった才能を見抜き、発見するなりそれを伸ばすのに適した修行法を編み出す。

 

今回の鬼ごっこだってそうじゃ、タッチの条件を有効打とする事で逃げる竜胆は最初こそ危うかったものの今ではまさしく開眼し滅多な事では有効打どころか掠りすらしないようになった。

 

竜胆の『眼』は達人で言う『制空圏』だ、達人が気と経験を用いて行うそれを竜胆は視野の広さと勘の良さだけで再現しておる。もしそこに、気での探知が加われば?経験が加われば?答えは単純、竜胆の眼が届く範囲内全てが竜胆にとっての絶対支配領域に変化する。あとはその支配領域をカバーするだけの武器が備われば、竜胆は・・・・

 

「そろそろ別の弟子、取ってみたらどうじゃ?お主に教えを受けたいという修行僧もチラホラと出ておるぞ?」

「勘弁、分かってんだろ?俺は竜胆だから教えられてんだよ、それ以外なら・・・・ちょっと特殊な奴の方が良いな、周囲に馴染めねぇような奴のほうがよ」

 

言い得て妙かもしれんな、竜胆とてぶっちゃけクセのある方じゃ。そのクセのあるところを見抜いたからこそ、他の修行僧とは違う形で鍛えておるんじゃろうし。

 

「ふぉふぉふぉっ・・・・若い世代が台頭してくるのは、いつ見ていても楽しいものじゃ」

 

釈迦堂も、ルーとてまだまだ伸びてくるじゃろう。そして今、更にその下からモモや竜胆ら若き世代がその片鱗を見せてきておる。ワシとてまだまだ現役のつもりじゃが・・・・ふぉふぉふぉっ、もしやするとワシが引退するのも・・・・そう遠くは無いのかも知れんなぁ。

 

―――――――――

 

「そろそろオメェだけの武器、ってのが必要かもな」

 

今日の修行も無事?終わってから、師匠が言い出したのはそれだった。

 

「まぁ言うなりゃあオンリーワンの必殺技、ってなところだ。俺のリング、ジジイの顕現がそれだな」

「あぁ・・・・」

 

成程ね。わかりやすい説明で助かる、確かにカッコいいよね必殺技。

 

「ちょっと考えて最近練習してるのはあるんだよ」

「ほぉ・・・・ちょい試しに見せてみな、今は他に誰もいねぇんだ。失敗したって俺が全力で笑うぐらいだ」

 

笑うんかい、まぁ確かに。師匠に見せなけりゃアドバイスも貰えないし、ものは試しだ。

 

「行くぞクソ師匠っ!!」

「来やがれクソ弟子ぃ!!」

 

―――――――――

 

数秒後には俺は青空を見上げていた。

 

ってか容赦無さすぎだろこの大人。俺の二つあった必殺技(仮)を避けて、真っ向から叩き伏せて、挙句の果てに鳩尾に一発で動きを止められ、顎の一撃で浮き上がり、トドメに額への降り下ろしで地面に叩き付けやがった。

 

「オメー」

 

俺を覗きこむ師匠の顔は笑ってた、が。

 

「ハハハハハッ!!!」

 

心の底から笑ってた。

 

何時も見せる他人を小馬鹿にするような笑いじゃない。まるで子供が新しいオモチャでも見つけた時のような、そんな笑い方。

 

「やっぱスゲーぜオメーはよ!!」

「は?」

「こうしちゃいらんねぇ!新しいメニュー組んでやる!あと早朝訓練は俺も加わるぜ!」

 

ゲッ!?バレてたの!?超ハズカシーじゃねぇかよ!!でもだ、師匠がここまで言うって事はそれなりの期待が持てる技だったって事だよな。なら・・・・

 

「ったく、ならちゃんと朝起きろよクソ師匠!」

 

師匠を信じてやってみるだけさ。

 

 

side 釈迦堂刑部

 

「おヤ、楽しそうだね釈迦堂」

 

取り敢えずアイツを基礎鍛練に戻らせて、中庭で修行のプランを練っていた俺の前に現れたのはルーだった。

 

「あぁ、楽しいぜ。見ろよこれ、竜胆がやったんだぜ?」

 

上着を脱げば、左脇腹には横一閃に走る傷が。右腕にも青アザが幾つか出来ていた。

 

「なんト!?これを竜胆がやったのカ!!」

「あぁ、ひょっとするとと思ったがコイツは想像以上だ。アイツは化けるぜ、俺やお前も飛び越えて、百代すら倒してジジイの領域に届く!!」

 

昔は他人の面倒なんざ見たって何の意味もねぇと思ったもんだ、だが竜胆を育てはじめてようやくジジイやルーの気持ちが分かったぜ。確かにコイツぁ楽しい、弱ぇヤツらと試合するよか、いやもしかしたら強いヤツらと試合してる時よりもな。

 

「ルー、今なら俺ぁお前の言ってた武に必要な『心』の意味が理解出来るぜ」

 

『武』に必要な『心』とは折れぬ事、奇しくも竜胆が言ってた『自らに課せられた掟を貫き通す事』ってのがその通りだ。確かに竜胆の『心』が折れてねーから俺の出す若干無茶な修行についてこられる。

 

「私も最近では力不足を痛感していル、私もお前も、共にまだまだだと言う事だネ」

「ったく、ガキどもに追いつかれないようにしなけりゃならねーなんてなぁ」

 

昔の俺なら、もし竜胆と出会ってなけりゃ、もし竜胆を引き取ってなけりゃ、こんな事は言わなかった。よくも悪くもアイツが俺を変えた、だがまぁ・・・・少なくとも悪かねぇ。ルーだってネーミングセンスは最悪だがコイツの中にも学ぶべき事は多いってもんだ。

 

「ルーよぉ、オメーも一人ぐらい直弟子取ったらどうだ?色々、面白ぇぞ?」

「そうだねェ、私もそろそろ考えてみようかネ」

「おぅやれやれ」

 

本当に、ガラじゃねぇ。




第三話でした。

早くもお気に入り登録が三桁目前、本当にありがとうございます。

前作からの変更点その一、奥の手が二つになりました。

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