真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

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第二話:釈迦堂刑部は思い返す

今日も今日とて私刑と言う名の組手が終わった、アレ絶対イジメだよね?

 

『んじゃあ何時もどおりやるぞー』

『オラ来いよクソ師匠!』

 

そう言ってまずは師匠と組手だ、何時もどおりな暴力的な拳の嵐。そこにお得意の気弾、リングを追加された隙の無い攻勢でボッコボコにされる。

 

『オー、頑張ってるネ!たまには違う相手と戦うのモ、悪くは無いと思うヨ!』

『えっ!?ちょっ、ま!!』

 

呼吸が正常になりかけた頃に、ルー師範代が登場からの強制戦闘。途中まではまともに拳で打ち合ってたのに、気が付いたらストリウムファイアーでガードを崩されバーストハリケーンで上空にflyaway。

 

『あー!ズルいぞー!!』

『おぇあ!?』

 

息も絶え絶え、既に限界寸前の状況でラスボス百代乱入。真紅波紋疾走(ルビー・オーバードライブ)で滅多打ちにされたあげく、無双正拳突きで壁にめり込み。

 

『ふぉっふぉっ、精が出るのぉ』

『いやぁああああああああ!!?』

 

裏ボス降臨、妙にはしゃいでる総代との延長戦に突入。顕現使うのはいいさ、持国天あたりなら絶対命中だけで威力そんなにないし。でもはしゃぎ過ぎて摩利支天と毘沙門天使うのはどうかと思うんだ、総代の姿が見えねーし気が付けば真上から巨大な闘気の足。どんな詰みゲーだっての・・・・

 

「あ゛ー・・・・」

 

午後からは完全フリータイム、確か百代も師匠と組手するって言ってたし俺を引きずり回す存在がいない。ゆっくり昼寝でもして体力回復を・・・・

 

「りーんっ!どーこだーっ!!」

 

させて貰えそうにも無い、おかしいなー。あのバケモノ(百代)、師匠と午後から組手するってウキウキしてなかったか?

 

「ここにいたのかっ!返事ぐらいしろよなー」

「お前に呼ばれると九割方厄介事なんだ、返事もしたくなくなる」

「むぅ・・・・まぁいい、イキナリですまないが私といっしょに山門まで来てくれ」

「えー・・・・嫌dおふっ!?」

 

嫌だ、と答えようとした途端に俺の首が絞まる。見れば百代の手が、俺の胸ぐらをつかんでいる。え?

 

「さぁ行くぞっ!!」

「ちょっヤメ・・・・痛いっ!削れてる!ぶつかってるぅううう!!」

 

石畳がっ!砂利がっ!庭石がっ!

 

――――――

百代に引きずられ、満身創痍で山門にたどり着くと同い年ぐらいの男子とものっそい見覚えのある二人が、そこにはいた。

 

「一子・・・・と忠勝、か?」

「兄貴?」

「お兄ちゃんっ!」

 

一子と忠勝、俺が数年前までいた孤児院で本当の兄妹同然に接していた・・・・そう、家族だ。俺は、百代に引きずられた痛みすら忘れて立ち上がり二人へと駆け寄る。ずっと心配だったのだ、俺が師匠に拾われ孤児院を離れて二年後にはあの孤児院が閉院したと言う話が聞こえてきた。他にも孤児院で育った家族はいたが、この二人とは特に親しく、特別と言っても差し支えのない存在だったから・・・・無事里親が見つかったのか、他の施設にたらい回しにされたのか、里親が見つかったとして良い人なのか、心配事が尽きなかった。

 

「お前ら本当に、元気そうで良かった良かった」

「兄貴こそ・・・・まさか同じ川神にいたなんてな」

「うん!ビックリ!でも嬉しい!」

 

俺が一番上の兄だとすれば、つっけんどんだが面倒見の良い二番目が忠勝、やんちゃで忙しない末っ子が一子、と言う三兄弟的な感じだったわけだ。師匠や総代に頼み込んで方々を探してもらったがなかなか見つからず、せめて元気でいてくれと思ったものだが・・・・灯台下暗し、逆にここまで近いところにいるとは思っても見なかった。

 

「あの、話・・・・進めてもいいかな?」

 

少しばかり、申し訳なさそうに二人といっしょに来た男子が言葉を挟んでくる。そう言えば存在を忘れてた、二人と一緒に来たと言う事は友人なのだろうし。

 

「ああ、悪い。話を進めてくれ」

「じゃあ・・・・」

 

男子、直江大和が二人を伴ってここに来た理由は喧嘩の助っ人だった。発端は俺達小学生には良くある遊び場をめぐっての争い、上級生たちが人数を頼みにして直江らが遊んでいた遊び場を強制的に奪い取った。で、それに納得が行かなかった直江たちは荒事に向かない一子ともう一人を隠れさせてゲリラ戦的な喧嘩で奪い返す寸前まで行ったそうだ。だが直江たちの事が心配で様子見に来た一子が捕まり、人質にされて成す術なく反撃され、しかもこいつらのリーダーは耳にコンパスで穴を空けられたらしい。よく見れば、直江も忠勝もところどころに青あざが。

で、まぁ一番こっ酷くやられたはずのリーダーが反攻を企てるが頭脳労働担当の直江がそれに反対。しかし今のままでは静止を振り切って行きそうであり、そこで考えついたのが川神院の娘で強いと噂がある百代に助っ人を頼むことだった。

 

「成程、事情は分かった。その話を受けるのもやぶさかじゃないが・・・・条件がある」

 

ん?今の話で出てきた奴らは百代が最も嫌う手あいだ、引き受けるまでは予想ができていたがまさか条件をつけて来るとは。

 

「私は確かに総代の孫だが門下としては下っ端でな、思う存分こき使える舎弟が欲しかったんだ」

 

うん、それはそうだけどさ。俺に対するアレで思う存分じゃ無かったの?お前は直江に何をさせる気だ?

 

「だからお前、私の舎弟になれ!」

「・・・・分かりました、よろしくお願いします姉さん!」

 

百代は眼がキラキラ輝いてるなぁ・・・・直江は、多分大したことはないと考えてるんだろうが・・・・それは甘いと思うぞ。

 

「ゆーびきーりげーんまん、うそついたーらうでのなかでなぶりごーろす!指切った!」

「・・・・ゑ?」

 

嘘ついたら嬲り殺しってどんだけー、そして直江よ。例え大したことのない契約だとしても、契約書はちゃんと読まないとな。

 

「それで、リンも来るだろ?」

「当たり前だ、弟分がひどい目にあわされたんだ。ヤキ入れてやる」

「お前さー、年々釈迦堂さんに似てきて無いか?」

 

師匠に?冗談じゃない、武術家としては尊敬する箇所が幾つかはある。だが日常生活にあってアレほど手本にしちゃいけない大人と言うのも珍しい。だってさ、ほっとくと同じ服を何日も着てたり、三食梅屋の豚丼だったり、二日酔いなんてのはザラだ。あんなダメ人間の手本のような人に似てきてるだと?断じて否だっ!

 

「ともかくだ!今はコイツらのことだろ?」

「ん?それもそうだな・・・・リンは槍は要らないのか?」

「いらんだろ、ガキ同士の喧嘩に。ってか槍まで使ったら師匠はともかく総代にヤキ入れられるハメになる」

「私は?元々拳だぞ?」

「ヤキ入れられんじゃね?」

 

不公平だーっ!とか叫んでる百代を放置して、俺は絶望と不安がまぜこぜになった表情の直江へと向き直る。

 

「まぁ弟妹分が世話になってんだ、キッチリやることはやってやる」

「あ、あぁ・・・・」

「百代の事は・・・・まぁアレだ、スマンが諦めろ」

「\(^o^)/」

 

直江が攻撃対象になってくれれば、少しでも俺への私刑が緩和されると信じたいんだ!

 

 

side 釈迦堂刑部

 

ったく、ガキみたいにはしゃぎやがって・・・・ってアイツガキだったな、たまに俺よりしっかりしてやがるから忘れる時があるぜ。

 

「釈迦堂、何かイイ顔をしているネ」

「あ?」

 

突然、となりで一緒になって竜胆たちを見ていたルーがそんな事を言い出しやがった。

 

「うむ、親の顔をしておるよ」

 

ジジイまでんなこと言い出しやがる、親の顔だ?俺がぁ?

 

「初めはの、少し心配じゃったんじゃよ。親に子らしい扱いをしてもらえず、半ば修羅に生きておったお主がイキナリ子供を一人引き取ると言い出したんじゃからのう」

「・・・・」

「じゃがそれは杞憂じゃったと、最近思うんじゃよ。現に竜胆の存在はお主に良い影響を与えとる、触れれば全てを傷付けるようなオーラを持っていたのじゃが和らいどる。しかもそれでいて最近は武も洗練されてきておる、知っとるぞ夜中に一人で鍛錬しとるの・・・・竜胆と二人、正しく親子じゃのう」

 

アイツにだけは情けねぇ姿は見せらんねぇ、普段はともかく戦うことだけはと。そう思ってこっそり夜中に鍛錬は確かにしてた、が・・・・何でバレてんだ、ルーもニヤニヤしてやがるって事はルーもしってるってことじゃねぇか。

 

最初、アイツを見つけたのはアイツがいた孤児院の近くの原っぱだ。あの時俺は昔馴染みから護衛を依頼されてて、んで空いた時間で散歩してたらアイツがそこにいた。不格好だったが長い棒を槍に見立てて突きの練習をしてた。ガキが何やってんだか、って思ったんだよな・・・・見た感じじゃあ特に才能があるわけじゃねぇし、と最初はスルーしたんだ。

 

『お、若ぇのが頑張ってるじゃねぇか・・・・いいねぇ、俺ぁああいうの好きだぜ』

 

それから一ヶ月後。昔馴染みが、あの原っぱの近くを通りがかった時にそんな事を言い出した。季節は既に冬に差し掛かり、雪もちらつくってのに・・・・あのガキは、まだ棒を振っていた。一心不乱に、俺らから見られていることにも気づかないぐらい集中して。

 

『けっ、才能があるようにも見えねぇ。誰があのガキに教えてるんだかしらねぇが・・・・下手にデケェ夢を見る前に、現実を教えてやれって思うがね』

『努力出来ることは才能だろ?そいつを否定しちゃあ・・・・いけねぇよ』

『へーいへい』

 

そんなやり取りをして半年、気温も上がり夏本番と言う頃に。俺は再びそこを訪れた、あんな言い方はしたが妙に気になったんだよな・・・・あのガキのことが。

 

『おぅボウズ、ちょっとオジさんと話しねぇか?』

 

やっぱりあのガキは、同じ場所で同じように棒を振っていた。

 

『良いですけど』

『あんがとよ、毎日毎日一生懸命に棒を振ってるが誰に武術を教わってんだ?』

『誰にも、振り方は見て覚えました』

『ほぉ・・・・あ゛あぁ゛っ!?』

 

見て覚えた、ってこのガキぁ言うがそんな簡単な話じゃねぇ。綺麗な右半身中段でのあの構えは、才能があって、適格な指導者がいて、それでもおいそれと身につくものじゃねぇ。それを見て覚えた?しかも誰も教えてない?

 

『おまっ・・・・』

『俺は孤児だから、道場に通いたくてもお金払えないし』

 

開いた口がふさがらない、とはこういうことなんだろうな。どうやら俺はとんでもねぇ見誤りをしてた、才能が無いなんてとんでもねぇ。相応の環境で、実力者が鍛え上げたなら・・・・大化けするぞ、このガキ。

 

『何で・・・・鍛錬してんだ?』

『んー・・・・自分のルールを護るため、かな』

『なんだそりゃ』

『俺の父さんが、死に際に言ってたんだ・・・・「強さとは自らに課せられた掟を貫けること」って』

 

言わんとしてる事は分かる、だがその言葉だけを芯として鍛え続ける。それは・・・・既に常人の域を超えてやがる、俺だったらとっくの昔に折れてるわ。

 

『なぁボウズ、俺と一緒にこねぇか?』

『え?』

『実はオジさん、川神院ってところで師範代やってんのよ』

『川神院は知ってます、オジさんスゴい人なんですね』

『おぅ、でだ・・・・俺はお前に才能があると思うんだ、だから俺と一緒に川神院に来て鍛えてみねぇか?』

 

ガラじゃ無いのは分かってる、それでも俺はコイツを育てたくなった。今ならジジイが俺を川神院に連れて来た気持ちも分かる、才能を腐らせて終わりにしたくねぇ。

 

『俺は・・・・強くなれますか?』

『そりゃあボウズの頑張り次第だな、だが俺は全力で鍛えてやるぜ?』

『・・・・行きます』

 

そんなやり取りから僅か一週間、普段なら絶対にありえねぇがジジイとルーに頭を下げて協力を取り付け、ボウズ・・・・結城竜胆の保護者となるべく東奔西走して、今があるわけだ。

 

「あぁ、そうだな・・・・」

 

認めてやるよ、アイツは俺の息子だ・・・・ゼッテーアイツの前じゃ言わんけどな、ハズいし。




第二話でした。

早速お気に入り登録をしてくれた方がいました。本当にありがとうございます。

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