真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

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第十九話:横槍(刀?)

「やるじゃねぇかよ、えぇ?」

 

いやー、思ったより石田が強くて張り切りすぎた。近くの貯水タンクとか鉄管とかめちゃくちゃ溶けてんじゃねぇかよ、大和と一子が巻き込まれないようにはしていたが・・・・ってか人増えてるし、一子と島が戦い止めて観戦モードだし。

 

「想像以上だな結城、館長と差があるのは踏んだ場数の差と思っていた。だが同い年の貴様がそこまで強い、となればそれ以外の何かが俺には足りないのだと自覚せざるを得ない」

「こっちだって想像以上だったよ、何度かキメるつもりで出した攻撃が上手く決まらなかったからな」

 

属性付きの気を使った強化、と言えば殆どが思い浮かべるのが単純な追加効果だろう。石田の電撃なら『麻痺』、俺の焔なら『延焼』と言った感じだ。だが実際はそこだけには収まらない。使用者が何を思い浮かべ、その技を開発したか、或いは使用したかでまた違ってくる。石田の場合は雷の『速度』を思い浮かべているのだろう、時折、瞬間的に俺を上回る速度を出す。俺の場合は『熱量』に比重が置かれている。直接触れた場合の殺傷力もそうだが、発せられた熱気は気候条件さえ揃えば相手から正常な思考を奪い、脱水症状からの熱中症を人為的に引き起こし行動不能にする事も可能なわけだ。だからこそ、俺たちは技に対する理解と、その力を正確に把握する事に努めなけりゃならないってわけだ。

 

「だがまァ、そろそろケリつけようや石田三郎」

 

これは一応、学園の行事である。夜間に行われていると言う事もあり、川神学園側は翌日の授業に、天神館側は修学旅行に、それぞれ支障が出ないようにと配慮され制限時間を設けられている。本来、天神館の総大将として石田はここで時間を可能な限り稼ぐべきなのだろう。この圧倒的劣勢でも、制限時間めいっぱい逃げ切れば引き分けとなる。なるが、それじゃあつまらないしこれまで倒れてった連中のタメにもならない。

 

「そうだな、決着をつけるとしよう結城竜胆」

 

そして、石田もその結論に至ったらしい。となりゃあ半端な技で相手をしちゃあ失礼になるわな、未完成だが『あの技』で受けて立ちますか。

 

「我流奥義・・・・『焔桜』・・・・?」

「奥義!『紫で」

 

『陽炎』の穂先から吹き上がる桜の花びらを模した焔と、刀から迸る紫色の雷撃。共に必殺の一撃を繰り出すべく訪れた、一瞬のタメ。

 

気づいたのは俺だけだった、石田の背後にあるこの戦場内で1、2を争って巨大なタンク。そこを駆け下りてくる影が一つ、疾い。止める間もなく、声を上げる暇すらも無く、気が付けば地面にキスでもするんじゃないかというところまで駆け下りてきたソレは衝突寸前で速度を更に上げ、軌道を無防備な石田の背へと。

 

「んぐはぁっ!!?」

「あ」

 

物の見事に袈裟懸けに切り捨てられた。俺は唖然とした、一子も大和も、島も、お互いの兵も、全員が唖然とした。石田を切り捨てたのは川神学園の制服を着た少女だった。少女はゆっくりと体勢を立て直し、ゆっくりと周囲を見回す。ツー、と冷や汗を一筋垂らし、少女が口を開いた。

 

「もしかして・・・・義経はもの凄い横槍を入れてしまったのか?」

「あー、まぁアレだ。俺もコイツもこの戦いの主旨を忘れて戦ってたからな・・・・問題はねェ、あー!だから泣くな泣くな!!」

 

周囲の微妙な雰囲気を感じ取ってしまった少女は、やってしまった、と言わんばかりに顔を青くして涙を浮かべ始めた。うん、アレだ。一子と同じだ、もの凄い小動物系のオーラが見えるんだ。こっちが悪いわけじゃない、なのにもの凄い罪悪感に苛まれるんだよ。

 

「ま、取り敢えず大将首獲ったのァおたくだ。ウチの制服着てるって事は仲間には違いねぇんだから、勝鬨の一つでも挙げてくれや」

「良いのだろうか」

「構う事ぁねぇ、俺が責任取っから思いっきりやってくれ」

 

ちょっとだけ、躊躇う素振りを見せたが意を決し、刀を持った方の手を掲げ、高らかに宣言する。

 

「では・・・・天神館の総大将を討ち取った!!川神学園の勝利だーっ!!!」

 

 

―――――――――

 

あれから話を聞いたんだが、どうやら例の少女は名を『源義経』。九鬼が秘密裏に進めてきた『武士道プラン』で誕生したクローンとのこと。本来は週明けに転入予定、見学の一環として上空からヘリで観戦していたら血が騒いで思わずヘリからダイブ、そのまま俺と戦っていた三郎を敵総大将に間違いないと見当を付けて奇襲、切り捨て、となったそうだ。

 

「横槍が入って決着はつかなかった、だが!次こそは俺が勝つ!首を洗って待っていろ、竜胆!!」

「おぅ、何時でも相手になるぜ三郎」

 

翌日、福岡へと戻る天神館の生徒を見送りに川神学園側からも結構な人数が来ていた。戦いを通じて育まれる友情、と言うヤツだろうか。俺だって昨日の夜、色々と言葉を交わして、三郎とは今じゃ互いに名前で呼び合うしなぁ・・・・

 

「じゃあ大友さん、メール待ってるね」

「ああ!」

 

うん、一部違うな。お前いつの間にジゴロになっちまったんだ、影から京がハンカチ噛んで呪詛撒き散らしてんじゃねぇか。怖ぇよ。

 

「ん?」

 

筋肉を褒め合う岳人と長宗我部、情報交換をし合うモロと大村、怪しい物品のやり取りをしてる福本と鉢屋、交流を深め、別れを惜しむ。そんな中で三郎とは別の、俺を品定めするような視線。辿ってみれば女子が一人、なんだろう、市松人形を思い浮かべちまうな髪型とか雰囲気とか・・・・

 

「っ!?」

 

寒気。

 

蛇のような、獲物を見つけ、舌なめずりしつつもその味が最も熟成するのを待っているような。我慢しきれなくて、それを俺が寒気として感じ取ってしまっているわけだ。

 

「結城竜胆君、だよね?」

「ああ」

 

っと、考え事してたら思いっきり接近された上に声をかけられてた。

 

「ボクは明石夕凪、天神館の『軍師』です」

 

コイツがだと?あの投げやりな作戦を立てた?

 

「キミの言いたい事は分かるさ、今だから白状するけどかなりあの作戦は投げやりだった」

「・・・・」

 

三郎が無言で睨みつけている、まぁ、だろうな。ここまで堂々と白状してくるようなヤツは初めてみた。

 

「おっと、ボクを恨むのは筋違いだぜいっしー。ハルちゃん(尼子)といっちゃん(鉢屋)を除けばキミらは殆ど指示を聞いてくれないだろう?そんなヤツらのために真面目に一から十まで策を立てよう、なんて殊勝な性格をボクはしていないのさ」

 

成る程、まぁ分からんでもない。上司が部下を信頼し、その言葉に耳を傾ければ部下は上司のために全力を尽くす。だが上司が部下を信頼せず、その言葉に耳を傾けなければ部下は上司のために働こうとは思わない。九鬼時代は良い上司に恵まれたからだいぶやりやすかったが・・・・。

 

「さて、本題だがキミに興味が湧いた。・・・・あぁ、勘違いしないで欲しいが異性としてでは無い。キミと言う『人間』に興味が湧いた。だから来週から川神学園に転入する事にしたから、ヨロシクねー」

 

イキナリだなオイ。岳人が「美少女キター!!」とか叫んでるが他は概ね、まぁ翔一が「面白くなりそうだな!!」とか言っているけど殆どの連中が唖然として・・・・ああ、訂正。岳人と肩組んで百代が「美少女キター!!」って合唱してやがる。

 

「まぁ、理由とか色々と言いたい事と聞きたい事はあるが・・・・」

 

 

 

「宜しくな、明石」

「ああ、ヨロシク頼むよ」

 

なんにせよ学び舎に仲間が増えるのは良い事だ。




第十九話でした。

三郎が義経に倒されるのもデフォですよね。今作の三郎は現時点で壁越え半歩手前ぐらいになってます。油断と慢心を捨てれば壁越え以外の相手は全て完封できます、捨てれば、ですが。

さて、次回から日常に戻って改訂前にもあった編入パレードです。

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