真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

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第十六話:東西交流戦

「東西交流戦の開催を宣言するっ!!!」

 

転校して僅か三日、川神学園はイベントが多い、とは聞かされていたがまさか僅か三日目にして遭遇するとは思わねーよ。んでだ、川神学園学長を兼任してる総代が宣言した『東西交流戦』ってのは総代の高弟の一人、俺や百代からすれば大先輩にあたる鍋島正が学長を務める天神館学園との学年別対抗団体戦って話だ。各学年百五十名づつを選出し、大将の撃破か、或いは制限時間終了時の両校の被害状況による判定のどちらかで勝敗を決する、ってわけだ。

 

で、放課後になり場所は屋上。東西交流戦で学園中が沸く中、俺のところには来客が来るわけで・・・・

 

「フハハハハハハッ!!!竜胆よ、此度の東西交流戦。お前に我の補佐を任せる!!」

 

英雄があずみさんを引き連れて現れたと思えば、そんな事を言い出したわけでだ。ちなみに英雄とは一旦、九鬼を離れる事が決定した時に「そうなれば立場は対等、うむ!学園では良き友となれそうだな!」と友人認定、タメ口を強要されるという訳の分からない命令がそこにあったのだ。

 

「そいつは断らせて貰いますよ」

 

って言った途端、あずみさんが後ろでメンチ切り始めたから俺は直ぐに弁解をする。

 

「俺ぁ川神学園に来て高々三日、どういう奴らがいるのか分からなけりゃ、他の連中だって俺の事を知らない奴が殆どだ。そんな奴が補佐に就いたって命令は通りにくいし、何より不協和音の元になる。そう言うワケで今回は俺は一兵卒として働かせて貰うよ」

 

補佐、ってのは副官だったり、参謀だったり、軍師だったり。そのいずれにも手足となる将兵の数、実力を把握し適切な運用が求められ、またそれを心がけねばならない。今の俺は転入三日目、しかも長い付き合いである風間ファミリーのメンバー相手ですら今の実力を計りそこねている。そんな状況では指揮に回っても成果は出せない確立が高く、また今言った通り不和の元にしかならない。

 

「ふむ、考えての事ならば仕方あるまい。だが間違いなく二年の最大戦力は貴様だ、頼りにさせてもらうぞ!!」

「あぁ分かってる、俺の立ち位置を確立するためにも見せつけなけりゃならんからな」

 

現状の俺は評価不明の転入生、って立ち位置なわけで。しかもF組とS組の妙な対立のせいでぶっちゃけ英雄とあずみさんと他一部を除いたS組の奴らからかなり格下に見られているってわけだ。俺自身がそんなのは癪だし、元とは言え九鬼の従者が舐められたんじゃ示しがつかねー・・・・ってか多分、放置しててバレたらヒュームさんとかリカルドさんが俺を始末しに来る(切実)。

 

「出来る限りの事はやるさァ」

「うむうむ・・・・あずみ、人払いを」

「はっ!」

 

満足げに頷いていた英雄が、ふと何かを思い出した様子であずみさんに人払いを命じる。

 

「ニコライから話は聞いた、外部側の協力者として手を貸してくれるそうだな」

 

『何の』、とは英雄も言わないし俺も言わない。だがお互いに『何に』ついてかは分かっている、だから話を続ける。

 

「元々乗りかかった船だ、お前だって動いてるんだろ?」

「うむ、こちらでも内外問わず信頼出来る者に助力を仰いでいる最中だ」

「お互いが違う形で別々の方向からアプローチをかける、今はそれしかねーわな」

 

最低限の情報共有はする、だが指揮系統そのものは別々で、互いの人員も互いに晒さない。それはどちらかに何かがあった時のための対処の一つであり、一網打尽にされる事を避けるための最低限の配慮。

 

「・・・・大扇島と本土を繋ぐ地下通路」

「何?」

 

唐突な俺の呟きに、眉を顰める英雄。

 

「四年間、何度も何度も通ったあの通路。俺は一つの違和感を感じた、それを信じるか信じないかはお前次第だが・・・・よーく調べてみな、あずみさんかニコライさん辺りに動いて貰えればなんとかなるんじゃないかな?」

「うむ、お前程の実力者の感じた違和感だ。それだけでも人を動かすには十分だ、近日中に手配する事にしよう」

 

最初は感じなかった違和感だけどさ、やっぱ年数見てれば感じてしまうような違和感なんだよな。音の反響、見た目の違和感、そして『数百の気配』。

 

「ま・・・・その辺も東西交流戦を終えてから本腰入れる事にしようや」

「うむ!その通りだな!」

 

――――――――――――

 

「リンを姉さんクラスだと仮定して・・・・」

「仮定じゃなくて良いぞー、リンは間違いなく私たちと同じ領域に足を踏み入れている」

 

その日の夜、東西交流戦開催を受けて秘密基地に集合した風間ファミリー。二学年の軍師の一人に指名された大和はテーブルの上に戦場の予定となる廃工場地帯の地図を広げ、明日の全体会議に向けて作戦や部隊配置を立案していた。ちなみに地図を用意したのは俺、個々の戦力を比較的正確に把握している百代や各種方面に経験値がある忠勝、幅広い知識を持つ卓也がアドバイザーになっている。翔一と一子は爆睡、岳人は筋トレ、京はお茶くみ、で残るのは俺と由紀江ちゃん、クリスの三人になったわけで。

 

「竜胆殿はあっちには参加しないのか?」

「何分、川神学園的には新参者なわけだし。今回は下手な口出しは無し、総大将や軍師の指示で思うがままに暴れるだけさ」

「わ、私もお友達を作るべく頑張りますっ!!」

 

由紀江ちゃんは・・・・良い娘なんだよなぁ、家事全般パーフェクトで成績優秀、可愛いしスタイル良いし、性格も古き良き大和撫子って感じで引く手数多なんだが・・・・意識して笑おうとすると何故か表情が強張って怖くなるんだよな。アレだ、目の前でやられたら無言で財布を差し出しそうになるような顔だ。高校生活の目標は『友達百人』らしい・・・・うん、ちょっと泣けてきた。今度九鬼関係の知り合いを紹介してあげよう。

 

「しかしここまで大規模なイベントを開くとは・・・・」

「あー、まぁ割と昔っからこんな街だったと思うがな」

 

クリスも根っこは素直で良い子だ、ちょっくら融通が利かない事もあるがそこら辺も風間ファミリーに入る事でだいぶ緩和されてきている、と言うのは忠勝の言だ。ドイツ軍中将の娘であり、妙なカリスマ性まで持ち合わせているからこう言うイベント向きかも知れない。ちなみに父親のフランク中将とは九鬼時代に面識があり、つい先日も市内で遭遇し「娘の事を、頼むよ」って凄まれた。あれは「余計な虫が付かないように監視しておいてくれ」って意味合いなんだろうなァ。

 

「だがまァ、総代もああ見えて教育者だ。俺ら学生にとって経験になると踏んだからこそ東西交流戦の開催に踏み切ったんだろう」

 

ノリで決めてる部分も割合が大きいとは思うが、それでも何らかの利点があるからこそやっているハズだ。

 

「まぁ一度しか無い学生生活だ、思うがままに楽しむのが正解だ、と俺は思うね。だからこそこういったイベントには一切手を抜かない、抜かないからこそ面白みってモンは出て来るんだからよ」

 

『本気を出してムキになってやるからこそ、遊びってのは面白いんだよ』とは帝様の教えだ。至言だと思うね、本当の意味で楽しむには本気になるのが一番。

 

「それに・・・・」

 

チラッと百代へと視線を向ければ、珍しく真面目に大和へのアドバイスに集中している。昔のアイツなら壁越えが相手側にいない、と知った時点でやる気なんざ無くしそうなもんだが。そこらへんは成長してる、ってことかね。

 

「あそこの幼馴染、他数名からちょっくら挑発されてよ」

 

今や『武神』と呼ばれる幼馴染や。

 

『槍を使えリン、使えば今のお前なら・・・・確実に私と同等の実力がある、私の勘がそう言ってるんだ』

 

九鬼での師匠その一や。

 

『鍋島の教え子共も中々の赤子だが、俺の弟子でもあるお前ならば無傷で切り抜けるぐらい、出来るよなァ?』

 

九鬼での直属の上司だったり。

 

『まぁ学生の範疇で楽しめば良いんじゃねぇか?でもアレだ、負けたら殺す』

 

クソ生意気な弟子とか。

 

『え?ししょーがそこら辺の学生なんかに負けるわけないじゃないですか?負けたら?本部ビルの屋上で裸踊りしてやりますよ!・・・・ところで裸踊りってなんですか?』

 

 

 

『久しぶりのテメーの実力をじっくり観察してーからよ、まぁ思いっきり暴れて来いやバカ弟子』

 

父親代わりの師匠とかから。

 

「まぁ、ちょっと本気出す事にしてっからよ」

 

だからまぁ、無様は晒せない。

 

だからちょっと本気で行く。




第十六話でした。

竜胆君の「ちょっと本気出す」宣言。前作でもそれなりに一般兵相手に無双していた竜胆君、果たして今作ではどうなる事やら。

と言うわけで次回から東西交流戦突入。次回!「真・竜胆無双」!

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