「しっかしまぁ・・・・よくこんな所を見つけたもんだぜ」
皆が中学に上がった頃、京が親の都合で引っ越すことになった。京の都合だけで川神に残るわけにもいかず、皆で思案した結果『金曜集会』を開くことになった。と、俺は聞いている。発起人は翔一、毎日は無理でも週一なら大丈夫だろう?と提案したそうだ。リーダーとして成長している事が分かって俺はちょっと安心したがよ。
それでだ、一年程前だろうか。大和が情報を集め、忠勝が交渉し、この廃ビルの警備と清掃、整備を引き受ける事を条件に借り受けているのだそうだ。
「おぅおぅ、懐かしい『気』ばかりだな。幾つか見知らん『気』も感じられるが・・・・話で聞いてた新入りってとこか」
陽気な初夏の太陽を思わせる明るい気が一つ、清流のような静かさと刀剣のような鋭さを併せた気が一つ。どちらも見知らない・・・・はずなんだがな、後者の方は似たような気を知ってるんだよなァ。
「・・・・また一段と強くなってはいるが、ちょい荒れ気味だなオイ」
今回の目的、否・・・・標的の気を感じれば思わずそんな言葉が口を突いて出る。
『川神百代に一撃入れて来い、それが最後の課題だ』
『あと正体悟られんなよ』
ヒュームさんとニコライさんから出されたそんな課題に、思わず閉口しかけながらも「はい」と返事をした俺は偉いと思う。え?偉くない?マジで?
ちなみに今現在、その基地の屋上で待機中だ。気配を消してな。え?どうやって消してるかって?『チキチキ!第一回従者部隊大鬼ごっこ大会in富士樹海!』で覚えたんだよ。逃げるは三十以下の若手従者、鬼はヒュームさん、怖ぇよ。途中までは気配消して逃げてたんだけど最終的には気力に限界が来たからエル、李さん、ステイシー、シェイラの同期組と手ぇ組んで連携で逃げたんだよな。ステイシーとシェイラを犠牲にして。
「翔一、大和、忠勝、一子、京、岳人、卓也・・・・皆も元気そうだしな・・・・」
さてさて、取り出したるはボイスチェンジャー付ガスマスク。コイツを装着して、パーカーのフードを被る。九鬼時代にもらった革手袋をはめて、槍は無し、『槍製』と打撃だけで行こうか。
「オラ、とっとと来いよ・・・・百代」
消していた気を、爆発させるかのように、開放した。
side 川神百代
「しっかし最近は立て続けに面白い事ばっかり起きるなー!!」
キャップがいつもどおり、テンション高めにそんな事を叫んだ。まぁそうだな、まゆまゆが入学し、クリが転校してきて、ひと悶着はあったけど二人がファミリーに本当の意味で加わって。だがそれでも、私の心はどこか渇きを訴えている。強者と戦いたいと、血湧き肉躍り、互いの命を削り合うような戦いを、心のどこかが望んでいるんだ。
「俺はさ、もっともっと面白い事が起きそうな気がしてんだよ!!」
「やめろ翔一、オメーが言うと本当に起きそうで困る」
キャップはあの頃からあまり変わらない。いや、それでも色々と成長は見せていると私は思う。主に職人技的なスキルが。最近じゃ時折、ゲンに誘われて代行のバイトをしたり、川神書店の店長の頼みで商店街関係の仕事を手伝っているのを目撃してる。
ゲンは最近じゃ『アイツ』の代わりにファミリーの調停役に回る事が多くなった。武力自体はそこそこ、だが代行業での経験からか、いざという時の対応力はファミリーで一番かも知れない。家事スキルの高さ、オカン属性への極振り、私ですらゲンには逆らえない時がある。
「そうだぞキャップ、後始末に回るゲンさんの気持ちも考えろ」
「ゴメン!ゲンさん!!」
「テメーもだ大和!!」
大和は軍師と言う立ち位置は変わらないが、最近はキャップに毒されている気がする。基本的なスタンスは変わらないが、キャップに対して甘い。前ならキャップを諌めていた場面でもキャップの無茶ぶりを最大限許容する案を出したりする事が多くなった。
「アハハハハ!!ホントバカよねー」
「そう言えばワン子、この間のテスト・・・・」
「(((゚Д゚)))ガタガタ」
ワン子はあの頃から変わらないまま、天真爛漫に、純粋無垢に育ってくれた。ファミリー全体での教育の、正確に言うならゲンの教育と大和、京の調教の賜物だと思う。
「ハッハッハ!ワン子はバカだからなぁ」
「ガクトも他人の事言えないからね?」
ガクトも昔と変わらない気がする。まぁ、パワーと耐久力は中々だ。『アイツ』とは比べるべくもないが、それでも常人の域じゃトップクラスだろう。
モロロは思慮深く、慎重な性格になった。以前は臆病とも思っていたが、仲間のためなら必要なら身体を張る勇気も持ち合わせている事がよくわかった。
「ガクト×モロ・・・・(*´Д`)ハァハァ」
京は内向的で周囲に壁を作る性格は以前より改善されつつある。その交友関係の中心が腐女子なのは問題だと思う、だが少し前に『アイツ』にメールをしたら「m9(^Д^)プギャー」って返ってきた。ちょっと殺意が沸いたのは内緒だ。
「犬はバカなのか」
「アンタに言われたくないわよ!!」
クリとは最初はひと悶着あった。だが今では本当の意味でファミリーになれた、と私は思っている。真面目系かと思ったら実はアホっ子属性に極振りだったしな。
「はぁ・・・・お茶が美味しいですね」
「だろう?」
唯一のどかなのはここか。
まゆまゆは京とは別方向のコミュ障だ。それでもちょっとは改善されてきたが、笑顔を作ろうとすると凄まじく強張る。そして強い、間違いなく壁越え、しかもあの剣聖黛十一段の娘、いつか戦ってみたいと思う。
マスコットのクッキーは九鬼財閥からワン子へと贈られた奉仕ロボだ。ワン子に惚れた九鬼英雄がワン子へと修行の手助けにと贈ったがワン子は勤勉な性格、結果として日常生活に手助けが必要なキャップへと所有権が渡ってしまった。
『アイツ』はまだ戻らない、そろそろ戻ってきたっておかしくないのにな。
「あ、そう言えば・・・・」
不意に大和が、ケータイを取り出して・・・・
「リン、戻って来るってさ」
「「「「「えぇえええええええ!!?」」」」」
「いよいよか」
「直接会うのは久しぶりだよね」
イキナリの発言に思わず私まで叫んだじゃないか。
「来週アタマで編入して来るってさ、で明日に島津寮に入るらしいから荷物の運び入れと買い物を手伝って欲しいってさ。ゲンさんとガクトは必ず、他は都合が付けば手伝ってくれって」
「ほうほう・・・・」
なら私も手伝いに入って速攻で片付けを済ませ、そしたらアイツの四年分の成長を見なけりゃな!いやいや、戦う相手がいなくてつまらないとかじゃないぞ?ただ幼馴染としてだ、その成長を確かめるのが義務みたいな?
「だったら明日の夜は島津寮でリンの復帰記念パーティだ!!ゲンさん!まゆっち!美味い料理を頼むぜ!!」
「まぁ兄貴が戻って来んだ、やってやるさ」
「私で良かったら・・・・ああ、でも料理がお口に合わなかったりしたらどうしましょう!?」
うんうん、明日が楽しみだなー♪リンと戦った上にゲンとまゆまゆの手料理を食べれるとは・・・・
「「「!!?」」」
突如発せられた爆発的な闘気に、思わず上を見上げたのは私とまゆまゆ、そして京の三人。
「どうしたんだモモ先輩」
「誰かが屋上にいる・・・・まゆまゆ、京、ここを任せたぞ」
「モモ先輩は?」
キャップの問いかけに答え、歩き出した私を呼び止めたのは京だ。
「ちょっと、やり合ってくる」
なんかさ、下からモノスゲー勢いで登ってきてね?多分これ、まともに階段登らないで壁ジャンプしてるか?壁壊すなよ?
「おいおい、まるで獣のような眼をしているぞ川神百代」
開け放たれた扉・・・・のネジが数本飛んだのは見なかった事にしよう。だが、眼は爛々と光を放ち、つり上がった口角、放たれる気、その総てがまるで餌を目の前にした猛獣を思わせてしまう。ゾズマさんの語り口調を真似ようとちょっとばかり集中していたのが幸いしたか、そうでなけりゃ思わず素になりそうだった。
「はははっ、強そうな相手が突然現れたからな。最近はあまり強い相手がいなくてな、お前は・・・・退屈させないでくれるんだろう?」
「さぁな、ただでやられてやるつもりも毛頭ありはしないが」
川神流・・・・の構えは直ぐにバレるから。
「ほぅ?あまり見ない構えだな」
「戦いは独学で学んだものでね」
九鬼での修練の日々で俺が身につけた、ありとあらゆる相手に対して『対応力』を極限まで突き詰めたのが今の構えだ。
『最初から全力を出すのは格上か相応の覚悟を以て挑んで来た者だけだ』
と言うヒュームさんの教えに従い、編み出した通常戦闘用とも言える構え。攻守兼用、槍の使用は当然の事ながら本来の武器では無い刀剣、鞭、投擲武器、暗器などを使う事も想定している。仕事であったとある壁越えの戦い方を参考にして編み出した。
「覚悟しろ川神百代、私の『槍』はお前の『慢心』を突くぞ」
マスクの中で、俺は思わず笑みを浮かべる。
「ハハハハハッ!良いぞ、そう言う威勢の良い相手は大好きだ!」
百代も、分かっていて笑みを浮かべる。
相手が俺だとは分かっていないだろう。
だが四年越しの戦いだ。
「推して参る」
いっちょ気張ってみますか。
第十四話でした。
お気に入りも千三百を突破しました、亀更新な上に駄文なこの作品をこんなにもたくさんの人に読んで貰えると言うのは嬉しい反面、毎回更新するたびに緊張してしまいます。
さて次回は謎のマスクマン(竜胆)VS川神百代の対決。四年越しの戦い、互いの道を歩み互いに成長を遂げた後の四天王、その激突の結果は?
次回!『神槍再臨』をお楽しみに!!