真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

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第十三話:新たなる非日常へと

「「「フハハハハハハッ!!!」」」

 

さて、九鬼一族に囲まれると言うこの混沌(カオス)な状況。どういう事でしょうかね?

 

今日は休暇、って事で自室でダラダラしてたんだが・・・・

 

『我、降臨!』

『我、顕現である!』

『フハハハハハハッ!入るぞ竜胆っ!!』

 

長女揚羽様、次女紋白様、長男英雄様と言うジェットストリームアタックが炸裂。声を聞いた途端にビシッと立って頭を下げちまう辺り、俺は最早社畜人生まっしぐらな気がしないでもない。

 

「で、無礼を承知でお尋ねいたしますが・・・・どのような用向きで?」

 

でだ、三人揃って特有の高笑いを続けてたんだが・・・・そろそろ話を進めねば状況は動かない、って事で先を促すことにしてみた。

 

「おお!忘れるところであった!」

 

そう言って、英雄様が一歩進み出る。

 

「竜胆よ、今回我らはお前を正式に九鬼財閥へと勧誘しようと思って来たのだ」

 

懐から何やら大量の人名が書かれた書類を取り出し、机の上へと置く。

 

「半月後には期間終了、一度九鬼を離れて・・・・と言う話ではありませんでしたか?」

 

それが最初の約束だ。自分で行くべき道を選び取れ、と言うのは帝様の言葉だったと思うが。

 

「うむ、だがな竜胆よ。近頃は梁山泊や曹一族からもお前は勧誘を受けているであろう?ならば唾を付けておくくらいは良いであろう?」

 

ああ、そう言う事もあったね。曹一族ってのは梁山泊と長年競り合ってる傭兵集団で近年じゃ世界でも一、二を争ってる集団なんだが。少し前に梁山泊と共同任務に就いた時に曹一族の筆頭格である史文恭ってのとやり合ったんだよ、そしたらそれ以来、ちょくちょくちょっかいをかけられるようになっちまってなぁ。

 

「それに心配せずとも良い、今回は父上の許可を得て参ったのだからな!」

「フハハハハハハッ!母上からの許可も得てあるぞ!」

「うむ!」

 

英雄様からは最初から気に入られてたんだよな、時々「同年代の友人として我と接せよ!」とか言われて遊んだりしたしな。

 

確か長女の揚羽様とはヒュームさんに引き合わせられたんだよ、同じくヒュームさんに武術を教わる以上兄弟弟子になるから、とか言ってな。しかも揚羽様も俺が百代と幼馴染、と聞いて余計に興味を持ったらしい。知らなかったんだよ、揚羽様と百代がライバル関係だったとかさ。

 

『フハハハハハハッ!お前が百代の幼馴染か!』

 

普段の百代はどうだ、とか。どんな相手と戦った、とか。まぁ色々話をしているうちに「我を姉と思うが良い!」って言われるようになったんだよな。

 

次女の紋様とは付き合いは一年ぐらい前だろうか、そう・・・・帝様とヒュームさんの仕事を引き受けるべく梁山泊と戦ってから日本に戻ったアレだよ。帝様まで出てきて直々に何を頼むのか、と身構えていたら紋様の専属を引き受けてくれ、と頼まれたんだ。紋様は揚羽様、英雄様の異母妹、それを気にしてか必要以上に気張っていた印象があった。

 

『我は・・・・我は、母上と・・・・』

 

局様は、心中複雑であり紋様とは常にどこか距離を空けている印象があった。ヒュームさんやクラウディオさんがそれを気にしつつ手を打っていたのも知っていたし、俺が口出しするような問題でも無いと言うのは分かっていた。だが紋様が、部屋で寂しそうにそうつぶやいたのを聞いた俺は止まれなかった。

 

『局様の心中はお察しします!それでも、それでも紋様と向き合って下さい!今の紋様にとって『母』は局様お一人なのです!!』

 

俺に親はいなかった、師匠がオヤジ替わりみたいなものではあった。姓は違う、互いに口にも出さない、それでも俺と師匠は親子だった。そこには見えない確かな繋がりがあった。『親』と言う存在はそれだけ大事なのだと、俺は思う。だからこそ放って置けなかった。

 

そこから局様と紋様の間でどんなやり取りがあったかは分からない。だが数日後には、『母』として振舞う局様と『娘』として振舞う紋様の姿が見られるようになった・・・・もっとも。

 

『主のために行動しようという気概は認める、だが・・・・無礼を働いた分の制裁は、必要だよなぁ?』

 

その後にヒュームさんにボコられたが。

 

まぁそのへんも関係あっただろうか、三人からは妙に気に入られてしまっているのだ。

 

「それに竜胆よ、多くの従者たちも署名を求めたらサインをしてくれた」

 

それがこの書類ってわけか。俺は何気なしに一枚目を拾い上げ、そこに連なっている名前を見て思わず眼をこすった。

 

「この署名には我ら三人を筆頭として父上、母上」

 

だよね、えらく豪快なのと達筆なのが一番上に並んで書かれてるもんね。

 

「従者部隊からヒューム・ヘルシング」

 

既にここで意外なんですが。

 

「忍足あずみ、ミス・マープル、クラウディオ・ネエロ、ゾズマ・ベルフェゴール、ニコライ・ドラガノフ、リカルド・ランバルディ、エルヴィン・シュタイナー、ステイシー・コナー、李・静初、桐山鯉、シェイラ・コロンボ、他八十六名が今回の署名へと名を連ねている」

 

どんだけー。

 

一桁代の実に七割、他二桁代もいるし三桁でも有望株が揃ってる。

 

「それだけ皆がお前を仲間として認めている、と言う事だ」

「で?考えてはくれぬか竜胆。お前が引き続き専属を引き受けてくれれば我も安心なのだが」

 

ずいっ、と近寄ってくる揚羽様と紋様。この二人、こう言う時はイキナリ接近してくるんだよなぁ。

 

「そう言う契約です、ってのもありますがね。自分で可能性を閉じるようなマネはしたくないんですよ。だからこそ当初の予定通り、暫くは九鬼を離れて世間を見つつ、考えて行先を考えようと思います。何分・・・・やり残した事もありますので」

「ほぅ?やり残した事?」

 

俺の言葉に、今度は三人が揃って覗き込んでくる。

 

「武神打倒・・・・他諸々ですかね」

 

百代は倒したいさ、だがそれ以外にも・・・・この四年近くでいろんな奴らと戦った。武松、林冲、楊志たち梁山泊の精鋭、欧州の猟犬・・・・まだ見ぬ実力者ってのがもっともっといるはずだ。俺はそいつらと戦ってみたい。って、師匠とか百代の事笑えねぇなコレ。

 

「それで満足がいったら、って事でお願いしますよ」

 

俺の言葉を聞き、三人が顔を見合わせ満足げに頷く。

 

「それでこそ引き入れ甲斐があると言うものよ!」

「うむ、我ら九鬼が求めるのはそう言う向上心がある人材だ」

「ならば心ゆくまでやり通すが良い!」

 

笑って許可の言葉を出してくれる。ったく、九鬼の一族ってこう言うところ反則だよねぇ。人を惹き付ける魅力、っつーか覇気、っつーか。それが揃いも揃って半端ねーと来たもんだ。

 

もし九鬼に戻らねーとしても、この主たちに恥じない結論を出さなけりゃあな。

 

 

―――――――――

 

 

さて、余談ではあるが・・・・俺の部屋は若手従者たちの溜まり場になっている。四年で一度辞めると言う事が決まっていたから俺の私物はほとんど無い、着替えと本ぐらいなもんだ。でだ、従者の、序列がそれなりの人間に与えられる部屋ってのは結構広いんだが。俺の部屋の場合、必要最低限の荷物しか無いもんだから空きスペースが大量にあるわけだ。でそれを聞きつけた上司からのストレスを溜め込んでいる若手たちが俺の部屋に夜な夜な集まり、愚痴ったり、飲んだくれたり、情報交換したり、色々とやるわけだ。

 

「竜胆、マンハッタン」

「ししょー!マティーニを下さい!」

 

そして、その愚痴を聞いたり、のんだくれを介抱したりしていたらある日、何時の間にか俺の部屋にカウンターキッチンとバックバーが増設されていた。俺がちょっくらエジプトで謎の宗教団体と戦っている間に、だ。しかもヒュームさんやクラウディオさん、ニコライさんも一枚噛んでいたらしく半月の間、従者部隊御用達のバーに修行に出され、マスターのスパルタ教育の末に合格を出され、こうやって従者たちに酒を提供することになっている。

 

で、今日はエルヴィン・・・・最近ではエル、と呼ぶようになり組む事も多くなった相棒ともう一人だけを呼んであとは『準備中』の札を提げといた。

 

「あいよ・・・・と言いたいところだがエル、シルヴィ、お前ら未成年だろうが。テメーらの国でどうだったかは知らんがここは日本、日本の法律に従えや」

「ふむ」

「え~!?ししょーのケチー!!」

 

シルヴィ・・・・シルヴィア・バレットは俺の直属の部下で、一応弟子ってことになる。とは言っても教えたのは従者としての基本と、ちょっとした護身術。だったんだが、超が付く程の感覚派であり学習能力が異様に高いコイツは見る見る間に序列が繰り上がり、入隊して半年で七百代と俺やエルよりも昇格が早い。だが仕事外ではこの通りである、外面に騙されてか若手の男性従者から人気は高いが実際はこんなもんである。

 

「・・・・矢張り、去るのか」

「ああ、元々そう言う話だったしな。それに・・・・『そうする必要』もできたしな」

 

エルの言葉に俺は頷きながら言葉を続ける。

 

「少々、不穏な動きがあるみたいでな」

 

元々、帝様は実力さえあれば多少の人格的不備は不問にしてしまう大雑把さがある。そのせいもあってかミス・マープルを筆頭として暗躍しそうな連中をそれなりに抱え込んでしまっている。俺が九鬼を一度離れるのをこれ幸いと、その辺りのアレやコレやをニコライさんから頼まれているわけだ。

 

「わざわざ俺とコイツを呼びつけるからには何かあるとは思ったが・・・・俺が見ておくべきはミス・マープルか?」

「それもだ、が・・・・『最上幽斎』を特に、との事だ」

「・・・・」

「え~、アタシあの人嫌いなんですけど」

 

俺だって好かねぇよ、特にアイツの眼。何考えてるか全く読めやしねぇし。

 

「お前らなら信頼出来るから頼んでんだ」

 

今回の一件、動いているのは俺とニコライさんだけ。必要に応じて仔細を伝え、協力を要請する事は許可されているが人数を可能な限り絞る事が条件として指定されている。九鬼に入って以来、最も多く組んで仕事をして、最も気心の知れているエル。普段の様子とは裏腹に口は堅く、ここぞという時の判断に長けるシルヴィ。本来ならステイシーや李さん、シェイラ辺りも引き入れたいところだったが前者二人は最近昇格したばかりで忙しいため、後者一人はゾズマさんのところに出向しているため断念した。他にもあずみさんも考えたが、英雄様の専属と言う立場上、動きに制限がかかってしまうと言う理由から省いた。

 

「まぁ、承った」

「信頼出来る、って言って貰えるならやれるだけやりますけどねぇー」

 

最も信頼すべき相棒と弟子が任せろ、と言ったのだ。九鬼内部の事は任せて、俺は外で出来る事をやりつつ、新たな非日常へと身を投じるとするかね。

 

幼馴染どもと過ごす、騒がしく暇をしない非日常へと、さ。




第十三話でした。

竜胆の弟子枠で登場しました新キャラ『シルヴィア・バレット』。重要、とまでは言いませんがちょいちょい出番のあるキャラになります。ユルくてグダグダだがやるときゃやる、そんな子です。ちょっとだけやる気がある弁慶みたいな感じですかね。

ともあれ、次回から原作時間軸に回帰します。

次回、第十三話『武神VS神槍』

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