真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

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第十二話:梁山泊と

さて、戦いで最も大変なのは?事前準備?戦闘中?いや・・・・戦後処理だ。

 

あの戦闘の後、林冲、武松、楊志の三名、他数十名の兵を捕縛した俺たちはそれを材料として梁山泊を交渉のテーブルに付かせることに成功した。クラウディオさん曰く、今回マフィアと事を構えた理由の一つがこれだったらしい。日本へ人材を求めていた梁山泊、中国での地盤を磐石としたかった九鬼財閥。利害の一致により、互の分を超えない程度に協力体勢を取る、と言う方向で話がついたらしい。

 

で、だ。

 

皆が事後処理に追われる中、大連支部の一室で俺は林冲、武松、楊志の三人に囲まれていた。

 

「で?どういうつもりだ」

「少し、私たちの話を聞いて欲しい」

「既にそちらの上司には話を通してある」

 

クラウディオさんが許可を出したか。ならそれなりに意味がある事、なんだろうな。

 

「私たち梁山泊が『異能』持ちを集めていると言う事は知っていると思う」

 

俺は無言で首を縦に振る。ヒュームさんからその話は聞いた事がある、楊志の『模倣』もそれだし武松の『発火』もそれだ。李さんやステイシー、シェイラにエルヴィンも『異能』持ちだと言っていたな。シェイラの『毒』はそれだとハッキリ分かるが後三人がどうなんかね?

 

「結城竜胆、貴方には『董平』『劉唐』、二星の才能が見られる」

「序列三番が言うには貴方は試験的な雇用期間、とも聞く」

「・・・・で?まさか梁山泊に来い、なんて言う気じゃないだろうな?」

「当たらずとも遠からず、って感じかな」

 

ここで楊志がようやく口を出してきた。

 

「まぁつまりさ、キミが将来就職先を選ぶ時に梁山泊を選択肢に入れて欲しいって話。それと引き入れるためにこっちも動かせてもらうからよろしく、って話」

「成る程ねぇ・・・・」

 

しかし『董平』と『劉唐』ねぇ。確か『双槍将』と『赤髪鬼』だっけか?この席次の決め方ってどういう基準なんかね?逸話とかそんなんか?

 

「まぁ、考えるだけ考えとくさァ」

 

元々、そのための仮採用なわけだし?最近序列がヌルヌル上がってるけど。気のせいだと思いたいけど。

 

「話は済んだようですね」

 

扉を開けてクラウディオさんが中へと入ってきた、この人タイミングを見計らってんじゃねーかってぐらいタイミング良く入ってきたりすんだよな。「簡単な事でございます」の一言で済ますし。

 

「早速で申し訳ありませんが竜胆、貴方には次の仕事(オーダー)です」

「了解、どっちに飛べば?」

 

そう言えば最近、俺の仕事って荒事多いよな?とすればゾズマさんのアフリカか、リカルドさんの南ヨーロッパか。どっちにしろ面倒事しかないな。

 

「日本に戻ってもらいます」

 

意外なお言葉が飛んできた気がしたな、これ。はねやすめをしろ、とかそんな感じか?

 

「詳細の内容は帝様とヒュームから伝えられるでしょう」

 

んな事は無かった(確信)。面倒事確定じゃねーかよ。

 

「それと今回の功績で昇格が確定しました、歴代最速での五百番代突破ですよ」

 

クラウディオさんから手渡された封筒、ゆっくりと開封し中身を開く。

 

『序列六百九十九位結城竜胆を本日付で序列四百八十位に任命する』

 

とだけ書かれていた。本当にスピード出世だな、俺。研修期間終了直後が七百六十二位、そこから二年半でコレだもんな。最早囲い込みのための作為的なモノまで感じないでも無いが・・・・うん、無いな。そこら辺は完全実力主義で公正さを欠かないのが九鬼財閥だ、そこに疑う余地はない。

 

「何て言うか・・・・本当の意味での実力主義なのだな、九鬼財閥は」

 

感心からか、そんな事を口に出したのは武松だ。

 

「梁山泊は違うのか?」

「ああ、梁山泊はそもそも『異能』が無ければ席次を得る事すら出来ない」

 

まぁ、それがウリの傭兵集団なんだから当たり前っちゃ当たり前だが・・・・

 

「「勿体無い」」

 

俺とクラウディオさんの言葉が被る、と思わず二人で顔を見合わせて笑う。確かに『異能』に分類されるような能力は希少であり有用性も高い、だが人の真価とは『異能』だけではない。『異能』に該当するような力を持たずとも『才能』と『能力』を秘めている可能性がある。その最たる例がクラウディオさんだったりニコライさんだったりするわけだ。え?俺とかヒュームさん?何か知らんがステイシーとシェイラに『人外』のカテゴリーで一括りにされたな。・・・・まぁ、その後に二人揃って画面端に叩きつけられてたが。

 

「どうです?クラウディオさん、梁山泊の中でも『異能』をもたない事を理由に席次が貰えない連中を引き抜いてみるってのは」

「一考の価値はありますね」

 

俺とクラウディオさんの会話に驚きを隠さないのが林冲、平静を装いつつも動揺が見え隠れしているのが武松と楊志。

 

「それ、目の前で堂々と言う?」

 

口を開いたのは楊志だ。

 

「何か問題があるか?何も席次持ちを引き抜こうってわけじゃねぇ、おたくらで『資格無し』と判断した奴らを貰い受けようと思ってるだけだぜ?」

 

梁山泊や俺ら従者部隊みたいに序列、席次がハッキリしている場所でその末席にすら座れないってのは『お先真っ暗』『将来性皆無』って宣言されてんのと同じだ。『異能』まで至らないだけで『才能』があるヤツってのは探せば結構いるもんだ。一兵卒で終わらせるのは勿体無いだろ、それ。

 

「日本にゃ『捨てる神あれば拾う神あり』って言葉があってな、どうだ?いっちょ紹介しちゃくれねーかぃ?」

「「「・・・・」」」

 

梁山泊の三人が顔を見合わせる。

 

「九鬼に行けば、道が開ける者が増えるだろうか?」

 

そう、最初に口を開いたのは林冲だ。

 

「少なくとも梁山泊にいるよりはな」

 

梁山泊の『異能』至上主義よりも九鬼の完全実力主義のほうがまだ可能性はあるだろう。梁山泊にいる、と言う時点で少なくとも一定以上の能力は持っているわけだし。

 

「お願いする」

「リン!?」

「・・・・何を言ってるか分かってる?リン」

 

林冲を咎める武松と楊志、まぁ言うなれば自ら仲間を売るような行為なわけだしな。

 

「『異能』が開花せず先が見えない、私はその苦しみを『良く知っている』。だからこそ、救いがあるなら、救いを望む者がいるなら・・・・私はそのチャンスを掴んで欲しい」

 

人に歴史あり、林冲には林冲なりの事情と思いがあるらしいな。

 

「ただし条件がある」

「聞こう」

「一つは当人の同意を得る事、一つは勧誘の交渉の場にはこちら側から必ず誰かを付ける」

「ふむ・・・・」

 

一つ目は当然だ、無理矢理引き入れても意味は無いからな。だが二つ目は・・・・まぁ、ある種の不正防止かな。在らぬ誹謗中傷、あからさまに金銭や待遇をチラつかせて、と言うのを防ぐためだろう。まぁそこが落としどころか。

 

「承った」

 

そう言う交渉はヒュームさんやクラウディオさん、リカルドさんの仕事だ。俺が出来るのはここまで、って事でだ。

 

「んじゃあクラウディオさん、あとはお任せします。俺は戻る準備をしなけりゃならんので」

「ええ、良い余暇を」

 

部屋を出て、まずはあてがわれた部屋へと歩き出す。

 

「しかし・・・・帝様とヒュームさんからの仕事、って」

 

嫌な予感しかしねぇが、まぁ仕方あるめぇよ。やれるだけ、やってみますかぃ。




第十二話でした。

半月近くダラダラと書いた挙句このザマ。駄菓子菓子、次回で九鬼財閥編は終了(改訂しても短いモノは短い)。本編に突入すればイケルはず(((゚Д゚)))ガタガタ

と言うわけで次回で九鬼財閥編は終了です。

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