真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

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第十一話:『焔』と『炎』

エルヴィンと俺、そして数名の従者。角一つ曲がると目的のビルの裏口がそこにある。

 

『竜胆、エルヴィン、李・・・・準備は宜しいですか?』

「いつでも行けます」

「右に同じく」

『はい、問題ありません』

 

今回の作戦はシンプル、かつ古来より有効である事が証明されて来た『囮作戦』だ。囮はクラウディオさんと李さんが率いる従者五十名の部隊、そして俺とエルヴィンが率いる十名の部隊。本命は昨日、ヒュームさんが急遽送り込んできたとある従者が務める。梁山泊勢を俺らが抑え込み、その間にマフィアの親玉をその従者が捕る。梁山泊は傭兵、雇い主さえ抑えてしまえば戦闘を中止せざるをえず、そうすれば無理にやり合う必要はないと言うわけだ。

 

俺たちは裏口担当、表が囮で俺たちが本命、と見せかけるのが狙いなわけだ。

 

『では作戦を開始します、各自手筈通りに』

 

クラウディオさんの合図と共にこちら側の十名が同時に走りだす。

 

「さて、俺たちは貧乏クジか否か?」

 

不意に、そんな事を言い出したエルヴィン。俺は行先に視線を向けたまま、言葉を返す。

 

「んなもん決まってんだろうが」

 

後続に停止の合図を出し、足を止める。立ちはだかるのは二人の少女と複数の兵たち。

 

「どれを選んでも貧乏クジだよ、こんなもん」

 

ビルを挟んだ向こう側から爆発音が響く。向こうも面倒事になってるみたいだ。

 

「ここからは通行禁止だ、去れ」

 

そう声をかけてきたのは槍を携えた少女の方、俺は『陽炎』の包みを解きながら返す。

 

「ソイツは無理な話だ、俺たちもお前らも『仕事』だろ?なら互いに『退く』って選択肢はあり得ない・・・・違うか?」

「その通りだな・・・・リン、お前が優しいのは分かるがこういう事だ」

 

もう一人の少女が、手のひらに炎を発して前へと進み出る。

 

「成る程、コイツが俺の相手らしいな。エルヴィン、そっちは任せるぜ?」

「お前に限っては大丈夫だと思うが・・・・下手を打つなよ」

 

そう言ってこちらに右の拳を突き出してくるエルヴィン、俺も空いた左の拳を突き出す。

 

「他人の心配する前にテメーの心配をしな、それに俺の勘じゃあ場合によっちゃあの槍使いの嬢ちゃんの方が『面倒』だ」

「お前の勘は当たるから困る・・・・」

 

俺は笑いながら、エルヴィンは苦笑しながら、突き出した拳をぶつけ合う。

 

「散開!!」

「各自予定通りに行動を起こせ!!」

『はっ!!』

 

俺とエルヴィンの掛け声で全員が一斉に駆け出した。

 

―――――――――

 

「ったくよぉ、これって労災適応されんのかね?」

 

炎と言うのは旧くから人の営みを時に支え、時に脅かし続けてきた存在である。『燃える』なんて一括りに言うが、それが人体に及ぼす影響は相当なモノだ。炎そのものが持つ『熱量』による傷は癒え難く、『燃焼』することにより発生した『煙』は視界を奪い、『一酸化炭素』は『呼吸』を奪う。

 

「さぁな・・・・九鬼の就業規則などは知らないからな」

「だよなァ」

 

武松、と名乗ったこの少女。のっけから俺を周囲から引き離すように動いていた。まぁ俺もその方が『やり易い』と言う事もありそれに乗ったわけだが・・・・まぁ見事に罠に嵌められちまったってわけだ。パッと見じゃあ気づかなかったが木造の廃家や廃棄された製材所、燃えやすいモノが大量にある。しかも周囲を川に囲まれていたり、大きめの道路が走っていたり、類焼の危険性を抑止するようになっている。必要以上の被害を出さないための配慮ってわけだ。結果として・・・・辺り一帯が文字通り火の海になってるわけだが。

 

「・・・・まァなんだ、誰かが見てる気配も無ェ。だからさァ、ここで見たモノは口外すんなよ?」

 

未完成な技だし、『奥の手』だから。下手に見られて広められちゃあ、つまらんことになるからよ。

 

「!」

 

『陽炎』を地面に突き立てとく。まぁアレだ、未完成だから武器に『纏う』とか練習してねぇし、失敗して壊したら半端無い罪悪感に苛まれそうだし。

 

「んじゃま、第二ラウンドと行こうや」

 

俺の両手には揺らめく『黄色い炎』。

 

「一つ言っとく、俺の炎はかなり熱いぜ?」

 

 

side 武松

 

今回の任務は九鬼従者部隊との戦闘。本来ならばなるべく事を構えたくない相手ではあったが仕事だ、やむを得ないと言う事で可能な限りの戦力を投入することになった。一度目の侵攻は実力者である序列三番のクラウディオ・ネエロを私、リン、楊志の三人がかりで抑え込む事で退却へと追い込んだ。

 

二度目、今度は人材を増員して来た。あまり名が知られていない者が多かった、があの序列三番が連れて来た人材なのだから相当な実力者なのだろう。私とリンが相手をするのは日本人とドイツ人の二人組、どちらも同じぐらいの年頃だろうか。片方は素手、片方は槍、定石通りならばリンが素手のドイツ人を、私が槍の日本人を相手にするのが常套手段だろう。

 

「ここからは通行禁止だ、去れ」

 

リンが、警告を発する。だが・・・・

 

「ソイツは無理な話だ、俺たちもお前らも『仕事』だろ?なら互いに『退く』って選択肢はあり得ない・・・・違うか?」

「その通りだな・・・・リン、お前が優しいのは分かるがこういう事だ」

 

当然。相手からの返答は『否』、ならば取るべき対応は自ずと決まってくる。二人が後方の仲間へと指示を出し、向かってくる。矢張り私に向かってくるのは槍の方のようだ。相当に強い、本気を出さねばまずやられるだろう。だがここで本気を出せばリンや、他の仲間にも被害が出る。少しづつ、相手を釣り出すように動く。

 

「竜胆さん!!」

 

相手にも、目端が利く者がいるようだ。失敗か?そう、思ったのだが・・・・

 

「気にすんな!分かってんだろ?」

 

・・・・どうやら、相手も私を釣り出すのが目的だったようだ。初めて会った相手だと言うのに、阿吽の呼吸のように私が走り出し、それを相手が追いかけてくる。互いにわかっている、だから移動中は手を出さない。例え、私の用意したフィールドに誘い込まれていると分かっていてもあちらは手を出してこない。

 

数分後、私たちは廃棄された製材所へと来ていた。木造の建物が多く燃えるモノが多い、その代わり周囲を大きな道路や水路に囲まれていて必要以上に延焼したりはしない。私に明らかに有利なフィールドだ。

 

「さぁ、ここなら邪魔は入らない」

「ここなら有利に戦える、の間違いだろ?」

 

矢張り分かっていてついてきたのか、よほどの粋狂者か、或いは・・・・

 

「ならば参る・・・・『烈火球』!」

 

私が大量に生成し放った火球を、相手は槍で、槍で間に合わなければ掌打と蹴りで弾いていく。その動きはあくまで基本に忠実、徐々にこちらの火球の熱で体中に火傷、服も焦げていく。

 

「ったくよぉ、これって労災適応されんのかね?」

 

ふと、相手はそんな事を言いだす。こちらのほうが圧していると言うのに、あちらの顔には未だ余裕が垣間見える。

 

「さぁな・・・・九鬼の就業規則などは知らないからな」

「だよなァ」

 

不敵な笑みを浮かべるその姿に、心なしか悪寒を覚えた。これは・・・・そうだ、炎を満足に操れなかった頃に野生の熊に殺されかけた時。あの時に酷似した感覚だ。

 

「・・・・まァなんだ、誰かが見てる気配も無ェ。だからさァ、ここで見たモノは口外すんなよ?」

 

僅かに芽生えた悪寒が、急速に膨れ上がる。

 

「!」

 

槍を地面に突き刺すと、その両手から『黄色い炎』が発せられた。

 

「んじゃま、第二ラウンドと行こうや」

 

いるとは思っていた、世界を探せば自分と同じで炎を操る者はいるのだろうと。

 

「一つ言っとく、俺の炎はかなり熱いぜ?」

 

だがまさか、こんなところで出会うとは思っても見なかったのだ。しかし、私の発する炎とは色が違う。色の違いがなんだ、と思うのだが嫌な感覚は払拭出来ない。

 

「・・・・来い」

 

それでも引き下がれないんだ。

 

 

―――――――――

 

「・・・・来い」

 

多分、俺の『焔』に嫌な予感を覚えたんだろ?なのに逃げる事もせず、立ち向かう事を選んだわけだ。その予感は正しく、その判断は本来は正しくない。戻って下っ端にエルヴィンを押し付けて、その上で二人か、もしくはそれ以上の人数で俺を圧潰すべきだった。

 

「それ、生来生まれ持った『異能』だろう?だからこそよぉ、理解し研磨する事を忘れちゃいかんよ。『槍製一本・焔星』」

 

気の焔で生成したのは一本の槍、穂先を地面へと掠らせればアスファルトが焦げる。

 

「オラァ!油断してんじゃねぇぞ!!」

「っ!」

 

ニコライさん直伝の『縮地』で間合いを詰め、連続の突きを繰り出す。

 

「馬鹿な・・・・」

 

無表情の中に初めて見えた焦り。まぁ、焦るだろうよ。同じ炎でガードしたにも関わらず、そのガードを貫通して自身に焔によるダメージが入ってんだからよ。両腕にいくつか火傷が出来てるぜ?

 

「知ってるか?火ってよ、熱量が上がると色が変わる。赤から黄色、黄色から白へとな」

 

「今は黄色い焔で限界だからよ、これが俺の最大の技だ」

 

「喰らいな・・・・『焔蝗(えんこう)』」

 

以前の俺の技で一番威力のあった『飛龍一閃』、あれを剛の技とするならコイツは柔の技。

 

ゴォッ!!!?

 

「っ!?ぁああああああああああああ!!!!」

 

焔の槍は相手に当たったと同時に相手へと燃え移り、まるで大地を覆い尽くす(いなご)のように相手の全身を焔で包む。

 

「寝とけ」

「ガッ!?」

 

少しの間、焔の熱さと痛みでのたうち回っていた武松。歩み寄ってその顎を蹴りの一発で打ち抜く、とその身を蝕んでいた焔が消える。仕組みは簡単、俺の焔は相手の気を喰らって燃え盛る。つまりは気が練れない状態になるか、スッカラカンになるかのどっちかで消えるってわけだ。

 

「あー、でも燃費悪ぃなこれ」

 

問題があるとすれば一発打つだけで俺の気が半分ぐらい無くなるってことかな?理想形としては最低限の火種で相手の気を燃やし尽くすって感じなんだけどよ。しかも格上相手だと俺が気に乗せた『蝕む』性質が無効化されんだよね、これ。

 

『竜胆、聞こえるか』

「ああ、聞こえるぜ」

 

胸の内ポケットにしまっていた無線機からエルヴィンの声が響く。

 

『作戦は成功だ、梁山泊の大多数も降伏。負傷者手当のため従者部隊も梁山泊勢も一度大連支部に収容するそうだ』

「了解だ、こっちも決着ついたから今から行く」

『了解』

 

通信を切ると、俺は武松を抱き上げる。

 

「さて・・・・行くか」

 

戦いは終わったのだ、治療してやらにゃあな。




第十一話でした。

マジ恋小説を書いておきながらなんですが・・・・やっぱり戦闘描写は難しいですねw
とは言え、改定前と同様、竜胆君は火属性を習得してます。前より近接寄りになった分、技もそっちよりになっていくとは思いますが。
現時点では火力、自在性共に武松よりやや上、と言った感じになります。
そう言えばヒロインに武松と楊志をいれてください、と言う直談判(!?)がありまして。で・・・・「その手もあったか!?」って感じで武松がヒロイン候補に躍り出ました。・・・・楊志?楊志は梁山泊系ヒロインをいじると言う大役があるのでヒロインには出来ませんよw

と言うわけで次回、竜胆と武松の絡みはもうちょっと続きます。

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