真剣で神槍に恋しなさい!   作:むこうぶち

1 / 20
第一話:結城竜胆の日常

俺、結城竜胆の朝は早い。

 

「ふっ!はっ!」

 

他の修行僧より早く起き、朝一で槍の素振りをする。わざわざ誰もいないこの時間にやっているのは、まぁ・・・・アレだ、あんまり他の連中に頑張ってる姿を見せたくないからだ。特別な理由なんて無い、強いて言うならその方がカッコいいからだ。

百回事に柄の持ち方を長め、中程、短めと変えながら突き上げ、払い、巻き、回転を繰り返す。投槍、柄や石突での打撃、そこからの関節技の連携などをイメージトレーニングを踏まえ繰り返していく。

 

本来、こう言う事は無心で行うのが一番である。だが俺の頭の中には一つの欲求が去来していた、そう・・・・

 

『必殺技が欲しい』

 

まだそう言うのは早い、とか言われそうだけどさ?俺だって男の子だぜ?年齢詐称とかよく言われるけど、それでも男の子なんですよ。まぁ、どこぞの戦闘狂とは違って自制心あるし?師匠が教えてくれるまで大人しく待つけど。

 

―――

 

他の修行僧たちが起床、朝のランニングを始めるので参加・・・・しようと・・・・

 

「やぁオハヨウ!竜胆」

「おはようございます、ルー師範代」

 

した俺に声をかけてきたのが、ルー・イー。この川神院に二人いる師範代の真面目な方、丁寧な教え方と熱心な態度から修行僧からの人気は高い。真夏でも真冬でもジャージ姿で、少しばかりネーミングセンスがアレな人。

 

「今からランニングかイ?」

「はい、他の人といっしょに行こうと思ったんですがね」

「アー、今からと言うところで申し訳無いんだが・・・・」

「・・・・いつもの、ですね。わかってますって」

 

非常に申し訳なさそうな顔のルー師範代を見ていると、無下にもできず。俺は諦めてため息をつきながら、川神院内にある居住区画へと向かうのだ。

 

―――

先に訪れたのはとある部屋、ここには俺の幼馴染・・・・まぁ腐れ縁的な奴がいる。

 

「起きろ百代、時間だぞ」

 

幼馴染で腐れ縁、とは言え相手は一応女子だ。女子とは思えぬほど暴力的で強くて女子力低い代わりに男子力が高かろうが、一応は女子だ、大事な事だから一応二度言っとくぞ。先ずは部屋の外から、襖を軽めに叩いて声をかけてみる・・・・が、案の定返事はなく寝息だけが聞こえてくる。

 

「・・・・ったく」

 

ため息を一つ、してから襖を開けて部屋へと入る。寝巻きを半分はだけさせて口からよだれを垂らして寝ているのが川神百代、幼馴染にして腐れ縁。一応は一つ年上なのだが付き合いが長いせいか、お互いそこらへんは気にしなくなっている。既にこの歳で川神院の総代候補への話も上がっているほどに才能と実力を持っていて、いずれは『武神』と呼ばれるのでは無いかと言われている程だ。が性格は先も言ったとおりであり、現総代もそこら辺が不安だそうな(主に異性関連)。

 

「さて」

 

今の俺には三つの選択肢がある。一つは物理的にたたき起こす、ただしこれは寝ぼけた百代に反撃を受ける恐れがある。一つは諦めずに声をかけ続ける、この場合は起きる確率が限りなくゼロだ。となれば最後の一つか。

 

「おい百代、とっとと起きろ・・・・じゃないと」

 

百代の耳元にまで顔を近づけ、俺は魔法の呪文を呟いた。

 

「お前の前髪をストレートにするぞ」

「うわぁああああっ!!やめろよぉおっ!!」

 

百代は普段、前髪をクロスさせているのだがこれをストレートに直されるのを極端に嫌がるのだ。だがこの起こし方でも注意が必要である、物理的に起こすよりも攻撃される可能性が高いのだ。だが寝ぼけている時の百代の攻撃は読めないが、意識がハッキリしてて混乱してる分、こっちの方がまだ読めるわけで・・・・

 

「どぉおっ!?」

 

っと、俺に拳が飛んでくる。最近は慣れたから何となくでタイミングを察知し避ける事もできるようになったが、少し前までは避け損ねて殴り飛ばされる事も多々あった。

 

「何するんだっ!」

「前々から言ってたが・・・・こっちのセリフだぁああああああ!!!」

 

―――

あの後、百代と少々じゃれあいと言う名の殴り合いをしてから今度はもう一人の部屋へと赴く。中からは高いびき、今度起こすべき相手は男なので今度は遠慮なく襖を開け放つ。

 

「起きろクソ師匠、時間だ」

「あぁ?・・・・二日酔いなんだよ、後二時間は寝かせろや・・・・」

 

発言からしてダメ人間なこの男が、俺の師匠であり川神院のもう一人の師範代である釈迦堂刑部だ。見た目通りに不真面目だが実力は世界でも指折り、でも教え方が適当なうえ荒いので修行僧からの人気は低く、ルー師範代と育成方針でぶつかる事もしばしば。まぁぶつかれる、と言う事はそれなりに信念持って教えてると思うんだが。

 

「バカ言ってんじゃないよ、アンタ自分をなんだと思ってんだ。立場わきまえろ・・・・」

「へーへー、ったくテメェは俺の親かなんかか」

「ともかく、昼間の鍛錬はサボっても構わんが朝一の鍛錬ぐらいしっかりやってくれよ」

「わーったよ」

 

才能の塊、とでも言うべきなのだろう。百代と同等か、下手をすればそれ以上の素質があるのに努力を嫌う。それ故にハッキリとした格上相手だと師匠は負ける、同格でも相手の方が技量が上なら危うい。だが師匠は未だそれに気づいていない、格下・・・・と言ってしまえば失礼だが、ルー師範代あたりが師匠に勝つ事があれば。それは師匠にとって奮起する材料となると思うのだが・・・・

 

―――

「オラオラオラァッ!!休んでる暇ぁねぇぞっ!!」

「っ!ぉおおおおおおおっ!!!」

 

朝のロードワークを終え、朝食後は何時も師匠との組手だ。師匠は必要最低限しか技を教えてはくれない、一度だけ理由を訪ねた事があったがそれは思っていたよりも理にかなった回答だった。

 

『あのなぁ、オメェの専門は槍。俺の専門は素手、そもそも畑違いなんだよ。そのオメェに色々俺の技ぁ手当たり次第に教えたって仕方ねぇだろうが、だから適性見てピンポイントで教えるつもりなんだよ』

 

実際、教えてもらった素手の技は両手で足りるぐらいだ。後はトコトン組手、来る日も来る日も飽きるまで組手。実戦に勝る鍛錬は無し、ひたすらに釈迦堂刑部と言う格上に挑み続ける日々。っつーか何でこの師匠(オッサン)朝は二日酔いでーとか言ってたクセに組手になるとアホみてーに元気になるんだよ!

 

「捌ききって見せろぉ!川神流『無双正拳突き・乱れ打ち』ぃっ!!」

「んなろぉおっ!!『百華』!!」

 

師匠が繰り出すのは奥義にまで昇華させられた正拳突きの連打、それに対抗するのは俺が五年と言う期間で妙技にまで進化させた連続突き。片っ端から繰り出された正拳突きを迎撃するが、次第に体力と集中力の限界が訪れ、こちらの突きが精彩を欠く。

 

「うぉおおおおおおゲフゥッ!!?」

 

とうとう、捌ききれなかったうちの一発がボディに直撃し視界がグルグルと目まぐるしく移り変わり最後には上下逆さまの状態で静止する。静止はしたがそれでも全ての輪郭がボヤけている、どうやら壁に激突したっぽい。

 

「前よか速度も威力も上がってきたが・・・・やっぱまだまだ体力不足だな、とは言えあと五年もしたら分からねぇな」

「んにゃろう・・・・五年後にぜってーぶっ飛ばす」

「へへっ、やれるもんならやってみな」

 

と、凄まじく見るものをイラッとさせる笑顔で言われた。ので訂正する、五年なんて言わねぇ。年内にぶっ飛ばしてやる、俺の精神を安定させるためにも。

 

「りーん♪私と組手だ!」

 

毎度のことながらフェードインして来る百代、組手だと?ハッ・・・・・

 

「無理」

 

師匠とやりあった直後な上に、最後に直撃もらった俺がまともに動けるワケ無いだろう。お前ら川神一族みたいなバケモノスペックじゃないんだぞ?俺。耐久度は高くても腕の方が動かんよ、マジで。

 

「釈迦堂さーん、ちょっとは手加減してやってくださいよー。私にまで回ってこないじゃないですか」

 

前半だけ聞けば、後輩に甘い先輩がコーチに抗議してるだけだ。が、後半を聞くとただのイジメにしか聞こえない。

 

「アホか、手ぇ抜いたら修行にならねぇだろうが。ただでさえ技のレパートリー少ねぇんだから基礎鍛えるしかねぇだろ」

 

そして師匠がまともな事言ってる、もしかして明日は雨か槍かな。まさか・・・・星殺しが降ってきたりしないよな!?

 

「・・・・百代、コイツ連れてって好きにしていいぞ?」

「ちょっ!?」

「はーい、行くぞっ!リンっ!」

「待っ!助けて総代っ!私刑(リンチ)されるぅっ!!」

 

こういう時は師匠は当てにならない、ルー師範代ですら苦笑いしている、きっと子供のじゃれあいぐらいに思ってるんだろう。だが俺がコイツ相手に互角に戦えるのは寝起きの色々と雑な時だけ、まともに眼が覚めたコイツと戦えるワケ無い!そういう事で、この川神院で最大の実力者で権力者である総代へとたすけを求める。

 

「ふぉふぉふぉっ」

 

川神鉄心、川神院総代であり見るからにヨボヨボなのにめっちゃくちゃ強い爺さん。ちょっと色ボケしてたり、お茶目だったりするが現役でも最強クラス。その総代が、スゥーと流れるような動きで右手を前へと突き出し親指をピッと・・・・そう、いわゆるサムズアップで。

 

「頑張れ!」

「ザケンなクソジジイィイイイイイイイッ!!!」

 

俺に、味方はいない。

 

―――

 

「マジで死ぬかと思った」

「むしろアレだけやって無傷な方がおかしいと思うんだけどな、私は」

 

そうか?

 

「無双正拳突きをガードして、星殺しは受け流して、致死蛍当たってもノーダメって」

 

うん、聞けば聞くほど自分でもおかしいと思えてしまう。あれ?もしかして俺、人外の領域に足を踏み入れてる?

 

ソンナバカナ。




というわけで改訂後第一話でした。

こんな感じで途中まではまぁ、ほぼほぼ加筆修正の領域に留まります。竜舌蘭の話ぐらいまではですかね?その後からちょいちょい話を変えていきます、竜胆君もステータス更新されます、マジで。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。