IS 亡国の死神   作:ふくちか

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Ⅱ.IS学園

 

 

『一夏、IS学園に潜入してくれるか?』

 

久しぶりの休日を謳歌していた俺の携帯に、そんな連絡が入ってきたのは、あくる日の昼下がり。

 

「何でだ?」

『今度、学園でクラス対抗戦なるものが催されるようでな』

「へぇ」

『恐らくはウサギの介入が予想される』

 

ウサギ、という単語に、俺は僅かに反応する。

 

「……成程。ハルか?」

『そう言う事じゃ。なに、お前さんの技術力なら潜入なぞあっという間じゃろうて。監視システムはハッキングしておいてやるから』

「りょーかい………って、俺一人かよ?!」

『一人でも十分じゃろ?あれならスコールでも遣わそうか?』

「………一人でいいっす」

 

金髪の美人の同僚を思い浮かべ、俺は一人で行くことにした。

だって絶対その後ロクな目に遭わない事が分かっているからだ。

 

『では頼んだぞ』

 

通信を終えると、俺はその場から存在を消した。

 

 

 

 

『さぁて…………忙しくなりそうだぜ』

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

初めまして、皆さん。

 

僕の名前は織斑春十です。

今年から――――女子高であったIS学園に入学することになりました。

 

何故かと言われれば、女性しか動かせなかったISを男である僕が動かせたからです。

始めは困惑したし、そのあと様々な研究機関から『解剖させてくれ』と頼まれたりしました。

 

そしてあれよあれよと、僕はあらゆる国家から独立したIS学園に入学することに。

姉さん曰く、ここならばあらゆる国家は手出しができないから、だそうです。

 

 

………きっと、兄さんが生きていたら、親身になって話を聞いてくれたんだろうなぁと思います。

 

 

突然ですが、僕には千冬姉さんの他に、兄が一人いました。

 

 

名前は一夏兄さん。

世間から天才と持て囃される僕や姉さんと違い、兄さんはこれといった才能は特にない、普通の人でした。

 

でも、僕にとっては誰よりも頼りになる兄さんでした。

「天才」であるが故に疎まれて、暴力を振るわれていた時、兄さんは迷わず僕を助けてくれました。

 

『俺の弟を虐める奴は許さねぇぞ!!』

 

そう力強く吠えた後、兄さんは上級生を返り討ちにしてしまいました。

ボロボロになりながらも僕の前に立つ兄さんの背中は誰よりも大きく、頼り甲斐のある物でした。

 

 

だけど二年前――――兄さんは僕と間違われる形で誘拐され、生死不明となりました。

 

僕は勿論、あの気丈な姉さんも、その日は一晩中人目も憚らずに泣きました。

それだけ、お互い兄さんの存在に救われていたから…………。

 

さらに、僕は兄さんの友人の弾、数馬から兄さんが僕たちと比べられて虐められていたことを聞きました。

 

どうして、僕達はもっと早くに気づけなかったのか………兄さんが消えたその日からずっと、考えています。

でも、恐らく兄さんはこう言うんだろうとも思います。 

 

 

『過ぎた事を気に病んだって仕方ないだろ?』

 

 

兄さんは優しいから、きっと理不尽な事でも怒ったりはしない。

 

 

 

 

 

「兄さん………今日、鈴との試合があるんだ」

 

クラス対抗戦前、僕は写真の中の兄さんに語り掛ける。

 

「彼女、中国の代表候補性になっていたんだ……ビックリだよね。あんなに勉強嫌いだったのに」

 

返事が返ってくる訳でもない。

 

だけどそれでも、不思議と気持ちが安らぐんだ…………。

 

「じゃぁ――――行ってくるよ」

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

一組と二組の代表戦が始まり、IS学園の観客席は熱気に包まれる。

 

それを観客席の陰から観戦する者がいた。

日陰ではあるが決して気づかない事はないであろうその場所にいる青年だが、不思議と誰もその存在に気づいてはいなかった。

 

 

『大分凛々しくなったじゃねぇか………ハル』

 

 

 

青年は、薄く笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 


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