この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第七話 - この素晴らしい町でキャベツ狩りを!

「それで、緊急クエストって言われて来たけど…一体何が始まるんだ?何も居ないようだが…」

 

「いいや、俺にも分からないな。…なぁ、アクア。何が来るんだ?」

 

装備を整えて正門に向かうと、もう既に冒険者達が集まっていた。

一体何が始まるのか分からない俺とカズマはアクアに尋ねる。

 

「あぁ、二人には言ってなかったっけ?キャベツよ、キャベツ。…この世界のキャベツはね、飛ぶのよ。」

 

「「は?」」

 

目の前の女神が何を言っているのか、俺達二人にはさっぱり分からなかった。

 

聞くところによると、収穫の時期になると抵抗するかのようにキャベツが飛ぶらしい。逃げ出したキャベツは遠くに言ってしまう為、逃がすと誰の口にも運ばれずに枯れてしまうので、冒険者達が捕まえて売るらしい…なんだそれ。

 

「収穫だぁぁぁ!!!!!!」

 

「「「「「おーっ!」」」」」

 

誰かが声を上げると、それに反応してその場にいる冒険者達が声を上げる。…なんだこれ。

 

「…なぁ、カズマ。」

 

「…なんだ?」

 

「…帰っていいか?」

 

「…奇遇だな、俺も同じことを考えてた。」

 

そう言った所で、後ろからダクネスが話しかけてきた。

 

「カズマ、アキラ。丁度いい機会だ。私の"クルセイダー"としての実力、見ていてくれ。」

 

そう言って、ダクネスはキャベツの群れに向かって剣を振るう!

…綺麗な、空気を切る音だけが聞こえてきた。

 

その後、何度も剣を振るうが、その剣が獲物を捉えることはない。

溜息をつこうとした刹那、どこかからか冒険者の叫び声が聞こえた。

そちらを向くと、冒険者がキャベツに不意を突かれたようだ。

 

隙を見せたが最後、キャベツが冒険者に向かって飛んでいく。

もうダメだ!そう思った瞬間、何者かが冒険者の前に立ち、その身を挺して冒険者を庇った。

 

そう、ダクネスだ。

 

「ここは私が…今の内にっ…!」

 

「ダクネスッ!」

 

自らの身を盾に、無数のキャベツを体で受け、鎧をボロボロにし冒険者を庇うダクネスが先程までとは違い、一瞬だけ本物の女騎士の様に見えた。…そう、一瞬だけ。

 

「…ん?」

 

隣に居るカズマも、何かに気がついたようだ。

 

「…カズマさんや、あれってもしかして…」

 

「あぁ、悦んでいるな。」

 

その姿を見て、周りの冒険者達は賞賛の声を上げる。…気づいてるのは俺達だけかぁ…。

 

そう、思っていると近くから聞き覚えのある少女の声が聞こえた。

 

「ふふひ…あれ程の数の敵を前にして爆裂魔法を放つ衝動が抑えられようか…いや、ない!」

 

「「いや、抑えろよ!」」

 

誰が背負って帰ることになると思ってんだ!

そんなことを言っていると、めぐみんが詠唱を始める…あれ、この前と違うような…?

そう思っていたら、丁度めぐみんが詠唱を終えた。

 

「《エクスプロージョン》ッッッ!!!」

 

キャベツの群れの真ん中に、大きな爆弾が落とされた。…他の冒険者を巻き込んで。

 

「って、あんなことしたら全部めぐみんに狩られちまうじゃねぇか!カズマ、行くぞ!」

 

「お、おい!どうしたんだよ!急にやる気になって…」

 

ハッと気が付き、カズマを引っ張りながら手に作り出したナイフを握る。

 

「キャベツの売値!さっき言ってたんだが、あいつらひと玉1万エリスで買い取るらしいぞ!」

 

「はぁ!?なんだよそれ!急がねぇと!」

 

そうして俺は、キャベツの群れをカズマと共に狩り始めた。

 

 

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「納得いかねぇ…なんでキャベツの野菜炒めがこんなに旨いんだ…」

 

「まぁまぁ、カズマさんや。折角なんだからもっと楽しまないと。」

 

不服そうな顔で野菜炒めを頬張るカズマに、俺は声をかける。

 

「そうよ!…それにしても貴方、流石クルセイダーね!あの鉄壁の守りには流石のキャベツ達も攻めあぐねてたわ。」

 

「確かにな、例え攻撃は当たらなくても、その耐久力は武器になる。」

 

「よ、止してくれ…私など、ただ堅いだけの女だ。誰かの壁になって、守ることしか取得がない。」

 

「アクアの花鳥風月も見事でした。まさか、冒険者達の指揮を高めつつ、冷水でキャベツの鮮度を保つとは。」

 

「まぁね、皆を癒す"アークプリースト"としては当然よ!」

 

「…それ、大事か?」

 

「めぐみんの魔法も凄まじかったぞ…キャベツの群れを一撃で吹き飛ばしていたではないか。」

 

「ふふん、紅魔の血の力、思い知りましたか!」

 

「あぁ、あんな火力の直撃…食らったことは無いっ!」

 

いや、直撃して無事だったのかよ。

そう思いながら、俺達のパーティの上級職組はお互いを称え合う。

あぁ言うのが、パーティ全体のやる気を上げる事になるから馬鹿にしてはいけない。

 

「あっ、カズマ!貴方も中々だったわよ!」

 

「確かに、《スティール》と《潜伏》をあのように使うとはな!」

 

「ええ、華麗にキャベツを捕まえる様はまるで暗殺者のようでした!」

 

恐らく、このメンバーの中でもトップクラスにキャベツを捕まえたであろうカズマは、呆れた様子で俺に声をかけてきた。

 

「なぁ、アキラ…ひとつ聞いていいか?」

 

「…?なんだ。」

 

「どうして…お前はそこで料理をしているんだ?」

 

そう、カズマが言うと後ろでお玉を動かす俺の手が止まった。

 

「いやー、レベルが上がって鉄に変換が出来るようになったからな!とりあえず鍋作って、ギルドの人に許可貰って、ここで料理振舞ってる!」

 

「いやどうしてそうなるんだよ!」

 

「…そこにキャベツがあるから?ほれ、新しい料理が出来たぞ。」

 

そう言うと、鍋からロールキャベツを皿に盛り、皆の前に出す。

その出来栄えに、カズマ以外は目を光らせる。

 

「それに、キャベツも野菜炒めだけじゃなくて色んな食べ方をしてあげた方が喜ぶだろ?」

 

「はぁ…もういいや…俺は何にも言わないさ…」

 

カズマが諦めた様に肩を落とすと、大釜で作っていたキャベツのスープを給仕担当の人に渡して各テーブルに配ってもらう。

いいね!ボランティアとは言え、仕事してるって!

 

「所で、アキラのそのスキルは何なんだ?さっきも、どこからともかくナイフを出したり仕舞ったりしていたが…」

 

そう、ダクネスが俺に問いかけた。そう言えば話してなかったか。

 

「あぁ、これは俺の魔力だよ。なんでか生まれつき、魔力を色んなものに変換できたんだ。」

 

なっ!っと目を見開き、驚いた様子でダクネスはこっちを見てきた。

 

「変だなって思うだろ?大丈夫、俺も思ってるから。詳しい内容はまた今度にでも教える。…だから、パーティ以外には内緒で頼む。」

 

「…あ、あぁ。分かっているとも。」

 

まだこちらを驚いた様子で見てはいるが、とりあえずは納得してくれたようだ。

 

「とりあえず、皆に"クルセイダー"としての実力が分かって貰えて何よりだ。では改めて…名はダクネス、一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。何せ、不器用過ぎて殆ど攻撃が当たらない…だが、壁になるのは大得意だ!」

 

「私達のパーティメンバーも大分豪華になったものね!"アークプリースト"の私に、"アークウィザード"のめぐみん、そして"クルセイダー"のダクネス。5人中3人が上級職のパーティなんて、そうそう無いわよ?」

 

そう、アクアが言うとカズマは肩を落とす。

そんな肩を叩くと、カズマはこちらを向いてくれたので、一言言った。

 

「頑張れパーティリーダー、大丈夫。出来るだけ支えるから。」

 

「…お玉持って言われても、何も期待出来ないんだが。」

 

「まぁそう言うなって!ほら、アキラさんからの奢りだ。」

 

そう言って、カズマの前に回鍋肉を出す。…そこで虎視眈々と狙っているめぐみんは後で作ってやるから我慢しとけ。

 

 

ギルドの一角で様々なキャベツ料理を作りながら、賑やかな夜は過ぎていった。




漸く投稿できました。珈琲@微糖です。
気が付いたら、様々な方にお気に入り登録して頂けて嬉しい限りです。これからも自分が書きたいものをマイペースに書いていこうと思うので、お付き合い頂ければ幸いです。

キャベツ回、と言うことで戦闘を盛り込んでも良かったのですが、今の状態だとひたすらナイフでキャベツを切りつけるか精々ナイフを投げる程度なので割愛させて頂きました。まだステータスも低いしね!

さて、今後なのですが、他の小説様にあるような恋愛要素(尚、文才がないので様なものになる可能性)も加えてみたいような気もあるのですが、如何せんそのような文はあまり書いたことがないので「こういうところがおかしい!」「ここはこうじゃない!」みたいな指摘も頂けると幸いです。

少々長くなりましたが、ここで終とさせて頂きます。また次回以降、見て頂ければ幸いです。

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