この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第八話 - この強敵との戦いに終止符を!

「おい、大丈夫か? 起きろ。」

 

段々と覚醒していく意識の中、俺の体が揺らされるのを感じる。

ゆっくりと目を開くと、辺りは暗くなっており、ハンスとの戦いから結構な時間が経ったのだろう。 そして目の前にはブレットの顔があった。

 

「…いたた…ここは?」

「崖の下だな。 あのスライムから逃げる為とはいえ、俺ごと崖の下に落ちるとは思わなかったぞ。」

 

髪を掻き上げながら立ち上がるブレット。

俺も立ち上がり、崖の上の様子を見る。

 

「…この程度の崖なら何とか登れそうだが…アキラは大丈夫か?」

「まぁ大丈夫だろ、無理だったらロープでも作ってお前に引っ張りあげてもらうさ。」

 

ブレットの問いかけに冗談を言って笑いながら返す。

 

「おう、そうなったら任せろ。 引き上げる振りして落としてやるよ。」

「それって何が何でも自力で登れって事だよね? 崖から落ちたとは言え命の恩人にその仕打ち!」

「…お前が踏み外さなければ命の危機にもならなかっただろうけどな。」

 

 

…俺は何も言わずその場で平謝りをした。

 

 

 

 

 

 

 

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「頑張れー、もう少しだぞー。」

「うるせぇ! こちとらお前さんみたいにいっつもクソ重い鎌振り回してるわけじゃねぇんだぞ!」

 

先に登ったブレットがこちらを煽るように手を叩いて声をかける。

そして煽られてる俺は、岩肌に手を掛けて崖を登っている。

 

「…ね、ねぇブレットさん。 出来れば…ロープとか使って俺の事を引き上げてくれませんかね…? 今チラッと下見たら死ぬ程の高さじゃないにしても結構怖いんですけど…」

「…頑張れ、もう少しだ。 それに俺はロープなんて持ってないぞ?」

 

俺の必死の助けも、どうすることも出来ないと言った様子で答えるブレットを見て、俺は再び手を伸ばすしか無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、はぁっ…つかれた…っ……」

「お前、そんな様子で大丈夫か?」

 

漸く崖を登り終えた俺は、膝に手をつき呼吸を整える。

そんな俺の様子を見て、ブレットは少し心配そうに声を掛けた。

 

「…あ、あぁ…大丈夫…だ……」

「いや、全然大丈夫そうに見えないんだが。」

 

呼吸を整えながら答えるが、ブレットは相変わらずこちらを心配そうに見てくる。

 

だが、疲れているからと言ってここで立ち止まる訳には行かない。

呼吸を無理矢理整えて、行こう。と言おうとしたその瞬間だった。

 

街へと続く道から無数の明かりと共に謎の声が聞こえてきた。

 

「……ブレット、聞こえるか?」

「…あぁ。 結構な人数がいるみたいだが…」

 

そう言って俺達は耳を澄ます。

…遠くから、『悪魔殺すべし、魔王しばくべし!』と言う声が聞こえてきた。

 

「………多分この声、街の連中だろ。 昨日、この声に似たような人達から宗教勧誘されたぞ。」

「奇遇だな。俺も前にこの街に来た時、この声に似た人達に宗教勧誘されたんだ。」

 

俺達は顔を見合わせて固まった。

少しして、思考が落ち着いてきた俺は口を開き…

 

 

「どうして街の連中がこっちに来てんだ! 危険だから、街の連中に感づかれないように来た筈だよな!」

「ンなこと知るか! それにこんなに遅くなってから来たんだ、俺ら以外に原因がある筈だ!」

 

俺達が言い合っていると、いつの間にか街の人たちが近くまで来ていたようで街へ続く道の方から声が聞こえた。

 

「お、おい! お前達、こんなところで何をしているんだ!」

「「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!!」」

 

突然怒鳴られた街の人は、訳も分からず呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…えっと、つまり君達は王都から来た冒険者で、この先に居る魔王群の幹部と戦う気でここに居るってことか?」

「はい、そうですが…なぜ街の皆さんはこちらに?」

 

少しして落ち着いた俺達は、改めてやってきた街の人たちに事情説明をしていた。

ブレットが街の人にここまで来た理由を尋ねると、今まで話していた人とは違う人が声を上げる。

 

「んなの、アクア様の名を騙る偽者を成敗する為に決まってるだろうが!」

「そうよ! あいつらがこっちに逃げたって言うのは門番から聞いたわ!」

 

「(…カズマ達がこっちに来てる…ってことはハンスと戦ってるのか…?)」

 

そう思った俺は源泉のある方向を見る。

少し距離があるからか、ここからは様子を確認する事は出来ない。

 

そんなことを考えていると、不意に声を掛けられた。

 

「じゃあそういう感じで…アキラ、聞いてたか?」

「…あっ、すまん。 ちょっと考え事してた…それで、なんだって?」

 

俺がそう尋ねると、話し掛けてきたブレットは頭を抱えて答える。

 

「全く、本当に大丈夫かよ…源泉地帯がどうなってるのか分からない以上、村の人達も戻れないからこのまま進む。 だがこの奥にまだハンスが居るかもしれないから、俺達のどちらかが先行して様子を見る。」

 

ブレットの立案に俺は頷き同意する。

 

そうして俺達は、源泉の集まる場所へと再び歩き出した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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やばい!やばい!今回はマジでやばい!

目の前に現れた魔王軍幹部に、(カズマ)は焦っていた。

 

「カズマ!何かいい手段は無いのですか! いつもみたいに、何か小狡いことの一つや二つ考えてくださいよ!」

「小狡いって言うなよ!それに今手は考えてる所だ! ウィズ、あれを凍らせたりは出来ないのか!」

 

めぐみんの言葉に答えた俺はウィズに尋ねる。

 

「すみません! 今の私の魔力ではあの大きさは…せめて半分くらいになれば出来るとは思いますが…」

 

ウィズの言葉に何か無いかと周囲を見回す。

だが、あの巨体をどうにかして半分まで縮められそうなものが見当たらない。

 

「もういつもみたいに私が爆裂魔法を放ちあれを半分位まで小さくすればいいんじゃないんですかね!」

「待って! そんなことをしたら山全体が汚染されちゃう!」

 

めぐみんが痺れを切らして言うが、その言葉に源泉を浄化していたアクアが反論する。

 

だが、そんなことをしている間にもハンスは徐々にアクアの方へと距離を詰める。

もう少しでアクアに触れられる…そんな時だった。

 

俺の真横を、何かが物凄い速さで通り過ぎ、そのまま吸い込まれるようにハンスに当たる。

その何かを投げ込まれたハンスは突如悶えてこちらの方を見る。

 

「ヒュー、危ねぇ…なんとか間に合ったか…」

 

後ろから聞こえてくる声、恐らくあの物体を投げた奴だろう。

その声には聞き覚えがある。だが、そいつはここに居るはずのない人物だ。

 

「全く、お前らの行くところにはトラブルしか起きない呪いでもかかってんのかよ…」

 

悪態をつきながらその人物がこちらへと寄ってくる。

 

「その呪いにはお前も掛かってるみたいだがな、アキラ。」

「本当だよ…と言っても、俺達はあいつを追ってここまで来たんだがな。」

 

そんな話をしていると、少し離れた場所に居ためぐみんやダクネスがこちらの方に来ていた。

 

「アキラ!本当にアキラですか!?」

「バニルの奴は王都の方への向かったと言っていたが…どうしてここにいるんだ!?」

 

二人はアキラに対して尋ねる。

そんな中、アキラは能力で手元に人一人覆えるような盾を作り出しながら答える。

 

「詳しい話は後だ、悠長に話している時間もくれないみたいだしな。 何とかここで食い止めるから、一旦お前らは離れてろ。」

 

そう言ってアキラはハンスの方を指刺す。

アキラが何かを投げつけたからか、ハンスはこちらの方に向かって動いてきている。

 

「アキラさん、危険です!ハンスさん…いえ、あのスライムは、普通の人ならば触れただけで死んでしまうような猛毒を持っているんですよ!」

「ええ、分かってますって。大丈夫です、絶対に受けないようにしますから。 …ダクネス、アクアの方は任せた!なるべくそっちには行かせないようにするが、もしも流れ弾がそっちに行ったら……」

「分かっているさ、何が何でも守ってみせる。」

 

ウィズの注意にそう答えると、ダクネスに指示を出すアキラ。

その後、アキラはこちらを見てくる。

 

「パーティーリーダーさんよ、後は任せた。」

「…ああ、任せておけ!」

 

そう言ってグッと親指を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

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「…まさか、本体がこんなにでかいとはなぁ…」

 

そう言って(アキラ)は盾越しにハンスの姿を捉える。

大きさからしても、時間を稼ぐにはあいつの体から飛ばされる毒入りスライムを防ぐしか手はないだろう。

 

街の人たちから受け取り、懐にしまっている石鹸や洗剤の数を数えるが、それ程持てず量が少ないので心許ない。

 

「(もう少ししたら街の人たちが来るから、それまでにこいつは何とかしないと…)」

 

そんなことを考えていると、巨大な咆哮と共に無数のスライム片が飛ばされてくる。

 

「…ッグゥ…!」

 

咄嗟に盾の後ろに体を仕舞いこみスライム片から身を守る。

幸い、飛ばしてきたのはこちらの方のみだったので源泉に被害は出ていない。

 

「…ッ!…なら、こっちからお見舞いしてやる!」

 

懐から石鹸を数個取り出し、ハンスに向かって投げつける。

だが、ハンスはスライムで出来た体に器用に空洞を作り、投げつけられた石鹸を避ける。

 

「(ハァ!? あんなのありかよ!)」

 

そう頭の中で思いながら、俺は盾を魔力に戻してハンスへと接近を試みる。

避けられると言うのなら間近でお見舞いしてやる! そう思った時だった。

 

「アキラ、危ない!」

 

高台の上に居ためぐみんからそんな声が聞こえてきた。

直後、俺の真上から何か気配がした。

 

「…ッ!『物質錬成(モル・フェウス)』ッ!」

 

咄嗟に自分の真上に先ほどと同じ盾を創った。

…直後、盾に強い衝撃が走る。

スライム片にしては強過ぎる衝撃から、触手状のスライムに直接殴られただろうか。

 

再び盾を構え、触手による攻撃を一発一発弾いていく。

だが、徐々に攻撃が激しくなっていき少しずつ後ろへと押されていく。

 

「(…ッ…何か手段を…!)」

 

盾を支えながら自分の周囲を見回す。

そして後ろを見た時、遠くからこちらに向かって近づく無数の明かりがあった。

 

「(…クソッ!もう街の連中が…ッ!)」

 

触手を盾で弾きながらジリジリと後ろに下がっていく。

そんな時に、後ろから声が聞こえてくる。

 

「おい、何だあれは!」「あいつが汚染の原因か!」「あの青髪の姉ちゃんか言ってる事は正しかったんだ!」

 

そんな声と共に、後ろから沢山の洗剤や石鹸、そして何故か温泉饅頭も投げ込まれた。

 

するとハンスは、石鹸や洗剤に対しては俺が投げた時と同じように避けるが、温泉饅頭はそのまま飲み込み、周囲に落ちていた当たらなかった温泉饅頭にも触手を伸ばす。

 

「(…スライムでも好き嫌いするんだな……)」

 

そんなしょうもないことを考えていると、後ろ声が掛けられる。

 

「アキラ、そっちは大丈夫か?」

「大丈夫そうに見えるんなら変わって欲しいかな。」

 

街の人たちの方についてきていたブレットが盾の後ろに回って声を掛けてきた。

 

「そりゃ勘弁、俺に出来るのは…ッ!」

 

ブレットは背中に携えていた大鎌を手に持って振るう。

…いつの間にか盾の裏に回ろうとしていた触手がその場に落下した。

 

「こうやって触手を切り落とす位だからな。」

「いや、充分過ぎないか、それ。」

 

そう言ってブレットは盾の裏から届く範囲で触手を切り落とし始める。

 

「…ところで、あいつをどうにかする手段は考えてるのか? このままじゃジリ貧だぞ?」

「安心しろ、全く考えてない!」

 

盾で触手を弾きつつ、こう答えるとブレットが驚いた様子でこちらを見てくる。

 

「…まぁ、そう言った頭を使う事はうちのリーダーが得意だからな。 俺はそいつの事を信じて出来ることをするだけだ。」

「リーダーが得意って…まさか、お前の仲間が今ここに居るのか?」

「そのまさか。 じゃなきゃこんな必死こいて守り続けてないし…なっ!」

 

そう言って盾で触手を弾き返す。

その瞬間、遠くから声が聞こえてきた。

 

「アキラー! そのまま飛んでくるハンスの破片から街の奴らを守ってくれー!」

 

…は?

 

声の張本人…カズマが何を言っているのか一瞬理解が出来なかった。

 

一先ず触手を防ぎつつ様子を見ていると、突然攻撃が止んだ。

何かあったのかと思いハンスの方を見ると、ハンスの意識は俺から温泉饅頭を持つカズマの方へと移っていた。

 

「お前の餌は…俺だ!!」

 

そう言ってカズマはどこか明後日の方向へと駆け出す。

それと同時に、めぐみんとウィズもそれぞれ別方向へと駆け出していく。

 

「(飛んでくるハンスの破片…餌…もしかしてあいつ…ッ!)」

 

カズマがやろうとしていることが何となくだが分かった俺は、カズマが走る先を見る。

 

…予想通り、源泉のない大穴へ向かって走っていた。

 

「…なぁアキラ、あの男何をやろうとしているんだ? それに飛んでくるあいつの破片ってどういうことだ?」

 

全く様子が分からないと言った感じにブレットが尋ねてきた。

そんな彼に、俺は答える。

 

「あいつ…いや、俺達のリーダーは捨て身の作戦で無理やりハンスを倒そうとしてるんだ! …ブレット、街の人達の事…頼んでいいか?」

 

俺は盾を魔力に戻しながら、ブレットに言った。

そんな俺の顔を見て、ブレットは答えた。

 

「…分かった。ただ、後で指示を破ったことで怒られても知らねぇからな!」

「ああ、分かってるって…そんじゃ、行ってくる!」

 

そう言い残し、俺はカズマが走っていった方向へと駆け出した。

 

「(…遅い、こんなんじゃカズマに追いつけない…もっと、もっと早く…っ!)」

 

俺は能力を使い、自分の体に推進力を加える。

 

 

──まだだ、まだ遅い!

 

 

再び能力を使い、自らの足に擬似的な筋力を作り出す。

 

 

──もう少し…もう少しで…っ!

 

 

カズマが大穴へと落ちていく直前、俺は漸くハンスを追い抜かす。

 

 

──直後、普段見えている景色とは別の風景が見える。

 

 

目の前に居るカズマの体…丁度胸の辺りに淡い炎の様なものが灯っているように見えた。

 

 

その炎へと手を伸ばそうとするが、カズマの体がスッと消える。

 

 

「皆、後は任せたぁぁぁッッ!!」

 

 

その声を追うように俺も穴へ身を投げる。

目の前に落ちていくカズマの顔は驚愕に染まっていた。

 

そんなカズマの胸元の炎に手を近付ける。

 

 

「死なせる………ものかぁぁッッッ!!!!!」

 

 

そう叫んだ瞬間、カズマの胸元の炎が俺の触れる手を中心として大きく広がっていきやがてはカズマの体中を覆う。

 

「(…良かった…間に合った…ッッ!?)」

 

心の中で安堵した瞬間、背中に熱いものを感じる。

一瞬でも気を緩めたら気絶してしまいそうな激痛、それと同時に目に飛び込んできたのは紫色のスライムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ようこそ、小関 彰さん。死後の世界へ。 貴方にはお伝えしなければいけないことがあります。」

 

目の前の美しい女性…エリスはいつにも増して真面目な顔で俺に言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿遅れて非常に申し訳ありません! 珈琲@微糖です。

前回から今回までの間、幾つかの私用が重なったり夏風邪を引いたりと色々とあった上に、中々いい感じに書けなかったり、一度書いたものを大きくリメイクしたりと色々ありました、。

さて、今回は割と詰め込んで書いた為ハンス戦はここまでとなります。
恐らくこの章は長くても後3~4章で終わると思います。

また、今回の話は読んでもらった通りだとは思いますが戦闘描写が余り上手くありません。
それぞれ書いた日にちが微妙に違ったり等で少し読みにくい点などが多々ある可用性がありたす。
そのようなところがあれば指摘をして頂けると嬉しいです。

と言うことで今回はここまでで、また次回以降も見て頂ければ幸いです。

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