この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第七話 - この鎌使い達に強敵を!

「おや、こんなところに人とは珍しいな。 こんなところに何か用か?」

 

俺達がやってきた道から一人の男が歩いてきた。

一見すると普通の男だが、俺の『敵感知』スキルは強く反応を示している。 恐らく、彼が件の魔王軍の幹部だろうか。

 

「そっちこそ。 こんなところに用事があるなんて、この源泉の管理人くらいだろう?」

「俺がその管理人さ。 ここ最近汚染騒ぎが起きてるだろう? だからその様子を見にな。」

 

ブレットの言葉に男はそう白々しく答えると、源泉の方まで歩いていく。

…俺は鎌の刃を造ると、男の首元に構えながら立ちはだかる。

 

「冗談は止してくれよ。 さっきから俺の『敵感知』がお前は敵だって言って五月蝿いんだ。 …どうやって入ってきたのかは知らないが…お前、魔王軍の奴だろ?」

 

俺が睨みつけながらそう言うと、男は不敵に笑いながら答える。

 

「ほう…もうそこまで勘付いていたか…だが、そこまで分かっていて近付いてくるとは…迂闊だな!」

 

その瞬間、男の腕がこちらの方に向かって伸ばされ……

 

「アキラッ!避けろッッ!!」

 

ブレットの言葉に、俺は足にグッと力を入れ後ろに飛ぶ。

 

俺がいた場所に、謎のゲル状の何かが広がっていた。

 

「…今のを躱したか…そっちの男は俺の正体に気付いているようだな。」

 

そう言って肩を鳴らしながらブレットの方を見る男。

 

「あぁ、嫌ってほど知ってるさ……なんせ、魔王軍の中でも近接職の俺らにとっては天敵だからな。」

 

大鎌を構えたまま、ブレットは一方後ろに下がる。

そんなブレットに対し、男は不敵な笑みを崩さずに一歩、ブレットの方へと躙り寄る。

 

「な、なぁブレット!あいつは一体なんなんだ!? それにあのゲル状の奴はなんなんだよ!?」

「んなことも知らないで冒険者やってんのか!? あいつは魔王軍幹部、"デッドリーポイズンスライム"のハンスだ!」

 

俺は立ち上がり、ブレットの方へ駆け寄りながら問うと、恐ろしい剣幕で答える。

 

「…?スライムってそんな危ないモンスターなのか?」

 

日本に居た頃には色々とゲームをしていたが、どのゲームでも須らく『スライム』と言ったら雑魚モンスターの代名詞だ。

そんなモンスターが何故魔王軍の幹部をしているのか。そう思ってブレットを尋ねると、何を言っているんだこいつは。と言った表情でこちらを見る。

 

「馬鹿かお前は!? スライムって言ったら、近接職の天敵だろうが! …それに、あいつは幹部クラスの"デッドリーポイズンスライム"。 恐らく、相当強力な毒を持っている筈だ。 …それこそ、源泉の汚染なんて難なくできるレベルのな…」

 

真剣なブレットの表情に、俺は息を呑む。

…確かに、スライムの体は柔らかいゲル状の物体で出来ている為、剣は通りにくいだろう。

だからと言って、そこまで怯える程のモンスターなのだろうか。

 

そう思い、男……いや、ハンスの方を向くと、右手を額に当てながら笑い声を上げていた。

 

「…ククク…ハハハハハッ! まさか、この俺の恐ろしさを知らない冒険者が居るとはな! その男の言う通り、俺の体には強力な毒が流れている。 …人ならば、触れる程度で殺す事は出来るくらいのな。」

 

その言葉に、俺達は息を呑む。

彼の言うことが本当ならば、奴に攻撃する事は不可能だろう。

 

この場で奴を切れば、飛び散った破片が源泉に入り汚染…なんてことがあるかもしれない。 いや、それ以前に破片が体に当たっただけでアウトなど、どんな優れた近接職でも攻撃は難しいだろう。

 

少なくとも、この場で戦うのは不可能。

どのようにして逃げようか。 そんな算段を立てている時だった。

 

「まぁいい。 この事を街の連中に伝えられても面倒だ………喰らうか。」

 

そう言ってハンスは一気にこちらに詰め寄ってくる。

俺とブレットは左右に分かれて互いにハンスから距離を離す。

 

「アキラッ!逃げるぞ! 街に戻ってこの事を伝えるんだ!」

「ああっ!」

 

そう言って俺達は元来た道の方へと駆け出す。

だが、ハンスがそれを許す訳もなく、こちらに毒を含んだスライム体がこちらに飛んでくる。

 

「クソッ!『物質創造(モル・フェウス)』ッ!」

 

そのスライム体を、俺は能力で体を被える程の盾を作りながら防ぐ。

その盾の後ろにブレットも入り、何とか毒を凌ぐ。

 

「ほう…妙な技を使うな…だが、そんな事は関係ないッ!」

 

毒が止んだと思ったら、次はハンスがグッとこちらに距離を詰める。

奴の攻撃に当たったら死ぬ。その事を頭の中で繰り返しながら、必死に盾をハンスの動きに対応させる。

 

ハンスが右に動けば右に、左に動けば左に。

ただひたすら攻撃を受けない事だけを意識しながら盾を動かし、少しずつ後ろに後退する。

 

「ブレットッ!今の内に街に…「行かせるかッ!」

 

後ろのブレットにそう大声で叫ぶと、ハンスは盾を支えている俺ごと蹴飛ばす。

 

「アキラッ!」

「余所見している場合か?」

 

ブレットは足を止めてこちらの方を見て叫ぶ。

だが、ハンスはここぞとばかりにブレットの方へ距離を詰める。

何とかその体に当たるまいと、背中に背負う大鎌でハンスの猛攻を凌ぐ。

 

しかし、触れてはいけないと言う条件がある為か、徐々にブレットが押されていく。

 

こちらの方を見ていない今がチャンスと思った俺は、盾を魔力に戻し、再び鎌に刃を作り出しでハンスへと切りかかる。

 

「…ッ! チッ、鬱陶しいなッ!」

「そりゃどうも、魔王軍幹部様にそう言って頂けたなら光栄ですわ。」

 

俺の決死の攻撃はすんでのところで躱され、右手の指の先を切り落とすまでしか行かなかった。

 

「くそッ、不意打ちでも指しか落とせなかったか…」

「でも助かった、隙を見て逃げるぞ!」

 

ブレットの横に行きハンスの方へ向き直る。

 

ハンスは、自らの右手を見ると、救援に口元を押さえて笑い出す。

 

「……クク……アハハハハ! まさか冒険者風情がここまでやるとはな…いいだろう。少しばかり本気を出させてもらうぞ…?」

 

ハンスがそう言った瞬間、千切れた指からゲル状の何かがムクムクと溢れ出す。

その溢れ出す何かは毒々しい紫色をしており、それがこの男の正体であろうことは容易に予想がつく。

 

咄嗟に何か嫌な予感がした俺達は大きく後ろに飛ぶ。

…俺達がいた場所には、毒々しい紫色のゲルがあった。

 

「今のを躱したか。 だが、もうお前達に逃げ場はないぞ?」

 

そう言ってハンスは段々とこちらに近付いてくる。

一歩近づけば一歩後ろへ、二歩近づけば二歩後ろへと下がる。

 

…だが、それが起きたのは唐突だった。

 

「…ッ! アキラ、大丈夫かッ!」

 

今まで地面をついていた足が、不意に空を切る。

いつの間にか崖際に追い込まれていた俺は、その後退する一歩でバランスを崩した。

その事に一早く気づいたブレットは手を伸ばし、俺の手首をぐっと掴む。

 

「すまない! たすか…っ……」

 

握られた手に力を入れ、もう片手で岩を掴み登ろうとする。

 

……俺は岩を掴む手に力を入れようと上を向いた時、俺の体は固まった。

ブレットの後ろに見える巨大な紫色の塊。

その塊はたった今、俺達を飲み込もうと近付いてくる。

 

このままだと二人とも助からない。そう思った俺は、ブレットが掴む腕をグッと引っ張り、紫色のそれから逃げるように岩肌を滑り落ちる。

 

…崖の上を見ると、ハンスが悔しげな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「クソッ、取り逃したか…」

 

そう言って(ハンス)は元の姿へと戻していた腕を再び人間の姿へ擬態させる。

 

「全く…あんな邪魔が入っちまったせいで変に時間食っちまったじゃねぇか…」

 

髪を掻き上げながら、あの二人組が落ちていった崖下を覗く。

崖下は斜面だったが、それなりに傾斜があり所々に血が点々としている。

まだ仕留めきれてないにしろ、俺が源泉の汚染を終わらせるまでは邪魔はして来ないだろう。

 

「…しっかし、ここまで遅れると全部終わるまでにどれくらい掛かるか…まぁ、さっさと始めるか。」

 

徐々に傾き始める日を横目に、俺は再び源泉地帯へと戻っていく。

あまりに長引きすぎると、ここまで来る時にいた門番や街の者に怪しまれるだろう。

 

とにかく汚染を進める為に、俺は源泉の一つに手を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、私です。 珈琲@微糖です。
今回戦闘描写で非常に悩み、投稿が遅れました。 申し訳ありません。

さて、ハンス戦ですが次回〜次々回辺りで区切れたらなぁと思っております。 その後エピローグ的な話を挟んでこの章は終了予定です。

次回以降も今回同様、それなりに戦闘描写が入る為、そこそこ投稿まで時間がかかると思います。
まだまだ拙い文章でお世辞にも上手いとは言えませんが、ここはこうした方がいい等ご意見がありましたら是非とも感想の方にお願いします。

それでは、次回以降もまたお楽しみ頂ければ幸いです。

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