この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第五話 - この温泉地に祝福を!

馬車に揺られること早数日。

いつものように、馬車の窓から外を眺めていると、段々と大きな街が見えてくる。

 

「ブレットー、なんかでかい街が見えてきたんだけど、あれがアルカンレティアか?」

 

その街の方向を指刺しながら尋ねると、俺が眺めていた窓からブレットも街の方を見る。

 

「あぁ、あれが水と温泉の都、そしてあのアクシズ教の総本山のアルカンレティアだ。」

 

そう言うと、ブレットは街に着いていないにも関わらず身支度を始めた。

 

「? …どうしたんだ、まだアルカンレティアには着いてないぞ?」

「だからだよ、俺はアルカンレティアには入らないでそのまま仕事に入るが、アキラはどうする?」

 

何故ブレットは街に入らないで仕事に行こうとしているのか分からず、俺は首を傾げる。

 

「折角温泉地に来たんだ、別に一日くらい休んでも罰は当たらないんじゃないか?」

 

俺はそう答えると、ブレットは馬車の御者の男に声を掛けてから話す。

 

「…だったら、ここで一旦別れよう。 俺はクエストを進めるから、アキラは宿の確保を頼む。 それが終わったら、後は自主行動で構わない。 日が沈んだら、正門の付近で待ち合わせな。」

 

ブレットの言葉に頷くと、御者の男は馬を止め、ブレットは馬車を降りる。

…降りる時、小さく何かを言ったような気がしたが、気のせいだろう。

 

降りた本人は御者に路銀を払うと、馬車が進んでいた別方向へと歩いて行った……。

 

 

 

 

 

 

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「お客さん、そろそろだよ。」

「ああ、ありがとうございます。 えっと、運賃は幾ら位ですかね?」

 

あれから少しすると、御者の男がそろそろ着く旨を伝えてきた。

 

「金ならさっき降りた男が払ってきたから大丈夫だよ。 …それよりもあんた、アルカンレティアに一人で行く気かい?」

「いえ、さっきの彼は用事があるらしいので夜に落ち合おうと…」

 

俺がそう言うと、男はこちらの方を若干憐れむように見てきた。

 

「…あぁ、そういうことかい。 分かってると思うが、あの街の連中には気をつけておきな。」

「そりゃ、ご忠告どうも。」

 

門の前まで着くと馬車が止められたので、俺は馬車から降りると、再び御者の男は馬を操り商人達と街に入っていく。

 

 

「さてと…とりあえず手頃な宿でも探して今日はゆっくりするか!」

 

グッと馬車の旅で鈍った体を伸ばし、アルカンレティアへと入っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ようこそいらっしゃいました、水と温泉の都アルカンレティアへ!」

「観光ですか?入信ですか?冒険ですか?お仕事ですか?入信ですか?洗礼ですか?入信ですか?まずは一度アクシズ教の教会へとお立ち寄りください!」

「お仕事を探しに来たのならいいお仕事がありますよ? 他の街へと赴き、アクシズ教の素晴らしさを広めるだけでお金がもらえるんです!」

「更に!そのお仕事に就くと何と、アクシズ教徒を名乗れる特典まで付いてくるんですよ! 素晴らしいお仕事でしょう?さぁ、どうぞ!」

 

 

───あぁ、俺は嵌められたんだな。

 

 

この街に踏み入れた瞬間、俺はブレットに着いて行かなかった事を後悔した。

 

どうして、数日にも渡る馬車の旅を経て、辿り着いた温泉地で休まずクエストに向かったのか。

どうして、御者の男は最後に気をつけてなんて言ったのか。

 

今、周りにいるアクシズ教徒の奴らを見て、俺は自分の選択を後悔した。

 

「い、いや…あの、パーティメンバーの奴がアクシズ教なので俺は……」

「ならば尚更!アクシズ教の素晴らしさは既にお分かり頂けていますよね? 今ならここに名前を書くだけで貴方も立派なアクシズ教徒! そのお連れの方と一緒に、色んな街でアクシズ教を広めましょう!」

 

俺の周りを囲っている人達から、一歩退きながら言うと二歩詰め寄り、三歩引くと四歩詰め寄りながら『アクシズ教入信書』を押し付けてくる。

そんなやり取りをしていると、いつの間にか背中に壁が付く。

 

あぁ、死んだな。 …そう思った時だった。

 

 

「おーい! こっちからアクセルの町からの観光客が来たぞー!」

 

そんなアクシズ教のおっさんの声に、一瞬俺を取り囲んでいたアクシズ教徒達がそちらの方を向く。

 

その瞬間、俺はすかさず『隠密』スキルを使い、人の合間を縫ってそのアクシズ教徒達から離れる。

 

 

「…あっ、クソっ!逃げられたぞ!」「どこ行った!?」「落ち着け!一先ずアクセルから来た観光客へ勧誘だ!」

 

すまない、アクセルから来た人達……恐らく行商か観光客だとは思うが本当にすまない。

こんな事を心で思いながら、宿屋街を目指して歩くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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夜、ブレットと約束した場所で待っていた俺は酷く疲弊していた。

 

昼間を思い出すと、それはもう酷い目に合った。

 

 

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「すみません、今お部屋って空いてますか?」

 

「少々お待ちください…ただ今二部屋空いていますね。 何部屋ご希望されますか?」

 

「二部屋でお願いします。」

 

「畏まりました。 それでは、こちらの名簿にお名前をお願いします。」

 

……視線を落とすと、そこには例の紙(入信書)があった。

 

 

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「いらっしゃいませー。 一名様ですか? こちらの席にどうぞー。」

 

窓際の一人用席に案内された俺の目の前に、メニュー表が置かれる。

 

「ご注文の方、お決まりになられましたらご自由にお声掛けください。」

 

そう言って去っていく店員を横目に、俺はメニュー表を一ページ開く。

 

……そこには、例の紙(入信書)があった。

 

 

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「きゃあっ!?」

 

目の前を歩く、大量の林檎が入った籠を手に下げている女性が、不意に足元で何かに躓いたようで、籠に入っていた林檎をその場に転がしてしまった。

 

「…よっと。 大丈夫ですか?」

 

こちらの方に転がってきた林檎を拾い上げながら、女性の籠に林檎を入れる。

 

「あっ…ありがとうございますっ!」

 

恥ずかしさからか、少し顔を赤らめる女性にいえいえ。と言いながら転がった林檎を再び拾う。

 

 

「ありがとうございますっ! まさかこんなところで躓いてしまうなんて…」

 

照れくさそうにしながら、女性は言う。

 

「いえいえ、困った時はお互い様ですから。」

 

そう言って俺は立ち去ろうとするが、不意に声を掛けられる。

 

「あっ、待ってください! せめてものお礼として…」

 

物をもらうために助けた訳じゃないですから。

そう言って断ろうとして振り向く。

 

……その手には、例の紙(入信書)が握られていた。

 

 

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思い出すだけで辛い出来事が、頭の中を走馬灯のように駆け巡る。

 

はぁ。とため息を付くと、唐突に後ろから声を掛けられる。

 

 

「はっはっはっ、そんなため息をついてると、幸せが逃げるぞ?」

「…ため息程度で逃げる幸せなんて、その程度のものだからいいんだよ。」

 

笑いながら茶化すブレットにそう言って、俺は再びため息をつく。

 

「…それで、宿の方は大丈夫だったか?」

「あぁ、キッチリ二部屋取れた。」

「了解。 宿に戻って、明日以降のことを決めようじゃないか。」

 

そう言って俺達は、宿泊を決めた宿へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、私です。珈琲@微糖です。
早いものでもう43話、早く原作のお話に路線を戻していきたいと思い始めております。

今回からアルカンレティア編に入りましたが、正直そんなに長くならないと思います。アルカンレティアの中よりも、その後の部分の構想ご出来てしまっているので、基本主人公はカズマ達の裏で何かをする。と言った感じになりますのでご了承ください。

と言うことで、今回はこの辺りで。次回以降もお楽しみ頂けると幸いです。

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