アルカンレティアへと向かう馬車の中。
俺達はガタゴトと揺られながら馬車の中で寛いでいた。
「水の都ねぇ…なぁ、ブレット。 アルカンレティアってどんな所なんだ?」
「お前…それ何回目だ? …さっきから言ってる通り、温泉が有名な観光地だ。 王都からは数日かかるが、シーズンになれば観光客も集まる、それなりに良いところだよ。」
「温泉ねぇ…箱根みたいなもんか。」
馬車の外を眺めながらそんなことを呟く。
「ハコネ?」
「…昔居た国の話だ、忘れてくれ。」
ついポロッと出てしまった日本の事を流しながら、俺は再び外を眺める。
少しすると、退屈そうに横になっていたブレットが起き上がり、唐突にこんなことを聞いてきた。
「そうだ、アキラ。 暇だしお前の過去を教えてくれよ! 昔居た国の話とか、アクセルの町のお前のパーティのこととかさ!」
ブレットの言葉に、俺は一瞬ビクッとした。
「…すまん、昔居た国の話は出来ない。 …アクセルの方の話ならしてやる。」
「えー、別にいいじゃないか。 話しても減るもんじゃないだろ?」
「……ごめん、あんまりあそこの話はしたくないんだ…」
俺がそう言うと、ブレットは諦めた様子で再び横になる。
「じゃあアクセルの話だけでいいや、お前が居たパーティってどんな奴がいたんだ?」
話したくないのが伝わったのか、退屈なのが嫌なのかは分からないが日本のことを諦めてくれたのは素直に有難い。
「俺の居たパーティねぇ…今思えば、ある意味凄いパーティだったなぁ…異様に高い幸運以外は普通の"冒険者"のリーダーに、逆に知力と幸運以外がトップクラスの"アークプリースト"、攻撃が当たらない"クルセイダー"。それと、爆裂魔法をこよなく愛する"アークウィザード"…懐かしいなぁ…」
外を見ながらカズマ達のことを懐かしみ、首元のチョーカーを優しく撫でる。
「…それ、パーティとして大丈夫だったのか…?」
「それが不思議と上手く行ってたんだよ。 借金したり、死にかけたこともあったけどさ。それでも、やっぱり楽しかったな。」
俺が思い出しながら言ってると、純粋に疑問に思ったのかブレットが尋ねてくる。
「…じゃあ、なんでアキラは今パーティを離れてんだ? 楽しかったんなら、わざわざ離れる必要も無いだろ?」
「あー、それ聞いちゃう? …理由は色々あるけど、一番はやっぱり実力不足を感じたから、かなぁ。」
ポツリ、と呟くとブレットの返事を待たずに話を続ける。
「色んな敵と戦ってるうちにさ、他のみんなはそれぞれ長所を活かして活躍してたのに、俺だけ何も出来なくてさ。 それが悔しくて、旅に出たんだ。」
「…だから、あんだけ教えてもらうように粘ってたんだな。」
俺の言葉に納得したように頷くブレット。
外を見ていた俺は、ブレットと同じようにその場に寝転がる。
「…なぁ、ブレット…俺、強くなってるかな。」
「さぁな。 なんだったら、模擬戦でもしてみるか?」
「遠慮しとく。 無茶したら、めぐみんに怒られそうだしな。」
首元のチョーカーを撫でながら、俺は無意識に言う。
「…めぐみん?」
一体誰のことか分からないブレットは首を傾げながら尋ねる。
「あー、そういや名前を教えてなかったなぁ…めぐみんってのは、アクセルのパーティのアークウィザードの女の子の名前なんだ。」
「ほうほう。つまりその子がアキラの好きなやつってことか。」
……俺は寝転がっている座席から転がり落ちた。
「お、おま、おまっ…なんでその事をっ!?」
立ち上がりながら俺はブレットを問い詰める。
「…反応が分かりやすすぎ。 その子の事を話す時だけ声色が違うし、どうせそのチョーカーもその子から貰ったもんだろ?」
うっはー、ばれてーら。
図星を刺された俺は目線を逸らし、髪を掻き揚げながら座席に戻る。
「…まぁ、模擬戦は卒業試験にでもしておくか。」
「…それで頼む。 疲れたから俺はもう寝る。 着いたら起こしてくれ。」
そう言って俺は座席にブレットに背を向けて横になる。
「えっ、ちょっとアキラさん?俺一人になるとめちゃくちゃ暇なんですけど! ってかアルカンレティアまで後一日以上あるんですけど!」
そんなブレットの声を無視して、俺は眠りについた。
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暫くすると、眠っていた俺の体が揺さぶられる。
「…んぁ…なんだ…まだ夜じゃないか…」
目を開けると馬車の外は暗く、眠った時にしていた揺れも収まっていた。
「まだ、じゃなくてもう、だろ。 お前このままだと朝まで寝てそうだったからな。 …本来の仕事の時間だし、俺だけ働くのは釈然としないから無理やり起こした。」
「…あー、商人達の護衛か…ふぁぁ…しゃーねぇなぁ…」
そう言って俺は『敵感知』スキルを使う。
「よし、とりあえず周辺に敵影はなし。 …なぁブレット、もしかして言ってたクエストってこの護衛の事か?」
昼間のように座席に座り、外の様子を伺いながら尋ねる。
馬車の外ではアルカンレティアを目指す商人達が焚き火をしながら夕食を取っていた。
「いいや、これはあくまでアルカンレティアに向かうついでだな。 …ここから先は内密に頼むぞ。」
辺りに人が居ないことを確認すると、ブレットは小さな声で話し出す。
「…ここ最近、魔王軍に動きがあった。 そろそろ本格的な攻勢に出ようとしているのかどうかは分からないんだが、このベルゼルグ王国のいくつかに対して幹部を派遣しているらしい。」
「つまり、その一つがアルカンレティアってことか。」
俺の答えにブレットは頷く。
「そういうこと。 そして俺のクエストの内容は、アルカンレティア周辺の魔族の調査だ。 …まぁ、直接戦ったりする訳じゃないから、余程じゃなければ数日で王都に戻ることになるかな。」
「そういうことね、了解。 …しっかし、魔王軍もどうしてそんな観光地を狙ってるんだろうかね。」
ふと疑問に思った俺は、体を伸ばしながらポツリと呟く。
「えっ、知らないのか? アルカンレティアはあのアクシズ教の総本山だぞ?」
「えっ。」
短かいなオイィ!?
どうも、珈琲@微糖です。
今回はアルカンレティアへの道中でしたが、本編であったようなトラブルの起爆剤が無かったので戦闘もない穏やかな旅となりました。
とまぁ次回からアルカンレティア編となって行きますが、例の如く更新につきましてはいつになるかは分かりません。
それでもよろしければ、次回以降もお付き合い頂けると幸いです!