この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第三話 - この修行の日々に祝福を!

「よしっ、ここら辺ならいいかな。」

 

そう言って俺は人通りが殆ど無い路地裏で足を止める。

振り向くと、キチンと二人は着いてきていたが、ブレットの方は疑惑の目を向けていた。

 

「…こんなところまで連れ出して…もしかして、お前そっちの気でもあるのか…?」

「ちっげーよ!!! 普通に武器を見せるだけだよ!!!」

 

冗談半分に言ってきたブレットに俺はそう言う。

 

「まぁまぁ、彼だってアクセルの町じゃあ『頭のイカれた爆裂ロリコン野郎』なんて言われてるし、少なくともそっちの人じゃないと思うよ?」

「オイ、その不名誉な名前を言い触らした奴の名前を教えてもらおうじゃないか。 ついでに俺はロリコンじゃねぇ。」

 

誤解を解こうとしたのだろう、俺の不名誉なミツルギをジト目で見ながら、俺は柄だけの鎌を取り出す。

そんな鎌を、二人は興味津々で見てくる。

 

「…なぁ、お前俺達のことを茶化してるのか? そんな刃がない鎌を出されて、"これが俺の武器です!"なんて言われた日にはぶん殴るからな?」

 

ブレットはそう言うが、名前や外見から俺の事を転生者だと予想が出来ているであろうミツルギは、何かあるのでは無いかと鎌を見つめる。

 

「これが俺の武器です!」

「よし、俺の鉄拳が飛んでくる前にさっさと荷物纏めてアクセルまで帰れ。」

 

そう言ってブレットは親指を突き立ててグッと自身の後ろを指差す。

 

「まぁ落ち着けって、ちゃんと武器として扱えるから…見てな。」

 

俺は柄をクルリと一回転させ、刃を作る方向を下にして杖のようにドンッと地面に当てる。

 

そして、あの時思い浮かんだ言葉を、頭の中で完成図を思い描きながら唱える。

 

 

「『物質創造(モル・フェウス)』ッ!」

 

 

俺の言葉に呼応するように、体の中の魔力の一部がスッと抜け落ちて、柄の先に鋼鉄の刃を創り出した。

 

「ほらな、武器になったろ?」

 

俺は出来上がった鎌を肩に担ぎながらブレット達の方を向く。

……二人は、口をあんぐりとさせながら、何が起こったのか分からない。と言った様子で呆然としていた。

 

「…な、なぁ!お前今何をやったんだよ! なんでいきなり刃が出てきてんだよ!」

 

たった今起きたことが信じられないと言った様子で詰め寄るブレット。

転生による特典だろうと予想をしていたであろうミツルギは少し考えると、ブレットに聞こえないように耳打ちする。

 

「…アキラ、今のはアクア様から頂いた"特典"かい?」

「…ああ、俺が貰ったのは"魔力を万物に変換する"能力だが…」

「…分かってる、言いふらしたりはしないさ。」

 

ミツルギの魔剣と違い、もしもの事が起きたら他者に能力を利用されかねないものなので、釘を刺しておこうと思ったが、どうやらその必要はないらしい。

 

「ブレット、出来ればこの武器の事を教えるが…出来るだけ内密に頼む。」

「分かった、分かったから今のは一体何だったんだよ!?」

 

興奮気味に俺を問い詰め続けるブレットにそう言うと、日本からの転生で貰ったことを隠して能力の事を伝える。

 

 

 

「……という訳だ、分かったか。」

「あ、あぁ…ただ、あんなことが起きるなんて、今だに信じられないが…」

 

俺は能力を解き、刃を魔力へと戻しながら確認する。

落ち着きを取り戻したブレットは今だに信じられない。と言った様子だが一先ず納得していた。

 

「…それで、話は戻って鎌の扱いの師匠の話だが…受けてくれるか?」

 

柄を仕舞い、ブレットに尋ねると頬を掻きながらブレットは答える。

 

「…それは別に構わないが…元々俺はソロだ。 生憎、誰かにものを教えるのも教わることもしたことがないから、どうやって教えたら良いのかなんて全く分からない。」

 

そこまで言うと、ブレットは一度深呼吸して言葉を続ける。

 

「だから、暫くパーティを組んで俺から技を盗め! 自分が得るべきものは自分で探せ。」

 

そう言ってブレットはこちらに右手を差し出してくる。

 

「…あぁ、よろしくな、ブレット。」

「精々足を引っ張るなよ、アキラ。」

 

俺は差し出された手をグッと握り、硬い握手をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早いもので、俺がブレットに弟子入りしてから一週間が経った。

彼の振るう鎌の動きを徹底的に研究し、スキルとして昇華するまで鎌での戦い方は熟知した。

そんな俺が今、何をやっているかと言うと……。

 

 

 

 

「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「はっはっはっ! そんくらい相手出来なくてどうする! 鎌は扱い辛いが、攻撃範囲が自慢の武器だ。 思いっきり振り回してみろ!」

 

ダンジョンの中で、無数のアンデッド達に追いかけられていた。

 

 

 

パーティを組み始めの頃は、複数人での立ち回り方と称して二人で狩ることが多かったが、ここ数日は「一人でも戦えるように」と言うことで、基本一人で狩り、どうしょうもない時やピンチの時はブレットと協力。という形になっていた。

 

 

 

「これでダメだったら恨むからな! 『物質創造(モル・フェウス)』ッ!『ターンアンデッド』ッ!」

 

随分昔に覚えた『ターンアンデッド』を織り交ぜながら刃を創り、擬似的なアンデッド特攻武器を作り上げ、体ごと鎌を回してアンデッドの群れ目掛けて一振りする。

 

最前列にいたアンデッド達はその刃に当たりいくらか消滅していく。

 

 

 

それと同時に見えた、追いかけてくるアンデッドの数に絶望した。

 

 

「ブレット!なんだあの数! たたかってたらあ、確実にジリ貧になるぞ!」

「俺も今見た、あの数は無理だ! …とりあえず、ある程度処理しながらダンジョンの外を目指すぞっ!」

 

 

 

そうしてアンデッドを狩りながら暫く走ると、漸く目の前に眩しい何かが見えてくる。

明るさからして、ダンジョンの出口だろう。

 

…しかし、その光に浮かび上がる無数の骨のシルエット。

それらのシルエットの形は、後ろにいるアンデッドのものと酷似していた。

 

「クソッ!挟み撃ちかよ!」

「このまま強行で突破するぞ、武器を構えろ!」

 

そう言ってブレットは大鎌をいつでも振れるように構える。

それと同時に、俺もその手に持つ擬似アンデッド特攻の武器をグッと握り、正面のアンデッド達に狙いを定める。

 

「…ちゃんと合わせろよ?」

「ハッ、この一週間、お前から何を学んだと思ってるんだッ!」

 

ブレットはそう言って鎌をアンデッド達の頭目掛けて大きく振るう。

このまま俺も呆然としていればここ一帯に綺麗な薔薇を咲かせることになるだろう。

 

 

俺はグッと姿勢を低くし、ブレットの鎌を躱すと共に、アンデッド達の足目掛けて鎌を振るう。

 

「アキラッ!後ろのアンデッドも頼むッ!」

「任せろッ!」

 

そう言って振り向くと、こちらを追いかけてきたアンデッド達が数メートル先まで迫っていた。

 

「…こっから先の相手は……この俺だッ!」

 

俺はその手に持つ鎌の柄の先をグッと握ると、なるべく多くのアンデッドを巻き込むように鎌を振るう。

広い攻撃範囲もあり、先ほどより多くのアンデッドを巻き込むことが出来たが、大振りしたせいか、僅かながらに隙が出来る。

残ったアンデッド達は、その隙を逃すまいと俺に一気に詰め寄ってくる。

 

このまま行けば襲われる。 そう思った俺は、鎌をその場に捨て、能力でナイフを創る。

 

「『物質創造(モル・フェウス)』ッ!」

 

両手に生み出したナイフをグッと握り、振り下ろされるアンデッドの腕をすんでのところで受け止める。

 

腕に力を入れてアンデッド達を押し返すと、後ろからブレットの声が聞こえる。

 

「こっちは大丈夫だ! 早く来い!」

「分かった! 『物質崩壊(モル・フェウス)』ッ!」

 

その声を聞いた俺は能力でナイフと刃を魔力に戻し、柄を拾い上げ出口に向かって走り出す。

 

少しすると、目の前の光が段々と大きくなり、遂には外へと出られた。

 

 

「「た、助かったぁぁぁ……」」

 

 

危うく命を落としかけた俺達は、後ろからアンデッド達が追ってきてないのを確認して安堵した。

 

 

 

 

 

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「…ん…ぐ…ぷはぁ! 店員さん、もう一杯!」

「…お前…飲みすぎじゃないか?」

 

ダンジョン探索が終わった日の夜、俺達はギルドの酒場で一緒に食事を取っていた。

普段は別々で食事をしているのだが、偶には一杯やろうじゃないかと言うことで、酒場で食事をしていた。

 

「いやー、あんなアンデッドの群れから生きて帰れるとは思わなかった! アキラが『ターンアンデッド』を取っていてくれて助かったよ!」

「成り行きで取ったスキルだったが…まさかこんなところで役に立つとはな。 それにアンデッドを狩りまくったことでレベルもいい感じに上がったし。」

 

冒険者カードを確認すると、レベルの欄には37と書かれていた。

パーティに居たことにも、雑魚モンスターの処理を担当していた俺は比較的レベルも上がっていた方だが、この旅でレベルが10近く上がっていた。

 

冒険者カードを仕舞い、再び目の前の食事にかぶりつく。

 

暫く駄弁りながら食事をしていると、唐突にブレットは話し出した。

 

「アキラ。 俺、明日からあるクエストを受けることになっていてな……暫く王都を離れるんだが…お前はどうする? 一通りの事は教えたし、もう独り立ちしてもいいとは思うが…」

 

ブレットが真剣な様子でこちらを見ながら言ってくる。

そんなブレットを見ながら、俺は答える。

 

「…こんなところで別れても、俺が何していいのか分からなくなっちまうからなぁ…それに、俺はブレットから盗める技術は全部盗んでから出ていくつもりだ。 お前が嫌っつっても、そのクエストってのに勝手に付いていくさ。」

 

そう俺が答えると、ブレットがクスクスと笑う。

 

「…ふふふ…はっはっはっ! いいぜ、"冒険者"如きに簡単に技を盗まれてたまるか! 俺の全部を盗むなら、地獄の底まで来ることを覚悟するんだな!」

 

笑いながら言うブレットに釣られ、俺も自然と笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレット。それで、クエストにはどこに行くんだ?」

 

「…そういや言ってなかったな、これから行くのは『水の都 アルカンレティア』だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、私です。珈琲@微糖です。

新章3話にして早くもアルカンレティアフラグを立てましたが、時系列的にはまだまだ4巻の序盤です。

また、現在の主人公の詳細を以下にまとめました。 小説を見る時に参考にして頂ければ幸いです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=148298&uid=181647


と言うことで、今回はこの辺りで、また次回以降も見て頂ければ幸いです。

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