「ほへー、これが王都か…」
漸く辿りついた街を散策しながら、俺はそう呟いた。
王都というだけあってアクセルの町とは違った賑わいがある。
街の賑わいに圧倒されながら、俺は露店の商品をチラリと見る。
「……おおう。」
商品の値段も、中々なものだった。
観光もそこそこに、再び俺は街の中を歩く。
理由は簡単、腕に自信のある冒険者の中で、大鎌を扱う冒険者を探す為だ。
アクセルの町には、鎌を扱うような冒険者は居なかった。
だから、俺は今まで鎌をスキル無しで扱わざるを得なかった。
しかし、この世界は完全スキル制MMOによく似た世界。 スキルの無い武器の扱いでは、限界はすぐに来た。
だからこそ、冒険者が集まるこの地で鎌を扱う冒険者から教えを請う必要があった。
暫く歩くと、街中で一際賑わう施設を見つけた。
周囲の人々からは、さっきまで居た露店の人々の雰囲気とは違った感じがするので、恐らくここがこの街の冒険者ギルドなのだろう。
意を決して、その建物の入口を開くと、アクセルの冒険者ギルド以上の喧騒が目に入ってきた。
「いらっしゃいませー! お食事ならば酒場の方へ、冒険者登録やその他尋ねたい事がありましたら受け付けへどうぞー!」
すぐ近くにいたギルドの職員の方にそう言われたので、俺は微笑みかけながら会釈し、受け付けの方に向かう。
「すみません、少々尋ねたいことがあるのですが……」
「はい、なんでしょうか?」
受付窓口まで行き窓口の職員に話しかけると、目の前の男性職員はにこやかに笑いながら対応してくる。
「この街を拠点にしている冒険者の中に、鎌をメイン武器にしている冒険者の方って居ますかね? 私は他の町で冒険者をしているんですが、その町に鎌を扱っている人が居なくて…」
「成程。 それでは一度冒険者カードを拝見させて頂いてもよろしいですか?」
その言葉に頷き、俺は懐の冒険者カードを男性職員に渡した。
ざっと内容を流し読みで確認した後、こちらに冒険者カードを差し出しながら言う。
「ありがとうございます。 コセキアキラさんですね。 …鎌を扱う冒険者の方なのですが、居ることには居るのですが、数時間前からクエストに出てしまったので、少々待って頂いてもよろしいですか?」
その言葉に、俺は分かりましたと言って歩みを酒場の方に向けた時だった。
ギルドの入口が開かれ、外から俺が使っているような大鎌を携えた男性が入ってくる。
背負ってる武器からして、彼がこの街の鎌使いであり、たった今クエストを終えて帰ってきたと思われる。
その男が、ついさっきまで俺が居た受付の職員に話しかける。
「すみません、さっき受けたワイバーン十体の討伐の達成確認をお願いします。」
「かしこまりました。 ………はい、確認終わりました。 こちらの方が達成報酬になります。」
そんなやりとりを見ていると、職員がこちらの方に話を振る。
「こちらの方が先程言っていた鎌使いのブレットさんです。 そしてこちらがコセキ・アキラさん。ブレットさんに、鎌の扱いを教わりたいって言ってる方です。」
そんなギルドの職員の紹介を聞いた俺が初めまして。とお辞儀をすると、目の前のブレットさんもお辞儀をする。
「えーっと、初めまして。俺の名前はブレット。 上級職の"サイズマスター"だ。 鎌を習いたいって事は、君は"サイザー"では無いよね?」
「あ…はい。 普段所属してるパーティでは、バランスを取る為に"冒険者"をしていました。」
俺がそういうと、ブレットさんは一度溜息をつき、俺に向き直って言う。
「そうか…それなら一つ言っておこうか、鎌使いはやめておいた方がいい。 見たところ、まだ大鎌も手に入れられてないようだし、第一恐らく君のステータスではあんなもの扱い切れない。 取得するだけ無駄だよ。」
ギルドの職員から大雑把なステータスを職員の方から聞いたのだろうか、丁寧な口調でこちらを諭してくる。
「そこを何とかお願いします! 武器ならあります、俺の筋力でも扱える程の代物です。 …それに、俺は強くならなくちゃいけないんです!」
そう言ってブレットさんに対して深くお辞儀をする。
そんな俺に対し、ブレットさんは困り果てた様子で頬をかく。
そんなことをしていると、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれ、ブレットにアキラじゃないか。二人ともそんな所で何をしているんだ?」
俺達二人が声のした方を向くと、つい数日前に命を救ってくれた恩人、ミツルギがキョトンとした様子でこちらを見ていた。
「…なんだ、ミツルギか…名前を知ってるって事は、こいつと知り合いが何かか?」
そう言ってブレットさんは俺の方に親指を指しながら尋ねる。
「ああ、アクセルの町でちょっとね…それよりも、こんな所で話すのもあれだし、一度座らないか?」
そのミツルギの言葉に、俺達はここが受付の前だということを思い出した。
「改めて、俺の名前はブレット。 王都を中心に活動している冒険者だ。 基本はソロなんだが、時々
ギルドの酒場に戻った俺達は、ミツルギの提案で一度落ち着いてから話し合おうという事になった。
四人掛けのテーブルで、俺の目の前にはブレットさんとミツルギが座っている。
「ご丁寧にどうも、俺の名前はコセキ・アキラ。 パーティメンバーには基本的には『アキラ』って呼ばれてます。 元はアクセルの町を拠点にしているパーティに入っているのですが、訳あってパーティを離れています。」
そう言って俺は軽く頭を下げる。
「えっとさ、まず一ついいか? …敬語とかそう言うのは出来ればやめてくれ。 それと、俺のことはブレットで構わない。」
そう言う堅苦しいのは苦手なのだろうか、ブレットさん…ブレットは照れ隠しをするように頭を掻きながらそう言う。
「…分かった。 それなら俺のこともアキラで構わない。」
俺がそう言うとブレットは頷いて了承した。
お互いの自己紹介が済んだところで、ミツルギが話を切り出す。
「それじゃあ…まず一つ聞きたいんだけど、前サトウカズマと一緒に決闘をした時、確かナイフを使ってたよね? どうして"サイズマスター"のブレットに教えを乞おうとしてるんだい?」
「ナイフじゃどうしても火力不足でなぁ…。 小型モンスター相手にする為に使ってはいるが、他の主軸を立てようと思って。」
そう言って、ミツルギ達にローブの裏に括りつけたナイフを見せる。
…魔力を作ったものではなく、普通に武器屋で買ったものだが。
「成程。 …でも、どうして鎌なんて使おうとしてるんだ? 普段使ってる俺が言うのもあれだが、剣とかの方が扱い易いだろう?」
ブレットが首を傾げながら尋ねる。
「それはそうなんだが…大鎌の方がかっこいいだろう?」
「よし、今すぐアクセルの町まで帰れ。」
俺が理由を答えると、ブレットが真顔でそう言う。
流石にここで帰るわけにも行かないので、ちゃんとした理由も話す。
「冗談冗談! …ただ、盾とか持ってる敵には、こっちの方が有利だろ?」
俺が少し慌てながら答えると、ミツルギは苦笑しながら頷き、ブレットはため息をついて頭を軽く抱えた。
「…ところで、君の武器はどこにあるんだい? 見たところ、そのナイフしかないみたいだけど…」
「それは俺も気になってた。 流石に、まだ武器も買ってません、作ってません。なんてことはないだろう?」
何かに気付いたミツルギはそう尋ね、同じ疑問を持っていたブレットが同調する。
…そう言えば、ブレットはまだしもミツルギには言ってなかったっけ。
「…ああ、あるぞ。 ただ、こんなところで出すのもあれだし、ちょっと外に出ようじゃないか。」
俺の言葉にどこか疑問を持った顔をしたミツルギ達を連れて、俺達はギルドの外へ出た。