「「「はぁ!? パーティを抜ける!?」」」
翌日、めぐみんに伝えた事をカズマ達にも伝えると、驚いた様子で俺の顔を見てくる。
「お、おいアキラ! 急にそんなこと言い出してどうしたんだ!?」
「そうだ! 確かに借金は返済して、ある程度の貯蓄もあるだろうが…流石にパーティを抜ける必要はないだろう!?」
「そうよ! 今ならまだ戻れるわ、だから考え直して!」
カズマ達はそう言って俺に詰め寄ってくる。
「…あー、えっと…言い方が悪かったかな? 暫く、パーティを離れて修行の旅…? っていうやつに行こうと思うんだ。」
俺がそう説明すると、パーティを抜ける気では無いことに気づいたカズマ達は一先ず安堵した。
「…全く、驚かせるなよ…ってか、それはそれでどうして急に…」
カズマの言った言葉にダクネスのアクアは頷く。
「…この間、バニルと戦った時に俺だけ何も出来なかった。 その前のデストロイヤーの時だって、アクアが居たからあんなことが出来たけど…多分、俺一人じゃ何も出来なかったと思う。 …ベルディアの時だって、結局俺は殆ど何にも出来てない。 そう考えてたら…自分のことが情けなくなって…」
そう言う俺の手に、段々と力が篭る。
「…それならば、別にパーティを抜ける必要なんてないのではないか。 この町に居るからと言って、鍛えられない訳では無いだろう?」
ダクネスがそう言うが、俺は首を振る。
「確かに、この町でもレベルは上げられる。 …でもさ、こんな居心地の良いパーティが居る町に居たら、俺は多分戻りたくなると思うんだ。 だから、自分の退路を断つ為にも、この町を出ていこうと思う。」
俺がそう言うと、カズマ達は押し黙る。
…暫くすると、アクアが口を開いた。
「…いいんじゃないの? アキラだって、ちゃんと考えてそうしようって思ったんでしょ。 なら、私は止めないわ。」
そう言ったアクアに同意するように頷くダクネスやカズマ。
「…アクアの言う通り、アキラが決めたのなら、私から言う事はないだろう。 分かってると思うが、無茶だけはするなよ?」
「ああ、分かってるって、必ず帰ってくる。」
そう話していると、カズマがふと気づいたように言ってきた。
「そう言えば、この事はめぐみんの奴には伝えたのか? 」
「ああ、めぐみんには……「私がどうかしましたか?」
俺がそう言いかけると、後ろの扉からめぐみんの声が聞こえてきた。
「噂をすれば何とやら、って所だな。 昨日の夜の事を話してたんだ。」
俺がそう言うと、途端にめぐみんは顔を赤らめて顔を隠すようにくっ付いてきた。
「その、アキラ? …流石に、昨日の今日でカズマ達に伝えられるのは恥ずかしいと言いますか…」
「そっちじゃねぇよ!パーティ離れるって話の方だよ! 」
恥ずかしげに言うめぐみんの誤解を解いていると、カズマ達が集まって、何かを話しているようだった。
「…あの二人、やっぱりそういう関係だったのね…」
「…いつかはそうなると思っていたが……」
「…むしろ、あんだけイチャついててくっついて無い方が不思議だったもんなぁ…」
そんなことを、こちらに聞こえるような声で話している。
「……めぐみん、後の事情説明は頼んだ。 俺は準備の為に暫く家を空けるから!」
小っ恥ずかしくなった俺はそう言って早歩きで部屋を出ていく。
「ちょ、ちょっとアキラ!置いてかないでください! と言うかなんですか!その微笑ましいものを見るような目は!」
後ろからそんな声がしたような気がしたが、俺は気にせず歩みを進めた。
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町に出てきた俺は、ウィズの店の前まで来ていた。
この店の商品は使い勝手の悪いものが多いが、稀に掘り出し物があるので旅に出る際、何か使えるものは無いかと思い訪れていた。
…あわよくば、カズマが使っていた『ドレインタッチ』を教えてもらえないかと思ってはいるが。
そんなことを考えながら、俺は店の扉に手を掛けて………
「おお、これはこれは先日の我輩との戦いでボコボコにされてその晩、枕を涙で濡らしたせいね……」
俺はこれまでにないくらい綺麗なスナップを手首に効かせて扉を閉めた。
「(…あれー。俺、疲れてんのかな…)」
今目の前に映った姿が信じられない俺は、そんな思考を張り巡らせながら再び店の扉を開く。
「全く、そんなに乱暴に扉を閉めるでない。 壊れたらどうする。」
「…いやなんでしれっとお前が居るんだよ!めぐみんの爆裂魔法で倒されたって聞いたぞ!」
黒のタキシードに似つかわしくないピンクのエプロンを付けた見通す悪魔に、俺はそう叫んでいた。
「青年よ、この額の文字を見てみよ。」
そう言ってバニルが指した額の文字を見ると、【Ⅱ】と書かれていた。
「…その二がどうかしたのか?」
「ふん、察しが悪いな。 あの貴様が恋してる小娘の爆裂魔法の直撃など、我輩とてただでは済まん。 …我輩の残機も一つ減ってしまってな! 我輩は二代目バニルッ!」
…もう、突っ込む気すら起きなくなった。
「…あぁ、うん。なんで二度目ましてのお前がそのことを知ってるんだとか、残機とか色々言いたいことはあるけどもういいわ。 …それで、ウィズはどこだ?」
「あのポンコツ店主なら何やら用事があると言って2、3日店を空けると言っていたな。 …変なものさえ仕入れなければいいが…」
「…お前も苦労してるんだな…」
頭を抱えながらそう言うバニルに少し同情した。
「…まぁ、それはいいのだが…恐らく、戻ってくる頃にはもう既に青年は町には居ないだろうな。」
「…お前はどこまで知ってるの? まだ町を出る話とかしてないよね?」
俺が半分棒読みでそう言うと、バニルは高笑い
して答えた。
「フハハハハ! 我輩は見通す悪魔、悪魔公爵のバニルである! 人っ子一人の人生を見通すなど、たわいないことよ!」
そんなことを言ったバニルは顎に手を当てながら少し考え込む。
「…フム…青年よ、旅に出ると言うのなら優しいバニルさんから二つ助言をしておこうではないか。」
「…どういう風の吹き回しだ?」
唐突にそんなことを言ってきたバニルに、俺は怪しみながらそう言う。
「なに、貴様の将来を見通した上で友好的な関係は保っていて損は無いと判断しただけだ。 …あの忌々しいプリーストと同じパーティだが、それを差し引いても理はあるだろうしな。」
そのバニルの言葉を信じて、一応その助言を聞くことにする。
「まずは、旅に出ると言うのなら、バニルさん的には王都がいいだろう。 無数の冒険者が集まる地であり、日々魔王軍の襲撃を受けている地だ。 そこで他の冒険者から技量を吸収し、魔王軍との戦いで実践することで、短期間で経験を積めるだろう。」
「…そんな魔王軍に、この間俺はボコボコにされたんだけど…大丈夫なのか?」
不安げに言う俺にバニルは答える。
「ただの冒険者風情に、この『魔王より強いかもしれないバニルさん』が遅れを取るわけ無かろう! まぁ貴様の実力ならば、王都に群がる魔王軍など余程のことがない限り大丈夫だろう。」
「……まぁ、参考程度に考えておくよ。」
バニルのアドバイスを頭の片隅に置いたところで、二つ目の助言をしてくる。
「そして二つ目の助言だが……貴様の能力は『魔力を物質にする』事だけだと思っているな?」
「……? あぁ、そうだと思っているが……」
そういったところで、バニルは俺の目の前にビシッと指を突きつけて言う。
「ならば言わせてもらおう。 貴様の能力はそれだけでは収まらない。その能力さえ開花すれば、魔王軍の幹部であろうとも渡り合うことが出来るだろう! ……それを開花できるか否かは貴様次第だがな。」
そう言ってきたバニルに対して、俺は一度目を瞑り、一息吐いてから言った。
「…ははっ…だったら、意地でもその能力を開花して…真っ先にあの時のリベンジしてやるよ。」
「…いいだろう。 だが、このバニルさんを超すなど容易いことでは無いという事は覚えておけ。」
バニルが不敵に笑うのに釣られて、俺も笑みを浮かべながら、目的の人物が居なかったので俺は店の外へと歩みを進める。
「…そういや、近々カズマ辺りが商品を売りに来るかもしれないから、あいつらが来たらよろしく頼むぞ。」
「うむ、心得た。」
その言葉に満足して、俺はウィズの店を出ていく。
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「おーい、カズマー。 居るかー?」
ウィズの店から帰ってきた俺は、カズマの部屋の前に立っていた。
「おお、アキラか。 何か用事か?」
「まぁな、教えて欲しい魔法があるんだが…」
部屋から出てきたカズマにそう頼む。
「それは別にいいが…その手に持ってるのは?」
カズマは俺が手に持ってる幾らかの紙を見ながら尋ねる。
「こいつか…俺が借金を返済しようとしてた時に、色々調べてただろ? この世界の生活水準を調べた上で、売れそうな商品の設計図なんだが…暫く居なくなるから、カズマに託そうと思ってな。」
「いいのか? もう借金は無いし、戻ってきてから作っても遅くないだろ?」
そう言ってカズマは、遠慮がちに対応してきた。
「いいっていいって、カズマの方が運のステータスが高いしな。 もしその中でヒット商品が出来たら、その売り上げの一部だけ取っておいて貰えれば十分だしな!」
「そういうところだけは抜かりないよな、お前。」
そう言って設計図を押し付けると、カズマは渋々受け取って設計図を眺める。
「ふむふむ…確かにこっちには暖房器具は殆ど無かったな…将棋なんて、この世界で流行るか?」
「あっ、それ俺がやりたいから作っただけ。 ついでに作っといてもらえると助かる。」
「よし、この設計図を使っていくつか魔法を教えてやる。 どうせ欲しいのは初級魔法だろ?」
「ごめんなさい自分で作るので返してください。」
俺が平謝りをすると、カズマは将棋の設計図だけを返してくる。
「…目を通してみたけど、他の奴は普通に使えそうなものばっかだから、こっちでちょっと頑張ってみるわ。 それで、教えて欲しい魔法はなんだ?」
「ああ、すまないな。 …魔法は、『ティンダー』と『クリエイト・ウォーター』、それと……」
そうして俺は、幾らかの日常で使えるスキルと自衛手段の盗賊のスキルを教えてもらい、部屋を後にした。
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翌日、風が揺らす草木の音しか聞こえないような中、俺は正門の前に立っていた。
「(…結局あいつらには何も言わずに出てきたけど…大丈夫だよな。)」
そんな思考を張り巡らせ、俺は正門の横にある扉をゆっくりと開けようとした。 …その時だった。
「……全く、何一人でかっこつけて出ていこうとしてるんですか。 紅魔族的にはかっこいいですけど、一言くらい言ってから出ていくのが筋だと思うのですが。」
「…誰かと思ったらめぐみんか。 よく出て行ったことに気付いたな。」
「布団が急に冷たくなりましたからね。」
そんなたわいない話をしながら、俺はめぐみんの方に向き直る。
「まぁ、気付かれたんならしょうがないな。 …じゃあめぐみん、暫く出かけてくるわ、カズマ達にも、よろしく言っておいてくれ。」
「ええ、分かりました。 …アキラ、ちょっと目を閉じて屈んでもらってもいいですか?」
そう言われて、何かと思いつつ言う通りにする。
少しすると、首にベルトの様なものが通される。
「…えっと、めぐみん…これは…?」
「チョーカーですよ。昨日露店を見てたら、私の付けてるものに似たものがありましたので。 …寂しくなったら、それを見て私の事を思い出してください。」
そう言ってニコリと笑うめぐみん。
無意識に、そんなめぐみんの頭を撫でていた。
「…ありがとな。 このチョーカー、めぐみんだと思って大事にするから。」
「そうしてもらえると嬉しいです。 …必ず、帰ってきてくださいね。」
めぐみんの言葉に返事をするように、俺はこくりと頷きめぐみんの頭を撫でる。
「…それじゃあ、そろそろ行ってくるわ。」
頭を撫でていた手を離し、再び町の外へと歩みを進める。
「…行ってらっしゃい、アキラッ!」
暫く聞けなくなる、俺が一番聞き慣れた声に手を振りながら町の外へと出ていく。
見慣れた平野に吹く風は、今まで感じてた以上に清々しく、ここから新たな冒険が始まるのだと認識する。
放胆小心とは、よく言ったものだろう。 そう思い、大きく息を吸って叫ぶ。
「一先ず…目指すは王都へ!」
第三部完! どうも、珈琲@微糖です。
この章からちょこちょこオリジナル路線も混ぜ始めましたので、所々見辛い所等あったかもしれませんが、ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
次回以降ですが、ほぼオリジナルの路線になりますので、更新頻度は現在以上に落ちると思います。
それも踏まえて、次回以降もお楽しみ頂ければ幸いです。