この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第十話 - この冒険者に新たな決意を!

「……アキラ、居ますか…?」

 

俺達の借金が完済された日の夜、その声と共に俺の部屋のドアがゆっくりと開かれた。

椅子に座って読書をしていた俺が扉に目を向けると、どこか緊張した面持ちのめぐみんが顔を覗きこませていた。

 

「あぁ、とりあえず適当に座ってくれ。」

 

俺がそう答えると、めぐみんがお邪魔します。と言って部屋に入り、ベッドに腰掛けた。

そわそわしながら部屋を見回すめぐみん。

そんな様子を見ながら、俺は読んでいた本をパタリと閉じる。

 

「……どうしたんだ、そんなにそわそわして。」

「いえ、何でもありません。 …ただ、こうやってアキラの部屋に来るのは久し振りだなぁって思って。」

「まぁ、最近は鍵を締めてたけど…そう染々言うことか?」

 

染々と言うめぐみんに首を少し傾げながら言うと、めぐみんはやれやれと言った様子で言う。

 

「全く、アキラは鈍いんですから。 …緊張してた私が、ばかみたいじゃないですか。」

 

そう言ってめぐみんはいかにも怒ってますと言った様子で小さく呟く。

 

「…あぁ、うん。悪い、どうもそう言うのは昔っから疎くてなぁ…」

 

椅子から立ち、机の上に本を置いた俺はめぐみんの方に向き直りそう言う。

 

「…今回は許してあげます。お陰で緊張も解れましたし。」

 

そう言ってめぐみんは布団から立つと俺に向き合う。

 

「…アキラ、この間の話の続き…です。」

 

俺の目の前に立つ少女は服の裾をぎゅっと握ると、意を決したようで口を開く。

 

「…私は、この町に来てから沢山のパーティに参加させてもらいました。 紅魔族のアークウィザードという事もあり、初めのうちはどのパーティでも歓迎してもらえました。」

 

そう、昔を懐かしむ様に話すめぐみんの顔は決して明るいとは言えなかった。

…そして、めぐみんは俯いて話を続ける。

 

「ですが、私が爆裂魔法しか扱えないアークウィザードだと分かると、どのパーティも入れてくれなくなり……いつしか、私は一人ぼっちになりました。」

 

そう話すめぐみんの声は段々と震え、裾を握る手の力も段々強くなっていた。

 

「……でも、カズマのパーティは…貴方だけは違ってた。 私の爆裂魔法を見て、凄いと言ってくれた。 動けなくなる私の手を取って、助け合うのは当然だと言ってくれた。 ……そして、私の爆裂道を馬鹿にせず、共に歩んでくれると言ってくれた!」

 

俯いていためぐみんは顔を上げて、目には涙を浮かばせつつも笑顔でそう言う。

 

「初めは、優しい人だなぁ。位にしか思っていませんでした。 …でも、その想いは段々と大きくなって。…いつしか、貴方のことをもっと知りたい。貴方にもっと認めてもらいたいと思うようになりました…。」

 

そう言っためぐみんは自分を落ち着かせる様に一度深呼吸して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アキラ、貴方のことが好きです。」

 

目の前の少女は、頭を下げながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めぐみん、顔を上げてくれ。 …俺の話を、聞いてくれないか?」

 

目の前の少女にそう言うと、めぐみんは顔を上げて頷く。

 

「俺がカズマのパーティに入った時、同時に入った魔法使いの女の子が居たんだ。」

 

俺はあえてその少女の名前を出さずに言う。

 

「その女の子は、一度使うとガス欠になる魔法しか使えなくて。 …正直な事を言うと、結構不安だった。」

 

その俺の言葉に、めぐみんの顔が少し曇る。

だが、俺はそれを無視して言葉を続ける。

 

「…でも、その女の子が一つの魔法に掛ける想いは本物で、初めてその魔法を見た時から、俺の心は、そのたった一つの魔法に奪われたんだ。」

 

そう言うと、不安そうな顔をしていためぐみんの肩がビクッと震える。

 

「そして、その魔法を追い掛けていた筈なのに、いつしかその魔法を打つ女の子の事が気になって…その女の子にも、心を奪われてた。」

 

そこまで言うと、俺は一度目をつぶって深呼吸をし、その少女に想いを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺も、めぐみんの事が好きだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、今はめぐみんの想いには答えられない。 …ごめん。」

 

そう言って頭を下げた瞬間、この部屋の時間が止まったような気がした。

 

目の前の少女は、俺の言葉の意味を理解した瞬間、帽子で顔を覆い隠して尋ねる。

 

「……………どうして…っ…ですか……もしかして、私が子供だから……ですか…っ……」

 

そう尋ねる声は震えながら段々と小さくなり、今にも泣き出しそうになっていく。

…そんなめぐみんの事を、何も言わずにぎゅっと抱きしめる。

 

「そうじゃない。 …ただ、一度パーティを離れようと思ってるんだ。 …だから、めぐみんの想いにはすぐには答えられない。」

 

泣きそうになるめぐみんの耳元で、そう言った。

その言葉に驚くめぐみんに、俺は続けて言う。

 

「この間、バニルと戦った時に思い知らされた。 …カズマには高い幸運と知識、アクアにはアークプリーストとしての能力。 ダクネスには高い耐久力…そして、めぐみんには爆裂魔法がある。 …でもさ、俺には何も無いんだ。」

「…で、でもアキラには…」

「確かに、俺には魔力を物体にする。なんて能力がある…でもさ、今の俺には全く使いこなせていないって…バニルと戦った時に思い知らされたんだ。」

 

めぐみんを抱きしめる腕にグッと力が篭る。

 

「デストロイヤーの時だって、俺があんなことを出来たのはアクアが居たからだ……っ…俺一人じゃ何も出来ないのに…何でも出来るような気になって……」

 

自分で言ってて、情けなさに目頭が熱くなるのを感じる。

そんな俺の頭に、優しく手が置かれる。

 

「そこまで悩んで決めたのなら、私は何も言いません…でも、約束してください。 必ず帰ってくるって。」

 

頭を撫でられながら、俺はこくりと頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして、落ち着いた俺は一度めぐみんから離れてベッドに座ったのだが…

 

「…情けない姿みられた…もうやだ…おうちかえる…」

 

ベッドに体育座りをしながらそう言う。

 

「いいじゃないですか、見たのは私だけなんですから……それに、ああ言った姿のアキラも中々…」

「…そうやってぶり返すのやめて…ほんとに…」

 

そう言って隣に座りながら頬に手を当てて言うめぐみんに反論する。

そんなことをしていると、めぐみんが何かに気づいたようで俺に話しかけてきた。

 

「…そう言えば、パーティを抜けるって具体的にはどういうことなんですか? 暫く一人でクエストを受けるとか…?」

「いや、詳しい事は考えてないんだけど…アクセルの町から出ようかなぁとは思ってる。 色んなところに行って、色んなモンスターと戦って沢山経験を積むのが一番かなって思って。」

「…ちょっと不安になって来たんですけど。 本当に危ない事はしないでくださいね…?」

「分かってるって、めぐみんと両想いになったのに、そんな無茶なんてしないさ。」

 

不安げに顔を覗き込むめぐみんにそう笑いながら返事をする。

 

「…ふふ、そうですよね。 ところで、いつ頃出る予定なんですか…?」

 

俺の言葉に、少し頬を赤らめつつもそう聞いてきた。

 

「そうだなぁ…カズマ達に話して、色々準備して……大体2~3日後位かな?」

「結構すぐ出る予定なんですね……と言うか、カズマ達にまだ話してないんですか!?」

 

先にカズマ達に話しているであろうと思っていたのだろうか、めぐみんは驚いたような顔をしていた。

 

「ああ…話そうとは思ったんだが、姿が見当たらなくてな。 …という訳で、明日の朝からの準備の為に早く寝たいだが。」

 

俺がそう言うと、めぐみんはそうですか。と答えてどこかもじもじしていた。

 

「どうしたんだ?」

「…アキラ。その、お願いがあるのですが…」

 

そんなめぐみんに話しかけると、めぐみんは少し俯いてこう言ってきた。

 

「…あの…アキラが居なくなるまでの間、また一緒に寝てもいいですか…?」

「…ん。」

 

俺はもじもじするめぐみんの手を取ると、立ち上がって布団の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうやって二人で添い寝するのは久し振りですね…。」

「…まぁ、ここ最近で色んなことがあったからな…。」

 

布団の中でくっ付いて二人でそんな話をする。

こうして二人で寝るのは何時ぶりだろうか。

そんなことを考えていると、目の前にめぐみんの顔があった。

 

「…出来れば、これからもこうやって過ごしたいんですけどね…」

「…あー、うん。ごめんね、俺のわがままで。」

 

そう言ってめぐみんの頭を撫でる。

そうすると気持ち良さそうに目を細める姿を見て、こちらも笑顔になる。

 

「…いいですよ、帰ってきたら覚悟しておいてくださいね?」

「よし、出来るだけ長くして…痛い痛い痛い!ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

笑顔でそう言うめぐみんに、俺がふざけて言うと笑顔のまま太ももの部分を抓られたので全力で謝った。

 

「ふんっ…そんなことより、そろそろ寝なくてもいいんですか…?」

「…そうだな、もうちょっとめぐみんと戯れてもいいけど、流石に寝るかな…」

 

そう言ってめぐみんをぎゅっと抱きしめてゆっくりと意識を失った。


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