この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第七話 - この冒険者達に新たな気持ちを!

「もうやだ、あんな姿見られてたなんて……消えたい、皆に忘れ去られて消えたい…」

 

部屋に鍵を掛け、両耳を塞ぎながらブルブルと震えていた。

 

あの後、落ち着こうと水を飲みに行こうと立ち上がると、廊下に繋がる扉からこちらを見るカズマ達と目が合い、あの姿の一部始終を見られていたことを知った俺は、部屋へと逃げ込み今に至る。

 

「…ほんと…なんであんなことしてたんだろ……」

 

体育座りで俯きながら、先程の奇行を振り返る。

傍から見ると、何も言わずにゴロゴロ回って、ちょっと止まったかと思ったらまたゴロゴロ…完全に変な人である。

 

そんな風に振り返りながら塞ぎこもって居ると、背中の扉がドンドンと叩かれる。

 

「アキラー、いつまで篭ってるんですかー! 早く出てきてくださいよー!」

 

扉を叩く音と同時に、そんなめぐみんの声が聞こえてきた。

…だが、今めぐみんと顔を合わせると、さっきのことを思い出しそうで扉を開けるに開けられない。

 

そんなことを思っていた時だった。

 

「…全く、カズマ達はダクネスの縁談を断りに行ってしまいましたし、もう力技しかないんですかね…」

 

ちょっと待て、縁談って何の話だ。 確かに扉から顔を覗かせていたダクネスは、どこか普段とは違ったような感じだったし…

そんなことを考えていたら、廊下から物騒な声が聞こえてきた。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に…」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

突如聞こえてきた爆裂魔法の詠唱に驚き、俺は扉を開いてめぐみんを止めようとする。

 

「漸く扉を開けてくれましたね。…開けなければ、屋敷に大穴が開くことになりましたが。」

「…流石にそれは洒落にならないからやめておこうな……」

 

そう言って俺は部屋に入ってきためぐみんの方を見る。

 

 

 

 

 

 

──おかえりなさい、アキラ。

 

 

 

 

 

 

ついさっき想像してしまった姿が、再び頭の中を過ぎり、つい目を逸らしてしまう。

 

「どうしたんですか、そんなに顔を赤くして…」

 

そう言ってめぐみんが顔を覗き込んでくる。

 

「…っ…いやっ! 何でもない、何でもないからっ!」

「…嘘ですね。 アキラが嘘をつく時には、瞬きの回数がやけに増える癖がありますから。」

「嘘っ!?」

 

まさかのカミングアウトに俺は自分の顔をペタペタと触る。

……めぐみんがジトっとした目をしているのを見て、全てを察した。

 

「……まさか、こんな古典的な引っ掛けにかかるなんて…本当にどうしちゃったんですか…?」

 

顔を近づけて、心配そうに顔を覗き込むめぐみん。

 

「…っ! 大丈夫だからっ!」

 

そう言ってローブで口元を覆い、目を逸らす。

 

「…全然大丈夫そうに見えませんよ? それに顔まで赤くなって…」

 

そう言ってめぐみんがピタリと手のひらをおでこに当て……

 

「うーん、熱はないようですけど…」

 

グッと背伸びをして顔を覗き込んだ事で、視界いっぱいにめぐみんの顔が映る。

 

「…め、めぐみん…? その…近くない…ですか…っ?」

「そうですか…? …と言うよりも、どうしたんですか。急に敬語になったりして…今日のアキラ、やっぱりちょっとおかしいです。」

 

そう言って、俺の目をじっと見てくる。

 

「もしかして、私には話せないことですか…? …それとも、やっぱり私じゃ頼りない…ですか…?」

「っ! それはないっ!…むしろ、悩んでるのはめぐみんの事っていうか…っ!」

 

めぐみんの発した言葉に、少し食い気味に否定をする。

 

「…私のこと、ですか…?」

 

キョトンとしながら首を傾げるめぐみん。

そんなめぐみんを見ながら、俺は小さく頷いた。

 

「………えっと、それって……どんなこと、ですか…?」

「……その、めぐみんと夫婦になったら……って事…考えてました………」

 

その言葉に、めぐみんも一気に顔を真っ赤にする。

 

「なっ、なんでそんなことを考えてるんですかっ!」

「ごめんっ! やっぱり嫌だったよなっ!」

 

めぐみんのあげた大声に驚き、咄嗟に謝る。

だが、返ってきた返答は予想外なものだった。

 

「…いえっ、嫌と言うわけではなくてですね… と言うか、誰でも急にそんなことを言われたら驚きますよっ!」

「そ、そうだよな! 急にごめんなっ!」

 

そんなやり取りをして、俺達は顔を赤くしたまま押し黙る。

暫くすると、めぐみんが再び口を開く。

 

「…その、どうしてアキラは…急にそんなことを…?」

「あー、めぐみん…その事を聞いちゃう? 俺としては、すっごい恥ずかしいんですけど…」

 

妄想していた相手に『こんなことを考えてました。』と内容を言うなんて、どんな罰ゲームだろうか。

そんなことを言って誤魔化そうとする。

 

「…私だって、いきなりあんなことを言われて恥ずかしかったです。 …もし言わないのなら、アキラと一緒にお風呂に入ったことを、ギルドに広める事も吝かではありませんが…」

「よし、話すから。だから、その事は他言無用でお願いします。」

 

そう言って俺は、コホンと咳払いをすると昼間、考えたことを全て喋ってやった。例えめぐみんが顔を真っ赤にしようとも、例え恥ずかしさから押し黙ったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と言うことを、考えていました……。」

 

一人の時に考えていたことを、洗い浚い話すと言う公開処刑が終わり、再び俺達の間には沈黙が流れる。

もうやだ、逃げたい。 ここから早く逃げ出したい。

そう思って部屋から逃げ出そうとするが、グッと手を掴まれた。

 

「待ってくださいっ!」

「断るっ! こんな恥ずかしいことしてここにいられ…る……」

 

手を振り払って逃げようとすると、より深く手を掴まれ、グッと体が引かれる。

 

 

 

「…めぐ、みん……ッ!?」

 

俺がそう言うと、めぐみんは俺の首の後ろへと手を回し、ぎゅっと抱きついた。

 

「……私も…初めてあの通り名を聞いた時、同じことを考えました…。」

 

俺の耳元で、小さな囁くような声が聞こえた。

それと同時に、首の後ろに回された手にグッと力が入る。

 

「…ただ、私は恥ずかしくもありましたが、嬉しくもありました。 …私達、そんな風に見られてるんだなぁ…って。」

 

少しだけ、首に回された手が震えるのを感じる。

 

「…デストロイヤーと戦った時に、カズマに指摘されて初めてこの思いに気が付きました。 …そして、今回の事でやっと決心がつきました。 …私は、貴方のことが……」

 

その言葉の続きは容易に想像が出来た。 だからこそ、俺は手でめぐみんの口を閉じた。

 

「……んーっ!んーっ!!」

 

めぐみんは口を塞がれながらも抗議をするような声をあげる。

 

「……めぐみんの気持ちは…多分分かった…。 でも、カズマやダクネスが大変な今は…まだ言わないでくれ。 …全部の事が終わったら教えてくれ。 …俺も、めぐみんに伝えたいことがある…から…。」

 

俺はめぐみんの耳元でそう言うと、口に当てた手を離しぎゅっと抱きしめる。

 

「…ぁぅ…わかり…ました……。」

 

再び頬を赤くしためぐみんがそう言いながら、グッと腕に力が篭る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そんなことをしていると、玄関の方から誰かの声が聞こえてきた。

 

「サトウカズマは居るかぁぁぁぁ!!!!」

 

……カズマ、今度は何をしたって言うんだ。


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