「今日はダンジョンに行きます。」
「嫌です。」
あのウィズの魔道具店での騒動の翌日、俺達はギルドの酒場で話し合っていたのだが…。
「行くったら行きます。」
「嫌ですぅぅ!!! だって、ダンジョンに行ったら私、ただのお荷物じゃないですか!」
ダンジョンに行くと言うカズマと、それに反対するめぐみんが言い争いをしていた。
「大丈夫だって! ダンジョンに入るのは俺だけなんだから!!」
「だったら尚更私が行く必要ないじゃないですかぁぁぁ!!!!」
「…お前、パーティに入る時に『荷物持ちでも何でもしますからぁ!』って言ってたよな! だから入口まで、その荷物持ちでもしていてくれ!!」
カズマが言うには、割と近場にある『キールのダンジョン』と言う初心者向けのダンジョンに新たなエリアが見つかり、借金返済に困っていたカズマがクエストを斡旋してもらったらしい。
「…ぐぬぬ…確かに、私はその時はそういいました。 今回も、出来る限りならやろうと思います。 …ですけど…」
カズマの事情を知っているめぐみんは一歩引き下がった。
「ですけど! どうしてアキラは別行動なんですか!! 私も、そっちの方についていきたいです!!」
「だって、アキラ。モテモテじゃない。」
「…あ、あはは…」
…めぐみんの言う通り、今日俺はダンジョンアタックにはついていかずに、別行動をすることになっていた。
アクアがこちらを茶化すように言ってきたので、苦笑を返しておいた。
「だって仕方ないだろ? アキラの方には、新しい金策の為の情報収集をしてもらいたいんだから。」
「でしたら! アキラよりもこの地に詳しいこの私もついて行った方が、効率は上がるのではないでしょうか!」
カズマがめぐみんを説得しようとするが、めぐみんは一歩も引こうとしない。
そんなカズマが、こちらに助けを求めるような目で見てきた。
「…めぐみん、俺の方は大丈夫だから、カズマ達の方について行ってもらっていいか?」
「どうしてですか! 私が居ると邪魔だと言うのですか!」
俺がそう言うと、めぐみんが噛み付いてきた。
「そうじゃなくて! パーティリーダーはカズマなんだし、そのカズマがめぐみんが必要だって言ってるんだ。 だから、そっちの方に行ってくれないか…?」
そう言ってめぐみんの帽子を取って頭を優しく撫でる。
「…ぁぅ…で、ですが…!」
「そうだなぁ…じゃあ、もしもカズマ達の方を手伝ってくれたら、何か一つご褒美をあげようじゃないか。 …だから、お願い出来るか?」
俺が頭を撫でながら言うと、めぐみんは少し考えると再び口を開いた。
「…わかり…ました……」
めぐみんは俯きながらそう言う。
「なんと言うか…恋人同士って言うより親子みたいね、貴方達。」
「恋人でもなければ親子でもねぇよ。 …って、どうしたんだ? めぐみん。」
アクアが冗談交じりに言った言葉に俺は否定をするが、いつものようなめぐみんからの否定の声が聞こえず様子を見る。
「……こいびと…どうし……っ…」
顔を真っ赤にしながら帽子をギュッと抱き、顔を隠すめぐみん。
そんなめぐみんを撫でていると、段々とこっちまで恥ずかしく……
「あぁもう! とりあえず、今日は俺はダンジョンに潜るから、アクアとめぐみんもさっさと準備しろよ!!」
この空気感に耐えきれなくなったであろうカズマがそう言って立ち上がる。
その音にハッとしたのか、めぐみんは俺の手を払い除けると帽子を深く被って立ち上がり、準備してきます。とだけ言い残してギルドを出ていく。
「…あぁ、これが娘の旅立ちってやつかぁ…」
「アンタ、さっき自分で親子じゃないって否定したじゃない。」
俺がそう感傷に浸っていると、ジトっとした目でアクアが俺のことを見ながらそう言った。
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「ふむふむ…まぁこんなところか。」
カズマ達と分かれた俺は、町中を歩いて色々と調べていた。
と言うのも、日常で使える冷暖房器具がどの程度のものなら売れるかどうかを考える為に、一般家庭にどのような冷暖房器具が備わっているかをまとめていただけだが。
調べた内容を手元のメモ帳にまとめていると、正面から声を掛けられた。
「…あれ、アキラさんですか…?」
「おー、ゆんゆんか。 こんなところでどうしたんだ?」
目の前には紅魔族の少女…ゆんゆんが居た。
「…いえ、ただ昨日、『何か用事があれば直接屋敷に来てもいい』って言われて、その言葉を信じて屋敷の方に直接行ったんですけど…誰も居なくて」
「…あー、今めぐみん達はダンジョンに行ってるからなぁ、だから家には誰も居なかったんだ。」
段々と暗い顔になるゆんゆん。
そう言って俺が弁解しようとすると、何かに気付いたゆんゆんが俺に尋ねてきた。
「そうだったんですか…所で、めぐみん達がダンジョンに行ってるなら、どうしてアキラさんはここに居るんですか? …その…めぐみんとそういう仲…なんですよね…?」
言ってて恥ずかしくなったのだろうか、段々と小さくなる声でそう言った。
「……ああ、昨日のあれかぁ……ゆんゆん。 俺とめぐみんの仲って、どうなってると思ってるんだ?」
「……えっと……その、恋人同士……じゃないんですか?」
「うん、じゃないね。 …めぐみんだって、"どういう仲"かなんて言ってないだろ?」
俺の指摘に、ゆんゆんはめぐみんに嵌められていたという事に気が付き、顔を段々と赤くする。
「…ま、まぁ、めぐみんも誤解されるような言い方をしていたしな!」
「…そ、そうですよね! …それで、アキラさんはどうして別行動をしているんですか?」
「うーん、それなんたが…」
本題に戻ると、俺達には大量の借金があること、そしてその借金を返す為に商売をしようとしていること、その為どのような商品なら売れそうか調べていることを伝えた。
「…そ、それでしたら、私もお手伝いしましょうか? …この町に来るまでは、修行の為に色んな町に行きましたし…」
どこか緊張しているかのような面持ちのゆんゆんがおずおずと小さく手を上げる。
「本当か!? …この町以外のことも知ってるとなれば、アレを商品化してウィズの伝で大規模展開することも夢じゃ…」
ゆんゆんの申し出に俺は少し興奮気味に反応する。
小さくブツブツ呟いていると、オドオドとゆんゆんが話しかけてくる。
「…あ、あの…それで、私は一体何をしたら……」
「…あ、あぁ、ごめん。 とりあえず、立ち話もあれだからどこか座れる場所にでも行かないか? ギルドの酒場か…ウィズの店とか…」
そう言って再び俺は考え込む。 そんなことしていると、服の裾をちょこんと摘まれた。
「あの…それでしたら、私行ってみたいお店があるんですけど…」
「…ん、ならそのお店にでも行こうか。」
そう言って、どこか嬉しそうに道案内をするゆんゆんの後について行く。
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店を出てゆんゆんと分かれた俺は屋敷に戻り、カズマ達やダクネスが戻ってくるのを待っていた。
「(…それにしてもこの屋敷、こんなに広かったんだなぁ…)」
リビングでぼんやりとしながら、手に持ったお茶を啜る。
「…それにしても、こっちに来てから色々なことがあったなぁ…」
ふと思い返すと、本当に色々なことがあったと思う。
土木作業をしていると、こちらの世界に送った女神が新入りとして入ってきたり、キャベツが空を飛んだり、古城にめぐみんと爆裂魔法を打っていたら、いつの間にか魔王軍の幹部と戦うことになったり、古代兵器を倒したと思ったらカズマが国家転覆罪の容疑をかけられたり…
「(…あれ、思い返したら、俺いっつもめぐみんと一緒に居ないか…?)」
爆裂魔法を打ち込みに行く時は勿論、ベルディアと戦う時や、デストロイヤーを倒した時。
それに、いつしかめぐみんが布団の中に入ってきたり、この間の風呂だったり………
「(…あー、うん。 そりゃ変な通り名が付けられるのも無理ない…か。)」
そんなことを思いながら、中身のなくなった湯呑みを置いてゴロンと寝転がる。
「…夫婦…か。」
ポツリと呟いて、めぐみんに言われた通り名を思い出す。
…夫婦、と言われても中々想像がつかない。
元の世界でも21の時に死んだから、そういう事があった訳でもないし、こっちに来たからと言っても、そういう様な関係の人達は殆ど見たことがない。
「(…結婚生活かぁ…)」
そんなことをぼんやりと考えながら想像をする。
いつもみたいに家に帰ると、エプロンを巻いた
「(…どうしてそこでめぐみんが出てくるんだよっ!)」
そんなことを思いながら、グルグルとその場を転げ回る。
確かにめぐみんとは恐らくこっちでは一番親しいけれども。 それに、なんだかんだ言って普通に可愛いし。
だが、相手は13…誕生日を迎えても14歳。 日本で考えると中学生と大学生…十分アウトだろう。
「(…って言うか、なんでこんなに、めぐみんの事ばっかり考えてるんだよ………っ!)」
そんなことを思いながら、再びその場に転げ回る。
「…お、おい、めぐみん。アクア。カズマ。 …その、私がいない間に、アキラに何があったんだ?」
「…分かりません…カズマ…その…アキラは大丈夫なんでしょうか。」
「分からないけど、あの状況で入っていく勇気はめぐみんにはあるのか?」
「…って言うか、私達が帰ってきたのに気付かないなんて、相当異常ね。 …あっ、頭ぶつけた。」
リビングの扉から、いつの間にか帰ってきてたダクネス、めぐみん、カズマ、アクアがそんな話をしていたのは、また別のお話。