この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第五話 - この紅魔の少女の争いに決着を!

「へぇ、ここがウィズの店かぁ…」

 

あの風呂での出来事の翌日、俺達四人はウィズの店を訪れていた。

と言うのも、魔道具を作ったらその商品を置かせてもらう交渉ついでに、めぐみんがこの間の勝負でゆんゆんから得たマナタイトを売りに来ただけなのだが。

 

「ちわーっす、これを買い取ってもらいた……」

 

カズマが扉を開けると、そこには昨日見た人物(ゆんゆん)が居た。

 

「わ、我が名はゆんゆん! なんという偶然、なんという運命のいたずら! やはり終生のライバル!」

「実は彼女、カズマさん達が偶にここに来るって聞いて、今朝からずっと待っていたんですよ。」

 

ウィズがそう言うと、ゆんゆんは顔を真っ赤にしながら、慌てて色々と言い訳を言う。

 

「あのー、ゆんゆん…さん? もしも何か用事があれば、直接俺達の屋敷に来てもいいんだよ…? ほら、めぐみんとは友達なんだろ?」

 

ウィズの方を向いているゆんゆんにそう言うと、ビクッと驚いた様子でこっちを見る。

 

「…っ! その、そう言うのには慣れてないと言いますかっ! そ、それにめぐみんと私は友達じゃなくてライバルって言いますかっ!」

「そうですよ、ゆんゆんと私は友達と言うものとは、少し違うとは思いますよ?」

 

何やら恥ずかしがりながら否定をするゆんゆんと、後ろから普段の調子で否定をするめぐみん。 こいつら仲良しか。

 

「まぁ何にせよ、何か用事があれば直接来てもらって構わないから…いいよなー、カズマ。」

「ああ、別にいいけど…言う前に確認取れよ。」

 

カズマが苦笑しながらそう言う。

だが、目の前の少女はそう言われたにも関わらず、どこかもじもじしていた。

 

「いや…でも、いきなりお家におじゃまするのってちょっと緊張して…」

「全く煮えきりませんね。 これだからぼっちは…」

 

その言葉に、俺達はゆんゆんの方を見た。

 

「えっ」「そうなの?」「…こんなに普通な子なのに?」

「ええ、ゆんゆんは紅魔族でも、自分の名乗りを恥ずかしがる変わり者で通っていまして、そのせいか学園でも、一人でご飯を食べていました。 その前を此れ見よがしにチョロチョロすると、いつも喜んで勝負を挑んで来ました。」

 

昔の事を懐かしむように語るめぐみん。

だが、その言葉にゆんゆんが抗議の声をあげる。

 

「失礼ね! …私にだって友達くらい居たもの!」

「…ゆんゆんに…友達……? アキラ、ちょっと私の頬を抓ってください、夢かどうか確認したいので。」

「さ、流石にそれは酷くない!? …同じクラスのふにふらさんやどどんこさんとかが、『私達友達よね』って言って私の奢りでご飯を食べに行ったり……」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺はゆんゆんの肩にポンと手を置いた。

 

「それで………え、えっと…どうしたんですか皆さん。 …そんなに凄い顔をして……」

「…ゆんゆん…俺が友達になってやるから、それ以上はもうやめてくれ……」

 

急に手を置かれた事におどおどするゆんゆんに、俺は無意識にそう言っていた。

 

「えっ!? その、いいんですか!?」

「……ああ、うん。俺なんかでいいなら、いくらでも友達になるから…だからその思い出話はやめてくれ、心に来る……」

 

その言葉を聞いたゆんゆんがぱあっと笑顔になってめぐみんの方を向く。

 

「めぐみんめぐみん! 新しい友達が出来たよ!」

 

嬉しそうに報告するゆんゆんを見て、めぐみんは溜息をつきながら頭を抱えた。

 

 

 

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「それで、勝負はするのですか? 爆裂魔法しか使えない私としては、魔法勝負だけは避けたいところなのですが。」

「他の魔法も覚えなさいよね、スキルポイントだって溜まっているんでしょう?」

「貯まりましたよ。 一つも余りなく.爆裂魔法の詠唱速度アップや威力上昇スキルに振り分けようと……」

 

やっぱり筋金入りの爆烈娘だったよ。そんなことを思いながら、アクアの正面の空いていた椅子に座る。

 

「全く、喧嘩するほど仲がいいとは言うけど限度があるだろうよ…」

「まぁ偶にはいいんじゃない? 少し殺伐としてるけど、邪険にしてる訳じゃなさそうだしね。」

 

そう言ってアクアは立ち上がると、店の商品を物色し始めた。

 

「…何これ、【仲良くなる水晶】?」

「あぁ、それは文字通り仲良くなる水晶なんですが、熟練した魔法使いでないと使えないんですよね。」

 

そう言って二人が水晶を見ながら話をしている。

 

「なぁめぐみん、あれを使って勝負出来ないのか。 熟練した魔法使いでないと使えないのなら、上手く使えた方がより優れた魔法使いになるんじゃないのか?」

 

俺はその水晶を指差しながら言う。

 

「…私は、別に馴れ合う気はないのですが。」

「とか何とか言って、負けるのが恥ずかしいんじゃないの?」

 

そのゆんゆんの言葉に負けず嫌いの爆烈娘が食いついてきた。

 

「…ふふふ、いいでしょう。 そこまで言うのでしたら、受けて立ちますよ!」

 

 

 

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向かい合う二人の間に、水晶の魔道具が置かれる。

そして、互いに水晶に手を向けると、魔力を流し始める。

 

その時、空気が変わったような気がした。

 

 

「すっげぇ……」

「流石紅魔族、この様子なら魔道具も上手く投影出来そうです。」

 

無意識にオレがポツリと呟くと、アクアの隣にいるウィズがそう言う。

 

「…ん? 投影ってなんのこと?」

 

疑問を持ったアクアがウィズにそう尋ねる。

 

「そろそろ魔道具が展開されますので、その時になったら説明しますね。」

 

ウィズがそう答えた直後、魔道具は空中に無数のスクリーンを投影する。

そのスクリーンに目を向けた瞬間、俺達は絶句した。

 

────どこかの家に忍び込み、大量のパンの耳をくすねるめぐみん。

 

────誕生日を、一人で楽しそうに祝うゆんゆん。

 

────川でザリガニを捕まえ、鍋で茹でて妹らしき子とそれを食べるめぐみん。

 

────チェスらしきゲームを、独り言を言いながら一人で交互に打つゆんゆん。

 

その他にも無数の映像が映っていたが、それ以上は見ていられなかった。

 

 

「……何あれ………虫を食べてるの…………?」

「…友達に奢るために……バイトをするのか………?」

 

 

アクアとカズマがポツリと呟く。

 

「な、何なんですかこの魔道具はっ! あ、アキラ!見ないで、見ないでください!早く伏せてくださいっ!」

 

涙目のめぐみんがそんな叫び声をあげていたような気もしたが、目の前の映像が衝撃的過ぎて、俺の頭には入ってこなかった。

 

「店主さんっ! これって仲良くなる水晶じゃないんですかっ!?」

「…これは、お互いの恥ずかしい記憶を晒すことによって、友情や愛情がより深くなると言う、大変徳の高い…アイテム…で……す………」

 

ゆんゆんの叫び声にウィズが反応するが、段々と声が尻すぼみになっていく。

 

「ねぇめぐみん! 私達、本当に仲良くなれるの!? こんなので本当に仲良くなれるのっ!?」

「………うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

ゆんゆんがめぐみんの方を見てそう言うと、耐えきれなくなっためぐみんが水晶を床に叩きつけた。

 

 

 

 

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「それでは、この魔道具代は保護者のカズマさんにツケておきますね。」

「ちょっと待て、めぐみんの保護者はこいつだ。」

 

そう言ってカズマが俺の方を指さしてくる。

 

「…別にそれでもいいが…カズマ、貸し一な。」

 

そう言ってため息をつくと、二人の紅魔族の少女の方を見る。

 

「(めぐみんの奴、立ち直り速いなぁ…)」

 

呑気にそんなことを思いながら、一口紅茶を飲んだ。

 

「全く、いつまでメソメソしているのですか。」

「だって! 折角の勝負がこれじゃあどっちが勝ったか分からないじゃない!」

 

めぐみんがそう言うと、さっきまで死んだ目でブツブツと呟いていたゆんゆんがめぐみんに泣きついてきた。

 

「それに、めぐみんだってついさっきまでメソメソしてたじゃない!」

「あっ、あれはですね! …その…あんなものを見られて、アキラに嫌われないか…とか心配になって……って、その事はもういいじゃないですか! 別に勝負は、ゆんゆんの勝ちでも構いませんよ。 もう勝負事に拘る程、子供でもないですし。」

 

ゆんゆんから少し目を逸らしながらそう言うめぐみん。

勝ちを譲られたことに不服そうなゆんゆんは、何かを思い出したようにはっとした。

 

「子供と言えば昔、発育勝負なんかもやったわよね。 子供じゃないって言うなら、またあの勝負をしましょう!」

 

自信満々に言うゆんゆん。 確かに、めぐみんの体で発育勝負…と言うのは酷な話だろう。

だが、めぐみんは余裕そうにやれやれ。と言った感じに首を振った。

 

「ゆんゆん。 発育と言うとは、決して体のことだけではないんですよ。」

 

そう言ってめぐみんは俺の方に近づいてくる。

 

「…現に私は既に、アキラと"そういう仲"なのですから。」

 

めぐみんは振り向いて、目線をゆんゆんの方に向けながら、俺に抱きついてきた。

 

「……めぐみん、いきなりお前何言って……「静かに、話を合わせてください。」

 

否定をしようとする俺の耳元で、めぐみんがそう言う。

…目の前のゆんゆんを見てみると、彼女は固まっていた。

 

「………えっと、めぐみん。 出来れば、もう一回言ってくれないかしら……?」

「ですから、言ってるじゃないですか。 もう既にアキラとは"そういう仲"だと。 …昨日だって、一緒にお風呂に入りましたしね。」

「………その、アキラさん…それは本当の話…?」

 

状況が掴めていないであろうゆんゆんが、こちらに話を振ってきた。

………否定しても肯定しても大変な事になりそうなので、何も言わずに笑顔を向けた。

 

「…な…え……えぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

漸く状況を掴めたゆんゆんは、大きな悲鳴をあげた。

 

「それだけじゃないですよ。 初めて一緒に寝たあの日の夜なんて……」

 

そんなゆんゆんに、追い討ちをかけるように言葉を続けるめぐみん。

…段々とカズマ達から向けられる目線が、冷たいものになっていくのを感じる。

しかし、目の前のゆんゆんは話の内容を誤解しているようで、顔を真っ赤にしていた。

 

「……きょ、今日のところは私の負けにしておいてあげるからぁぁぁぁ!!!!」

 

この空気感に耐えきれなくなったゆんゆんは、泣きながら店を出ていく。

 

「………今日も勝ち!」

 

勝負事に拘ってるじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、カズマさん。 これは違うんですよ、先程の事は言葉の綾と言いますか、めぐみんの話を合わせただけと言いますか。 その、アクア様にウィズさんも、そのゴミを見るような目を見るのはやめていただけませんかね。 確かに事実ではあるのですがこの事には海よりも深い理由か……」

 

その場に居合わせた他の三人に正座をしながら釈明したのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、私です。珈琲@微糖です。
前回はアンケートへのご協力ありがとうございました。 参考にさせて頂いた上、今後とも書きたいものを書いていきたいと思います。

さて、次回はキールのダンジョンなのですが、恐らく全くの別行動を取るのでほぼオリジナル回になると思います。

ということで、次回以降もまた見て頂ければ幸いです。

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