この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第四話 - この爆烈娘に旧友を!

「あ…あはははは……汚された…俺、汚された………」

「…大丈夫ですよ、アキラ。 初めは私もそうでしたが、こちら(食われる)側に来れば、すぐに慣れますよ。 それに、ちゃんとお風呂で洗い流せばこのヌメヌメだって落ちます。 こうなることを見越して、ここに来る前にお風呂は沸かしてきました。 ですから、早く帰って一緒にお風呂に入りましょう?」

 

カエルの口から吐き出され、その場で体育座りになって死んだ目で俯く俺の肩に、カズマから魔力を受け取って動けるようになっためぐみんが手を置きながら慰める。

…今何か変なことが聞こえたような気がする。

 

「全く…誰だか知らないけど助かったよ、ありがとう。」

 

そんな俺達の姿を見て頭を抱えていたカズマは、魔法を振るったと思われる女の子にお礼を言う。

 

 

「た、助けた訳じゃないですから…ライバルがカエルなんかにやられたりしたら、私の立場がないじゃないですか。」

「「…ライバル?」」

 

めぐみんの方を見てそう言う女の子を、カズマと正気を取り戻した俺はじっと見つめる。

その言葉を聞き、やれやれ。と言った様子で立ち上がり、女の子に向き直るめぐみん。

 

「ひ、久し振りね、めぐみん! 今日こそ、長きに渡った決着をつける時!」

「どちら様でしょうか。 …大体、名前も名乗らないなんておかしいじゃないですか。 これは、きっと二人が前に言っていたオレオレ何とかってやつですよ。」

 

その言葉に、段々と恥ずかしがる女の子。

…めぐみんと知り合いと言うことは、この子も紅魔族なのだろう。

 

「分かったわよ! 知らない人の前で恥ずかしいけど……」

 

紅魔族の少女は、一度咳払いをすると、随分前に聞いたような自己紹介が始まる。

 

「我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法を操る者! やがては紅魔族の長となる者!」

「…とまぁ、彼女はゆんゆん。紅魔族の長の娘で、私の自称ライバルです。」

 

まだ羞恥心の残っている様な挨拶の後、めぐみんが俺達に紹介する。

…と言うか、挨拶を恥ずかしがってるって事は、この子意外と普通の子?

 

「なるほどな。 俺はこいつの冒険者仲間のカズマ。よろしくな、ゆんゆん。」

「同じく「将来私の嫁になるであろう」冒険者仲間のアキラだ。よろしく頼む。」

 

変な茶々を入れてきためぐみんの頭をグリグリとしながら、自己紹介をする。

 

「痛い!痛いです! 離してください!」

「離して欲しけりゃ変な注釈を付けるな!」

「分かりました! 分かりましたからぁ!!」

 

「え、えっと…あそこの二人は何をしているの? って言うかさっき嫁が何とかって……それよりも、私の名前を聞いても笑わないんですか………?」

「世の中には、変な名前な上に『頭のおかしい爆裂娘』なんて不名誉な通り名で呼ばれるような奴も居るからな。 …後、あの二人は気にするな。 割と日常茶飯事だし、嫁だ何だって言ってるのもアキラの飯を食いたいだけだ…」

 

めぐみんの発言に動揺したゆんゆんにカズマがそう言う。

…前半の内容に、ぐりぐりから抜け出しためぐみんが反応する。

 

「私ですか!? 私の事ですか!? 私が知らない間に、いつの間にかその通り名が定着していたのですか!?」

「落ち着けって、お前以外に爆裂娘なんて付く呼ばれるような奴がこの町にいると思うか? 頭のおかしい娘よ。」

 

プッと笑いながらカズマに抗議するめぐみんに、小さい声でそう言う。

…なるべく聞こえないように言ったはずなのに、言った瞬間にこっちの方を向いてきた。

 

「さ、流石ねめぐみん、いい仲間を見つけたようね! それでこそ私のライバル、私は貴女に勝って、紅魔族一の座を手に入れる! …さぁめぐみん! この私と、勝負しなさい!」

「嫌ですよ、寒いですし。」

 

ゆんゆんの言葉をサラッと跳ね除けるめぐみん。

 

「ええっ! なんでよぉぉ……お願いよぉ、勝負してよぉ……」

 

そんな二人の言い合いを眺めていたら、俺の肩がチョンチョンと突かれた。

ゆっくりと振り向くと、後ろにはカズマ以外の人影が無かった。

 

「あれ、アクアとセラは?」

「二人ならもう町に帰ったよ。 …アクアの奴、ヌメヌメのままギルドに向かったから、代わりに手続きする為にここは任せてもいいか?」

「…いつの間に…ああ、それは構わんよ。 それにしてもカズマ、意外と仲間想いな所あるじゃねぇか。」

 

肩を突いてきたカズマにそう言うと、そんなんじゃねぇよ。とか何とか言いながら町に戻っていった。 全く、素直じゃない奴。

 

そんなことを考えながら再びめぐみん達の方を向くと、何やら動きがあったようだ。

 

「はぁ。 …しょうがないですね…私は今日はもう魔法が使えません。 ですから、勝負は貴女が得意だった体術でどうですか?」

「えっ、お前その状態でやるの?」

 

つい俺がそう口走ってしまうと、めぐみんがこちらの方を睨んでくる。 恐らく、何も言うなということだろう。

 

「…いいの? その、学園ではろくに体術の授業に出なかっためぐみんが、昼休みの時間になると此れ見よがしに私の前をチョロチョロして、勝負を誘って私からお弁当を巻き上げていた貴女が……」

 

俺はじっとめぐみんの方を見る。

 

「…あの、アキラ? 流石の私でも、そんなにじっと見られると照れると言いますか…」

 

めぐみんの言葉を無視して、疑惑の目で見続ける。

 

「…その、学園の件は仕方がなかったんです。家庭の事情で、彼女のお弁当が生命線だったので…」

 

俺の目が疑惑の目だという事に気づいためぐみんは、そう言って俺から目を逸らす。

 

「…分かった、体術勝負でいいわ!」

 

考え込んだゆんゆんはそんな結論を出した。 …いや、出してしまった。

 

 

 

 

 

 

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結論から言うと、勝負はめぐみんが勝った。

と言うのも、今まで日が陰っていてゆんゆんは気付かなかったようだが、めぐみんは先程までカエルに食われており、体中に粘液が染み付いていた。

そんな状態で体術勝負なんてしたらどうなるか…………

 

「降参!降参するからこっち来ないでぇぇぇぇぇ!!!!」

 

雪原を走り回る二つの人影。 …あっ、今一つになった。

 

「…降参…降参したのにぃぃぃ………」

 

一つとなった人影の片方は、もう一つの人影から抜け出そうとする。

 

「…今日も勝ち!」

 

もう一つの人影は、逃げ出すことすら許さなかった。

 

 

 

 

 

 

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「あのゆんゆんって子、泣いて帰っちゃったけど大丈夫かなぁ。」

「向こうが挑んできた勝負ですし、大丈夫だと思いますよ。 …はいこれ、アキラにあげます。」

 

勝負が終わった帰り道、そんなことを話していると、めぐみんがこちらに戦利品として得たマナタイトを差し出してきた。

 

「あー、俺じゃなくてカズマに返済の足しに渡した方がいいと思うぞ? 俺のやつって魔法とはちょっと違うから、多分そう言う魔道具は使えないと思う。」

 

俺の言葉に、そうですか。と言うめぐみん。

 

「それにしても、紅魔族にもまともな子って居たんだな。」

「なんですか、まるで私がまともじゃないような言い方は。」

「まともだったら『頭のおかしい爆裂娘』なんて通り名は付かないだろ。」

 

俺がポツリと呟くと、めぐみんが俺の方をジトっとした目で見てくる。

その後、何かを思い出したかのようにフッと鼻で笑うと、めぐみんがこう言ってきた。

 

「通り名と言えば、アキラにも付いてましたよ。 …『頭のイカれた爆発魔』だとか、『頭のおかしい爆裂夫妻の夫の方』とか言われてましたね。」

「おい、その通り名誰が言い出したか詳しく教えろ。 そして誰と誰が夫妻じゃ。」

 

俺がそう言うと、めぐみんがこちらの方を指差す。

俺は頷くと、その後めぐみんは自分のことを指差す。

 

「ちょっと待て、色々と待て。 いつの間に夫妻になった。」

「ただの通り名とか噂話の類です、気にすることではありませんよ。 それよりも早く帰りましょう? 流石に寒くなってきました。」

 

そう言ってめぐみんは屋敷に向かって駆け出す。

 

「……まぁ、悪い気はしないけどさぁ……」

 

小さく呟き、俺は先を行くめぐみんの後ろをついていった。

 

 

 

 

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「ただいまー…あぅぅ…早くお風呂入りたい……」

「先程も言った通り、お風呂は湧いていますよ。 私も早くヌメヌメを落としたいですし、早く入りましょう。」

 

家にたどり着いた俺がそう言うと、グッと俺の手を引っ張るめぐみん。

 

「…えっと、めぐみんさん? その手を離していただけないでしょうか。」

「…急に敬語になってどうしたんですか。 大丈夫ですよ、まだ家には誰も帰ってきていない様ですし、私も寒いのです。」

 

何とかしてめぐみんの手から抜け出そうとするが、手首から掴まれて抜き出すことが出来ずにいた。

 

「それだったらめぐみんが先に入るといい。 世の中には、レディーファーストなんて言葉もあるしな!」

「そんなことしてたら、アキラが風邪を引いてしまいますよ。 それに、その体で待ってたら臭いも篭ってしまいますから。」

「それだったら、俺は大衆浴場の方に行ってくるわ。 だから家の風呂はめぐみんが使っていいぞ!」

 

そう言って俺は手を振りほどくと、後ろにある玄関から家を出ようとする。

 

「そんなベトベトな姿で行くと、物凄く嫌な目で見られますよ。 それでもいいと言うのなら止めませんが……まさかアキラもダクネスと同じ種類の人間だったとは。」

 

後ろから聞こえてきためぐみんの言葉に、ドアノブにかけた手が止まる。

 

「…そう言えば、パーティを組んですぐの時は私も大衆浴場を使用してましたね。 隣にアクアが居たので、なんとか視線には耐えれましたが。 …アキラがどうしてもそちらを選ぶというのなら、カズマ達にその事をバラして関わり方を変える。 という事も吝かではありませんね。」

 

続くめぐみんの言葉に、俺はドアノブを掴む手を震えさせる。

 

「………ってやるよ………」

「…なんて言ったんですか?」

 

俺が呟いた声にめぐみんが反応する。

 

「風呂がなんだ!そんぐらい一緒に入ってやるよぉぉぉぉ!!!!」

 

俺は着ていたローブを脱ぎ、床に叩きつけた。

 

 

 

 

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「あ゙あ゙ー゙ー゙、生き返るぅ……」

「こうやってお昼に入るお風呂もいいですねえ…」

 

色々あったが、俺達二人と一匹は共に風呂に入っている。 …一匹?

 

「そういやめぐみん、聞きたいことがあるんだが…」

「なんです?」

「…その猫はどうしたんだ?」

 

そう言って俺は風呂桶の湯船に浸かる一匹の黒猫を見る。

 

「そう言えばアキラには紹介していませんでしたね。 この子はちょむすけ、私が拾った猫です。 ちゃんとカズマ達にも飼う許可をもらいましたよ。」

 

そう言って浴槽から出ると、風呂桶に浸かってた猫を抱き上げるめぐみん。

 

「ちょむすけ…って事は、こいつ男の子か?」

「いいえ、女の子ですよ?」

「えっ?」

「えっ。」

 

やっぱり、紅魔族のセンスは分からない。

そんなことを思いながら、猫と戯れるめぐみんを眺める。

 

「…それにしてもゆんゆんって子、本当にめぐみんと同級生だったのか?」

「おい、今どこを見てその疑問を思ったのか教えてもらおうじゃないか。」

 

タオルで包まれためぐみんを眺めながらそう呟くと、こっちを睨みながらそう言ってくる。

 

「どこって言われても…全体的に…ってごめんなさい爆裂魔法はやめてください吹っ飛んでしまいます!」

 

答えた瞬間にめぐみんが爆裂魔法の詠唱を始めたので必死に謝った。

 

「ふんっ、私だってこれからが成長期ですから。 数年もすればゆんゆんどころか、アクアやダクネスすら羨むような体になって見せますから!」

「…あぁ、うん。 夢を持つのはいい事だと思うよ…?」

 

目を逸らしながらそう言うと、めぐみんがこっちをジトっとした目で見てくる。

 

 

そんなやり取りをしていると、外から声が聞こえてきた。

 

 

 

「ただまーっ!カエルの報酬、もらってきたわよー!」

 

 

 

そんなアクアの元気な声と共に、廊下を歩く足音が二つ聞こえてきた。

 

「…なぁめぐみん。 風呂に入る時、鍵は掛けたよな?」

「…後に脱衣場に入ってきたのはアキラの方ですから、聞きたいのはこっちの方ですよ。」

 

互いに見つめ合いながら確認しあう。

額に、冷たい汗がツーっと流れた。

 

「おーい、アキラー!めぐみーん! まだ帰ってないのかー?」

「もしかしてお風呂にでも入ってるんじゃない? カエルに丸呑みされてたし。」

「だとしたら、どっちか片方は居るはずだろ? 一緒に入ってるって訳じゃあるいし。」

 

そうよねー。と言うアクアの声の後に、二人の笑い声が聞こえてきた。

……いや、入ってるよ? ばっちり二人(+一匹)が風呂場に居るよ?

 

「「…………鍵を締めろぉぉぉぉ!!!!」」

 

俺達は一斉に立ち上がり、扉の鍵を締めようと走り出す。

 

「めぐみーん、アキラー。 風呂にでも入ってるのかー?」

「めぐみんなら私も入っていいー? 早くヌルヌル落としたいんですけどー。」

 

扉のすぐ前からカズマとアクアの声が聞こえる。

だが、こちらももう少しでめぐみんが鍵に手が届く。 …そう思った瞬間だった。

 

 

「………あっ………」

 

 

足元に敷いてあるバスマットに滑り、目の前のめぐみんを押し倒す形で倒れ込む。

…そう、外に居たのなら慌てて様子を見に来るような物音を立てて。

 

 

「ちょっと!? 今凄い音がしたけどだいじょ…う……ぶ………」

 

 

扉の前に居たであろうアクアが慌てて扉を開ける。

そこには、うつ伏せに倒れているめぐみんと、その上に覆うように乗っかる俺の姿が映っていた。

 

扉の前で、扉を開けたアクアとその隣に居たカズマが固まる。

 

 

「「「「………………」」」」

 

 

無言で扉が閉められる。

俺達は何も言わずに起き上がると、互いの格好を見て目を合わせる。

 

 

 

「「お、お邪魔しましたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」

 

「「違うからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

 

 

ドアの向こうから、駆け足と共に聞こえてきた声を、着替えることも忘れて俺達は追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 




アニメ二話の最後まで行くと言ったな、あれは嘘だ。
どうも、珈琲@微糖です。

色々と書いてたらいつの間にか普段の文字数を超えてたので一度ここで切り上げました、お兄さん許して。

また、ふと疑問に思ったことがあるので、活動報告の方でアンケートを取ろうかなぁと思います。 もし良ければ意見を書いて頂けると幸いです。

それでは、次回以降もまた見て頂ければ幸いです。

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