「カズマ! 無事だったか!」
別室で勾留されていた俺達を、カズマ達が迎えに来る。
「すみません…ついカッとなってしまって…」
「大丈夫だって、今こうして俺は無事なんだしな!」
そう言って俯くめぐみん。
そんなめぐみんをカズマが励ましている。
…何故だか、その様子を見ていると心がモヤモヤする。
「…そう言えば、あの領主相手によく無罪を引っ張ってこれたな。」
「…あぁ、いや、それなんだが…」
そう俺が声を掛けると、カズマが頬を掻きながら言う。
「実は、まだ裁判自体は終わっていないんだ。 ダクネスの交渉で何とか裁判を引き伸ばしたから、その間に俺が無罪だって証拠と、あの領主の屋敷を吹き飛ばした借金を返済しなきゃいけないんだ。」
「…ダクネスにそこまで相手を譲歩させる交渉材料あったのかい…」
そう言って俺は少し肩を落とす。
とは言っても、時間の猶予が出来ただけで現状がピンチなのには変わりない。
「…とりあえず、屋敷に戻らないか? こんな所で話していても、いいアイデアなんて出ないだろう。」
「そうよ、まだ私達には明日があるの! 今日は一先ず帰って、作戦を練りましょう!」
ダクネスの提案にアクアが賛同する。
「…そうだな、とりあえず帰るか。」
カズマがそう言うと、俺達は屋敷に向かって歩き出した。
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「…うーん、どうしたものか。」
あの後、家財が差し押さえられ、ほぼ蛻けの殻となった屋敷のリビングで俺は頭を抱えていた。
カズマとアクアはウィズの店に相談に、ダクネスは引き伸ばしの条件として『出来ることならば何でも一つ、言う事を聞く』と言う事を提示してしまったらしく、あの領主に呼ばれて屋敷を離れていた。
「何か悩み事ですか?」
「そうだな。強いて言うなら、めぐみんが足の上から退いてくれないから、身動きが取れないことかな?」
「仕方ないじゃないですか、普段使っている椅子が差し押さえられてしまったのですから。」
「俺は椅子替わりかよ。」
俺が金策の事で悩み込んでいると、いつの間にか胡座をかく俺の足の上に座っていた。
…なんかあれだな、最近めぐみんの事が物凄く猫っぽく感じる。
「とまぁそんな冗談はこれくらいまでにして…いやな、昔カズマが冒険者に成り立ての時に、『登録する時に幸運値が高いから商人に向いてるって言われてた』って言っててな? だから、昔俺の居たところで便利だった道具をカズマが作って売れば、借金を返せるくらいまで儲けられないかなって思って。」
「幸運値が高いとは言え、借金を返済する程は難しいと思いますよ? どんな道具を作るのかにもよりますが。」
俺の方を見ながら、そう言ってくるめぐみん。
「んー、今考えてるのは、ちょっとの魔力で自動で風を起こせるようになる道具とか位しか思いつかないんだよなぁ…」
そう言って手元の設計図の紙を見る。
それは、こちらの世界に適用させた扇風機の設計図だった。
「まぁ、カズマが乗るかどうかも分からないですし、二人が戻ってきたら相談でもいいのではないでしょうか。」
「…そうだな。 …と言うか、最近また寒くなってきてないか? 流石に、こんな中布団一枚で寝るのは辛いんだが。」
設計図を仕舞い、暇つぶしにめぐみんと世間話でもしようと思い話しかける。
「そんなことを言うなら、あの部屋の扉の鍵をさっさと外せばいいんですよ。 二人で寝たら、きっともう少し暖かいですよ?」
「外さねぇよ。って言うか、忍び込む気満々じゃねぇか。」
こっちの方に体ごと向けながら、そう抗議するめぐみん。
…裁判の時、勝手に騒動を起こした罰として俺の部屋の扉には鍵が取り付けられた。
めぐみんは俺が居ない時に、どうにかして取り外そうとしているのだが、俺の魔力の半分近く使用し出来る限り丈夫に作った為、その結果は著しく無かったようだ。
そんな会話をしていると、玄関の扉が開く音がする。 恐らく二人が帰ってきたのだろう。
「ただまーっ!二人とも居るわよね? ご飯食べにいき…ま……」
リビングに入ってきたアクアが俺達を見て固まる。
疑問に思った俺達は視線の方向…自分達の体を見る。
胡座をかく俺の上にめぐみんが座り、二人で向かい合っている。 ………どう見ても、アウトです。
「あ、あぁ…別にそういう仲になるのは構わないのだけれど、少しくらい場所を考えた方がいいわよ…?」
アクアのその指摘に俺達は顔を赤くする。
「あ、あああ、アクア!別にそういうのじゃなくてな!俺達はそういう関係じゃなくて!」
「そうです! 暖炉の火が消えてしまい、寒くなってきたので二人でくっついて暖を取っていたんです!!」
立ち上がり、アクアに詰め寄りながら否定する俺達。
誤解を解くための言い訳は、トイレに行って遅れてきたカズマがリビングに着くまで続いた。
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「どうしたんだ? 三人ともこの世の終わりみたいな顔をして。」
翌日、リビングに行くと、カズマ達が文字通りこの世の終わりのような顔をしていた。
「あ、アキラか…お前までどうしてそんな平然としてるんだ! ダクネスが一晩も帰ってこなかったんだぞ!」
「確かにそうだが、どうせ一日じゃ出来ないような事を吹っかけられたとか、そんな感じだろ?」
焦るカズマに俺はそう言う。 そんな反応を見せた俺に、カズマは何か気付いたようで口を開く。
「…そう言えば、お前らが居ない時に聞いたんだが、ダクネスにあの男は幼い頃から求婚してきていたそうだ。」
「……なっ…!?」
カズマの言葉に俺は固まる。
「…もしかしたら、ダクネスはあの領主相手に物凄い事を…!」
動揺している俺に追い打ちをかけるようにカズマが言う。
「あ、あわわわわ………めぐみん、どうしよう…ダクネスが…ダクネスがぁぁぁぁぁ………!!!!」
「おおおお落ち着いてください! こんな時こそ深呼吸です!私に続いてやってください! ひっひっふー、ひっひっふー!」
「ひっひっふー、ひっひっふー!」
パニックに陥った俺はすぐ近くに居ためぐみんに泣きつく。
俺が入る前に同じことをめぐみんも言われたのだろう。 パニックになっている俺達は深呼吸をした。
「二人とも落ち着け! …いいか、ダクネスが帰ってきても、普段と変わらず優しくしてやるんだぞ?」
「分かったわ! 大人の階段を上ったダクネスには、何があったのか聞いちゃいけないって訳ね!」
カズマの言葉の意図を理解したアクアがそう言う。
だが、俺とめぐみんは今だにあわあわしていた。
その時、俺の後ろにある扉が勢いよく開かれる。
「サトウカズマ! サトウカズマは居るかぁぁぁぁぁ!!!!」
扉を勢いよく開き、中に入ってきたのはセナだった。
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「それで、誰かさんの爆裂魔法で冬眠からカエルが目覚めたと。」
普段通り、何故かカエルに追われるアクアを見ながら呟く。
「にしても、ここのカエルは寒さの中でも動きが鈍くならないんだな。 野菜といい動物といい、本当にここの連中は逞しすぎやしないか?」
「過酷な世界だからこそですよ。 生き物は皆、その時その時を精一杯生きるのです。 私達も負けてはいられませんよ、もっともっと強くなり、この過酷な世界を生き残るのです。」
カズマの呟きに、めぐみんがそう答える。
…カエルに、肩から下を食われながら。
「なっ、お前いつの間に食われてんだ! 待ってろ、今助けるからな!」
「いえ、アクアを追っているカエルを倒してからで構いませんよ、外は寒いですし。 カエルの中って、意外と温いのです。」
柄のみの鎌を持ち、俺がそう言うと、カエルに食われていると言うのに落ち着き払っているめぐみん。
こいつ、カエルに食われるのに耐性が出来てきたな。
「あ、貴方達は仲間がカエルに食べられ、別の仲間が追われていると言うのに冷静なのですね…」
俺達にとっては割といつもの光景だったが、立会人として初めて見るセナは若干引き気味に言った。
「まぁいつも通りですから。 …カズマ、新しいスキルを試すんだろ?」
「ああ、見てろよ…《狙撃》ッ!」
俺が声を掛けると、妙にいい発音をしながらカズマが矢を放つ。
命中率は幸運依存な為、幸運値の高いカズマには最適なスキルである。
カズマの放った矢はアクアの髪のリングを通過してカエルの頭を貫通した。
「おー、やっぱ幸運値が高いと当たるなぁ…」
「まぁな。 とは言っても、剣とは違って金が掛かるから借金がある今じゃあんまり使いたくないんだが。」
そんな世間話をしながらめぐみんを助けようと振り向く。
「…その、アキラ…後ろ…。」
「えっ?」
直後、俺の視界が真っ黒になった。
程よい温度と共に、体に巻きついてくる舌とベットリとした粘液が体に絡みつく。
「だぁぁぁ!!アキラが食われたぁぁぁぁ!!!」
「ちょっとカズマさん!なんか他にもカエルが出てきたんですけど…って言うか、物凄いピンチなんですけど!」
カエルの外からそんな叫び声と共に、再びカエルの飛び跳ねる音が聞こえてくる。
「(…って、こんなことしてる場合かっ!)」
そう思った俺は、その手に持っていた鎌の柄に魔力を込めようとした瞬間だった。
「『ライト・オブ・セイバー』ッッッッ!!」
聞いたことのない声と共に、目の前に光の線が走った。
どうも、 若干開幕のネタが尽きつつある後書きです。 珈琲@微糖です。
今回は裁判終了後〜カエル回までとなりました。
一体最後に出てきたのは何ゆんなんだ…。
恐らく次回でアニメの2話の内容は終わると思います。
この次が原作とアニメで大きく変わるところだけど恐らくアニメの方になるかなぁと。
という所で、また次回以降も見て頂ければ幸いです。