「そんなに緊張することはありませんよ。大丈夫です、私達がついていますから。」
緊張に震えるカズマの横で、めぐみんがそう言う。
カズマが不当な逮捕をされてから数日後、ついにカズマの裁判が始まった。
周囲を見渡すと、裁判の体制は殆ど日本と変わらない。
だが、唯一違うのはこの世界には弁護士などという職業は無く、被告人の知人や友人、親族が請け負うことになる。 それがどういうことかと言うと……
「大丈夫です、私に任せてください。 紅魔族は高い知能を有しています。 あの検察官が涙目になるくらい、論破してやりますよ。」
「ああ、安心しろ。 本当にどうしようもなくなったら、私がどうにかしてみせよう。 今回の件に関しては、カズマは全く悪くない。」
「まぁこの私にどんと任せなさいな! なんせ私は聖職者よ、私の言葉には物凄い説得力があるのよ!」
めぐみん、ダクネス、カズマの順番に緊張するカズマに声をかける。
「いいかアクア。 今回、お前は頼むから黙っていてくれ。 裁判が終わるまで大人しくしていてくれたら、霜降り赤ガニでも何でも買ってやるから…。」
「何馬鹿なことを言ってるの? カズマが懲役とか死刑になったら、そもそもカニも買ってもらえなくなるじゃない。 大丈夫、この中で一番弁護士に詳しいのは私よ。 カズマも、日本にいる時に『百転裁判』とか、『マンガンロンパ』とか聞いたことあるでしょう? 私、あれで遊んだことがあるの。」
カズマの訴えに、アクアが胸を張って応える。
カズマは一度大きなため息をつくと、助けを求めるようにこっちを見てくる。
「任せろ、俺は『百転検事』シリーズは全て発売日に網羅した。」
「お前ふざけんなよ!それ完全に俺がアウトなやつじゃねぇか!」
グッと親指を立てながら応える俺に、我慢の限界になったカズマが声をあげる。
「まぁそんな冗談は置いておくとして…安心してくれ。ちゃんと無罪になるような証拠は集めたつもりだ。 …お前が取り調べで、変なことを口走ってなければな。」
そう俺が言うと、カズマがフリーズする。
…もしかして、変なことを口走ったのか?
そんなことをしていると、裁判長と思わしき人物が木槌で机をコンと叩いた。
「静粛に! これより、国家転覆罪に問われている被告人、サトウカズマの裁判を始める! 告発人はアレクセイ・バーネス・アルダープ!」
裁判長の言葉に、椅子に座る太った男が立ち上がり、こちらを値踏みするように見てくる。
…ダクネスに目を向けた瞬間、何故か驚きの表情を浮かべていた。
「…すみませんアキラ。裁判の間、手を握っててもらってもいいですか? …なんだか、嫌なものを感じます。」
「…ん。」
めぐみんがそう言うので、無言で手を差し出す。そして、その手を握るめぐみん。
唐突なことだったとは言え、曲がりなりにも裁判だ。 それに、いきなり舐めるように見回されて、めぐみんも不安になったのだろう。 そう思って俺は何も言わずにめぐみんの手をギュッと握る。
「静粛に!裁判中は私語は慎むように。 …それでは検察側は前へ。 ここで嘘を吐いても魔道具で分かるようになっている。 それを肝に銘じて発言をするように。」
裁判長の言葉と共に、再び机に木槌が振り下ろされる。
その音と共に、セナが立ち上がる。
「それでは起訴状を読ませていただきます。 …
被告人サトウカズマは、機動要塞デストロイヤー襲来時、この町の冒険者たちと共に、これを討伐。 その際、動力源であるコロナタイトをランダムテレポートによって転送する様に指示し、コロナタイトは被害者であるアルダープ殿の屋敷を吹き飛ばし、現在アルダープ殿はこの町にある宿への宿泊を余儀なくされています。」
セナが今回の
その他にも、カズマの仕出かしたことについて読み上げている間に、横のカズマに小さな声で話しかける。
「…カズマ、聞こえますか。 …私です、アキラです。」
「…なんだ? あんまり変なこと言ってると怪しまれるぞ?」
内容については少し巫山戯たが、真面目なトーンの声にカズマは耳を傾けた。
「…いや何、タイミングを見計らってカズマはこう言って欲しいんだ。 "────"って。」
俺がそういうと、カズマは何故?と言った感じの顔をしていた。
「…こうやって裁判になったんだ、どうせ
俺がそう言うと、カズマは静かに頷いた。
その時、検察側の逮捕状読み上げが終わる。
「以上の事から、検察側は被告人に対し国家転覆罪の適用を求めます。」
「異議あり!」
読み終わった直後、アクアがあのゲームの決めポーズを取りながらそう叫んだ。
「弁護人の陳述の時間はまだです。 発言がある場合は許可を求めて発言をするように。 …裁判は初めてでしょうから、今回は大目に見ます。 弁護人、発言をどうぞ。」
「異議ありって言ってみたかったのでいいです。」
その言葉を聞いた瞬間、無意識に俺は空いた手でアクアの頭にチョップをしていた。
「ぁたっ! …ちょっと、いきなり何すんのよ!」
「ほんっとうちの弁護人がすみません!」
俺の行動に抗議するアクアを横目に俺は裁判長に向かって平謝りをする。
「…弁護人は弁護の時だけ口を開くように。」
裁判長の寛大な処置によってこの場はどうにか収まった。
「…ええっと、検察側からは以上です。」
すっかり気勢を削がれたセナがそう言って裁判は被告人の陳述に入る。
内容としては、多少オーバーな表現をしていたが大筋は間違っておらず、魔道具が反応することもなかった。
しかし、問題はその次にあった。
検察側の証人尋問が始まると、次々と俺達の見知った顔が出てくる。
まず初めに出てきたのは、カズマに《スティール》を教えたクリスだった。
「と言うことで、クリスさんは公衆の面前で《スティール》を使われ、下着を剥がれたと。 間違いないですね?」
「ええっと、間違いではないけど…でもあれは…」
何かを言いかけた瞬間、傍聴席から声が聞こえた。
「私見たんです! 路地でパンツを振り回しているところを!」
「…その男とは。」
声を上げた女性は、震えた指でカズマを指し示す。
「事実だったと言う確定が取れただけで結構です。 ありがとうございます。」
そう言って、半ば無理やりに一人目の証人尋問が終わった。
…その後、魔剣を売り払われた御剣や、そのパーティメンバーの女性達も出てきてカズマの仕出かした悪行の数々を述べる。
「(…さて、この裁判…どうひっくり返すものか。)」
そう俺は思考を張り巡らせる。
確かにカズマのやったことはアレだったが、どれも相手から仕掛けられた勝負(最後のについては違うが。)の結果によるものだ。 …どうにかしてそこをひっくり返せれば。
「異議あり! カズマの性格が曲がっているのは認めます。 ですがこのような証言、証拠にもなりません! カズマがテロリストだと言うのなら、もっとマシな根拠を持ってきてください!」
横にいためぐみんがパッと手を離して立ち上がる。
それに同調したアクアも同じく立ち上がった。
「…根拠ですか…よろしいでしょう。」
そう言ってセラが根拠の陳述を始める。
「一つ、デュラハン討伐の為とは言え、町に多大な被害を負わせ!」
その言葉にアクアが耳を塞ぐ。
「二つ、町の近くで爆裂魔法を放ち、町の周辺の地形や生態系を変え、あまつさえこの数日間は深夜に騒音騒ぎを起こし!」
その言葉にめぐみんが耳を塞ぐ。
…と言うか、変なことはするなと釘を刺してただろうが! めぐみんに説教をすること心に決める。
「そして三つ、被告にはアンデッドにしか使えない《ドレインタッチ》を使ったと言う目撃情報もあります!」
その言葉にカズマが耳を塞ぐ。
「そして最も大きな根拠として、尋問の際貴方に『魔王軍幹部との交流がないか』と聞いたところ、魔道具が嘘を感知したのです! これこそが証拠なのではないでしょうか!」
そう言ってセナがカズマを指し示す。
「もういいだろう、そいつは間違いなく魔王軍の関係者だ! 手先だ! このワシの屋敷に爆発物を送り付けたのだぞ! 殺せ! 死刑にしろ!」
…この言葉を待っていた。
予想通りアルダープはこの言葉を発した。
「違う、俺は魔王軍の関係者でもテロリストでもない!」
「何を今更! 貴方の証言が嘘であることは確認している!」
今だカズマ! さっき伝えた言葉、ハッキリと言ってやれ!
「いいか、よく見とけよ! 『俺は、魔王軍の手先でも、テロリストなんかでもない!!!』」
そのカズマの言葉に、魔道具は反応しなかった。
「そ、そんな…魔道具が反応しない…!?」
「裁判長! 今のカズマの発言に魔道具の反応が見られなかった以上、検察側の証拠は不十分だ! そしてこれより、弁護側の証人尋問に入らせて頂きたい!」
周囲が騒然とする中、俺は立ち上がり裁判長に掛け合う。
「…は、はい。許可しま…「ダメだ裁判長!奴に喋らせるな!」
アルダープの言葉に、裁判長はグッと押し黙る。
「もう一度言うぞ、奴にこれ以上発言をさせるな。」
「……弁護側の申請は…許可しないものとする…!」
裁判長がそう言った。
「ちょっとなんだそれ!おかしいじゃねぇかよ!」
「そうです! アキラはキチンと発言の許可を得ました! なのに、それが貴方の一存で跳ね除けられるっておかしくないですか!」
裁判長の手のひら返しに、俺とめぐみんは抗議の声をあげる。
「うるさい、そこの青年に小娘よ。 裁判長、奴らを退廷させろ。」
「はぁ!?どんな権利があってお前がそんなことを命じられるんだ!」
「そうですよ! 私達は正当な抗議をしているのです! …ちょ、いきなり掴まないでください!」
抗議の声を上げ続ける俺達の腕を、グッと騎士たちが抑える。
そうして俺達は、法廷から退廷させられた。