第一話 - この不法な取り押さえに抗議の声を!
「………ええっと、どちら様ですか? と言うか、国家転覆罪ってなんだよ。俺はただ報酬を貰いに来ただけなんだが。」
目の前の険しい顔をした女性に向かって、カズマが言う。
「自分は王国検察官のセナ。 国家転覆罪とは、その名の通り、国家を揺るがす犯罪をしでかしたものが問われる罪だ。 貴様には現在、テロリスト若しくは、魔王軍の手先の者ではないかと疑われている。」
そう言って、騎士たちにカズマを捕らえろと指示を出すセナ。
「ちょっと待ってくれ! 俺はこいつと同じパーティだが、一緒に居てそんなに大袈裟になるような事はしていない!俺が証言してやる!」
「そうですよ!なにかの間違いではないのですか? 確かに、セクハラとか小さな犯罪はちょこちょこやらかしますが、そんなに大それた罪に問われるような事をやらかす程、度胸のある人間ではないですから!」
セナとカズマの間に入り、俺とめぐみんがカズマを庇う。
「お前達…ありがとう、アキラ。 …めぐみん、お前は俺の擁護をしてるのか喧嘩を売ってるのかハッキリさせろ。」
騎士たちに両腕を押さえられたまま、カズマがそう言う。
それに続けて、ダクネスが顎に手を当てて言う。
「ふむ、確かにこの男がそのような大それた真似が出来るとは思わんな。 …そんな度胸があるのなら、普段屋敷の中を薄着でウロウロしている私を、腹を空かした肉食獣のような目で見ておきながら何もしないなんてことは無い筈だ。 夜這いの一つすらかけられんような男だぞ、この男は。」
「べ、べべべ、別に見てねーし!? お前、自意識過剰なんじゃねぇのか!? このパーティの中で一番エロい体してるからって調子に乗るんじゃねぇぞ!? こっちにも選ぶ権利くらいあるんだからな!!」
そう言ってダクネスと言い合いを始めるカズマ。
そんな言い合いをしているダクネスとカズマの間に、眉を一つも動かさなかったセナが割って入った。
彼女によると、カズマの指示で転移されたコロナタイトがこの土地の領主の屋敷に転移されたらしい。
だが、偶然屋敷の使用人は出払っており、領主自身も地下室に居たため、奇跡的に死傷者は出なかったらしい。
その言葉に安堵したカズマだが、領主の屋敷を吹き飛ばしたことも事実。 そのせいで、有らぬ疑いをかけられているのだ。
詳しい話は署で聞こう。そう言ってセラはカズマを連れていこうとするが、その強引な行動に非難が上がる。
「ふ、何かと思えば…… カズマはデストロイヤー戦においての功労者ですよ? 確かに石の転送を指示したのは事実と聞いています。 ですが、あれは町を守る為にやむを得ない行為。あの機転がなければ、私達は既に木っ端微塵でしたでしょうからね。 褒められはしても、非難される言われは無いと思うのですが。」
隣に立っているめぐみんがそう言うと、あちこちからそうだそうだと声が上がる。
そんな空気を見て、セナが冷たく言い放つ。
「…因みに、国家転覆罪は犯罪を行った主犯以外にも適用される場合がある。 裁判が終わるまでは注意をした方がいいぞ? この男と牢獄の中に入りたくないのであればな。」
その言葉に、ギルドはしんと静まり返った。
「…確か、あの時カズマ、こう言ったわよね?『大丈夫だ! 世の中ってのは広いんだ。 人が居る場所に転送されるより、無人の場所に送られる確率が高い! 大丈夫、全責任は俺が取るこう見えて、俺は運がいいらしいからな!』……って。」
ポツリとアクアがそう言った。
その言葉に、カズマはアクアを見ながら言う。
「……まさかお前、俺一人に責任を押し付けようとしてるんじゃないだろう…な……?」
その言葉に対して、返答は何一つなくアクアは目を逸らす。
「……私達はそもそも乗り込んでいませんから…うぅ、もしも私達がその場に居さえすれば、止めることが出来たかもしれないのに……」
そう言ってめぐみんは、嘘泣きをしながら俺の腕にしがみついてきた。
何がなんだか分からない。 そう考えている間にダクネスがカズマを庇うように立つ。
「待て!主犯はこの私だ、私が指示をした! だから私に牢獄プレ………ごほんっ! カズマと共に連行して激しい責めで私を尋問し、無理やり自供を……っ」
「あなた、ずっとデストロイヤーの前に立ったままで、何の役にも立たなかったそうじゃないですか。」
こんな時でも全くブレずにそう口走るダクネスを、セナは一蹴する。
…そのことを指摘されたダクネスは涙目になっていた。
「あ、あの、テレポートを使ったのは私なので、カズマさんを連れていくなら私も…」
「ダメよウィズ! 犠牲が一人で済むならそれに越した事はないわ! 辛いでしょうけど、ぐっと堪えて! 大丈夫、死者は出ていないのだから、きっとカズマは出てこれるわ! だからカズマがお勤めを終えるまで、私達は待っていましょう?」
おずおずと上がるウィズの手を無理やりアクアが下ろす。
と言うかもう有罪確定みたいに言うのはどうなんだ。
そんなカズマが、俺の方を救いを求める目で見てくる。
「…アキラ、変なことしようとしたら…戻ってきた時、今よりももっと凄いことをして、責任取らせますからね…」
耳元から聞こえてきた声に、一瞬ゾクッとする。
その方向を見ると、めぐみんがじっとこちらを見つめていた。
「…カズマー。こっちで無罪になる材料は集めておくから、迂闊なことを言うなよー。」
「お前、完全にめぐみんに尻に敷かれてるじゃねぇか! …ああいいさ、お前らが庇ってくれなくても俺にはギルドの皆が居るんだからな!」
そう言ってカズマが周囲に目を向けると、ギルドの皆は静かに目を逸らす。
「おいふざけんな!お前らもっと頑張れよ! もっと抗議しろよ!」
カズマがそう罵声の声をあげた。 …少しすると、魔法使いの少女が口を開く。
「…私が初めてカズマさんを見たのは…そう、このギルドの裏で、盗賊の女の子の下着を剥いでいる姿でした。 …それはもう、衝撃的でした。」
その言葉を皮切りに、次々とカズマの行った所業を思い出話のように話し出す冒険者達。
そうしていると、騎士に連れられてカズマは冒険者ギルドを出ていかされる。
「どいつもこいつもふざけやがってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
…そんな捨て台詞が、聞こえたような気がした。
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「それでは、裁判の対策会議を始めたいと思います。 はい、元気よく手を挙げたアクアさん。発言お願いします。」
「はい!裁判は私に任せなさい! 大丈夫、『百転裁判』と『マンガンロンパ』ってあるでしょう? あれで遊んだことはあるわ!」
「よしアクア、このまま布団に行って静かにおやすみなさい。 大丈夫、起きた頃にはきっと裁判も終わって、カズマも帰ってきていますから。」
「なんでよー!」
カズマが連行された日の夜、俺達は屋敷で裁判の対策会議をしていた。
この世界には弁護士と言う制度はなく、基本的にこのような事件の時は身内や仲間が弁護を行うらしい。
「はい、今手を挙げためぐみんさん。 発言どうぞ。」
「はい、裁判が始まる前に我が爆裂魔法で留置所に穴を開け、カズマを連れて逃亡なんて如何ですか?」
「そんな事したら、ずっと山に篭もり切りで自給自足生活になるでしょうね。少しでも実行に移そうとしたら私の部屋に鍵が導入されるのでご注意ください。」
俺がそう言うとめぐみんは頬を膨らます。
「…はぁ、全く…なぁダクネス、ここの領主ってどんなやつなんだ?」
ため息をつくと、真剣な顔で考え込んでいるダクネスに尋ねる。
「ここの領主の名はアレクセイ・バーネス・アルダープ。貴族ではあるが、何かと悪い噂がある男だ。」
「なるほど。 ありがとな、ダクネス。 …それにしても、ランダムテレポートを使って飛ばしたのに、国家転覆罪が適用されるなんておかしな話だなぁ。」
俺がポツリと呟く。
「あっ、私もそれは気になってました。 ランダムテレポートは転移先が分からない魔法。 弁償等を命じられるなら分かるのですが、国家転覆罪の適用は納得が行きません!」
「どーせその悪党領主が裏で手を回しているんでしょう、ありがちな設定よね!」
俺の言葉に同意するように、めぐみんとアクアが話し合う。
そこで、考え込んでいたダクネスが手をあげる。
「せってい? …とはよく分からんが、裏で手を回している可能性は十分に有り得る。 あの領主は不都合なものがあれば、力尽くで揉み消すようなやつだ。」
「…なにそれ、勝ち目ねぇじゃん。」
ダクネスの言葉に俺達はガックリと肩を落とす。
「…まぁ、もしもどうにもならなくなったのなら、私の力でどうにかしてみよう。 一応、勝算自体はある。」
「そうか、じゃあ最終手段についてはダクネスに任せる。 …所で、ダクネスはどうしてあの領主について詳しいんだ?」
「………色々あってな。」
その言葉以上、ダクネスは口を開こうとはしない。
自分から言おうとしないやつを問い詰めても、どうせ口は開かないだろう。
「…とりあえず、今日の対策会議は終了。解散としよう。 明日から俺は証拠を集めに行くが、絶対お前ら変な事はやらかすなよ? 特にアクアとめぐみん。」
「「なんで私達名指しなのよ!(なんですか!)」」
「さっきの対策会議での発言を踏まえた結果です。それでは解散!」
アクアとめぐみんの抗議の目を横に、俺は立ち上がって部屋に向かう。
…さて、裁判までにどれだけ証拠を集められるのだろうか。
どうも、珈琲@微糖です。
早いもので始まりました第三章。この章は恐らく三巻の内容になると思います。
次回は国家転覆罪の裁判編ですね。ある程度の構想は出来上がったので、完成し次第投稿します。
それではここまで見て頂きありがとうございました。 次回以降もまた見て頂ければ幸いです。