「うーん、ああは言ったものの、どうするものやら…」
対策会議を終えたギルドで、俺は図面を広げて悩んでいた。
「どうしたんだアキラ、行かないのか?」
「…あぁ、カズマか。 いやな、ああは言ったものの、デストロイヤーの表面の材質が分からないからどうやって破ろうか迷ってて。」
そう言って後ろから声を掛けてきたカズマに相談する。 周囲を見渡すと、他の冒険者達は各々持ち場に向かったようで、俺達パーティメンバーとウィズしか残っていなかった。
「お前、そんな調子で大丈夫かよ………」
「まぁ、何をどうするかは思いついては居るんだが、如何せん起爆剤が思いつかなくてなぁ…どこかに火薬の代わりになるものはないんかねぇ…」
呆れるカズマの目線を気にしないようにしながら頬杖をつく。
すると、おずおずとウィズが手を小さくあげる。
「あのー、それでしたら私の店にあるポーションを使いませんか? …それなりにお値段はしますが…」
その言葉に、アクアとカズマがポンと手を打つ。
「…ポーションと言いますと、飲むと回復したりするあれですよね?」
「ああ。中には攻撃用途のポーションもあるが、こんな始まりの町で買う者などほとんど居ないから、仕入れているのは王都の魔道具店位だろう。」
そう言って首を傾げるめぐみんとダクネス。
「それが、この間ウィズの店に行った時に爆発系のポーションが大量にあったんだ。 …あったよな、アクア?」
「ええ、確か温めると爆発するポーションとか、水に触れると爆発するポーション、瓶から出すと爆発するポーションに…そう言えば、強い衝撃を与えると爆発…「それだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
種類をあげるアクアの声に反応し、俺は立ち上がってウィズの手を握る。
「ひゃい!? と、どうなされましたか…?」
「衝撃を与えるポーションと水に触れると爆発するポーション! その二つがあれば完成するんだ! いくらなんだ、ウィズ!」
俺の行動に少し怯えるウィズ。 …どこかから、冷たい目線を受けてる気がするが、気のせいだろう。
「え、えーっと…確か一本10万エリス…「買ったァ!」
「な、お、オイ! 俺達は報酬は借金返済に回してるからそんな大量の金なんて…」
興奮する俺を鎮めようとするカズマがそう言う。
「大丈夫だ。 …こんなこともあろうかと借金返済に使わなかった俺の隠し財が70万程…」
「なにっ、お前そんなことしてたのか!」
俺の言葉にカズマが驚く。 …とは言っても、キャベツの報酬を殆ど使っていなかっただけだが。
「その話は置いといて、俺達も所定の場所に向かおう。 …ウィズ、ポーションを頼めるか?」
「は、はい。 それはいいのですが…その、そろそろ手を離して頂けませんか?」
「…あっ、悪い。興奮してつい…」
そう言って手を握っていたことを思い出した俺はハッとして手を離す。
…視界の端で、めぐみんかこっちをじっと見ていた。
「…どうした、めぐみん?」
「…なんでもありません!」
ふんっ。とそっぽを向くめぐみん。 理由は後で聞くとして、今は一先ず支度をするために屋敷に戻った。
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ウィズからポーションを購入し正門に着くと、冒険者達だけでなく町に残る人達も一緒になって正門の前にバリケードを作る。
その中には、こちらに来てからお世話になっていた主任の姿も見えた。
そのバリケードの前では、"クリエイター"達がああでもない、こうでもない。と言い合いながら魔法陣を描いていた。
…その前には立ち続けているダクネスと、後ろに下がるよう説得していたカズマが居た。
あっ、戻ってきた。説得は失敗かな?
そんな中俺は、正門の上にいた。
「さてと…アクアー、準備出来たから支援魔法を頼むー!」
「任せなさい! 今こそ私が本当に女神であることを示す時、アクシズ教徒達から集めた信仰の塊を見せてあげるわ!」
そう言って、側に聳える塔に居るアクアから支援魔法を受ける。
「よし、もう大丈夫だそー!ありがとなー!」
そう言って俺は魔力を幾らかの金属等に変える。
「…よし、それじゃあ始めますか!」
そう言って金属片を集め、目的のものを作り始める…。
「…説得は失敗した。 あの頭の固い変態を守る為にも、確実に成功させるぞ!」
"クリエイター"達の描く魔法陣の前、最前線に立つダクネスをどうにかして後ろに下げようとしたが失敗に終わった
「そ、そそ、そうですか! や、やらなきゃ…わ、私が絶対やらなきゃ…!」
横でガチガチと震えているめぐみんを見て、こんな調子で大丈夫か。と思ってしまう。
「お、おい落ち着け。 いざとなったら、あいつの装備を《スティール》でひん剥いて、力尽くでも引っ張って逃げるから。」
そう言って、反対側に居るウィズとアクアの方を見る。
…何故か屈み込み話し込んでいた。
そんな中、広い平野にルナの声が鳴り響く。
『冒険者の皆さん、そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます! 町の住人の皆さんは、直ちに町の外に遠く離れていてください! それでは、冒険者各員は手筈通りお願いします!』
その声と共に、遠くから巨大な塊が見えてくる。
「何あれ、でっけぇ…」
デストロイヤーの登場に、俺は口をあんぐりと開いていた。
これ、爆裂魔法で破壊できんのか?
「なんだあれ、本当にいけんのか!無理じゃねぇのか!」
誰かがそう叫ぶ。
「「《クリエイト・アースゴーレム》!」」
"クリエイター"達の描いた魔法陣から巨大な土のゴーレムが召喚される。
「ちょっとウィズ!あれ本当に大丈夫なんでしょうね!…大丈夫なんでしょうね!?」
「大丈夫です、アクアさん。 これでも最上位アンデッドの一人です。 アクア様が魔力結界さえ打ち破ってくれれば後はお任せを! ………もしも失敗しても、皆で仲良く土に還りましょう。」
「冗談じゃないわよ! シャレにならないわよ!」
反対側では何やら二人が騒いでいる。
そんな二人を見ながら、俺は隣でガチガチに緊張しているめぐみんに声を掛ける。
「おい、とりあえず落ち着け! 失敗しても誰も責めないさ。 もしダメだったら、皆で町を捨てて逃げ出せばいいだけだ!」
「だ、だだだだ、大丈夫です! わ、我が爆裂魔法でけっ、消し飛ばして見せまひょう!」
めぐみんが噛み噛みで返事をする。
俺はため息をつき、その手に持った拡声器のような魔道具で声を掛ける。
…どうして俺がこんなものを持っているのかというと、俺がこのパーティでリーダーをやっていると言うことを知ってる一部の連中が、俺の立場を現場監督まで引き上げさせたからだ。
『来るぞー! アクア、今だ!!』
俺が声をかけると、アクアの周りに魔法陣が展開される。 普段は持っていない杖も使っていることから、アクアも今回は本気なのだと分かる。
「《セイクリッド・ブレイクスペル》ッ!!」
アクアの杖の先に白いが光が集まり、デストロイヤーに向かって打ち出す。
光がデストロイヤーの元に辿りついたと思った時、デストロイヤーの周りに無数の魔法陣が展開され、アクアの魔法と肉薄する。
「アクアッ!!!」
「ふぬぬぬぬ………うぁぁぁぁ!!!!!」
そんな叫び声をあげると、光はより一層輝きを増し、遂にその魔法陣を打ち破る。
『ウィズ、爆裂魔法の準備だ!』
拡声器を通してウィズに声を掛けたら、俺は隣で震えるめぐみんに声を掛ける。
「おい、何やってんだ! お前の爆裂道ってのはあんな要塞程度で諦めるほど柔なものだったのかぁ!?」
「な、なにおぅ!? 我が爆裂道を馬鹿にしましたね!?」
めぐみんがこっちを見ながら叫ぶ。
「あぁ馬鹿にしたさ! その程度で諦めるような気持ちでやってたら、アキラだって着いてこないだろうしなぁ!」
「ぐぬぬ…言いたい放題言って…というか、アキラは関係ないでしょう!」
「いいや関係あるね! どうせお前、あいつの事好きなんだろ? そんな奴の前でガタガタ震えて、恥ずかしくないのかよ!」
そう言われためぐみんは俯いたと思ったら、肩を震わせながら前を向く
「ふ…ふふふ…カズマの癖して言ってくれますね……ええ、好きですよ、大好きです! 我が爆裂道には、アキラが必要なんです! アキラと一緒じゃなきゃ、嫌なんです!」
自信を取り戻しためぐみんは杖を構える。
「…なら、あいつにお前の真の爆裂魔法を見せてやれ!」
「言われなくても!」
そう言うと、ウィズと共に呪文の詠唱を始めるめぐみん。
『黒より黒く、闇より暗き漆黒に』
『我が真紅の混交に望み給もう。』
『覚醒の時来たれり、無謬の境界に堕ちし理』
『無形の歪みと成りて現出せよ!』
『《エクスプロージョン》ッッ!!!』
ウィズとめぐみんから放たれた爆裂魔法はデストロイヤーの足を一本残らず吹き飛ばす。
突然足を失ったデストロイヤーは勢いをそのままに地面を抉って滑り込む。
こちら側には、空から足だったものの破片が降ってくるが、ウィズの方にはそのようなものは降ってこなかった。
「…よし、めぐみん、無事やったぞ。」
「ぐぬぬ…無念です……。 流石はリッチー、私にはまだレベルが足りないようです…。」
そう言って悔しそうに横になるめぐみん。
「よしよし、よくやったよくやった。」
「…カズマ。…アキラは私の爆裂道に着いてきてくれるんでしょうか…。」
倒れながら俺に尋ねてくるめぐみん。
「あぁ、あいつの事だからきっと着いてくるさ。 初めてお前の爆裂魔法を見た日の風呂で、興奮気味に俺に凄かったってのを話してきたようなやつなんだぜ?」
その言葉に満足げに笑うめぐみん。
「やったか!」
「俺…これが終わったら結婚するんだ…」
下からそんな声が聞こえてくる。
…この台詞はまさか…
「さぁ、帰って乾杯よ! 報酬はお幾らかしらね!」
「「こんの馬鹿ー!そんな事言うなー!」」
俺と、正門の上に居るアキラが声をあげる。
その声は、突如鳴り響いた。
『この機体は活動を停止しました。 排熱及び、機動エネルギーの消費ができなくなっています。 搭乗員は速やかにこの期待から離れ、避難してください。 繰り返します……』
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
冒険者達は叫びをあげる。
「おい、この警報はなんなんだ! あいつはもう動けなくなった筈だよなぁ!?」
「…恐らく、このままにしておくとボンって行くんじゃないか…?」
平野まで降りてきた俺は、冒険者の言葉に対して呟く。
「お、おい!これってどうすればいいんだ、何かないのか、ウィズ、アクア!」
「…恐らく、動力源をどうにかすればこの爆発は収まると思います。…ですが、中にはゴーレム達が…」
俺の言葉にウィズが返答する。
その後ろから声が聞こえてきた。
「…つまり、あの体に大穴を開けてやればいいわけだな?」
「アキラ! そうだ、あいつの土手っ腹におおあ…な……」
颯爽と現れたアキラの姿に、俺達は絶句した。
「…?どうしたんだ、その変なものを見る目は。」
周りの皆が
「…なぁアキラ、その変な筒はなんなんだ?」
デストロイヤーに一番近い位置に居るダクネスがこちらを見ながら話しかける。
「ああこれ? …最終兵器?」
「…すみません、それでどうやって穴を開けるんですか?」
俺の言葉に木陰に座るめぐみんが首を傾げながら尋ねる。
「それは百聞は一見に如かず、ってことでやってみた方が早いと思うぞ。」
そう言って、俺は背中のそれを構える。
「ダクネスー、そこ危ないぞー。 少し下がってろ!」
俺の言葉に戸惑いながら少し距離を取るダクネス。
「…よし、準備完了。 …さぁ、行くか!」
「なぁアキラ、ちょっといいか。」
準備が出来たところでカズマが話しかけてくる。
「…なんだ、手短に頼むぞ?」
「…お前は…
俺が構えた、ロケットランチャーもどきを見ながらカズマはそう叫んだ。