この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第七話 - この恐ろしい機動要塞への対抗策を!

「アキラ!こんなことしている場合じゃないです! 早く荷物をまとめて逃げましょう!」

 

デストロイヤー警報が鳴り響いた直後、隣のめぐみんが声をあげる。

 

「落ち着け! 一先ずカズマ達と合流してから、どうするかを決めよう。」

 

そう言って俺はめぐみんの手を引っ張る。

この時間だと、日課の草むしりをしているだろう。 そう思って表へ出ると、普段の冒険着のカズマと、家財を荷車に積んだアクアが居た。

 

「ちよっと、貴方達何してるの! 早く逃げるのよ、遠くに逃げるの!」

 

「…なぁ、めぐみん。 デストロイヤーってそんなにやばいのか?」

 

先日、デストロイヤーとはどんなものなのかを聞いたが、どうしてアクアがそんなに焦っているのかが分からなかった。

 

「ええ、それが通った後にはアクシズ教徒以外、草も残らないとまで言われる最悪の大物賞金首、それが機動要塞デストロイヤーです。 …因みに、戦おうなどとは思わない方がいいですよ? 無謀にも程があります。」

 

「ね、ねぇ、私の可愛い信者たちがなぜそんな風に言われているの? この間ウィズにも言われたんだけど、どうしてうちの子達ってそんなに怯えられているのかしら、みんな普通のいい子達ばかりなのよ?」

 

アクアがめぐみんを見ながらそう言うが、今は関係がないのでスルーしておく。

 

「なぁ、それはめぐみんの爆裂魔法でどうにからならないのか? 名前からしてでかそうだし、遠くから狙えばいけるんじゃないのか?」

 

「無理ですね。 デストロイヤーには強力な魔力結界が貼られています。 爆裂魔法の一発や二発、防いでしまいます。」

 

カズマがめぐみんに尋ねるが、彼女はそう答える。 …あれ、これって無理ゲーじゃね?

何やら横でアクアとめぐみんが言い合いをしてる中、カズマが不意に周囲を見回す。

 

「あれ、そう言えばダクネスはどうした? 放送が聞こえたら、一目散に屋敷に戻ったはずだが…」

 

「ダクネスなら屋敷に戻って来たと思ったら、部屋に行ってたわよ?」

 

アクアの言葉にカズマは肩を落とす。

 

「まぁ、なんだ。 逃げるにしてもギルドに向かうにしても、さっさと準備した方がいいんじゃないか?」

 

俺がそう言うと、カズマが溜息をつきながら、そうだな。と生返事を返してくる。

 

一先ず部屋に戻ろう、そう思った時に後ろの階段から声が聞こえてくる。

 

「遅くなった! ……ん、どうしたんだ。カズマとアキラなら、ギルドに向かうと思ってたんだが。」

 

その声の主は、今まで見たことないような重装備をしたダクネスだった。

 

流石、聖騎士なだけある。

彼女の姿には、逃げるという選択肢はないようだった。

 

「おいお前ら、こいつを見習え! 長く過ごしたこの屋敷と町に愛着はないのか! ほら、ギルドに行くぞ!」

 

「ね、ねえカズマ。今日はどうしてそんなに燃えているの? なんか、目の奥がすっごいキラキラしているんですけど。 というか、この屋敷に住んでからまだ一日しか経っていないんですけど。」

 

燃えるカズマと、窘めるアクア。

きっとギルドに行くことになるんだろうなぁ

そう思った俺は、部屋に戻り装備を整えたのだった。

 

 

====================

 

 

「おっ、カズマ達じゃねぇか。 お前達なら来ると信じてたぜ!」

 

ギルドに着くと、重装備を纏ったダストがカズマに話しかける。

その後ろにはテイラーやキース、リーンの姿も見える。

周囲を見回すと、普段とは違った面持ちの冒険者達が、各々重装備を纏って集まっていた。

…心なしか、男性が多いような気がするが、気のせいだろう。

 

少しすると、職員の放送が鳴り響く。

 

「お集まりの皆さん! 本日は、緊急の呼び出しに応えて下さり大変ありがとうございます! 只今より、対機動要塞デストロイヤー討伐の緊急クエストを行います! このクエストには、レベルも職業も関係なく、ここに居る皆様全員参加でお願いします。 無理と判断した場合、全員で逃げることになります。 皆さんがこの町最後の砦です。 どうか、よろしくお願い致します!」

 

放送を聞いた冒険者達は机を集め、即席の会議室のような空間を作り出す。

 

「それでは、これより緊急の対策会議を始めます。 皆さん、席についてください。」

 

その言葉に、ギルドに集まった冒険者達は席に着く。

 

…その会議の内容は、お世辞にもいいとは言えなかった。

 

 

 

「町の周りに大穴を掘ってその中に入れるとかは?」

 

「過去にやろうとした国はありましたが、穴に入れるまで良かったのですが、その八本の足で飛び越えられました。」

 

 

 

「ロープかなにかで乗り込めないのか?」

 

「あの機動力じゃあ乗り込むどころかロープを掛ける暇すらないだろう。」

 

 

 

「巨大なバリケードを作って奴の進路をずらせばいいんじゃないかな?」

 

「それに関しては資料が残っています。 …そのバリケードを迂回して、踏み潰していきました。」

 

 

………

 

 

ギルドの空気は重く静まり返っていた。

 

「なぁカズマさんや、何かいい案はないかのぅ…。」

 

「急に変な声を出すなよ…そんな事言われてもなぁ、離れた所からめぐみんがぶっ放す位しか考えて無かったんだが、結界で守られて…る……」

 

俺がカズマに冗談半分で聞くと、何やらカズマは考え込む。

 

「…なぁアクア。 ウィズの話だと、魔王の城に張ってある結界も幹部2~3人程度になればお前の力で破れるとか行ってなかったか? それならデストロイヤーの結界も…ってなんじゃこりゃぁ!?」

 

カズマの言葉に釣られ、アクアの方を見ると水だけで描かれた芸術作品がそこにはあった。

 

「あぁ、そう言えばそんな事も言ってたわね。 …でも、やってみなくちゃ分からないわよ?どれくらい頑丈なものかわからないし、必ず破れるって確約は出来ないわ。」

 

そう言うと、アクアは絵の上に水をぶっかけて消した。 勿体ない。

 

その後、何か言い合いをしていた二人だが、アクアの言葉にギルドの職員が声をあげる。

 

「破れるんですか!? デストロイヤーの結界を!?」

 

その声に、アクアのカズマに注目が集まる。

 

「いえ、もしかしたらなので、確約はないそうです。」

 

「いえ、取れる手はすべて取りたいので、やるだけやってみてはもらえませんか? 仮に破れたのなら、魔法による攻撃が…いや、下手な魔法攻撃だと根本から通じませんし、駆け出しのこの町にそんな火力なんて…」

 

そう言うと、職員が再び考え込む。

そしてまた訪れた重い空気の中、一人の冒険者が口を開く。

 

 

「…あ、居るじゃねぇか。この町に火力持ちって言ったら、頭のおかしいのが。」

「…そうか、頭のおかしいのが……!」

「おかしい子が居たな!」

 

 

その言葉と共に、再びざわつくギルド内。

 

「おい待て、それが私のことを言っているのなら、その略し方はやめてもらおうじゃないか。 さもなくば、今ここで私がいかに頭がおかしいのかを証明することになるぞ。」

 

「はいストーップ、とりあえず落ち着こうねー。 そんな事したら、デストロイヤーが来る前に俺達がバラバラになっちゃうからねー。」

 

杖を持って立ち上がるめぐみんを、頭から掴んで無理やり座らせる。 …ついでに撫でておこう。

 

「…ぁぅ…そ、それでも、我が爆裂魔法をもってしても、流石に一撃で仕留めるのは…ぁぁ…」

 

頭を撫でられてるめぐみんの声が段々と小さくなる。

 

「…となると、もう一人火力持ちが必要か……ん? アキラ、アクアから魔力増強を受けてお前の能力を使えば、足の一本や二本飛ばせるんじゃないか?」

 

ハッと閃いたカズマは俺を見て尋ねる。

 

「…まぁ当たれば出来ないこともないが、流石に高速で動く足に当てるなんて曲芸は出来ないぞ? …もしも奴が止まった後に、突入する必要があるなら胴体に大穴を空けるこの位しか出来ないと思う。」

 

撫でる手を顎の下に移動させ、しれっと答える。

 

「流石に出来ないよな…って、今すげぇ物騒なことが聞こえた気がするんだが。 …それとお前らはさっきから何をやってるんだ。」

 

そう言ってカズマのこちらを見る目がジト目に変わる。

その瞬間、ギルドの入口から声が聞こえた。

 

「すみません、遅くなりました… ウィズ魔道具店の店主です。 一応冒険者の資格を持っているので私もお手伝いに……」

 

声の方向を見た冒険者達は一斉に歓声をあげる。

 

「店主さんだ!」

「貧乏店主さんが来た!」

「店主さん、いつも夢でお世話になってます!」

「店主来た、これで勝る!」

 

 

「…なぁ、カズマ。 この町の人達ってウィズの正体を知らないんだよな? …どうしてあんな盛り上がってんだ?」

 

「知らん。…なぁ、なんでウィズってこんなに有名なんだ? 確かに人気はありそうだが、これは一体…ってか、貧乏店主って呼ぶのやめてやれよ。」

 

俺の言葉を聞いたカズマが、近くに居たテイラーに話を聞く。

 

曰く、ウィズは元は凄腕のアークウィザードだったのだが、引退してから暫くは姿を見せなかったらしい。

しかし、いつしかこの町に戻ってきて魔道具店を開いたのだが、高額な商品ばかりで繁盛はしていないらしい。 だが、店主が美人なので、皆覗きに行ったりしてるそうな。

 

「…通うくらいなら少しでも買ってやれよ。」

 

「あ、あはは、まぁ供給に対して需要が合ってないだけだろうなぁ…」

 

ある程度ざわめきが落ち着いたところで、ルナが話をまとめる。

 

「ということで、まずはアクアさんがデストロイヤーの結界を破壊。その後、めぐみんさんとウィズさんがデストロイヤーに向かって爆裂魔法を使用し、足を壊します。 機動力さえ奪ってしまえば、後はどうとでもなるでしょう。」

 

その言葉に冒険者達は頷く。

 

「ただ、何か有事が起こり突入せざるを得ない場合はアキラさんがデストロイヤーに対して攻撃し、出来るだけ大きな穴を開けてください。そこから全員で突入します。」

 

その言葉に、俺は頷く。

 

「それでは皆さん…緊急クエスト、開始です!」

 

 

「「「「「「おーっ!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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