この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第六話 - この素晴らしい夢の中に祝福を!

「あっ、やっと帰ってきた! ねぇカズマ!アキラ!凄いのよ!ダクネスの実家から、『娘が世話になっていますので、パーティメンバーの皆様に是非』って引越し祝いに、超上物霜降り赤ガニが送られてきたのよ!それも、高級なお酒が同封されて!」

 

帰ってきた俺達に、興奮気味のアクアが満面の笑みで話しかけてくる。

リビングに行くと、夕食の準備をしているダクネスと、食卓に広げられた蟹を拝んでいるめぐみんが居た。

 

「あわわわ…まさか、貧乏な冒険者家業を生業としておきながら、霜降り赤ガニをお目にかかれる日が来るとは……! 今日ほどこのパーティに加入しえ良かったと思った日はないです……!」

「…それってそんなに高級なカニなのか?」

 

既に食卓についていためぐみんに尋ねる。

 

「勿論ですよ! 分かりやすく例えるのなら、このカニを食べる為に爆裂魔法を我慢しろと言われたのなら、大喜びで我慢して、食べた後に爆裂魔法をぶっ放します。 そのくらい高級品なんです!」

「ほう、そりゃ凄……ちょっと待て、お前最後になんて言った。」

 

めぐみんの言葉に一瞬感心しかけるカズマ。

そんなことをしている間に、もう準備が出来たようで、食卓には調理されたカニやカニ鍋が並べられ、アクアが人数分のグラスを持ってきた。

 

そうして全員が食卓につき、早速霜降り赤カニを頂く。

パキッと割った足から、綺麗な白とピンクの身に酢をつけて一口……

 

直後、俺の頭の中に電流が走った。

口の中に広がる、カニのふんわりとした甘さと旨みは優しくも濃厚で、今まで食べたカニとは比べ物にならないほど美味しかった。

周りを見ると、他の全員も無言でカニを食べている。

 

いつしか足を食べ終わり、甲羅に残るカニ味噌を食べようとした時、突如アクアが声を発する。

 

「カズマカズマ、ちょっとここにティンダーちょうだい。 私が今から、この高級酒の美味しい飲み方を教えてあげるわ!」

 

アクアが作った簡易的な七輪にカズマが火を灯す。

そうすると、アクアは七輪の上にカニ味噌の残る甲羅を乗せ、甲羅の中に高級酒を注ぎ込む。

ゴクリ、と俺達四人は喉を鳴らしながらその様子を見つめる。

 

暫く熱し、甲羅に軽く焦げ目が付くと、熱燗したその高級酒を一口啜る。

 

「ほぅ……っ」

 

美味しそうにお酒を啜るアクアを見て、再び俺達はゴクリと喉を鳴らす。

 

その様子を真似し、ダクネスも同じように簡易七輪に火を灯し……

 

「!? これはいけるな、確かに美味い!」

 

一口飲むと、そう言った。

その言葉に釣られ、俺も甲羅に酒を注ぎ込もうとすると、カズマにグッと手を握られた。

 

「ちょっ、何邪魔して…っ!」

 

カズマの迷いながらもグッと酒を堪える姿を見て思い出した。

 

そうだ、これは罠だ!

 

酒をテーブルに置き、一言カズマにありがとう。と呟き、再び食卓に向き直ると…

 

「ダクネスやアクア達ばっかりズルいです!私も今日くらいお酒飲みたいです!」

 

めぐみんがダクネス達に酒をねだっていた。

その後、俺達が酒を飲んでいない事に気づくと、こちらにターゲットをうつす。

 

「あれ、アキラ達、そのお酒飲まないんですか? でしたら、私に譲っていただけませんか? 一杯だけ、一杯だけでいいんです!」

「ダメだ、せめてもうちょっと成長したらな。」

 

カズマがそう言ってめぐみんの要望を払い除ける。

ただ、周りがそうやって楽しんでいるのに一人だけ楽しめないのは酷な話だろう。

 

「なぁめぐみん。酒は渡せないが、その代わりにそいつの旨い食べ方を教えてやろうか?」

 

そう言って、カニ味噌が残った甲羅を指差す。

 

「!? どうするんですか、教えてください!」

 

そう言って俺の方を見てくるめぐみん。

 

「分かった、ちょっと待ってな…おーい、台所借りるからなー。」

 

そう言って、甲羅と身の入った足を一本持って台所に入る。

 

 

 

 

 

 

調理が終わり、台所から戻ってくると既にカズマの姿はなかった。

 

「お待たせー。はい、俺の昔居た国にあった『グラタン』って料理だ。 …ところで、カズマはどうしたんだ?」

 

偶然、バターや牛乳に小麦粉らしきもの、つまみに買っていたチーズがアクアの作った冷蔵庫もどきの中にあったので、拝借し作ったグラタンをめぐみんの七輪の上に置く。

 

「カズマなら、昼間キース達と飲んできたからと言って早々に部屋に戻ったぞ? …それにしても、これは美味そうなものだな。どうやって作ったんだ?」

 

そう言うダクネスは、七輪に置かれたグラタンを見る。

 

「まぁ、作り方に興味あるなら、時間がある時にでも教えるさ。」

「あ、アキラ!美味しそうな匂いが漂っているのですが、これは私が食べてもいいのですか!?」

「あぁ、めぐみんの為に作ったんだ。 …と言っても、口に合えばいいが。」

 

そう言い切る前に、めぐみんはグラタンを一口食べる。

…何も言わずにスプーンを置き、こちらを見ながら言う。

 

「…アキラ、私の所に嫁に来ませんか?」

「誰が嫁だ。 第一、俺は男だ。」

 

真剣な顔をして言うので、口に合わなかったかとドキドキしたが損した。

 

「なら婿でもいいです! 大丈夫、お金は私が稼ぎますから、料理だけ作ってくれればいいので!」

「だーもう! 第一お前はまだ結婚出来る年でもないだろ! …冷めたら美味くなるから、温かい内に食ってくれ。」

 

そう言うと、そうですか。と言って再びグラタンを食べるめぐみん。

はぁ。と息をつくと、ダクネス達がニヤニヤしながらこっちを見ていた。

 

「いいじゃないか、お似合いだぞ?」

「大丈夫よ、困ったらアクシズ教に入信しなさい。 例えロリコンでも許されるから、白い目をされながら式をあげることもないわよ?」

 

その二人の言葉に、顔が赤くなってゆく。

 

「だぁぁぁ!!!! 恥ずかしいからそんな事言うなっ!!!」

 

そう言って、手元にあった水を一気に飲む。

 

「あっ、アキラ、それはっ!」

 

何かに気づいたアクアは俺を止める。

…だがしかし、水は既に飲みきっていた。

 

「…あれ…アクア達が歪んで見えるんだが……」

「それ、お酒よ。 一気に飲むから、変に酔が回ったんでしょうね。 そこのソファーで寝てなさいな。」

 

グラグラする頭を押さえ、言葉に甘えてソファーに横になる。

そこから先の記憶は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠っている体がグラグラと揺らされる。

ゆっくりと目を開けると、目の前にはめぐみんの顔があった。

 

「全く、アクアもダクネスも片付けが終わったらそそくさと自分の部屋に戻って…誰がアキラを運ぶと思ってるんですか。」

 

そう言って呆れながら言うめぐみん。

 

 

──段々目が覚めてきた俺の頭に、昼の記憶が蘇る。

 

 

「ほら、早く起きてください。 こんなところで寝てしまっては風邪を引きますよ?」

 

 

──そうか、今のこれは

 

 

「ねぇ、めぐみん。」

 

「どうしたんですか、水でも欲しいんですか。」

 

 

──コレハ、ユメナンダ

 

 

「部屋まで連れてって!」

 

その言葉に一瞬固まっためぐみんに抱きつく。

 

「なっ…ちょっと、いきなりどうしたんですか!まだ酔ってるんですか!?」

「よ、酔ってないやい!」

「そう言う人ほど酔ってるんですよ! …全く、早く行きますよ。」

 

そう言ってめぐみんは俺を引き摺るように連れていく。

 

「色々言って連れてってくれるなんて、やっぱりめぐみんは優しいなあ。」

 

そう言って彼女の頭を撫でる。

 

「…おい、この場で下ろされたくなければその手を止めろ。」

 

渋々手を止めると、何も言わずにめぐみんは部屋まで連れていく。

 

 

 

 

「ほら、部屋に着きましたよ。 早く離してくださいって。」

 

部屋の前まで着くと、めぐみんがこちらを見ながら言う。

 

「んー、ベッドまで連れてってー。」

 

そう言うとめぐみんは、はぁ。と溜息を着いて部屋に入っていく。

 

「…よっと。 ベッドに着きましたし、私も眠たいのでもう部屋に戻りますからね。」

 

そう言ってベッドに俺を下ろし、部屋を出ていこうとするめぐみん。

 

その後ろ姿に抱きつき、ベッドへと引きずり込む。

 

「ひゃぅ!? ちょ、あ、アキラ!?」

 

想定外の事に声を上げるめぐみん。

その声を無視して、めぐみんと共に布団を被る。

 

「アキラ! いきなり何するんですか!」

「何って、一緒に寝ようかなぁって思って。」

 

顔を真っ赤にするめぐみんの顔を見て言う。

 

「な、何を言ってるんですか!また今朝みたいに噂されてしまいますよ!」

「…俺はいいよ? めぐみんの事、結構好きだし。」

 

その言葉に、耳まで顔を真っ赤にするめぐみん。

そんな彼女の頭を撫でる。

 

「…あ、あの、アキラ…? 冗談とは言え、そんなこと言われたら流石に困るのですが…」

 

赤らめた顔で上目遣いでこちらを見てくるめぐみん。

 

「…本当に冗談だと思う?」

そう言って、ペタリと自分のおでこをめぐみんのおでこに合わせる。

 

「ち、近いです! このままだと…その…っ!」

「…このままだと…なに?」

 

意地悪にそう答える。 あうあうと口篭っていためぐみんが何かを言おうとした時、どこかから声が聞こえてきた。

 

 

 

「この曲者ー! 出会え出会え! 皆、この屋敷に曲者よー!」

 

 

 

その言葉にハッとしためぐみんは、アキラの方を見て言う。

 

「あ、アキラ! アクアの声が! 何やら侵入者が来たらしいですから、早く行きましょう!」

 

しかし、俺はめぐみんの体に回していた腕をぎゅっと強めた。

 

「…あ、あの…アキラ? どうしたのですか、早くその手を離して、アクアの元に行かないんですか…?」

 

めぐみんがキョトンとした顔で問いかける。

 

「…やだ、もっとめぐみんに甘えたい…」

 

そう言うと、少し迷っためぐみんは溜息をついて頭を撫でる。

 

「…全く、少しだけですからね。 またアクア達になんと言われるのやら…」

「…ありがとな、我が儘聞いてくれて…」

「まぁ、普段は魔法を打ちに行ったりするのに毎回着いてきてもらってますから、そのお礼です。 ……それに、私もアキラの事、結構好き…ですから…」

 

その言葉に、俺はドキッとして俯く。

そんな俺に、追い打ちをかけるようにめぐみんは耳元で囁く。

 

「…後、夕飯の時に言ったこと、結構本気ですからね…?」

 

普段の俺ならば、デコピンの一つでも出来ただろう。

しかし、今の俺の頭の中を混乱させるのには十分すぎる言葉だった。

 

「〜~~~~!!! も、もう寝る!おやすみなさいっ!」

 

そう言って俺は、布団を深く被る。

 

「(…あぁ、これでユメも終わりかぁ…)」

 

薄れゆく意識の中、そんなことを思う。

 

「(…現実でも、素直に言えたらいいのになぁ…)」

 

そうして俺は、深い眠りについた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝ですよー、早く起きてください。」

 

誰かに体が揺すられる。ゆっくり目を開けると、目の前には普段の格好をしためぐみんが居た。

 

──ああ、やっぱり夢だったのか。

 

「ん…っ…あぁ、もう朝か…」

 

布団から起き上がり、大きく伸びをする。

 

「ふぅ、やっと起きましたか。 私が布団から出ようとした時は一苦労したのに。」

 

…ん?

 

「…な、なぁ、めぐみん。 昨日の夜、何かあったか…?」

「? …ええ、アクア達が言うには、夜中サキュバスが侵入してきたって言ってましたが…」

「………めぐみん、昨日の夜のこと、覚えているか?」

「急にどうしたんですか? …あんな普段とは違うアキラを見て、忘れたと言う方が不思議ですよ。」

 

そのめぐみんの言葉に固まる俺。

 

「と、とりあえず着替えたいから、一度外にでててもらえないか?」

 

そう言うと、めぐみんは部屋を出ていく。

 

着替えてから廊下に出ると、目の前でめぐみんが待っていた。

 

「なんだ、待っていてくれたのか。 先にリビングに行っててもらっても良かったのに。」

「そう言って二度寝されたら困りますから。 もしも暫く出てこないようなら扉をこじ開けてやろうかと…」

「物騒な事言うな。 …それと…出来れば、昨日の事は忘れてくれ…」

 

リビングに向かって共に歩くめぐみんにそう言う。

しかし、彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべる

 

「お断りします。 …だって、折角アキラから嬉しい言葉が聞けたんですから!」

 

そう言って腕に抱きついてくるめぐみん。

俺は溜息をついて、リビングへと向かう。

 

「…まぁ、こういう生活も悪くは無いか。」

 

そう、直後聞こえてきた、この放送さえなければ。

 

『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!機動要塞デストロイヤーが、現在この町に向かって接近中! 冒険者の皆様は、装備を整えて冒険者ギルドへ! 町の住民の皆様は、直ちに避難してくださいっ!!』

 

神様、ぼくは何か悪いことでもしてしまったのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 




思いついたがままに書いたらこうなった。反省はしていない。どうも、珈琲@微糖です。

漸くデストロイヤー戦、これで二章もラストスパートとなります。
ただ、今のところどのようにデストロイヤー戦で絡めていくか悩んでるところですので、次回の投稿は少し日を置くと思いますが、また次回以降も見ていただければ幸いです。

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