「悪霊退治?」
数日後、俺が武器の試し斬りをしに行っていた間に、カズマとアクアはウィズの所に行っていたようで、そのような依頼を受けていた。
「あぁ、ウィズの所に屋敷を売りたいけれど、悪霊が大量に住み着いててその屋敷が売るに売れないって男が来てな。 丁度居合わせたこいつに依頼を受けさせた。」
そう言うとカズマはアクアを指差す。
確かにプリーストとしての腕前はトップクラスだし、適任ではあるだろう。
「それで、いつから始めるんだ? 流石に一日やそこいらで終わる仕事ではないだろう?」
「それなんだが…なんとその屋敷に住み込みでやることになった!」
カズマの言葉に、事情を何も知らない俺達三人が反応する。
「す、住み込み!? …金を払って止まらなくてもいいのか!?」
「勿論そうだとも! それに加えて風呂もあるから、町の大衆浴場に必要な分もカット出来るぞ!」
そのカズマの言葉に、俺達三人はゴクリと喉を鳴らす。
「…でも、その屋敷って悪霊が住み着いてるんですよね?」
めぐみんが小さく手を挙げながらカズマに尋ねる。
「…なぁめぐみん、デュラハン戦の時を思い出してみろよ。 …アクアはプリーストだし、ああ言ったアンデッド系モンスターに狙われやすいんだ…つまり、悪霊達はアクアに寄っていくから、俺達の被害は無いに等しいんだ!」
「…私も今回の悪霊退治に賛成です!」
カズマの口車に乗せられ、納得しためぐみんは賛成の意を表明する。
「私も賛成だ。 不特定多数の霊に日常生活が覗かれるなど…考えただけで…ん゛ん゛っ!」
「俺も構わないぞ。つい最近こいつを買って、宿に金を払うのが惜しかったんだ。」
頬を赤らめ、もじもじしながら賛成するダクネスを横目に、刀のように腰から下ろしている長い棒を見せる。
「ってことは全員賛成って事でいいな。 …そしてアキラ、そいつはなんなんだ?」
意見を取りまとめたカズマが俺の持つ棒を見ながら尋ねてくる。
「こいつは俺の新しい武器だ。 流石にナイフだけじゃ、リーチが短いと思ってな。」
「ぷっふー!アキラったら、そんなんじゃカエルも殺せないわよ? それだったら、いつも通りナイフ投げてた方がマシじゃないのー?」
棒を持ちながら立ち上がる俺に、アクアが口を抑えて笑いながら言ってくる。
「…ふっ、そんなことを言ってられるのも今のうちさ…本当の使い方を見せてやる! …我が魔力よ、鉄の元素と成りて我が鎌に集え!」
そう言って棒の先の部分を始点に、刃の形になるように手をゆっくりと動かす。
すると、動かした場所には鉄の刃が出来ており、ただの棒が鎌へと姿を変えた。
「「「「おぉ!!」」」」
先程までとは違い立派な武器となった鎌を見て、ついさっきまで笑っていたアクアすらも感嘆の声をあげる。
「なるほど、《魔力変化》で刃の部分だけを作るとは。 考えたな、アキラ。」
「確かにレベルは上がったとは言え、ナイフ数本程度が限界だったものね。 これなら前衛としてもやっていけそうね!」
「何よりその呪文! 紅魔族的には中々ポイント高いです!」
そう言って、感心しながら鎌を見る上級職三人組。
「所でアキラ、そんなに能力を使って魔力は大丈夫なのか?」
ハッと何かに気づいたカズマは俺に尋ねる。
「それなら平気だよ、今までナイフしか作れなかったのは柄の部分の材質が難しすぎて魔力を食ってたんだ。 だから、柄の部分は先に作っておいて刃だけを能力で作れば、この位なら大丈夫だった。」
「いや、そう言うのはもっと早く気づけよ…。 …それと、もう一つ聞いていいか?」
カズマにそう言うと、白い目で俺のことを見てくる。
その後、もう一つの疑問を俺にぶつけてきた。
「…さっきの刃を出す時の前口上、必要か?」
「…愚問だな、必要ない! 前々からやりたかった!」
胸を張りながらカズマの問に答え、刃の部分を撫でて魔力に戻す。
その様子にカズマはため息をつき、頭を抱えていた。
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「…ここがその屋敷か。…思ってたよりも広いじゃないか。」
一旦解散し、各々の荷物を鞄にまとめた俺達は、件の屋敷の前まで来ていた。
カズマが聞いた話では、屋敷にしては部屋数は少ないという事だったのだが、俺達にとっては十分過ぎる広さだった。
「悪くないわね! ええ、悪くないわ! この私が住むには十分じゃないのかしら!」
「しっかしこんな広い屋敷、本当に浄化出来るのか? 聞いた話だと、浄化してもまた湧いてくるみたいなんだが。」
そう言ってカズマはアクアの方を見る。
「まっかせなさいな! …見える、見えるわ! 私の霊視によれば、この屋敷には貴族が遊び半分で手を出したメイドとの間に出来た子供、そして………」
そう言って、インチキ霊能力者みたいに霊の情報と思われるものを話し始めるアクア。
「…なぁカズマ。 本当に大丈夫なのか?」
「…たった今、俺も不安になってきたところだ。」
そう言って、自信満々に屋敷に入っていくアクアに続き、俺達も屋敷に入っていった…。
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「…さてと、この屋敷には何があるのかなっと。」
他のパーティメンバーに比べ荷物が少ない俺は、早々に荷解きを終えた俺は屋敷の中を探検していた。
「しっかし、別荘っつっても滅茶苦茶広いじゃねぇか。…本当にこんな所に住んでもいいのか?」
そう言って屋敷の中を歩き続ける。
少しすると、前から誰かが歩いてきた。
「…ダクネスか。 そっちも荷解きは終わったのか?」
「ああ。 …と言っても、終わったのはついさっきなのだが。」
「おお、そりゃお疲れ様。 やっぱり荷物が多いと大変なのかねぇ。」
「大変だが、必要なものが多い分仕方がないことさ。」
そんなものか、と呟くとダクネスと共に歩き出す。
リビングを覗くと、既に荷解きを終えたカズマとめぐみんが寛いでいた。
「おお、お前達も終わってたのか。 この中をちょっと歩いてみたけど、本当にただで住まわせてもらって大丈夫なのか?」
「アキラとダクネスか。 …あぁ、こいつの悪霊退治が終わって、悪評が無くなるまでの間だけだけどな。」
俺の言葉に、ソファーに座るカズマがこちらを見て返答する。
暖炉の前で暖を取っているめぐみんが、こう言った。
「しかし、見る限りだと暫く人が住んだ形跡がないのですが、どうして最近になって悪霊騒ぎなんて起きているのでしょうか。 …案外、他のところに原因があったりして。」
「他に原因か…例えば?」
「流石にそれは分かりませんよ。 それに、幽霊なんて居るわけないじゃないですか。 どうせ、その辺りの子供が肝試しをやる為に変な噂でも流したんじゃないんですか?」
カズマが聞き返すと、再び暖炉の方を向いてそう言うめぐみん。
「…まぁ、何があるかなど夜になってみないと分からないさ。」
そう言ってソファーに座るダクネス。
「そうだな。 アクアは兎も角、俺達は霊を祓うなんて出来ないんだからどうしようもないけどな。 …カズマ、珈琲をくれないか?」
俺はそう言うと、カズマに珈琲の粉を入れたマグカップを差し出す。
ああ。と生返事をしたカズマはマグカップに《クリエイト・ウォーター》で水を注ぎ、《ティンダー》で熱を加える。
少しして、珈琲が出来たことを確認すると暖炉の前まで行き、めぐみんの隣に座る。
そうやって暫く過ごしていると、荷解きを終えたアクアが元気よくリビングに入ってくる。
「お待たー! こっちは準備出来たから、後は夜になって霊が出てくるのを待つだけよ。」
「意外と準備に時間が掛かったんだな。 霊を祓うなんて、ひたすら《ターン・アンデッド》を繰り返すだけでいいと思ってたんだけど。」
そう言ってカズマはアクアの方を見る。
見られたアクアはやれやれと言った様子で答える。
「あくまで私が祓うのは"悪霊"よ。 さっき言った通り、この屋敷にはいい霊も居るわ。 だから、その霊を私の部屋に集めて、その間に悪霊を追っ払おうって寸法よ! …そんなことよりもカズマさーん、私お腹空いたんですけどー。 お昼位準備してくれてもいいんじゃないんですかー?」
ふふん。と胸を張って言うアクア。
その言葉に、カズマは頭を掻きながら立ち上がる。
「あー、そういやもう昼だな。 と言っても、食材が無いからギルドにでも行くか。」
その言葉に、俺とダクネスとめぐみんは生返事をしながら立ち上がる。
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「なああああああああああああああああ!!!!!!!!」
時は過ぎて深夜。
誰かの叫び声にふと目を覚ました。
「…なんだ、今の叫び声は。」
まだ目覚めきらない頭を無理やり働かせながら起き上がる。
「…んー…喉乾いた…水でも飲んでこよ…」
誰に言うわけでもなくそう呟くと、立ち上がって部屋を出る。
…視界の端で、誰かが廊下を走っていくのが見えた。
「…あれは…カズマ?」
走るのがカズマだという事に気づくと、その後を追っていく。
カズマの後を追っていくと、カズマはアクアの部屋に入っていった。
その後を追って俺も部屋に入っていく。
「おーいカズマー。 どうかしたの…か……」
部屋に入ると、めぐみんがカズマのベルトを掴んでいた。
「…あー、お楽しみ中のところ失礼しましたー…。」
「「ちょっと待ってくれ(ください)!!!」」
そう言ってそそくさと部屋の扉を締めると、中から二人の叫び声にも似た声が聞こえてきた。
「…それで、二人はトイレに行きたいけれど、人形に追いかけ回されてそれどころじゃないと言うことか。」
そう言うと、二人はうずうずしながら頷く。
「人形が追ってくるねぇ。…にわかには信じ難いんだけど、それってあんなやつら?」
そう言って俺は、ベランダの窓を指差す。
カズマとめぐみんはゆっくりと窓の方を向く。
…そこには、無数の人形が張り付いてこちらを見ていた。
「「ああああああああああ!!!!!!!!」」
それを見た二人は、悲鳴を上げながら部屋を飛び出した。
「あらら、行っちゃった。 …多分向かったのはトイレだろうし、追いかけますかぁ。」
ふわぁと大きな欠伸をし、のんびりと二人の後を追ってトイレに向かった。
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「おお、アクアにダクネスか。浄化の方は順調か?」
カズマ達を追っていると、廊下に蔓延る人形達を浄化しているアクア達に出会った。
「誰かと思ったらアキラじゃない。どうしたのよ、こんな夜中に。 …浄化の方は順調よ、この調子なら今いる分は今夜中に終わると思うわ!」
「そうかそうか、なら大丈夫そうだな。じゃあ俺は水飲んだら寝るから。 …そう言えば、さっきあっちの方にカズマ達が逃げてって、そっちの方にも霊達は行ったと思うから頼んでいいか?」
そう、と言うとアクア達は指さした方向に向かって行った。
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「さてと…水水ーっと…って、ん?」
誰もいないリビングに入ると、隅の方から人の気配がする。
不審に思い、そこへ近づいていくとそこには小さな少女がちょこんと座っていた。
しかし、よく見てみるとその少女は全体的に薄く、普通の人ではないことが分かる。
その姿を見た俺は、昼のアクアの話を思い出した。
「…あぁ、あんたがこの屋敷に憑いてる幽霊か。」
そう、独り言の様に呟くと、目の前の少女はこくりと頷く。
「全く、どっかから流れ着いた悪霊達と一緒に人形を使って騒ぎを起こすなんてなぁ。」
そう言って少女の隣に座る。 …少女はクスクスといたずらっ子のように笑っていたような気がした。
「…ただまぁ、ここの持ち主も困っているようだから、俺達としてもお前さんを見過ごせない。 だから、取引をしよう。ここで一つ、俺がこの世界でしてきた冒険話をする。 …だから、それが終わったら大人しく浄化されてくれないか?」
そう少女に告げると、少女は少し悲しそうな顔をしながら頷いた。
「それじゃあ話を始めようか。 これは何の取得もない普通の少年が、個性的な仲間に振り回されながらも楽しく冒険をするお話だ。」
そう言って俺は話をした。
元の世界に居た頃の話から、この世界に来て冒険者になり、様々な相手と戦ってきた話を。
その話の最後をこう締めくくる。
「…これで俺の話はおしまいだ。 きっと、お前さんが望むような壮大な冒険話ではなかったが、満足できたか?」
その問いかけに少女は笑顔でこくりと頷く。
「なら良かった。 …さてと、これから俺はお前を浄化しなければならない。 待て待て、そんな悲しそうな顔をするな、こっちがやりずらくなる。」
そう少女に向かっていうと、少女は寂しそうな顔をこちらに向けてきた。
「…きっとお前さんは、もっと親から愛されたかったんだろうな。 だからこそ、現世のこの屋敷に留まり続けた。 だけど、もうその親はこの屋敷には戻ってこないだろう。 だから、ちゃんと成仏して、新しい人生で、貰えなかった親からの愛情を貰ってこい。」
そう言って冒険者カードを取り出すと、一つの魔法を覚える。
「きっと天国に行くと、エリスって言う女神が居ると思う。 なんで知ってるかって? これでも一度死んだ身だからな。…って、その話はさっきしたよな? …兎も角、その女神にこう伝えるんだ。『もう一度、両親から沢山の愛情を受け取りたい』って。 優しい女神様の事だ、ちゃんと叶えてくれるさ。 …だから、今は安らかに眠ってくれ。」
そう言って、頷いて目を閉じた少女に掌を向ける。
俺も目を瞑ると、こう言った。
「『ターン・アンデッド』。」
少しして目を開くと、先程までいた少女は姿を消しており、きちんと浄化が出来たのだと分かった。
「…さてと、寝るか。」
そう言って当初の目的も忘れ、自分の部屋へと戻っていく。
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「…それで、どうしてお前が部屋にいるんだ? めぐみん。」
部屋に戻り寝ようと思って布団の中に入ろうとしたら、中には
部屋を間違えたのだろうと思い、優しく起こすと
「遅かったじゃないですか…寒いので早く入ってください。」
と言ってきたので叩き起し、話を聞いている。
「いや、あのぉ…非常に言い難いのですが、また寝て起きた時に、周囲にあの人形が居たら、どうしようと思っていたら眠れなくてですね…。」
布団の上に正座し、もじもじしながら言うめぐみん。
「…それで、どうして俺の所に来たんだ? アクアとかダクネスの所にでも行けば良かったじゃないか。」
「…他の人の所に行ったら、絶対笑われるじゃないですか。 子供っぽいって。」
「…はぁ。」
ため息をつき、座っていためぐみんを横にさせて布団を被る。
「…ふぇ。ちょ、アキラ!?」
「全く、怖くて寝れないならちゃんと言え。 そして俺は今、非常に眠いんだ。 静かに寝るならいいが、うるさくしたら叩き出すからな。」
そう言ってめぐみんの方に背中を向けて寝る。
「こ、怖いわけじゃありませんよ! …その、ありがとうございます。おやすみなさい…」
その言葉を最後に、後ろからは寝息だけしか聞こえなくなった。
一度めぐみんの方を向き、頭を撫でながら言う。
「…全く。まだまだ子供だな。 …おやすみ、めぐみん。」
そうして、静かな夜は過ぎていった…。
うーん、一話に詰め込みすぎた感。 どうも、珈琲@微糖です。二章はデストロイヤーまでですので、比較的話数が少なくなりそうですね。
と言うことで、次回はあの素敵な夢となっております。
次回以降も見ていただければ幸い。