この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第三話 - このパーティメンバーとの交換を!

「おい、もう一回言ってみろ。」

 

俺とカズマが殺されて数日後の事だった。

殺されてから数日間、俺とカズマはクエストは控え、心のケアに時間を当てた。 …その間、時間を見つけては様子を見に来て、世話をしてくれためぐみんには大変感謝をしている。

 

既に傷はほぼ治ってはいるが、アクアから後数日間は激しい運動を控えるよう言われたカズマと共に、簡単な荷物持ちの仕事はないかと掲示板を探していた。

 

「何度でも言ってやるよ。 荷物持ちの仕事だぁ? 上級職の揃ったパーティでもそんな仕事しか出来ないのかよ。 さぞかしあんたら二人が足を引っ張ってんだろうなぁ、最弱職さんよぉ!」

 

そう言って同じテーブルの仲間と笑う戦士風の男。

 

「…カズマ、相手は酔っ払いだ。 あまりムキになるなよ。」

 

手をグッと握るカズマの肩を叩き、男に聞こえない様に耳打ちをする。

 

「おいおい、何も言い返せないのかよ最弱職。 いい女を三人も侍らせてハーレム気取りですかぁ? さぞかしいい生活してるんだろうなぁ!」

 

男がそう言うと、ギルドの中に爆笑が起こる。

 

見回すと、笑っている者達の中にはその空気に嫌悪感を抱いている者もいた。 恐らく、数少ないカズマの苦労を分かっている者達なのだろう。

 

「二人とも、相手にしてはいけませんよ。」

 

「そうだぞ、酔っ払いの言うことなど捨て置けばいい。」

 

「そうよそうよ、あの男、私達を引き連れてるカズマとアキラに嫉妬してんのよ。 私は全く気にしないからほっときなさいな。」

 

歯を食いしばり堪えるカズマに行こう。と一言言って、再度ギルドの掲示板を探そうとするが、男の最後の一言に、カズマが反応した。

 

「上級職におんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずで羨ましいぜ! おい、俺と代わってくれよ、兄ちゃんたちよ!」

 

「…大喜びで代わってやるよぉぉぉぉぉ!!!!」

 

カズマの絶叫に、ギルドの中が静まり返る。

 

「ああいいよ、代わってやるよ! さっきから黙ってりゃ舐めた事ばっかり抜かしやがって! 確かに俺は最弱職だ、それは認める。 だがな、お前その後何つった!」

 

「あ、あのぉ…カズマさん?」

 

突然キレたカズマに、アクアがおどおどと尋ねる。 が、カズマの耳には入っていないようで、目の前の男に詰め寄る。

男は若干引きつつ、カズマの問に答える。

 

「そ、その後…いい女三人も侍らせてハーレム気取りって…」

 

「いい女!ハーレム! はっ!そんな冗談今どき流行らねぇぞ! おいお前、その顔にくっついてんのは目玉じゃなくてビー玉なのか? 俺の濁った目じゃいい女なんて見当たらねぇよ! さぞかしいいビー玉付けてんだろうな! 俺の濁った目と変えてくれよ!」

 

「「「…えっ?」」」

 

突然のカズマの口撃の飛び火に、アクア達は呆然とする。

 

「なぁおい、教えてくれよ!いい女?どこにいるんだよ! ハーレム?そんなんどこにあるんだよ!その綺麗なビー玉で教えてくれよ!」

 

「あ、あのー、カズマさん?」

 

あまりの気迫に少し怯えながらカズマを止めに入る。 …が、彼には聞こえていない様で、言葉を続ける。

 

「その上唯一まともだと思ってたアキラと、あの中でもまだまともな方だと思ってためぐみんも、最近は付き合いたての学生カップルみたいな空気出しやがって!ハーレムのハの字もねぇよ!俺にもそんな青春をくれよ!」

 

「「まだ付き合ってねぇ(ません)から!!」」

 

カズマが口走ったことに対し、めぐみんと同時に顔を赤くしながら否定する。

 

「しかもその後何つった? 上級職におんぶに抱っこで楽しやがって!?苦労知らずだぁぁぁぁぁ!?」

 

「…そ、その、ごめん……。俺も酔ってた勢いで言い過ぎた。 …たださ、隣の芝生は青く見えるって言うが、お前の境遇が恵まれているのは事実なんだ! 代わってくれるって言ったよな? なら一日、一日だけ代わってくれよ。冒険者さんよ。 …なぁお前らもいいよな!」

 

そう言うと、俺達の意見が一切入らずに話が進んでいく。 …不意に、服の裾が引っ張られた。

 

「…ねぇ、貴方…さっき『"まだ"付き合ってない』って言ったわよね? …その、人それぞれの趣味は自由だけど、そう言う趣味は隠しといた方がいいわよ?」

 

そう言ってきたアクアの言葉を聞き、自分が何と言ったのかをゆっくり思い出す。

キョトンとした顔でめぐみんと顔を見合わせた俺達は、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 

「わ、わぁぁぁぁ!!!!そうじゃなくて!そういうことじゃなくて!!さっきのは言葉の綾というか!」

 

「そ、そそそ、そうですよ!!決してアキラとそう言う関係になりたいという訳ではなくてですね!!!」

 

めぐみんと共にそう叫び否定する。

…だが時既に遅し、周囲の冒険者達はヒソヒソと噂話をしていた。

 

俺達は、顔を真っ赤にしながら俯き、その場に立ち尽くすしかなかった。

 

 

============

 

 

酒場の一角に座る俺の目の前で、カズマが入れ替わったパーティメンバーとの自己紹介をしている。

全員の自己紹介が終わったところで、パーティリーダーのテイラーがこちらを見て話しかけてきた。

 

「それで、君は君はどうするんだい? 俺達としては、冒険者の一人や二人増えたところでそこまで問題はないが。」

 

「あぁ、ちょっと俺は事情があって、数日間は激しい運動は止められてるんだ。 だから今日は留守番かな。 一応名乗っておくと、名前はアキラ。一応"ナイト"と"アーチャー"の適正はあるが、パーティの穴を埋めるために"冒険者"をやってる。 今日はカズマの事をよろしく頼む。」

 

そう言ってテイラーに対して一礼する。

 

「大丈夫さ、今日はただのゴブリン狩りなんだ。 "冒険者"が一人や二人居たところで変わらないだろう。」

 

そう言ってテイラーは他のメンバーがクエストに向かう準備が出来たことを確認すると、全員に声を掛けてギルドを出ようとする。

 

「…あぁ、そうだ。カズマー、ちょっといいか?」

 

「ん?どうしたんだ、アキラ。」

 

「…この時期にゴブリンの討伐依頼が出るのは少し妙だ。 一応周囲の警戒は怠るなよ。」

 

クエストに行こうとするカズマを呼び止め、一言忠告をしておく。

 

「あぁ、分かってるって。 普段から《敵感知》スキルは使ってるからな!」

 

楽なクエストとは言え、周囲の警戒は怠らないカズマの事だから大丈夫だろう。

そう思って、ギルドを出ていくカズマを見送る。

 

「それじゃあ、俺も買い物してくるか。」

 

カズマ達がギルド出てから少しして、俺もギルドのドアを開いた。

 

 

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「…ここに来るのもいつ振りだったかな。」

 

そう言って、町中のとある店の前にいる。

店内を覗き込むと、壁にかかるナイフや剣からここが武器屋であることが分かる。

俺は、ゆっくりとその店の扉を開いた。

 

「…いらっしゃい、今日もナイフをお求めかい?」

 

そう言って、店の中にいる店主が話しかけてくる。

 

「いいや、今日は頼みたいものがあってきたんだ。」

 

俺の言葉に、店主は目の色を変える。

 

「ほう、何を作りたいんだい?」

 

「それなんだが…刃がない鎌を作って欲しいんだ。 なるべく軽くて、丈夫なものを頼む。」

 

その注文を聞いた店主は突如笑い出した。

 

「…くくく…はっはっはっ! ここで店を開いてから刃のない武器の依頼なんて初めてだ!…いいぜ、乗ってやるよ! それだったら、今日の夕方には出来ると思うから取りに来い!」

 

豪快に笑った店主に夕方取りに来る胸を伝え、店を出る。

 

さて、カズマ達が帰ってくるまでどうしようか。

そう悩みながら、歩を進める。

 

 

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夜、代金を払って依頼していた武器を受け取り、カズマ達の帰りを待とうとギルドに向かっている最中、クエストを終えて同じくギルドに向かうカズマ達一行と出会った。

…何故か、パーティメンバー達は大笑いをしていた。

 

「ようカズマ、無事帰ってこれたみたいだな。」

 

「おう、アキラか。一時はどうなるかと思ったが、なんとかな。」

 

カズマと軽く挨拶を交わすと、他のメンバー達がカズマの背中を叩きながら今日のクエストの話をしてきた。

 

「カズマの奴ったらすげぇんだぜ? 《敵感知》スキルと《潜伏》スキルで初心者殺しをやり過ごすわ、《クリエイト・ウォーター》と《フリーズ》でゴブリンの足止めをしたりして!」

 

「そうそう! 私、初級魔法なんて取る意味が無いって習ったのに、その初級魔法が一番活躍してるんだもん!」

 

「初心者殺しに会っちまった時も、《クリエイト・アース》で作った砂を《ウインドブレス》で飛ばしてる目に砂を入れるとか、どんな頭してたらそんな発想が出てくるんだよ!」

 

テイラー、リーン、キースの三人が興奮しがちに今日のクエストの内容を話す。

 

「まぁ、こいつ冒険者の癖に、頭の回転だけは異様に早いからな。 伊達にあの癖が強すぎるパーティでリーダーをしてないさ。」

 

「…ったく、頭の回転だけとは失礼なやつだな。おーい、早くクエスト達成の報告を済ませようぜ?」

 

カズマがそう言うと、興奮覚めぬテイラー達と共にギルドへと歩みを進めた。

 

 

========

 

 

「つ、着いたぁぁぁぁぁぁ!!! …なんだか、今日は大冒険した気分だよ!」

 

リーンの声を聞きつつ、カズマはギルドの扉を開け─

 

「…ぐず…っ…ひっぐ……うぅ…か、かじゅまさぁぁん…」

 

…泣きじゃくるアクアを見て、そっと扉を閉めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 気持ちは分かるがちょっと待ってくれよっ!」

 

閉められたドアを無理やり開けて、アクア達の新たなパーティリーダーであるダストが半泣きになりながら出てきた。

 

「…うん、あいつらのことだから何があったのかは分かる。 分かった上で聞きたくない。待たない。」

 

「聞いてくれよ!なぁ、聞いてくれよ!!俺が悪かったから聞いてくれよ! まずは皆がどんなスキルを使えるか聞いたら、この子が爆裂魔法を使えるって言うから、そりゃすげーなって褒めたんだよ! そしたら、我が真なる力、その目に見せてやろうって言って、いきなり何も無い平地に向かって爆裂魔法を打ったんだ!」

 

…その時点で、俺はめぐみんにデコピンをした。

 

「痛っ! 何するんですか!」

 

「何するんですか!じゃねぇ、お前の方が何でかしてんだ!」

 

ダストに背負われてるめぐみんがデコピンに対して抗議の声をあげてきた。

 

「何って…爆裂魔法を打っただけですが。」

 

「せめて打つ場所くらい考えろよ! クエストに行くんだし、モンスターくらいいくらでも出てくるんだから、そっちに打てよ! そんなんだから『頭のおかしい爆裂娘』なんて不名誉な通り名が付けられるんだよ!」

 

「な、なにおぅ! 爆裂魔法を褒められたら、我が力を見せる以外選択肢がありますか!いや、ない! それに、不名誉な通り名で言ったら、アキラだって『ロリラさん』だとか、『子供にしか興味が無い変態』だとか言われてますからね!!」

 

「おいちょっと待て、最後については初耳なんだが誰が言い出したか教えろ。」

 

ダストがカズマに泣きついてる後ろで、俺はめぐみんと言い合いをする。

 

…その様子に、ダストのパーティメンバーは呆気に取られ、カズマはやれやれと言った様子で頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




カズマさんの口撃シーンは書いてて楽しかった(こなみかん)
お世話になっております、珈琲@微糖です。

先日、総UA数1万を突破しました。ありがとうございます。

さて、この小説は大まかな時系列はアニメ中心に、いくらかの部分を原作補填で書いております。
ですので、次回はキールのダンジョンではなく、屋敷の幽霊退治となっております。
キールのダンジョンにつきましては、恐らく裁判後になると思われます。

それでは、今回はこの辺りで失礼させていただきます。次回もまた見ていただければ励みになります。

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