「小関 彰さん。ようこそ、死後の世界へ。 私は貴方に新たな道を案内する女神、エリス。 この世界での貴方の生は終わってしまったのです。」
目を開くと、今まで居た雪原とは違う見知らぬ場所に居た。
周囲を見渡すと、どこかの神殿のような作りをしているような、初めてみた場所だった。
しかし、この場所の雰囲気懐かしさを感じた。
「(…あぁ、この感覚は…)」
その懐かしさは、今の世界に来た時にも経験した過去があったからだ。
「(…俺は…死んだ…のか。)」
目の前の、エリスと名乗る
しかし、自分の死ぬ直前の記憶が雲谷がかかったように思い出せない。
「…エリス…さん? ちょっといいですか?」
「はい、何でしょうか。」
「俺って、どのように死んだんですか? …死んだ時の記憶だけが、何故か思い出せないんですけど。」
そう、目の前のエリスと言う
その言葉にエリスは少し悩み、一つの結論を出す。
「それは構いませんが、非常に残酷な死でしたので、思い出さない方がいいかも知れませんよ?」
「…構いません。 自分の最後くらい見なければ、後悔が残りそうですから。」
分かりました。と言ったエリスが、何やら手を動かす。
直後、頭の中に死んだ時の記憶が流れ込む。
その時、アキラは叫び声をあげた。
「…あ…っ…あああっ!」
死んだ時の様子を思い出したアキラは、踞りながら嘔吐き、切られた筈の自分の首を掻き毟る。
その背中をエリスは優しく撫でた。
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「…すいません。いきなり取り乱して…」
暫くして、漸く自らの死を受け入れたアキラは再びエリスに向き直る。
「恥じることではありませんよ。 大切な命を失ってしまったのですから。」
そう言って、アキラを案じるように目を閉じるエリス。
エリスの悲しそうな顔を見ると、切なさを感じてくる。
「…二つ聞いてもいいですか? 冬将軍は、あの後どうなったんですか。 そして…先に来た『カズマ』と言う青年はどうなりましたか?」
そうエリスに尋ねると、彼女は目と共に口を開く。
「…冬将軍は貴方を斬った後に消えていきました。 そしてカズマさんの方なんですが…普通は教えられないのが規則ですが、これは貴方にも関係することですので、伝えておきますね。」
そのエリスの言葉に、安堵をすると共に緊張感が走る。
「…天界には蘇りの規則があり、通常一人につき一度しか蘇ることが出来ません。 …ですが、日本からの転生者はこちらの世界に『蘇る』と言う形で二度目の生を得ます。」
「…って言う事はつまり…」
エリスの言葉に、気づいてしまった。
「カズマさんも例外なく、私の力で元の世界で裕福な家庭に生まれ、何不自由なく生活できるようにする。 …その予定でした。」
そう言い切ったエリスの目は、先ほどとは違って目が段々と死んでいった。
「…あの、予定だった。というのは…?」
「…あちらの世界に、カズマさんが連れていったアクアさんと言う女神が居ましたよね? …あの人、私の先輩なんです。 …それで、私の秘密をバラされたくなければ、カズマさんとアキラさんを転生させろと…」
そう言うエリスは、なにかに怯えるように震えながら話す。
「あの…その秘密って、規則をねじ曲げる程大変なものなんですか…?」
「大変ですよ! 私の女神としての尊厳がかかっているんですから!」
そう言って、涙目になりながら言うエリス。 その姿から、この女神も苦労人なのだと感じた。
「まぁそんなに大事な秘密なら聞きませんけど…さっきの話だと、俺も蘇れるんですか?」
「…はい、アキラさんも蘇ることができます。 …ですが、カズマさん以上に遺体の損害が激しく、戻れるのは早くても亡くなった日の夜になると思います。」
元の調子を取り戻したエリスは、きちんと戻れる旨をアキラに伝える。
その言葉に安堵の息を漏らす。
「…それでは、現世に魂を戻してもよろしいですか? 大丈夫です。体が元通りになれば、意識は自然と目覚めますから。」
そう言うエリスに一言「お願いします。」と言うと、足元に魔法陣が現れる。
体を浮遊感が襲い、段々と視線が高くなっていく。
その場を去る最後に、エリスはこちらに向かってウィンクをするように片目を閉じ、口の前に人差し指を置いて言った。
「皆さんには、内緒ですよ?」
その記憶を最後に、天界での意識は途絶えた。
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どれくらい経ったのだろうか。 背中には冷たい雪の感覚ではなく、固い布団の感覚を感じた。
徐々に覚醒していく意識の中、誰かの声が聞こえてきた。
「…早く起きてください。 アキラが居ないと、誰が魔法を打った私を運ぶんですか…。」
その声の主はめぐみんだった。
「…魔法を打って、アキラに背負われて、どうでもいい話をしながら帰る。 …そんな日常の時間が、一番好きだったんですよ?」
彼女の手が、自分の頬を優しく撫でるのを感じる。
「…ですから…早く帰ってきてくださいよ…アキラ。」
自分の頬に、熱い水滴がポツポツと落ちてくる。
───あぁ、俺ってなんて馬鹿なんだろうか。
居ても立っても居られずに静かに目を開き、目の前にある頭を撫でる。
「…ただいま。また心配かけちゃったな、めぐみん。」
目の前で涙を流していた彼女は、ハッと驚き目を見開く。
「…本当ですよ、この馬鹿。 …おかえりなさい、アキラ!」
そう言って自らの顔を隠すように抱きついてくるめぐみん。
頭を撫で続けると、目を覚まさなかったらどうしようかと思った。本当は死んでしまったんじゃないかと思った。 …そう言った、彼女が心の奥に仕舞っていた不安が溢れ出る。
そんなめぐみんが落ち着くまで、アキラは頭を撫で続けた。
─翌日、様子を見に来ていた他の仲間達から、ロリコンだのさっさと付き合えよだの茶化されるのは、また別のお話。
と言うことで、冬将軍戦でした。珈琲@微糖です。
見直してみると、予想外にシリアスな内容になってしまいましたが、恐らく次回からはシリアスがシリアルに変化すると思います。
と言うことで、早いですがこの辺りで御暇させて頂きます。
また次回以降も見ていただければ大変励みになります。