この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第二章 この素晴らしい世界での生活基盤を!
第一話 - この雪原で雪精狩りを!


「…金が欲しい!」

 

ギルドに来てから、暫く頭を抱えて悩んでいたカズマは唐突にそう叫んだ。

その様子に、アクアが呆れながら言う。

 

「…あんた、突然何言ってんの? そんなの誰だって欲しいに決まってるじゃない。 …第一、カズマって甲斐性がなさ過ぎと思うんですけど! 女神であるこの私を毎日毎日馬小屋に止めて、恥ずかしいと思わないの? 分かったら、もっと私を甘やかして!贅沢させて!」

 

後半から本音がダダ漏れになっているアクア。

その言葉に、アキラはため息をつきながら彼女に言った。

 

「…なぁアクア、どうしてカズマは金が欲しいんだと思う?」

 

「どうしてって、元引き篭もり汚れた頭の中なんて、清く正しくも麗しい私に分かるはずないでしょ? どうせ、引き篭もれるだけのお金が欲しいとか、そんなところでしょ?」

 

「…借金。」

 

借金の理由をそう答えたアクアは、カズマの言葉を聞くと、何も無かったかのようにそっぽを向き、吹けていない口笛を吹く。

 

そうして始まった、いつものアクアとカズマの言い争いを眺めている。

 

「カズマー、アクアー。先に何かクエストが無いか探してくるからなー。」

 

二人には聴こえているか分からないが、アキラはそう声をかけてギルドのクエストの依頼板へ向かった。

 

 

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「白狼の群れの討伐に…冬眠から覚めた一撃熊の撃退…本気でいいクエストがないな。」

 

普段よりも少ないクエスト依頼を見回していると、不意にアキラは声をかけられた。

 

「朝から精が出ますね、何かいいクエストはありましたか?」

 

「あぁ、めぐみんか。 …クエストは全然見つからないな。 言ってた通り、碌でもないクエストしか残ってねぇ。」

 

今ギルドに着いたと思われるめぐみんが、アキラに話しかけてきた。

 

「まぁ、大体のモンスターは冬眠していますからね。仕方ないと言えば仕方ないです。」

 

「…俺も冬眠したなぁ…。 んーっと、これは…機動要塞デストロイヤー接近中につき、進路予測の為の偵察募集…デストロイヤーって?」

 

「デストロイヤーはデストロイヤーですよ、大きくて、ワシャワシャ動いて全てを蹂躙する、子供に妙に人気のあるアレです。」

 

一枚の紙を取ると、それは「機動要塞デストロイヤー接近中につき偵察募集」と言う内容だった。

報酬は良かったが、偵察可能なスキルを所持していないアキラは、その紙を板に貼り直した。

 

そんな会話をしていると、後ろからカズマたちの声がする。

 

「おーい、なんかいいクエストは見つかったかー?」

 

「いいや、全然。白狼の群れやら、一撃熊の撃退。 難易度の高いやつばっかりだ。」

 

その話を聞きながら、カズマ達も依頼板を見る。

 

少しすると、カズマが一つのクエストを見つけた。

 

「雪精の討伐…1匹につき10万エリス。 …なぁ。雪精って何なんだ? 名前からしたらすごい弱そうなんだが。」

 

「雪精と言いますと、とても弱いモンスターですね。雪の深い草原などに出現し、剣で切れば楽に討伐ができます。 …ですが…」

 

めぐみんが何かを言いかけたところで、話にアクアが入ってくる。

 

「なになに、雪精の討伐? 雪精は特に危害を加えるモンスターじゃないけれど、その名の通り冬を司る妖精だから1匹倒す事に冬が半日早く来る、なんて言われているわね。 そのクエストを請けるなら準備してくるわ!」

 

ちょっと待ってて、と言い残しアクアはどこかに走り去る。

めぐみんとアキラも文句はなさそうにしており、一番反対すると思われてたダクネスも

 

「雪精か……」

 

と呟き反対せず、どこか嬉しそうにしていた。

 

 

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「すげぇ、これが雪原地帯かぁ。」

 

初めて見る雪原地帯の風景に、カズマとアキラは呆気に取られていた。

町からは少し離れており、ここに到着するまでは雪も降っていたが、雪原地帯に到着すると道中にあったような猛吹雪は何処吹く風、と言うべきな穏やかな風景だった。

一面の雪景色に、ふわふわと白い綿毛のようなものが漂っている。恐らくそれが雪精だろう。

 

「ところで…お前、その格好はどうにかならんかったのか。」

 

そう言ったカズマはアクアの方を見る。

彼女は普段通りの格好に加え、腰に何本も瓶を付けており、その手には虫取り網が握られている。

その様子はまるで、夏休みに虫を取りに来た小学生のような装備だった。

 

「これで雪精を捕まえて、小瓶と一緒に飲み物を小箱にでも詰めておけば、いつでもキンキンに冷えたネロイドが飲める…つまり!冷蔵庫を作ろうって寸法よ! どう、頭いいでしょ!」

 

そう言って胸を張るアクア。カズマは小さくため息をつくと、今度は目をダクネスに向ける。

 

「それで…鎧はどうしたんだ?」

 

「修理中だ。」

 

そう言うダクネスは、普段着に普段から扱っている大剣を携えている。

 

「…この間のデュラハン戦で相当やられてたからな。 …雪精は攻撃してこないみたいだけど、大丈夫なのか? 主に寒さとか。」

 

「あぁ、問題ない。 …この格好でいるのも我慢大会みたいで…それはそれで中々…」

 

そう言って頬を赤らめるダクネス。

それを見たカズマは、再び深くため息をついた。

 

「まぁお前等はいいんだけどさ…問題はあっちだよ…」

 

アクアとダクネスも何かを察したように、少し後ろを歩くアキラとめぐみんの方に目を向ける

 

 

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「アキラ。この間買った服、ちゃんと着てくれたんですね。 そのコート、似合っていますよ。」

 

「…まぁ、折角買ったのに着ないって言うのも勿体ないしな。 …後、そういう事を言うのはやめてくれ。流石に恥ずかしい…。」

 

ニコニコしながらアキラをからかうめぐみん。

顔を少し赤くしたアキラは、顔を隠すようにそっぽを向いて受け答えをしていた。

 

 

========

 

 

「…大丈夫、カズマさんだったら行けるわよ!」

 

「…もう目的地に着いたしな。早く二人に教えてやってくれ。」

 

アクアとダクネスから肩を叩きながら励まされたカズマは、ため息をついて皮肉混じりに声をかける。

 

「そこのイチャついてるお二人さーん、もう目的地に到着しましたよー。」

 

そう言った瞬間、声をかけられた二人は顔を真っ赤にして、カズマの方に向かって言う。

 

「「い、イチャついてねーよ!(ませんよ!)」」

 

「いや、顔真っ赤にしながら言っても信憑性無いからな? …ほら、さっさと雪精討伐始めるぞ!」

 

そう言ってカズマは自らの剣を抜き、雪精に襲いかかる。

一度呼吸を整え、アキラも新たに買った白のコートの下からナイフを取り出し、雪精狩りを始めた。

 

 

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「めぐみん、ダクネス!そっちに何匹か行ったぞ! アキラはそこら辺一帯を頼む!」

 

ふわふわと漂うだけの雪精だと思っていたが、いざ武器を振るおうとすると、突然素早い動きになり剣撃をひらりと躱すため、思ってた以上に討伐数は伸びていなかった。

 

「クソっ、これで漸く5匹か…ちょこまか動きやがって!」

 

そう言ってナイフを振るうアキラの手には最初の力強さは無く、段々と体力が持っていかれてるのだとわかる。

 

「ねぇねぇ、見てみて!これで4匹目よ!」

 

そんなアキラの近くで、疲れた様子も見せず嬉嬉として雪精を捕まえては瓶に入れるアクアがいた。

そんな姿を見たアキラは、討伐数が振るわなかったら、数匹捕まえた雪精を狩らせてもらおうと決意した。

 

「…アキラ、カズマ。私やダクネスが追い回しても奴らがすばしっこくて中々攻撃が当たりません。 …一度、爆裂魔法で吹き飛ばしてもいいですか?」

 

逃げた雪精を必死に追って杖で叩き、漸く1匹仕留めためぐみんが息を切らしながら言ってきた。

 

「よし、頼むめぐみん。この辺りを一掃してくれ!」

 

そのカズマの言葉を聞くと、嬉嬉としてめぐみんは呪文を唱え始める。

その詠唱が終わると、杖の先から魔力の塊が放たれる。

 

「《エクスプロージョン》ッッッ!!!」

 

放たれた爆裂魔法は、草原に一つの巨大なクレーターを作り上げる。

魔力を使い切っためぐみんは、普段通り魔力切れで雪の上に倒れる。

 

「8匹!8匹も倒しましたよ!レベルも一つ上がりました!」

 

そう言って、自慢げにアキラに冒険者カードを見せるめぐみん。

それに驚きつつも、偉い偉い。と言って頭を撫でるアキラ。

倒れていなければ、少し年の離れた兄妹のように見えただろう。

 

そうカズマが思っていた瞬間、突如周囲の空気が変わった。

 

その変化に驚き、周囲を見回すアキラ。

先ほどまで撫でていためぐみんは、さっきの元気はどこへやら。雪の上に死んだ振りをしていた。

そしてダクネスは、その変化に歓喜しつつ剣を構える。

 

「…ねぇ、アキラ。カズマ。どうして冬になると、冒険者達が狩りに出ないのか教えてあげる。 …あなた達も、日本に居たのなら天気予報やニュースで聞いた事はあるわよね? …雪精達の主にして、冬の風物詩。 …冬将軍の到来よ!」

 

「バカッ!このクソッタレな世界の連中は、人も食い物も人喰いモンスターも揃いも揃って大馬鹿者だ!」

 

空気が集まり、体中に冷気を纏わせた巨大な甲冑のモンスター…冬将軍が姿を現した。

 

 

冬将軍。このモンスターから漂う異様性は素人であってもどれ程恐ろしいか分かるだろう。

 

熟練者にはそのモンスターから感じる覇気やオーラ、直感でそのモンスターが恐ろしいかが分かるだろう。

しかし、冬将軍から感じるもの。それは純粋な『殺気』である。

見ただけで絶望を与えるようなレベル差を持つと思われる冬将軍は、八双の構えを取り、最も近くに居たダクネスを狙う。

 

「…ッ… なにっ!?私の剣が!」

 

ベルディアの剣さえも受けきったダクネスの剣を、冬将軍は一撃でへし折った。

 

「冬将軍は国から高額賞金が掛けられている特別指定モンスターの一体よ。 元々は実体を持たない精霊とは、出会った人のイメージから実体を作るの。 例えば、炎の精霊なら全てを飲み込み燃やし尽くす事から凶暴な火トカゲに。 水の精霊なら、清らで格好よく知的な水の女神のイメージから美しい乙女の姿に。 …でも、冬の精霊は特殊でね。獰猛なモンスターが蔓延る冬は、冒険者達はモンスターを狩りに出ないから実体と言う実体を持っていなかったの。 …日本から、チート持ちの転生者達が来るまでね。」

 

冬将軍と、それに対面しているダクネスから背中を見せずに遠ざかり解説をするアクア。

 

「ってことはなんだ!こいつは転生者達が『冬と言えば冬将軍だよね』って言う勝手なイメージで生まれたのか!?」

 

「全く傍迷惑な話だ! アクア、何か対処法は無いのか!?」

 

冬将軍を警戒しながら、カズマとアキラが声をあげる。

 

「二人とも聞きなさいな!冬将軍は寛大よ! 武器を下ろして誠心誠意謝れば、冬将軍は見逃してくれるわ!」

 

そう言うアクアは、腰につけていた瓶から雪精を放ち、その場にひれ伏した。

 

「DOGEZAよ!DOGEZAをするの! カズマ達も早く武器を下ろして謝って!」

 

そう言って地面にペタリと頭をつけ、それはそれは見事な土下座をする元何とか様(アクア)

アクアに続いて、無言でアクアに負けず劣らず見事な土下座をするアキラや、死んだ振りを続けるめぐみん。 この三人には、いっそ清々しさすら感じられた。

 

アクアの言った通り、土下座をした二人には冬将軍は目もくれずにカズマやダクネスの方を向く。

仕方なく土下座をしようとするカズマの隣では、そのような素振りを全く見せないダクネスが折れた剣を恨めしく見ながら捨て、冬将軍の方を睨みつけていた。

 

「おい何やってんだ、早く頭を下げろ!」

 

「くっ……! 私だって聖騎士のプライドがある! 誰も見ていないとは言え、騎士たる私が怖いからとモンスターに頭を下げるなんて…っ!」

 

カズマがダクネスに向かって言うが、彼女は頭を下げようともしない。

カズマは空いている左手でダクネスの頭を掴み、冬将軍に向かって土下座をさせる。

 

「いつもはモンスターにホイホイついていこうとする癖に、どうしてこんな時に限ってくだらないプライドを見せるんだ!」

 

「や、やめろぉ! 下げたくもない頭を掴み、冷たい地面に頭を付けさせるなんて…どんな御褒美だ! …あぁ…雪がつべたい(つめたい)…!」

 

抵抗する素振りを見せつつ、全く抵抗しようとしないダクネスを土下座させ、自らも頭を地面につけるカズマ。

 

その様子に一つ、違和感を感じた。

 

「っ、カズマ!早く左手に持ってる武器をおろ…せ………えっ…」

 

そのアキラの言葉に顔を上げしまったカズマは、冬将軍の目にも見えない一閃によって、首を刎ねられる。

 

その事に気づいたのは、カズマの頭が地面に落ちた時だった。

 

「…あ…ああああああっ!」

 

カズマが首を落とされた。その事に気づいたアキラは、錯乱しながら声をあげる。

その声を聞いた冬将軍は、体をアキラの方に向ける。

 

「何してるのっ! カズマはすぐ蘇らせてあげるから早く頭を下げなさいっ!」

 

アクアの言葉に従うように、一心不乱に頭を下げるアキラ。

 

 

============

 

 

どれ程の時間が経ったのだろうか。

再び頭を下げてから、10分近く経っただろうか、まだ数十秒しか経っていないのか、将又1時間近く経ったのか。

大まかな時間すらも分からないくらい、頭の中が混乱していた。

目の前の雪原からは、一切の足音がしない。

もう既に冬将軍は去ったのだろうか。そう思い、辺りの様子を伺うように頭を静かにあげる。

 

「ッ! アキラ、まだよ! まだ冬将軍は目の前に居るわ!」

 

そう、アクアが声をあげる。 しかし、その声を聞いた時にはもう遅かった。

 

カズマの時と同じように、鞘に収められた鍔の部分に、左手を添える冬将軍。

視線を軽く下ろすと、左手の親指が鍔の部分をそっと押し、その綺麗な白刃が目に飛び込んでくる。

咄嗟に自らの手元を確認するが、その手には武器は握られていなかった。

 

「…どうし…て…」

 

一瞬、剣を持つ右手がブレたような気がした。

刹那、急に頭が浮遊感を感じる。

 

───どうして、武器は捨てていた筈なのに。

 

頭が落とされた。それが分かったのは、冬将軍の姿が下にあると気づいた時だった

 

───どうして、頭を下げて謝っていたのに。

 

自分の事を呼ぶ、誰かの叫びが聞こえたような気がした。

 

───…あぁ、そうか。そうだったのか。

 

頭の中を、この世界に来てからの思い出が、走馬灯のように駆け巡る。

 

───俺の魔力は、()()()()()()()()()()だったな。

 

薄れゆく意識の中最後に見たものは、刀を収める冬将軍と、上半身の下半身が分かれた自らの体だった。


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